わたしという人と、彼という人
窓の外では雨が降り続いている。
大学内の食堂で昼食を済ませたわたしは、昨日のバイト帰りに買ったばかりの小説を広げた。
高校生の頃から好きな作家の小説で、作品はファンタジーが多い。新刊が出たと知ると必ず買い揃えていた。そしてそれはいまでも続いている。
食堂の窓側、一番端の席。
大学生になって初めて居心地が良いと感じたのはこの場所だった。
窓の外を眺めることができ、何より、広い食堂内の喧騒がどこか遠く聞こえるのだ。
窓の外には多くの花が植えられた花壇があり、まるで森のようにたくさんの木が生い茂っている。
もとよりわたしは、切れ長の目と高い身長で周囲にきつい印象を与えてしまう。そのおかげで人と関わるのが苦手になってしまったわたしには丁度良い場所だった。
入学してもう直ぐ半年が経とうとしている9月。
うだるような暑さが続いて、毎日は少し憂鬱だけれど、それなりに楽しく生活を送れているのではないかと思う。
十数ページ読み進めた小説を閉じると、いままで小説の中に引き込まれていた意識が途端に現実に引き戻され、雨の音が少し遠い喧騒とともに耳に届いた。
片手で頬杖をついて窓の外を眺めると、朝から降り続く雨が窓ガラスを伝って流れ落ちる。
そのまま少しの間ぼんやりとしていると、突然両肩が重くなり、
「うわっ」
自分でも思っても見ないほどの大きな声が口をついて出た。
幸い食堂にいる生徒は皆お喋りや噂話に夢中でこちらには気がついていない様子だ。
「何読んでたの?」
振り向くと、そこにあるのは栗毛の短いくせっ毛をあちこちに跳ねさせ、にこにこと笑っている高校時代の先輩の姿。
彼の両手はわたしの両肩に置かれ、肩の重さの原因はこれか、と納得する。