8.初めてのおつかい
俺は現在、修練も鍛錬もしていない。
なぜか。
・・・・おつかいを頼まれてしまった。
「初めてのおつかいよ!頑張ってね!」
・・・何が初めてのおつかいだ。
日本テレビのアレの真似のつもりか?
・・・まぁそれは置いておいて。
この前おつかいを頼むような話を聞いていたし、少しは覚悟していた。
「余った分で好きなもの買っていいからね!」
そしてこの一言で、仕方なく引き受けることにした。
村を自由に探索したりするいい機会だし、何よりお釣りで好きなものが買える。
・・・こうして異世界での初めてのおつかいに挑むのだった。
◇・・・・・◇
渡された金は、セントラル銀貨1枚と、セントラル銅貨5枚。
商品の相場は知らんが、最低でも銅貨2枚か3枚は残るだろう。
さて、商店でさっさと買い物済ませるか。
5分ほど探索して見つけた。
村をこうして歩き回ってみると、意外と中心部のほうはいろいろな施設があって驚いた。
しかもすれ違う人も、商人などが多く、けっこう栄えているらしい。
そんな感じでちょっと迷ったが、なんとか見つけることができた。
「らっしゃい、坊ちゃん一人かい?」
「はい、あの、この紙に書いてある商品をください。」
「はいよ。どれどれ・・・ああ、これだと銀貨1枚だな。」
おお、銅貨5枚も余るじゃないか!
でもこれだけ買って銀貨1枚分って・・・けっこう物価が安いのかも。
かなりインフレな物価だったらどうしようと思っていたが、杞憂だったようだ。
「はい。」
「まいどあり!坊ちゃん、それ重てぇから気をつけて運びなよ!」
「はい、ありがとうございます。」
さて、用事は済んだ。
残り5枚分は何に使おう・・・。
いや、すぐに使い切ってしまうのはもったいない、じっくり考えるべきだ。
・・・他の商店もみてくるか。
今いる店は武器屋である。
剣や盾、槍や斧・・・鞭まで置いてある。
どこのRPGだここは。
「いらっしゃい坊主。残念だけど、ここには坊主が使える武器はねぇな。」
「いえ、お気になさらず。ただ眺めているだけですので。」
「そ、そうかい・・・。」
怪訝そうな目で店主が俺を見てきたが、気にせずに武器を見ていく。
・・・けっこう精巧な作りの武器もあるな。
金貨3枚とか・・・高すぎやしないだろうか?
安い武器なら銅貨5枚で売ってるけど・・・どうも微妙だ。
アクセサリーとかもあるけど、デザインがあまり好みじゃない。
そんな派手じゃなくていいんだけどな・・・。
あ、地味な奴見つけた。
よし、見に行ってみるか。
「きゃっ!」
「いてっ・・・。」
行こうとしたところで、誰かと激突した。
俺の身体は、あっけなく尻餅をついてしまった。
やばい、向こうも倒れたみたいだし、謝らないと。
「いたたた・・・。」
「あの、すいません・・・。俺の不注意で・・・あの、大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫。あの、ごめんなさい。」
どうやら大丈夫らしい。
てか、声がかなり幼いような・・・子供か?
