本当の意味で。
あの日、緊張しすぎて殆ど会話が成立しなかった日の夜。
私は知り合いの居酒屋に来店していた。
(未成年だから、お酒は飲まないけど、困った時の相談はいつもここでするんだよね。)
「ねぇおじさん、おじさんっておばさんとどういう出会い方したの?」
昔から通っている個人経営の居酒屋。
私はよくお父さんに連れてこられて、ここのおじさんとおばさんとは最早顔なじみだった。
そんなおじさんとおばさんの馴れ初めを聞いてみた。
「なんだ春菜ちゃん、恋悩みか?」
「うーん。全然相手にされてないけどね~」
「最初は他人。そんなもんじゃ。」
流石人生の先輩。
どーんと構えているというか、気楽というか。
言う事が全て一言で納得出来るという部分が凄い。
「どうやったら気になる人と仲良く出来るかなぁ?」
「むぅ、難しい質問じゃのぅ。」
どうやったら、などと中途半端で曖昧な質問には流石のおじさんも困ったようで、言葉を濁す。
と、そこで厨房からおばさんが出てきて簡潔にアドバイスをしてくれた。
「春菜ちゃん、恋なら相手との共通点を探すといいさね!」
相手の欠点を補うのもパートナーの務めなのであろうか。
良いタイミングで来てくれたなと、私は素直に感心する。
「共通点?」
「そうさね、共通点さえあれば話しを盛り上げることが出来るから、仲良くなるチャンスになるんよ。」
「おぉ、なるほど!」
私が納得したタイミングでお店のドアが開く。
どうやらお客さんが入ってきたようだ。
「いらっしゃい!」
おじさんが対応する。
その間、話相手を失った私は、早速彼との共通点を探すことにした。
「ん~、共通点、共通点、共通点」
「何意味不明な呪文唱えてんの?」
「はっすみません!」
(声に出てた!?)
と反射的に謝り、お客さんの方を向く。
振り返ってびっくり仰天。
一席あけた隣に座っていた客は、私がさっきから思い描いていたあの男性だった。
「どうして?」
「飲みに来ただけ。」
男性は簡潔に答え、出されたビールを一気飲みする。
「ていうか、君、成人してたんだ?てっきり未成年者かと。」
「う、ギリギリ19だけど。来週には20歳になるもん!平気よ!」
「ふぅん、俺より年下じゃん。どうりで見覚えがないわけだ。」
なんでもない会話。
この見下された言い方が少し気に食わないが、なんとなく会話は続いている。
昼間の会話とはうって変わって、おじさんと会話した直後なお陰か、なんとなく波に乗っている。
「もしかして春菜ちゃん、さっき話してた人って悠斗の事なのかい?」
「え、悠斗?」
いきなり名前を出されて聞き返す。
「悠斗はワシらの孫じゃよ。」
「えぇ!!」
思わぬ共通点を発見してしまった。
波に乗りすぎである。
居酒屋・伊原店。
私は図書館に次いでこの店によく通っている。
それがなんと、この間から彼の家もここだと言うのだ。
素晴らしい共通点。
いや、なんというか運命的すぎる!
「じゃぁ、伊原悠斗、さん?」
違和感を覚えながらも、フルネームで呼んでみる。
悠斗さんは少し横目で私を見た後、また直ぐに視線を戻し、おかわりしたビールを一気に仰ぐ。
否定しなかったということは、間違いではないという事だ。
世の中は恐ろしい。
そして、世界は意外と狭かったりするかもしれない。
私は、本当の意味で彼と知り合いになれた。