再会
その日わたしはとても落ち込んでいて、気を抜けば気がつかないうちに涙が溢れてしまいそうなくらいだった。
原因は、指定校推薦を受けると決めたこと。
そしてそれを聞いた親友だと思っていた友達に無視をされ、陰口を叩かれてたこと。
指定校推薦を受けさせていただくことを決めたのはわたしだ。
周りの友達は皆、大学からの合格を喉から手が出るほどほしがっているはず。
だからもちろんそうなるんだろうということは覚悟していたはずだった、
でもそれは、した"つもり"でしかなかったらしい。
どうしても信じたくなかった。
心のどこかで彼女はきっとおめでとうと言ってくれるんじゃないかと思っていたのかもしれない。
「あの子ほんと愛想わるいしさ、なんであの子が指定校もらえたのかわかんないんだけど!」
「だよね、わかる!わたしも高一の時からずっと一緒にいるけど、勉強してるとこも見たことないし。指定校なんて受験のくくりにはいらないのにそんなんで合格しようとかなめてるでしょ」
「わたしの方が絶対いい成績とってるし!」
「あはは、言うねぇ〜」
教室に忘れ物を取りに行ったとき、クラスに残っていたのは4人のクラスメイト。
聞いちゃいけないと思ったけれど、聞かずにいられなくて、結局途中で耐えられず、逃げるように学校を出た。
こんな、漫画みたいなことがあるのかと思った。なんであの子がとも思った。
思い返していると悲しくなって、いつもは降りない駅で電車を途中下車、少し歩こうと改札を出る。
ふらふらと、土地勘もないくせにいろいろなところを歩いて、でも少し歩いたくらいじゃ気分は上向きにならず、知らないうちに下を向いて歩いていたらしい。挙句に、男の人にぶつかってしまった。
「あの、ごめんなさい」
「いや、いいよ。大丈夫?」
体調が悪そうに見えたのだろうか、相手はそう気遣ってくれたのだけれど、わたしは上手く返事をすることができずに下を向いたままでしかいられなかった。
「何してんの篤広、女の子泣かせた?」
「いや、別にそういうわけじゃないんだけどな」
あまりにも懐かしい声が耳に届いた。
勢い良く顔を上げたわたしに栞さんは、一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、そのあとすぐに笑顔を浮かべていた。
「あれ、なつひ、久しぶりだね!どうしたのこんなとこで。家の最寄りもう少し先じゃなかったっけ?」
彼の笑顔を見た瞬間、あっ、と思った。
張っていた糸は栞さんに会ったことでいとも簡単に切れてしまって、わたしの目からは、まるで蛇口が壊れてしまったのではないかというくらい涙が溢れ出した。
「……なつひ、何かあった?」
その優しい声を聞いて余計に我慢がきかなくなり、とうとう声をあげて泣き出したわたしに、栞さんと一緒にいた男の人は見かねたのだろう、カバンの中からハンカチを取り出して、わたしに渡してくれた。
「とりあえず、どこかで座るか?少し落ち着いたほうがいい」
お礼を言って、男の人からハンカチを借りる。
男の人の言葉に、栞さんはそうだね、と頷いて、わたしをそばにあった公園の中に案内してくれた。
ああわたし、迷惑をかけてしまった、今度お礼しなくちゃ、とそんなことが頭をかすめた。