尻餅をついたまま前方を見ると、青い髪が綺麗な女の子がいた。
まだ顔は幼いし、5歳か6歳くらいだろう。
申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
子供に敬語使ってもなんか馬鹿らしいし、普通に話すか。
「いや、こっちこそごめんね。痛くないようで安心したよ。」
「うん、次から気をつけようね。じゃあね。」
女の子はそのまま店から出て行ってしまった。
・・・ま、いいか。別にぶつかっただけだし。
俺もアクセサリー見てこよう。
次に、俺は露店の前にいた。
さっきから、うまそうな匂いを放出している、商品につられてやってきてしまった。
ちなみにアクセサリーは買ってない。
地味なデザインだったのに、裏側にハートマークが埋め込まれていたせいで台無しになっていた。
「いらっしゃい、坊ちゃん!これ、おいしいよ!一つ銅貨1枚だよ!」
「ど、銅貨1枚ですか・・・!」
やばい、めっちゃいい匂い・・・・食べたい。
でも、せっかくもらったお小遣いを食い物に使ってしまうのもなぁ・・・。
ああ、迷う・・・。
「中はジューシーな、ケルグアの肉!外はふんわりとした、ユラノ産小麦の生地!特製のユラノまんじゅうだよ!」
「うー・・・3つください!」
ケルグアの肉だのユラノ産小麦だのはよくわからない。
だが、絶対にこれは旨いはず、匂いでそれはもう証明されている。
だから買うしかない、買わなきゃ損だ、買った俺こそ勝ち組だ。
・・・こうやって言い聞かせて、俺はフローリアとブレンダンのもあわせて3つ買った。
さて、帰ってさっさとこれを味わうことにしよう。
いい買い物をした後は気分がいい。
「やめて!それを返して!」
「おまえ、セイレーンたいりくのセルティナぞくだろ!あおいかみがしょーこだ!」
「めずらしいどうぐもってんじゃん、おれらにもかしてくれよ!」
「ねーちゃんかわいいかおしてんじゃん、おれらとあそんでいかねぇ?」
何だかガキ共が揉めている声が聞こえるが、気にしない。
関わるだけ面倒だ。
スルースキルっていうのも、こうゆう場面で役立つんだな。
「お願い!それは大切なものだから、返して!」
「ちっ、いいじゃねえかちょっとくらい!」
「けちくせぇおんなだな!おい、いいからつかってみようぜ!」
「そんなことより、ねーちゃん。おれらとあそんでいこうぜ?」
・・・・・・・・・・・・・・。
さて、帰り道はどっちだったかな。
ああ、あっちだったか。
さっさと行こう。
「だめ、返して!!返しなさい!!」
「うわっ!ちょ・・・はなせよ!いきなりつかんでくるなよ!」
「うわぁ・・・セルティナぞくっておっかねぇ・・・。マーク、おまえあんなのとあそびたいのか?」
「はぁはぁ・・・つよいおんなのこ・・・すてき。ふんでもらいたい・・・。」
「マーク・・・おまえまじかよ・・・。」
あ、いけね・・・手が滑った。
「・・・・うわ?!なんだこれ!まえがみえない!!」
「なんだよこれ!なんでこんなところにきりがでてるんだよ!」
「まっくらでみえない・・・はっ・・・これからたのしいことがはじまるんだね?!」
「マーク、ちがうって!おまえはいいかげんにしろ!」
俺が発動した黒の下級魔術・・・≪黒散霧≫により、ガキ共の視界は塞がれた。
今まで、黒魔術の下級魔術でさえ詠唱ショートカットを成功させたことはなかったが、天の助けか神の情けか、ここで成功してしまった。
偶然、俺が帰り道に何気なくやっていたら成功しただけである。あの子は幸運だな。
「え、え・・・?どうなっているの・・・?」
この隙に逃げればいいのに、棒立ちで困惑している、女の子。
じれったくて見ていられない。だから子供は苦手なんだ。
「え・・・きゃあ?!」
「こっちに来い。」
「で、でも・・・まだあれを返してもらっていない・・・。」
「ちっ・・・。」
ああ、面倒くさい。
「いたい!!」
「人が良い気分だったのを貴様らのせいで・・・・これは当然の報いだな。」
俺は女の子の大事にしているブツを持ったガキの尻を思いっきり蹴っ飛ばして、ブツを強奪した。
当然の報いだろう、別に俺は悪いことはしていない。
「ほら、これでいいか?」
「う、うん・・・ありがとう・・・。」
「いいから、さっさとここから逃げよう。」
「わかった、あっちに逃げよう?」
「了解。そんじゃ、さっさといこう。」
俺達は一目散に走り出した。
後ろで、ガキの泣き声が聞こえたけど、気のせい気のせい。
・・・別に大丈夫だと思うけど、後で様子でも見に行くか・・。
◇・・・・・◇
5分ほど走り続けると、大きな木が見えた。
以前夜にブレンダンと散歩して、休憩した場所もあの木だったような気がする。
「ここまでくれば・・・だいじょうぶじゃないか?」
「はぁ・・・はぁ・・・・そう・・・だね・・・。」
けっこう全力で走ったから、俺も女の子もかなり疲れていた。
木に身体を預け、呼吸を整える。
「・・・・ふぅ。まぁ、無事で何より。それじゃ、また。」
「ちょ・・・ちょっとまってよぉ・・。って・・あれ、君は・・・。」
「ん、どうかしたの・・・・って、あれ?。」
