7.勉強会
俺は5歳になった。
日々の修練や鍛錬も充実している。
魔術は黒魔術を現在修行中。
剣技は主にブレンダンとの直接稽古。
体術は相変わらずジャブを打っている。
身体も少し成長し、筋肉もわずかながらについた。
全てが順調だった。
だが・・・重要な問題を忘れていた。
そんな重要な問題に、俺はようやく気付いた。
「母さん、聞きたいことがあるんです。」
「ん、どうかしたの?アル。」
今の会話に重要なキーワードが隠されている。
「ん、どうかしたの?アル。」→「どうかしたの?アル。」→「アル。」
この、アルという名前だ。
「僕の、‘本当の名前’を教えてください。アルって、略称みたいなものなんですよね?」
そう、このアルというのはあくまで略称のはず。
ただの勘だけど、たぶんアルは俺の本名を省略したものであると思う。
例えば、ケンタとかならケンちゃんとか小さい頃に呼ばれたりするアレのことだ。
実際俺の知り合いにもいたし。
話を戻すと、俺は自分の本名を知らないのだ。
彼らが「アル」と呼ぶし、村に出て行ったこともないから、外部の人間から名前を呼ばれたこともない。
さすがに本名くらい知らないといろいろとまずい気がする。
「あれ、まだ教えてなかったっけ?!」
「はい、聞いていません。」
「あちゃー・・・教える機会なかったのよ・・・。ごめんなさいね。」
「いえ、気になさらずに。今からでも教えてもらえれば嬉しいです。」
「そうね・・・。それじゃ、言うわ。」
「あなたの本当の名前は・・・‘アルバート・ホワイト’よ。」
「・・・そうだったのですか。ありがとうございます。」
「本当にごめんなさいね。今更自分の名前を知るなんて、嫌だったでしょ?」
「・・・いえ、今知れてよかったです。」
アルバート・・・っていうのか・・・。
なんか、不思議な気分だな。
俺が前の世界での名前を知ったのは、いつの頃だったかな。
・・・忘れちまったな、そんなこと。
名前は知れたことだし、これで用件は済んだのだが・・・。
この際、ここで色々疑問を解決していったほうが良い気がする。
聞きたいことならたくさんあるし。
後々聞くのが面倒になって、結局聞かない・・・なんてこともありそうだしな。
「あの、母さん。」
「ん、まだ何か聞きたいことがあるの?」
「はい、色々と・・・。」
「そうねぇ・・・。アルにはそうゆうの教えている時間を全然とってあげられなかったし、今日は勉強会でも開きましょう!」
「え・・・いいのですか?」
「もちろんよ!何でも聞いていいわよ!」
◇・・・・・◇
そんなわけで、急遽ホワイト家で勉強会が開かれた。
講師はやる気満々のフローリアと、家の前で剣を振っていたところを無理やり連れてこられたブレンダンの2人である。
「さて、勉強会を始めるわよ!」
「始めまーす・・。」
「はい、よろしくお願いします!」
なんてテンションの差だ。
まぁ、無理もないか。無理やり連れてこられたんだしな。
「アルは聞きたいことがあるって言ってたよね。何でも良いから聞いて?」
「なんでも答えるぞー・・。」
「そ、そうですね・・・。それじゃ、この国の地理っていうか何て言うか・・・あ、この村の名前を教えてください!」
「ほお、やっと外に関心が出たのね・・・。心配だったのよ、一言も外に出たい何て言わなかったから。」
別に外へ出てもよかったんだが、特別興味はなかったから別に行こうとも思わなかった。
ただそれだけなんだが、それでもフローリアは心配していたようだ。
母親ってのは過剰に心配しすぎると思うのは俺だけだろうか。
「いえ、心配なさらなくても、そのうち村に出てみようかと思います。」
「そうなの?じゃあ今度おつかいでも頼もうかしら!」
「まぁまぁ、おつかいはまた今度だ。村の名前が聞きたいんだっけ?まぁ村だけ教えるのも何だし、これでも見せておくか。」
