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勇敢な追跡者の物語  作者: tori
白い呪術師編
49/88

白い矢

お正月企画でカロリー消費したので、今回は短いです。

週末にまた更新する予定です。

 魔精気の流れを読むことで、変則的な動きは封じることができたが、ティロロの剣の腕はかなりのものだ。付け入る隙を与えないし、こちらが少しでも気を抜くと、急所を正確についてくる。


 ただベルの縛めが一つ解かれたおかけで、私の反射神経も動体視力も大幅にアップしている。お互い決め手を欠いたまま私たちは激しく撃ち合った。



 ――ねぇベル、なんでこいつ魔法を使ってこないの? 



 剣だけで私を倒せないことはわかっているはずだ。トニアを一瞬で凍らせた魔法を今使われると、かなり厄介なことになる。



 ――お前が魔精気の流れを読んでいることに気づいたからだ。魔法を使うためには魔精気を一処ひとところに集めなければならない。しかし、それは弱点を晒すことにもなるのさ。魔精気の流れはお前たちの身体でいえば血流のようなものだ。細いものなら絶たれても平気だが、動脈を絶たれれば命にかかわる。



 ――なるほど。その例えはわかりやすいよ。でも、あんた人体にも詳しいだね。


 ――お前の知識を借りて説明しているのさ。俺とお前は一心同体だからな。



 ベルは不気味な笑いとともに言った。



 ――勘弁してよ……それにあんたは私にはあんまり懐いていないじゃない。エミリアにはあんなにヘコヘコしていたくせに!


 ――それはあいつを怒らせるとまた縛めを増やされるからだ……なあ、物は相談だがお前からあいつに頼んでもらえないか? 俺を閉じ込めておくだけなら、剣の封印だけで充分なはずだ。縛めがなければお前だって俺の力をもっと引き出すことができるぞ。



 なるほど、こいつは隙あらば私を丸め込み封印から逃れようとしているのだ。迂闊に口車に乗ってはいけない。所詮は己の意思に反して剣に封印された魔獣だ。



 ――私はまだあんたをそこまで信用してないよ……本当は美月のことだって何か知ってるんでしょ?



 魔獣のことにこれだけ詳しいなら、今の美月がどんな状態にあるのか、ベルには想像が付くはずだ。ベルはそれっきり黙りこんでしまった。どうやら私の勘は正しかったようだ。


 剣の魔獣は私のしもべでも友人でもない。力を貸しているのはなにか思惑があってのことなのだ。



 さすがのティロロも疲れたのか攻撃に鋭さがなくなってきている。強い攻撃を繰り出すときは、魔精気の流れがクッキリと見えるのだが、今の彼女の発する魔精気は陽炎のように揺らめいているだけだ。戦いはいつ果てるともわからなかった。


 強い風が野を渡り始めた。魔獣の騎兵は私たちの戦いをぽっかりと開いた地割れの向こうから傍観している。自分たちの将帥を信頼しきっているのか、それとも命令がなければ動けないのか判然としない。いずれにせよ彼らが余計な動きを見せないのは好都合だった。ブランたちが駆けつけてくれば勝機を見出すことができる。



 私は鳥の視点を使い主戦場の様子を探ってみた。牛頭の魔獣の姿は見当たらない。視点を切り替えると三十騎ほどの騎士がこちらに向かって来るのが見えた。ブランたちは真の将帥の存在に気づいのだ。


 勝った!私は内心で快哉を叫けんだ。三十もの魔操の騎士を相手にすれば、然しもの白い呪術師も一巻の終わりだ。


 勢いを得た私は彼女を逃すまいと、激しく攻め立てた。魔精気の乱れが手に取るように分かる。力を集中できていない。自分が窮地に追い込まれたことを悟っているに違いない。


 このまま倒してしまうことができれば、ブランはなんて言うだろうか。込み上げてくる笑みを堪えながら、さらに激しく攻め立てた。



「夏美!」背後でブランの呼ぶ声がした。すでに彼は近くまで来ている。ここで渾身の一撃を振るえば、仮にスカったとしてもブランたちに後は任せれば良い。



 ――ベル! 行くよ。



 私は魔獣に合図した。



 ――相手もこちらの魔精気が見えているんだぞ。こいつが今まで敵と違うのは、魔精気読む力がずば抜けているからだ。



 不覚にも自分自身が魔精気を発していることに、私は今の今まで思い至らなかった。


 一瞬、逡巡した隙にティロロが後方に大きく飛び退いた。白い顔に冷たい微笑みが浮かぶ。


(きっと狙いは他にある)ベルの言葉が頭をよぎった。


 ティロロがレイピアを逆手に持った。その瞬間私は彼女の意図に気づいた。



「だめだ、ブラン! 早く逃げて」


 私は振り返って叫んだ。声は強い風に流されて届かない。


 もうこうなれば自分で阻止するしかない。捨て身の覚悟で一気に斬りこもうとしたが、すでにレイピアはティロロの手を離れ、放物線を描きながらブランに向かって落ちていった。


 私は言葉にならない叫びをわめき続けた。


 しかしブランには落ちてくる矢が見えないのか、気づく様子がない。


 矢は吸い込まれるように、ブランの胸に突き立った。スローモーションのように彼が馬から滑り落ちていく。



「さて、これで目的も果たしたし、帰るね。楽しかったよお姉さん」ティロロはそう言うと、裂け目を飛び越えた。潮が引くように魔獣の騎兵たちが走り去っていく。


 よろめきながらブランの傍に駆け寄ったが、騎士たちは私を押しのけるようにしてブランの周りを取り囲むと、大きな盾の上に彼を寝かせた。


 運ばれていく彼の顔からすっかり血の気がなくなっているのが見えた。




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