この女の子、綺麗な青い髪をしている。
顔立ちも、声も幼さが見えるが、一般的に見たら可愛らしい女の子っていう感じだ。
・・・そういえば、今日の出来事で、青い髪の女の子と武器屋で接触しなかったっけ。
この幼さが残る顔立ちも、声も・・・うん、一致する。
「もしかして・・・武器屋であった・・・かな?」
「う、うん。ぶつかった・・・よね?」
この女の子は、俺が武器屋でぶつかった女の子だったのか。
なんか、青い髪が目にちらちら映ってたけど、全然わからなかった・・・・。
「へぇ、まさか君とは思わなかったよ。」
「・・・不思議なこともあるんだね。ぶつかったときの子に、助けてもらったなんて・・・。」
「別に助けたわけじゃない。たまたま霧がでて、たまたま逃げてきただけだよ。」
「ふふふ・・・あはははは!」
何だこの女の子。
いきなり笑い始めるなっての。なんて反応すりゃいいんだよ。
これだから子供は苦手だ。
「な、何がおかしいの?」
「だって・・・あははは!」
「何かおかしなこと言ったかな?」
「ううん、なんでもない!」
「・・・・・・・。」
「とにかく、助けてくれてありがとうね。」
「いや、だから・・・・。はぁ・・・わかった、どういたしまして。」
なんか、話の主導権をあっちに握られて、ペースが狂ってしまう。
この子、見た目は5歳か6歳くらいなのに、なんでこんなに話が通じるんだろう。
俺の予想だと、このくらいの歳なら「あ、ありがとう・・・。」とかぐらいしか言えないと思うのだが。
とりあえず、あんな風になっていた原因について一応聞いておくか。
「ねぇ、どうしてあんな風になってたの?何か取られたみたいだったけど・・・。」
「・・・私、こんな髪だし・・・他所の村に行くと、ああやってやられるの・・・。取られたものも、きっとめずらしいと思って取られたんじゃないかな・・・。」
急に、元気がなくなったな。
あの髪・・・青い髪のことか。
ガキ共のなかで、セルティナ族だのどうだのいってた奴いたな。
あれと関係してくるのだろうか?
帰ったらフローリア辺りに聞いてみよう。
「そりゃ、ここらであんまりみない綺麗な髪だから皆ちょっかいかけたくなるよ。」
「え?・・・そうかなぁ。」
「それに、子供は珍しいものが好きだからね。今度外に出るときは持ち出さないほうがいいよ。」
「う、うん。」
それにしても、どんな道具を持ち歩いていたんだろうか。
手に持っているのは、双眼鏡みたいなものだが・・・。
「ねぇ、それってどんな道具なの?」
「・・・ごめんね。お父さんがまだ誰にも言っちゃダメって言ってたから・・・。」
「そっか・・・。」
「あ、そうだ。名前・・・聞いてもいい?」
「まだ自己紹介していなかったか。俺は・・・・。」
なんだっけ。
アルって呼ばれているから、どうも本名を忘れがちになる。
・・・ああ、あれか。
「俺はアルバート。アルバート・ホワイトって言うんだ。君は?」
「私はエリーナ。エリーナ・ユレイトって言うの。・・・よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
自己紹介をし、握手をする。
エリーナの手は予想よりも小さかった。
さてと、自己紹介もしたし、もう用はないかな。
「えっと・・・お礼をしたいから、うちに来てくれるとうれしいんだけど・・。」
「え?いや、別にお礼なんていいよ。たまたま君は助かったんだし。」
「まだそうやって言ってる・・。いいから、ついてきて!」
「うわっ?!ちょっ・・・。」
なんて強引な女だ。
はぁ・・・さっさと帰ってユラノまんじゅうを食べたかったのに。
だから見逃して置けばよかったんだ、はぁ・・・・・馬鹿な俺。
◇・・・・・◇
なにやら民家に連れてこられた。
俺の家と同じくらいの大きさ、てか場所も俺の家からそう離れてはいない。
数少ない民家の一つに、エリーナが住んでいたってわけか。
「ここは・・・エリーナの家か?」
「そう、ちょっと待っててね!」
返事も聞かずに、エリーナは家の中に入ってしまった。
このまま帰ろうとも一瞬考えたが、かわいそうなので待ってやることにした。
待つこと3分後・・・。
「はい、あがっていいよ、アルバート君!」
「・・・アルでいいよ。」
「そう?じゃあアル、狭い家だけど、どうぞ!」
「あ、ああ・・。お邪魔します・・。」
促されるまま、俺はエリーナの家に入った。
そのままエリーナの後についていき、入ったのは居間っぽい部屋だ。
父親と母親だろうか、ニコニコしながら俺を見ている。
そういえば、この2人の髪も青いな・・。
「君か?娘を助けてくれた子は!」
「まぁ、小さくて可愛らしい子ね!」
「あ、どうも・・・。」
うわぁ、やりづらい。
すっごい良い笑顔してるよ。
反応に困るんだよな、こうゆう顔されると。
「この村の子だよね?名前を教えてくれるかな?」
「あ、アルバート・ホワイトと申します。」
「ほう、アルバート君だね・・・。ん?・・・ホワイト・・・ホワイトだって?!」
「はぁ・・・そうですが、いかがなさいました?」
「君がブレンダン先輩の子供か?!全然似てないから気付かなかったよ・・。」
ブレンダン先輩?