そういって、ブレンダンが懐から取り出したのはただの紙切れ・・・ではなくてどうやら地図らしい。
すごくボロかったから、本気で紙切れに見えた。
地図を見ると、大陸が5つ書かれている。
大きい大陸もあれば、小さな大陸もあるな・・・。
右がセントラル大陸、右上がセイレーン大陸、真ん中下がサミール大陸、左下がモロゴス大陸、左がカルライド大陸と書かれている。
「いいか?ここが俺達の住んでいる村で、ユラノ村って言うんだぞ。」
ブレンダンが、地図の右下を指差す。
手書きで、「ユラノ村」と書かれていた。
「ユラノ村と言うんですね。わかりました。」
「この近くにも色々と町や村があるけど、書いていたらキリがないから、書かなかったんだ。」
「そうね。大きな街しか書いていないわ。」
「大きい街・・・というと?」
「地図に書いてるだろ。ここと・・・ここだな。」
今度は地図の右と左を同時に指された。
大陸で言うと、右がセントラル大陸。左がカルライド大陸だ。
右の方が・・・帝都で、左の方が・・・王都と書かれている。
「右の街が、帝都アストラル。左の街が、王都セルガイアだ。大陸は違えど、この2つが1、2を争う大きな都市だ。」
「帝都アストラル・・・。王都セルガイア・・・。」
「実際、この2つがこの世界を支配している・・・といっても間違いじゃないわね。ま、別に変なことはしてないし、問題はないけどね。」
「それと、帝都があるアストラル帝国が直接治めている地域を、アストラル帝国領。王都があるセルガイア王国が直接治めている地域を、セルガイア王国領っていうんだぞ。」
「なるほど。」
なぜ王都と帝都があるのだろうか。
こうゆう世界なら、統治している主権国家は一つだと思っていたが・・・。
2つもあれば余計決めづらくなるだろうに、何か理由でもあるのか?
「なぜ王国と帝国に分かれているのですか?一つじゃない理由でもあるのですか?」
「そ、それは・・・・いや、前からそうだったし、別に理由は無いんじゃない?」
いや、何かあるな。
フローリアの目が泳いだことで、俺は確信した。
5歳のガキには話してもわからない・・・とか思っているのかな。
まぁ主権国家が二つに分かれている理由なんて、おおよそ察しはつくけど。
「・・・そうだなぁ。アルがもう少し大きくなったら教えてやるよ。」
「はい、わかりました。」
今すぐ聞くことはないだろう。
大きくなったら教えるって言うし、別にどうしても聞かなきゃならないことでもない。
「あ・・・そうそう、アル!アストラル帝国には魔術学院があるのよ!!」
「・・・魔術学院?」
「魔術学院はすごいところなのよ!優秀な先生もいて、現在いる有名な魔術師の中ではこの学校出身の人も多いのよ!」
「おお・・・。」
話をそらそうとして、魔術学院の話をしてきたのだろうか。
だとしても実に興味深い話だ。俺の興味なんて完全に魔術学院にいってしまったよ。
「入学すれば、魔級の魔術や天級の魔術だって習えるわよ!他の学院と違って、黒魔術や白魔術も扱っているし、魔術師を志す人なら誰もが目指す学院ね。」
「すごいですね・・。」
魔級や天級って・・マジかよ。
緑魔術の上級まで使える俺でも、まだ魔級は成功したことがない。
すごい学校もあるもんだ。
「だけどね、入学試験がとても厳しくて、入れる人数が少ないのよ。ま、母さんがビシバシ鍛えたアルなら全く問題ないけどね!」
「あの、母さん・・・。」
「ん、どうしたの?」
「俺もその学院に行きたいって言ったら・・・怒りますか?」
けっこうこの質問をしようか迷った。
だけど、言ってしまった。
言いたいことは言っておきたいし、言わずに後悔はしたくない。
さて、あの2人は怒るだろうか・・?
「まぁ・・・・。」
「おお・・・・。」
え?ちょっと、予想外の反応。
怒って・・・ないのか?
