キャラクター紹介3 エミリア 後編
前回の続きです。
エミリアさんは悩んだ末に師と共に海を渡る決意を固めます。
当然お父上は猛反対をしましたが、エミリアさんの決意は変わりませんでした。
「自分がさしたる努力もなく魔術の六道を極めることができたのは、神がそれに見合った使命を果たさせようとしているのでしょう」と彼女は父親に語ったそうです。
すでにノーラスでは兄弟子のガランドが東部総督トーマス公の下で戦っていました。二人はトーマス公の居城があるエルナスに向かいます。そこでエミリアさんはガランドと初めて対面します。
ガランドという人はちょっと変わった生い立ちの人で、人間の商人の男とエルフの家内奴隷の間に生まれた子供でした。父親はガランドが八才のときに、奴隷商人に彼を売り渡しました。奴隷の女に子を産ませ、それを売るのはノーラスでは普通に殖財として行われていました。
王都の貴族の屋敷に買われた彼は、そこでソロンに出会います。当時のソロンは宮廷魔導師として王に仕えていました。給仕をしていたガランドを見たソロンは貴族に頼み込み彼を譲ってもらい弟子にしました。
一度も弟子を取ったことのないソロンが奴隷の少年を弟子にしたことを訝しんだ友人が訊ねると、彼は「虎に鎖を付けておくためだ」と答えたそうです。
エミリアさんが会った当時のガランドは、本編にでてきたような怪しいおっさんではなく、正義感の強い、熱い情熱を感じさせる人でした。トーマス公の信頼も厚く一軍の将を任されているほどでした。しかし、師のソロンはエミリアさんが兄弟子のガランドに近づくことを好ましく思っていなかったようです。ソロンは彼女を常に手元に置き、自分のエルフの古魔法の研究を手伝わせました。
そしてとうとう運命の日がやってきます。それまで散発的だった襲撃と違い、魔獣の王は大攻勢を仕掛けてきます。
王自ら軍勢を率いてエルナスを襲ったのです。
戦いはすぐに絶望的な様相を呈しました。圧倒的な力の前にエルナス軍は籠城します。その最中、ソロンがエルフの古魔法を使い魔獣を胎児に封印する方法を完成させます。必要となる胎児は本編にあるようにガランドの妻、リアナが名乗り出ました。リアナの意思でそのことはガランドには伏せられました。
作戦は三段階に分けて実行されました。
第一段階はガランドが主力の騎士を率いて、後続の魔操の騎士のために血路を開きます。ブランさんが姉エレノアとともに突撃したのもこの時です。
第二段階は魔操の騎士が王の首をはねます。と言っても普通に戦って首をはねられるわけはありません。ソロンが王の本体を依り代から引き離す術を掛けました。
実はこれが最も難しく、魔力を使う作業でした。完全に引き離すことはできませんでしたが、王をかなり弱らせることはできたのです。結局、王の首は魔操騎士によってはねられました。この段階に参加した魔操の騎士の一人が我が祖父ティレルでした。
そして最終段階は本編に出てきたように、依り代が死んだ後に現れた幼女の魂を抜き、胎児に封印したのがエミリアさんだったのです。エミリアさんはすぐにリアナ母子を異世界に飛ばしました。
これがエルナス攻防戦のあらましです。三人の大魔導師がエルナスに居合わせたことによってのみ可能な作戦でした。
自分の妻と娘が生贄になったことを知ったガランドが師ソロンを殺したのは本編にあるとおりです。魔力を使い果たしたソロンは若いガランドの敵ではありませんでした。
ガランドはそのあと、すぐに姿を消します。エミリアさんは彼が異世界に妻子を探しに行ったのだと考え、自らも異世界に飛びます。
いくつかの世界を巡った末に、十年前彼女は日本にリアナの痕跡を見つけます。といっても日本の何処かというだけで場所を特定できたわけではありません。
エミリアさんは深夜の道路工事やコンビニ、牛丼屋の店員をしながら、日本各地を流れ歩いたそうです。途中からは占いの仕事も始めました(これは結構当たったようで、大阪のミナミでは評判になったそうです)
どうやら不正な手段で戸籍も手にいれたらしく、審査の甘いクレジットカードも入手しました。本編で彼女が分割でブランドスーツを買えたのもそういう事情があるようです。