この男、ブレンダンと面識があるのだろうか。
「あの、父をご存知で?」
「ご存知も何も、私もお世話になっているからね。・・・あ、言い忘れたね。私がこの娘の父親、グレイ・ユレイトだよ。君のお父さんと同じで、この村の衛兵をやっているんだ。」
「母親の、エレン・ユレイトよ。」
お、良いこと聞けた。
ブレンダンの職業は、衛兵だったのか。
5年間この世界で生きてきて知らなかった俺は、もう少し世間に目を向けるべきかもな。
「そういえば、アルバート君の歳はいくつだい?」
「3ヶ月ほど前に5歳になりました。」
「あら、それならエリーナと同じね!小さいのにしっかりしている子だねぇ。エリーナにも見習ってほしいわ。」
「お母さん、私だってしっかりしているよ!」
「はいはい、そうだね。エリーナもしっかりしているわね。」
はぁ、さっさと帰りたいな。
なんでこんな家族劇場を見せられなきゃならないんだ。
まだ他にもやることあるからさっさとここから出たいのに。
「おお、そうだ。お礼を受け取ってもらわないとな。」
「い、いえ!そんなの受け取れませんよ!」
「遠慮なんかしなくていいんだよ!ほら!」
なにやらプラモデルのようなものを手渡された。
こんなので喜ぶのは幼稚園児くらいだろうに・・・。
あ、今の俺は5歳だったか。
「えと、これは・・・?」
「うちの旦那が作ったものさ。アルバート君もこうゆうの、好きだろう?」
「え、えと・・・まぁ、はい。」
「よかったね、アル!」
・・・・よかったのか?
世間一般では、この位の子共に玩具は喜ばれるのだろう。
だが、俺は世間一般ではない。少なくとも違う世界で20年は生きてきた。
好きでもなんでもないのだが、嫌いですとも言えない空気である。
しかたなく、しぶしぶ俺は受け取ることにした。
「それと、一つお願いしたいことがあるんだ。」
「はぁ、なんでしょう?」
「厚かましいお願いかもしれないけど、娘と、これからも仲良くしてやってくれないかな?この娘もセルティナ族で、私に似てちょっと変なところもあると思うんだけど、根は良い娘なんだ。」
「アルバート君みたいな良い人が仲良くしてやってくれると、うちらも嬉しいんだよ。」
「だ、だめかな・・・?」
仲良くしてくれってか。
別に邪険に扱うまで俺はこの人たちが嫌いではない。大好きでもないが。
でも、エリーナもセルティナ族とか何とかで苦労しているのはわかった。
本人も不安そうにこっちを見ているし、友達が多いほうには見えない。
友達が少ない点では、俺も似たようなものだな。
子供の世話なんてご免だが、意外にエリーナはしっかりしているし、俺に負担はかからないはず。
同年代の友達も一人くらいはいたほうが良いと思うし。
なら・・・別に断る理由は無いな。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。・・・これからもよろしくね。」
「うん!よろしくね、アル!」
この世界に来てから初めての友達・・・か。
本人もこんなに喜んでることだし、これで良かったかもな。
「お菓子、大変おいしかったです。ご馳走様でした。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。また作ってあげるから、いつでもいらっしゃい!」
「お母さん!私、アルを家に送ってくるね!」
「あ、大丈夫だよ。すぐ近いところに家あるから。」
「そうなの?それじゃあ、またねー!」
「ああ、バイバイ!」
その後、エリーナの家で、お菓子をご馳走になり、俺は見送られつつ帰るところである。
ちなみに、お菓子はなかなかおいしかった。
ユレイト家の皆さんに見送られながら、俺は家を後にした。
◇・・・・・◇
「ずいぶん遅かったのね、アル。」