「あの・・・ダメ・・・でしょうか?」
「アル!あなたが自分で決めたことなら、母さんは応援するわよ!・・・・やっぱり、辛いけど・・。」
「そうだな、父さんも同じだ。アルが行きたいと思ったのなら、行くんだ。父さんも応援するから。」
「・・・はい、ありがとうございます。しっかりと、考えておきます・・・!」
やっぱりあの2人は良い奴らだな。
フローリアなんて泣きそうなの我慢しているし。
ほんと、この家で生まれてきて俺は幸運だったよ・・。
「あ・・・。アル、お前いま5歳だったか?」
「はい、そうですけど・・・。」
「学院は10歳からしか受けられないぞ。あと、金もかかるし・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「そ、そんなにショックなのかしら?!あと5年みっちりと修練を積めるのよ?」
「そ、そうだぞ!5年間しっかりと修練を積めば、学院でも周りに遅れをとることもないだろうし!」
「は、はい。大丈夫ですから・・・。しっかり5年で力を付けます。」
めっちゃくちゃテンション下がった。
せっかく胸が暖かくなるような、いい雰囲気だったのに・・・。
はぁ、あと5年か・・・。金の問題もあるんだよなぁ・・・。
「一応言っておくけど、セルガイア王国にも、剣修学院っていう学院があるんだぞ。そこでは剣技を極めようとする若者がたくさん集まってだなぁ・・。」
「あ、わかりました。魔術学院のようにすごい技術を習うことができるのでしょう?」
「そ、そういうことだ。入るなら、最低でも中等クラスの剣技は扱えないとな。あそこでは高等クラスの先生もいるしな。」
「いつの日にか、俺もそこで剣技を学びたいものです。」
「そうか。どの道今のアルじゃ入学もできないし、あそこも10歳からだから、あせらずにゆっくり鍛錬を積むんだぞ。」
「はい、わかりました。」
魔術学院に剣修学院・・・。
おもしろそうな話題が二つも出てきて、俺はかなり興奮していた。
しかし、最低でも入学するためにはあと5年かかるし、金も足りない。
5年という時間の間に、どこかで金を工面する必要があるな。
ん・・・・金・・・?
そうだ、俺はまだこの世界に来て、金という概念に触れていない。
きっと、使う機会もなかったから忘れていたんだな。
「あの、金・・・というのはどういう・・?」
「あれ~?アルにお金見せたことなかったっけ?」
「はい、ありません・・・。」
「んーとね、はい、これ!」
差し出されたのは、一枚の硬貨。
色を見るに・・・銅かな?
「これが、お金・・・ですか?」
「そうね。これは、セントラル銅貨よ。・・・アルって、算数はできたかしら?」
「はい、一応は。」
小学生じゃあるまいし、普通できるだろ。
あ、そっか。俺は今5歳なんだっけ・・。
「じゃあ、詳しく教えるわ。この銅貨が10枚で銀貨1枚分と同じなのよ。そして、銀貨が10枚集まったら金貨1枚と同じ。ここまではわかった?」
「はい、大丈夫です。」
「それと、細かい計算になるけど、‘純銅貨‘っていうのもあってね。純がつくと、ついていない通貨20枚分の価値になるのよ。」
「ふむふむ。わかりました。」
なるほど、銅→銀→金の順で高くなっていくわけか。
そして、純銅貨1枚=銀貨2枚。純銀貨1枚=金貨2枚。純金貨1枚=金貨20枚・・・ってことになるのか。
この程度なら小学生でもできるだろうし、問題ないな。
「さっきの地図を見たらわかると思うんだけど、ユラノ村はセントラル大陸に入っているでしょう?このセントラル銅貨は、セントラル大陸だけで使えるお金なのよ。」
「ならば、違う大陸に行くときはどうすればよいのでしょうか?」
「そのときは、商人さんに両替してもらうの。商人は、街や村に必ずいるから、違う大陸に行くときは両替を頼めばいいのよ。基本的に価値は変わってないから、セントラル銅貨1枚ならカルライド銅貨1枚に換えてもらえるわ。」
「なるほど。」
意外とこうゆうのはしっかりと成り立っているんだな。
単純なものより、こうやって複雑になっているほうが面白いから、文句はない。
「お金に関しては、もういいわね。これでおつかいが頼めるわ~!」
「おつかいなら、何なりと言ってください。しっかりと行ってきますので。」
「それじゃ、近いうちに頼むわね。」
