Merry Christmas☆~田中さんの場合~
「さてユーヤさん」
「はい何でしょう」
「今宵、クリスマスです」
「そうですね」
「つきましては、クリスマスプレゼントなんてどうでしょう」
「ほほう。それでその手ですか」
僕に向けて御椀型にしたその両手の意味するところは、理解しました。
「それはあれですよね、うわさに聞く、プレゼント交か」「対価は感謝の気持ちで」「…………」等価、なのか? 物と気持ちでギブアンドテイクは成り立つのだろうか?
「ふむ」
しかし、どうだろう。いくら田中さんの頼みとはいえ、用意していなかったものをそうそう渡せるものでもなし、ましていくら田中さんのお願いとはいえ、いつもいつも僕だけ出費するというのも釣り合わないし、というか田中さんはいつも僕にたかり過ぎだ。たまにはこう、厳しく突っぱねてみるのも、
「で、何がほしいんですか」財布を握りしめて僕は問う。足りなければ銀行へ直行だ。まだ開いてるだろうか。
「そうですねえ……」
田中さんは虚空を見つめて考える。何だろう。田中さんが欲しがるもの。大体田中さんはいつも食べ物を所望するし、時には参考書や辞書(エレクトロなやつ)も要求してくるけれど、プレゼント、となるとどうだろう。現代に生きる苦学生の田中さんだ。想像もつかない。
家、と言われたらどうしよう。出世払いだろうか。飛行機、とか言われても困る。どこに買いに行けばいいのかわからないし。希望ある未来、とか美しくも掴みどころのないものを望まれても、それ僕がどうしたらプレゼントしたことになるんだろう。プレゼントはわ・た・し、とかやればいいんだろうか。
「なんと言えばいいのでしょうか。表現に困りますね」
「表現に困るものですか。ちょっと想像できませんね」
もう少し、こう、具体的にイメージしやすいものをお願いします。
「そうですねえ……強いて言うなら、こう、どんなものにも掛け替えができて、万人に愛されて、世界中のどこにでもあり、誰もが容易に持ち歩きながら、しかして私には恵まれていない、世界を回り、世界を回し、世界そのものと言ってももはや過言ではなく、愛にも勇気にも勝る儚くも美しいもの――」
「何ですかそれ。なぞなぞですか」いやまあ、おおよそもうわかったんだけれども。
「うーん、それを直截に表現せず婉曲に詩的に美しく言い表すとなると……」
「いやそんなこと誰も求めてませんから。それにそれはさっきの言い回しで十分詩的でしたし。大丈夫です。もう飾りげなく言っちゃってください」シンプルイズザベスト。
そうですか、と田中さんは頷いた。そして改めてずずいと手をこちらへ突き出し、
「今月と来月の生活費をください。3万あれば足ります」
「どうぞ」
直截に現金だった。