「あんまり遅いから心配したぞ。」
「ごめんなさい。いろいろありまして・・・。」
やばい、おつかいに行ってたのすっかり忘れてた。
あのままエリーナの家を出た後、蹴っ飛ばしたガキの様子を見にもう一度中心部へ戻ったのだ。
ガキを見つけ、商店で買った塗り薬と、貰ったプラモデルを押し付けてきた。
そうやって家に帰ってきた頃には、もう夕方になってしまっていた。
そして家に帰ってきた途端、お2人のお小言を受けてしまったのである。
ユラノまんじゅうもすっかり冷たくなってるんだろうな・・・・はぁ・・・。
「ん、何かあったの?」
「アルの初めてのおつかいだし、ちょっとは予想してたけどな。」
「実は・・・。」
俺はここまでの出来事を全て話した。
セルティナ族と呼ばれる子供がトラブルに遭っていたこと。
トラブルを解消したら、家に呼ばれて、お礼をもらってたら遅くなってしまったこと。
「そうそう、ユレイトさんっていう人にお礼を受けたんです。ユレイトさんは、父さんの知り合いらしいけど、父さんも面識ありますよね?」
「グレイのことだな。同じ仕事の仲間だから、そりゃ知ってるよ。・・ってことは、アルが助けた子供って言うのはエリーナちゃんのことだね?」
「はい、エリーナです。」
やっぱり、面識はあったようだ。
そういえば聞こうと思ってて忘れてたことがあったな・・・。
「エリーナは、セルティナ族とかどうとかって言われて揉めていました。セルティナ族っていうのは、どうゆうものなんですか?」
「えっとね。セルティナ族は別に悪い人たちじゃないのよ。最初にそれだけは言っておくわ。」
「・・・セルティナ族は、俺達普通の人間とはまた違った種族だ。・・・ほとんど同じなんだけどな。」
思い返せば、青い髪以外に俺達と変わっているところなんて一つもないと思うんだが・・・。
どいゆう意味なんだろう。
「セルティナ族の大半は、セイレーン大陸って言う北のほうの大陸に住んでいるんだ。こっち側に来るのも、稀にいるけどな。」
「セイレーン大陸・・・以前、地図で拝見しました。」
「セルティナ族の主な特徴として、青い髪・・・っていうのが一番の特徴だ。これは、エリーナだけじゃなくて、グレイとかもそうだったろう?」
「はい、ユレイトさん達も全員髪が青かったです。」
以前、秋葉原を研究会の帰り道で歩いていたら、青い髪に染めていた女を見たことがある。
あんな感じの染めた髪の色ではなく、本当に純粋に青かったのだ。
正直言って染めた髪の色など不快でしかないが、あれはあまり不快な気分にはならなかった。
「まぁ他にも特徴はあるが、目に見えない部分ではあるな。」
「目に見えない部分・・・?」
「なんていうか・・・説明しづらいな。彼らはな・・・とても頭のいい種族なんだよ。」
「頭が良い種族・・・ですか。」
なんだその大雑把な設定。
皆が皆頭良いのかよ、なんか想像してみたら変だな。
「昔からずっと頭が良いって言われている種族だ。遥か昔から、今まで文明を発展させ続けた種族とも言われる。実際、彼らの中から、研究者や発明者として名が売れた奴も多いんだ。」
「・・・・すごいんですね、セルティナ族は。」
「ああ、本当に凄い種族なんだが・・・。困ったことに、好奇心が旺盛で、ちょっと俺達とは変わったところもある。それで、一般人に変な目で見られたりすることが多いとも、グレイは言っていたかな。」
「なるほど。」
つまり、頭の良い馬鹿ってことだな。
興味が転々と移り、色々なものに触れて過ごす。
それは俺としては素晴らしいと思うが、もう少し節度をもったほうがいいってことなのか。
この話には俺も共感できるが、俺はそんな人間ではない。
節度くらいはわきまえることができる・・・はず。
