お出かけ2
栞さん曰く大学のそばにあるというそのケーキ屋さんは、大学からも少し歩くらしい。
少し早めに駅前に着くように家を出たが、待ち合わせの時間になっても栞さんの姿が見当たらず、きょろきょろと視線を彷徨わせていると、人だかりができている場所があった。
真ん中にいるのは、
「……栞さん」
ここから栞さんが立っている場所までは少し距離がある。
男女問わず彼を取り囲んで、わいわいと盛り上がっていた。
もしかしてあれはナンパとかいうものなのだろうか、いや、ナンパっていくらなんでも男の人が一緒にしたりはしないはずだし、そもそも栞さんはナンパされてあんなに楽しそうにする人じゃないはず。
なんだかおかしな考えが頭の中を巡り、どうしよう、とオロオロしていると、栞さんの周りにいた人たちは栞さんに手を振って大学の方へ歩いて行った。
あれは栞さんのお友達だったのだろう。
ゆっくりと栞さんに近づくと、ぱっと栞さんの顔がこちらを向いた。
「あっ、なつひ。おはよう」
「おはようございます」
「もしかして結構前から待ってた?学部の友達に捕まっちゃって。ごめんね」
「いえ、あの、今来たばっかりなので大丈夫です」
困ったように笑う彼に、困らせてはいけないと思ったわたしは咄嗟に嘘をついてしまった。
顔が見られなくなる。
咄嗟とはいえ、嘘をついてしまうのはよくない、なんて考えて、でもそれを顔に出さないように必死だった。
「……今嘘ついたでしょ」
どんなに必死に隠そうとしても栞さんにはわたしの嘘が通用しない。
いたずらっ子っぽく笑った彼にそう言われて、少し言葉に詰まる。
「……ついてない、です」
「嘘つけ〜おれすぐわかるよ。なつひが嘘ついたときは目合わせなくなるし、しまったって顔する」
「……ごめんなさい」
栞さんは何故わたしが嘘をつくときの癖までわかるのだろう。
約4年間、お世話になっていたからだろうか。
少し恥ずかしくなって謝ると、彼はゆるりと首を振る。
「俺こそごめん。なつひのせいじゃないから謝らないで。……行こっか」
彼の言葉に少し控えめに返事をして、後ろをついていった。