わたしという人と彼という人2
「あーびっくりした!栞さんだったんですか、わたし幽霊にでも取り憑かれたかと思いました」
少しほっとして、驚かされたことでばくばくとうるさく鳴る心臓を鎮めようと深呼吸をした。
正直、わたしは誰かに驚かされるのが苦手だ。
そして彼もそれを知っている。
「なつひってば結構でかい声で呼んだはずなのに全然気づかないし、こっち見るわけでもないから、俺とうとう嫌われたのかと思ったよ」
「ごめんなさい…」
「いいよ、なつひのことだから大方ぼーっとしてましたってとこでしょ?」
にこにこと笑顔を崩さない彼、神戸栞さんは、高校時代は部活の先輩、いま現在は同じサークルの先輩。
今年の4月にサークルで再会したばかりなのだけれど、高校時代から仲良くしてもらっていたこともあって入学したばかりの頃は教室までの道順やら知っておくと便利だという大学内の情報やら、いろいろなことを教えてもらっていた。
「びっくりさせてごめんね、早く話したいことがあってさ」
わたしの隣の椅子をひいて、リュックサックを背負ったまま座った彼は、キラキラした、まるで少年がわくわくするような宝物を見つけた時と同じような目をこちらに向けた。
彼がこの目を誰かに向けるときは、何か楽しいこと、嬉しいことを話したくてたまらない時。
そしてわたしにこの目を向ける時は、大抵が週末のちょっとしたお出かけのお誘いの時だ。