「ま、要するにだ。頭が良くて、基本的に良い奴らなんだが、ちょっと変な奴が多いのがセルティナ族かな。悪い奴らじゃないと思うし、意識しないで普通に接してやってほしいかな。」
「安心してください、俺はそんなこと気にしませんよ。」
「そうか。エリーナも喜ぶと思うぞ。」
さて、聞きたいことも聞けたし、ユラノまんじゅうにありつくとでもしますか。
あ、ブレンダンとフローリアの分も買ってきたんだったっけ。
「父さん。」
「ん、何だ?」
「貴重なお話、ありがとうございました。これ、お土産です。」
「おお、ユラノまんじゅうか!ありがとなぁアル!」
「母さんも、よかったらどうぞ。」
「まぁありがとうね、アル!」
やっとユラノまんじゅうにありつくことができる。
でも、やっぱり出来立てのほかほかなまんじゅうを食べたかったな。
そう考えていると、フローリアがいきなりまんじゅうを皿に載せた。
「え?母さん、それ手で食べられますよ。」
「ふふふ、甘いわね・・・アル。これぞ、魔術の真髄よ!」
「え?魔術?!」
青い光と、赤い光りが、同時にまんじゅうにぶつかる。
気付いたらまんじゅうは出来立てのように、ほかほかに蒸されていた・・・。
詠唱をショートカットしているため何を唱えたかはわからなかった。
俺から言えるのは・・・間違いなくフローリアは今、‘2種類の’魔術を同時に使ったということだけだ。
「母さん、一体何をしたのです?!」
「ふふふ~・・・ひ・み・つ。後もう少ししたら、アルにも教えてあげるわ。ほら、貸してみなさい。」
そして、先ほどと同様に、まんじゅうに青と赤の光がぶつかる。
気がつけば、ほかほかのまんじゅうの出来上がりか・・・。
「さあ、何をしたかわかるかしら?」
「・・・・・・・なるほど。」
まぁ2回も見れば何をしたのかは大体わかった。
彼女が使ったのはまちがいなく蒼魔術と紅魔術である。それは光で確認済みだ。
問題は、その2つをどのように使ったか・・・だ。
あのまんじゅうは、蒸されて作られる蒸しまんじゅうだ。
俺も以前の世界ではよく食べていたから、わかる。
そして、この‘蒸す’というのが重要なキーワードになる。
「母さん。蒼魔術で水を発生させた直後に、高威力の紅魔術で火を発生させたのですね。発生した水を紅魔術で発生させた火で熱して、その際に出た湯気でもう一度このまんじゅうを蒸かせた・・・というわけですか。凄い技術ですね、感服しました。」
「・・・あれ、なんでわかったの・・・?」
「いえ、蒸すというのは元来そういうものですから。発動した魔術の種類がわかれば、自ずと答えは出るかと。」
「ははは、これは驚いたな。母さん、アルには全てお見通しだったみたいだぞ。」
だが驚いたな。
これで二つの魔術を同時に操れるという事実が判明したのである。
二つ使えるということは、使える魔術の幅もボリュームアップしたということになる。
これはぜひとも修得したい。
「・・・・母さん、俺にもその魔術を教えてください。」
「見抜かれちゃったしね。いいわ、アルがこれを教えられるくらいのレベルになれば、教えてあげるわ。それまで修練、頑張るのよ。」
「わかりました、母さん。」
「さてと、それじゃあユラノまんじゅうを食べましょうか!」
その後家族3人でユラノまんじゅうを食べた。
それは久々に、胸が温かくなるような一時だった。
あの時、買っておいてよかったな。
こうして俺の初めてのおつかいは幕を閉じた。
友達もできたし、ユラノまんじゅうというこの世界で好物といえるものもできた。
これだけで、今日のおつかいは大成功だろう。
さらに、2つの魔術を同時に操る技まで、知ることが出来た。
当分はこれを教えてもらえるまで、魔術の基礎技術の底上げをやっていきたい。
明日から、また頑張りますか。