なみだおばけ
ぼくには大好きなお兄ちゃんがいた。
年は離れているけど、やさしくて、たのしくて、とにかく大好きだった。でも、ぼくが今よりもっと小さいときに事故で死んじゃった。
悲しくていっぱい泣いた。おかあさんにやめなさいって言われても、ずっと泣いた。
そしたら、来てくれた。
ぼくはなみだおばけだよ
お兄ちゃん(なみだおばけ)のくびにあかいあとがあったのを、その時はじめて知った。
なみだおばけは悲しいことがあってぼくが涙を流すと、おでこにちゅーをしてぼくの代わりに泣いてくれる。
ぼくの涙はすぐにとまって、それを見てなみだおばけはにっこり笑う。それにつられて、ぼくも笑う。
なみだおばけはにっこりおばけ。
なみだおばけのおかげで、ぼくは泣かなくなった。悲しくても、にっこりできるようになった。そしたら、なみだおばけは来たときとおんなじふうにパッと消えた。
ばいばいも言えなかった。うそで泣いた。涙は出ないけど、いっぱい泣いた。
でも、なみだおばけはもう現れない。
だからぼくはにっこり笑った。こころのなかで、お兄ちゃんにばいばいをした。
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女の子が泣いている。ぐちゃぐちゃに踏み荒らされた砂の王国で、ただ一人孤独に泣いている。
こんにちは
女の子は真っ赤に腫らした目でこっちを見上げた。
ぼくはなみだおばけだよ。
女の子の額にキスをした。