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あるとき、世界の片隅で“花”が咲いた。
“花”は小さな小さな、桜草のような種を飛ばし、養分さえあれば、どこからでも芽吹いた。
水の中ならば水底の土から。あるいは魚の体に寄生して。
地上ならばもっと簡単だ。土はいくらでもある。また、植物や動物に寄生してもいい。動物に寄生すれば、遠くの場所まで運んでもらえる。
“花”は寄生した体の養分を吸いつくし、体内の器官を破壊して死に至らしめる。
寄生されるのは、人間も同じだった。
調査に出かけた研究者が、瓶に入れて、また衣服に付着させて、体内に入れて、種を都会へ持ち帰る。
都会で研究者の体を媒体にして咲いた“花”が、種を飛ばす。
都会から逃げ出した人が、逃げ出した先へ種をばらまく。
いたるところに、耳や鼻や口から、“花”を咲かせた死体が横たわっていた。
わずか半年で、人口は半分になったといわれる。
世界はゆっくりと滅んでいった。