「他に、何か聞きたいことはないのか?何でもいいぞ。」
他に・・・他に・・・。
何かあったっけなぁ。
疑問に思ってたこと・・・。
・・・どうでもいいけど、一応聞いてみるか。
「・・・・それじゃ、父さんと母さんの昔のお話を聞かせてください。」
「え?!え、えええ?」
「え、いや・・・その・・・なんていうか・・・。」
どうやら、想定外の質問だったようで、二人は目に見えて慌てだした。
こんなに慌てるのも俺にとっては想定外だ。
・・・なんかおもしろくなってきたし、絶対に聞きだそう。
「・・・・だめでしょうか?」
「・・・ああー、もう、わかったわ!可愛いから話すわよ!」
「ははは、フローリアが話すなら、俺も話さないといけないな。」
これぞ必殺、上目遣いおねだり。
いや、ただ単に上目遣いでお願いをしただけなんだが、どうやら2人には効いたようだ。
せっかく話す気になってくれたのだし、しっかり聞いておこう。
「私は、帝都アストラルで生まれたのよ。生まれた家は貴族で、ちょっと厳しいところもあったんだけどね・・・。それで、元気にすくすく育って、魔術の才能がちょっとだけあって、アストラル魔術学院に入学したんだよ。」
「母さんは魔術学院に入学できたんですか?」
「何意外そうにしてるのよ~。母さんは凄いんだから!」
「そうだなぁ、母さんの魔術は凄かったぞ。」
どうやら凄かったらしい。
白魔術の上級魔術とかバンバン撃っている時点で、凄いっていうのは薄々わかる気もするけど。
もしかして魔級とかの魔術も撃てるのか・・・?
・・・聞かないでおこう、なんか怖い。
「それで卒業後は、友達と皆で旅してたかなぁ。いろんな街にも行ったし、山とかにも行ったわよ。」
「それ・・・いいですね。」
「でしょう?本当にあの時は楽しかったわ・・・。」
遠い目で懐かしそうに微笑むフローリア。
時折、こんな目をしているフローリアを見ることがある。
過去を懐かしむような・・・それでいて、少しだけ悲しそうな・・・そんな目だ。
「それでね、旅の途中にブレンダンに会って、いろいろあって恋をして、結婚したのよ。」
「ははは、まぁそうなるなぁ。」
「とても素晴らしい人生だと思います。聞けてよかったです。」
そうか・・・旅・・・っていうのも何か、いいなぁ。
色々あったって省略されたところが気になったけど、話しても長くなるだけなのだろう。
ちょっとだけ飽きてきたし、詳しくは聞かないことにした。
「それじゃ、父さんの話だな。父さんは、母さんと違って王都セルガイアで生まれたんだ。別に普通の家で生まれたし、元気なやんちゃ坊主だったな。よくいたずらして怒られていたよ。」
「今じゃ想像もできないことよね。」
「そうなのですか?」
「昔は本当にひどかったらしいわよ。ブレンダンのお父様もお母様も、私に苦労話をいっぱい話してくれたもの。」
「ま、まぁいいじゃないか!昔のことだし!」
へぇ、ブレンダンは昔はやんちゃだったのか。
今はむちゃくちゃ落ち着きがある奴だから、想像もできないな。
「そうやって元気に育っていったんだけど・・・6歳くらいだったかな。森で遊んでいたら、魔獣に襲われてね。危うく喰われかけたんだ。」
「え・・・・、じゃあどうやって生き残ったんですか?!」
「見ず知らずの人に、助けてもらったんだ。ものすごい剣技を一瞬で放って、魔獣をあっという間に倒して・・・父さんはなんとか助かった。」
「それが、あなたが前に話してくれた‘師匠’?」
「ああ、この人だ。」
どうやら見ず知らずの人に助けてもらったらしい。
しかも、その人が‘師匠’って・・・弟子入りでもしたのかこいつは。
「本当に素晴らしい剣技だった・・・。父さんは思わず叫んでいたよ。『その剣技、俺にも教えてください!!』ってね。」
「お、おお・・・。」
「その人は快く了承してくれた。俺はそれから毎日剣技の鍛錬に明け暮れたよ。師匠の手ほどきを受けながら・・・・あっというまに10歳になって、セルガイア剣修学院に入学したんだ。」
「父さんも、入学できたんですね。」
「まあな。卒業後は、一人で洞窟にもぐったり、色々自由にやってた。」
「ブレンダンったら、ろくに友達もいないから一人で冒険してたのよ。寂しいよねぇ。」
「一人旅っていうものもなかなか良いと思いますよ。」
