わたしという人と彼という人3
「またなにかいいお店見つけた、とかですか?」
わたしがそう聞くなり、彼は楽しそうな表情を前面に押し出しながら、そうなんだよ、と少し大きな声を出した。
「来週の土曜日、空いてる?この間大学のそばにできたケーキ屋行きたくてさ。手頃な値段だけど美味しいってもう有名になってるらしいんだよ」
「あー!この間誰かが話してるの聞きました。あそこ美味しいらしいですね」
お互い、甘いものが大好きだった。
ケーキも、クッキーも、チョコレートも。
最近になって、栞さんが高校生の時以上にわたしを美味しいスイーツのあるお店に連れて行ってくれたり、おしゃれなカフェに案内してくれたりするようになり、2人で出かけることが多くなった。
1度だけ彼に、どうしてわたしを誘ってくれるのか、と聞いたことがある。
彼は人間関係を築くのがとても上手だ。
人懐こい笑顔と、いつでも途切れない話題と、行事の時だけでなく、自分がやりたいと思ったこと、楽しいと思ったことに対する行動力。
そんな彼を魅力的だと思った人は、男女構わず彼の周りに集まっていた。
だからこそわたしの疑問はいとも簡単にわたしの口から飛び出した。
栞さんには女友達も多いのではないかと思ったから。
その疑問を聞いて、彼は変な顔をした。
笑っている、けれど少し眉間にしわを寄せていた。
俺と一緒にケーキ食べてくれるのなつひだけなんだよね。
彼は変な顔のままそう言った。
それ以来、その話題に触れたことはない。
「なつひの好きなミルフィーユもあるってよ!」
にっ、と口角を上げて目を垂らす彼に、わたしも思わず口角が上がってしまう。
「そうなんですね!たしかその日はバイトもなかったはずですし……ご一緒してもいいですか?」
「よっしゃ、じゃあ決まり!土曜の11時に駅の改札前な!」
「わかりました」
それじゃ、と嵐のように去っていく彼の後姿を見送り、手元の小説に目を落とす。
カバンの中から手帳を取り出し、次の週の土曜日の欄に"栞さん"と書き込むと、小説と手帳をカバンの中にしまって食堂をあとにした。