とはいえ、こんな異世界に来ている俺からしてみれば、少し心細いかもしれない。
しかし2人とも卒業後は旅をしてたんだな・・・。
「そんでフローリアと会って、色々あって恋をして、結婚したんだ。」
「そうなるわねぇ。」
「父さんも、素晴らしい人生だと思います。」
結局いろいろあって結婚したらしい。
なんていうか、2人とも似たような人生歩んでるんだな・・・。
さて、時間つぶしにはなったし、もういいかな。
「これで、俺達の話は終わりだ。もう聞きたいことはないか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」
「また聞きたいことがあったらいつでも聞いていいんだからね。」
「そのときは、また聞かせてもらいます。」
ためになる話もたくさん聞けたし、収穫は上々ってところだな。
今後の方針もだいぶ心の中で決まりつつある。
学院にも入学したいし、旅もしてみたい・・・・というのが俺の中で今思っていることである。
まず学院に入れば、魔術や剣技を極める大きな近道となる。
ブレンダンもフローリアも通っていたし、通って損をするというのはまずないだろう。
しかし、入学は10歳からだし、金もこの家の経済状況なら自分で何とかするしかない。
そこで、残りの5年の間に、魔術と剣技を磨きつつも、金を集める必要がある。
まずはその方法についてもしっかりと考えていかないとな。
入学してしまえば何とかなるだろうし、入学することが俺の今後の目標になる。
さて、だいぶ時間潰しちまったし、修練してくるか。
金を集めても、弱かったら何の意味もないからな。
◇・・・ブレンダン視点・・・◇
「やっぱり、アルは賢いな。あいつ、今の話普通に共感していたぞ。」
「5歳なのに本当に、誰に似たのかしらね。」
まったくだ。俺達の子供にしてはできすぎている。
なぜあんなにも賢いのだろうか・・・まったく見当もつかない。
「算数も普通に出来るみたいだしな。俺達は教えていないってのに。」
「将来は商人にでもなれるんじゃない?頭もキレるみたいだし。」
「いや・・・違うな。」
「え、じゃあアルは何になりたいのかわかるの?」
アルが商人になるのは、いくら頭がキレるからってもったいない気がする。
いや、それ以前にアル自身がそれを望んでいないようにも見える。
「おそらくアルは商人になる気なんてないと思うぞ。俺にもアルの将来なりたいものについては詳しくわからないけど、それだけは言える。」
あの子が鍛錬している時、俺も休みの日は鍛錬に付き合っている。
だからこそ、わかることが俺にもある。
「アルの目は・・・ぶれていないんだよ。ただ純粋に、それを極めようとしてひたすらそれに打ち込んでいるんだ。フローリアも心当たりはあるんじゃないかな?」
「・・・確かに、あるわ。どんな時も決してふざけなかったもの。」
「その先の目標はわからないけど・・・アルは、魔術と剣技と・・どちらも極めようとしているんじゃないかな?それがどんなに辛くても・・。」
あくまで予想でしかない。
だけど、そんな目標でも掲げない限り、途中でこんなもの投げ出すのではないだろうか。
この目標は、自分の力で、空まで届く塔を上る様なもの。
あるいは自分の力で、果てしない海を泳ぎきるようなもの。
それほどに険しく、果てしない目標を、アルは掲げているのかもしれない。
「まさか、あの子がそんなことを・・・。でも、この目標は・・・。」
「わかっているさ、決して甘くない道のりだって言うのも。だけど・・・俺は応援したい、かな。」
「・・・・私も、アルを応援したい。あの子が魔術を極めようとしているなら、私がしっかりしないとね。」
「ははは、そうだな。俺も気合を入れなおすことにするよ。」
きっとこの目標は一人では無理だ。
だからこそ、俺達がしっかりと支えてやらないといけない。
5歳の息子が本気で、父親が本気を出さないでどうする。
明日から、もっときつくするか。
極めるって言うくらいだし、これくらいやらないと極められないだろう。
まぁ、きっとアルのことだからどんな鍛錬にも耐えて見せるんだろうけどな。
楽しみにして置けよ、アル・・。
今回でようやく、世界について触れてみました。
現在地図を製作中ですので、後日載せられると思います。