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セピア色の栄光~才能を捨てた天才~  作者: 椎名皇
第1章.ユラノ村編
7/16

6(2).修練+

 気がつけば、俺は4歳の誕生日を迎えていた。

 充実しすぎて、あっという間の1年だった気がする。



 魔術のほうでは、とうとう上級魔術の修得に乗り出した。

 この世界では本来、上級魔術など大人が扱うものらしい。

 それがこんな4歳のガキでもできるのだから、あの裏技?はかなりの効果だったようだ。


 さらに嬉しい出来事がもう一つ。

 フローリア曰く「紅・蒼・緑のどれかを上級まで修得すれば、黒か白も修得できる」と言っていた。

 それを聞くと、俄然やる気が出てくる。

 俺はまた気を引き締めて、今日も魔術の修練をしていた。


 マナの量もかなり上がり、中級魔術なら30発程度撃てるようになった。

 おそらく下級魔術なら100発以上撃てる。

 こうして考えてみると、ずいぶん成長したなぁと自分でも思ってしまう。


 そうそう、成長といえば。

 この世界の魔術にはとんでもない裏技があったらしい。


 俺が教えられた魔術というものは、その魔術で使用するマナ以上のマナを持ち、なおかつ術相応のマナの変換技術があり、あとは詠唱をすれば術が発動する・・・というものだった。

 ところがある日、フローリアに言われた。


「別にそんなに何度も何度も詠唱しなくたって魔術は使えるよ?」


 ・・・先に言えよ!って、誰でも思うだろう。

 これを言われたのは、三ヶ月前くらいである。

 それまで、何度舌を噛んで泣いたことか・・・。


 そして、実践してみたところ・・・。

 下級魔術で1週間、中級魔術で1ヶ月かかり、詠唱無しで発動を成功させることができた。

 下級魔術でも1週間かかるほど、詠唱ショートカットというのは難しいのである。

 集中力かなり使うし、雑念が混じれば術が発動してくれない。



 そして、トレーニングのほうだが、こちらのほうはあまり上手くいっていなかった。

 一応、腕と足腰を中心に鍛えてみたが、さほど変わりはない。

 というのも、体重計も鏡も家にはなかったから確認できなかっただけなのだが、やっぱり不安である。

 これでしっかりと剣技と体術を教えてもらえるのか・・・心配だ。


◇・・・・・◇


「さてと、それじゃあ剣技と体術を今日から教えるぞ。」

「はい、よろしくおねがいします。」


 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。

 誕生日の翌日、ブレンダンは普通に今日から俺に剣技と体術を教えるつもりだったようだ。


「体術はこの前見せたし・・・最初は剣技だな。ほれっ!」

「え、どうしたんです・・・・って重いっ!」


 いきなり細長い物体を投げつけてきた。

 それもかなり重量がある。

 何かと思ってみてみれば、木製の剣だった。


「いきなり本物の剣を使うわけにはいかないしな。今日からこれを使って鍛錬するぞ。」

「はぁ、木剣ですか・・・。」

「なんだ、何か不満があるのか?」

「いえ、重いなぁと思いまして。」

「まぁこれは両手剣を想定して作られた木剣だからな。重くて当然だ。」


 確かに、これを片手で振り回すのは厳しいだろう。

 大体俺の身体は4歳のガキだし。

 

「さてと、剣の鍛錬を始める前に、アルには剣技の流派について教える必要があるな。」

「流派・・・ですか。」


 流派?○○流とかいうあれか?

 たぶん二刀流とかそんな感じのやつだな。


「そう。流派を決めて、その流派にある技を鍛錬するのが基本だな。」

「では、どのような流派があるのですか?」

「まぁ焦るな。今教えるから・・・。」


 流派というのは、大きく分けて4つある。


 一つ目、【狼神流】

 4つの流派の中で最も攻撃的な流派。

 技は基本的に攻めが中心のものばかりである。

 一発が重い技や、何度も攻撃を加えるような技など、攻めのバリエーションがかなり豊富である。

 デメリットとして、受けが弱いという点が挙げられる。


 二つ目、【亀神流】

 4つの流派の中で最も守備的な流派。

 技は基本的に受け中心で構成されている。

 受けや、カウンターはお手の物で、熟練すれば魔術などにも対抗できる。

 デメリットとして、攻めが弱いという点が挙げられる。


 三つ目、【猿神流】

 4つの流派の中でも最速の流派。

 技も、速度重視のものが中心である。

 一発の攻撃力は少ないが、手数が多く、反撃の隙を与えないで攻撃することができる。

 また、防御面でも受けるというよりは、‘避ける’に特化した流派である。

 デメリットとして、攻撃が軽く、相手の攻撃を食らえばかなり痛いという点が挙げられる。


 四つ目、【蛇神流】

 4つの流派の中で最もバランスの取れた流派。

 技は、極端にならないようバランスよく構成されている。

 攻めは、トリッキーなものが多く、相手を惑わせて戦うことが得意。

 受けに関しても、そこそこでき、速さもなかなかにあるのが魅力。

 デメリットとして、この流派はバランスが取れてはいるが、熟練しないうちはかなりきびしい戦い方になるという点が挙げられる。


 基本的にこの4つは世界中で使われているが、これ以外の流派ももちろん存在する。

 自分で技を開発し、それを使えば、自分だけの流派を作ることも可能である。

 オリジナルっていうのがまたかっこいいと思うのは俺だけだろうか。

 

 これらの流派もレベルがある。

 もっとも、魔術と違って3つしかない。

 初等・中等・高等の3つ。

 しかし、魔術と違い、3つの差は大きく、初等なら世界中にたくさんいるが、中等以上となるとほとんどいないらしい。

 高等にたどり着いて、名前が知られれば、二つ名がつけられることもあるとか。


 

「・・・とまぁこんな感じなんだが、大体わかったか?」

「はい、わかりました。あの、父さんは何流で何等なんですか?」

「ん・・そ、そうだなぁ。また今度の機会に教えてやるよ。そんなことよりも、どんな流派がいいか決まったか?」


 うまく話をはぐらかされた気がする。

 いずれ知ることになるだろうし、今はそれほど重要なことでもないか。

 しかし困った。

 これまでの説明の中でいまいちピンとくる流派がない。

 第一、技も見ていないのに決めるってことがおかしい気もする。


「ごめんなさい、まだ決まらないです。」

「いや、それもそうだな。まずは剣に慣れてからのほうがいいかもしれない。それじゃ、予定変更だ。まずは基本の振りからいこう。」


 さきほどブレンダンが投げた、木剣を手に持つ。

 やっぱり、かなり重たいな・・・。


「ここ1年で身体の軸を鍛えたアルなら、問題ない。アルは左利きだったな?」

「は、はい。」

「なら俺と同じだ。父さんの動きを良く見ておけよ・・・。」



 両手で剣を持ち、腰の左側あたりの下段で構えている。

 重心を下げ、ゆったりとした構え方である。

 ブレンダンは目を閉じて、リラックスしている。

 しかし、確実にブレンダンの周りの空気が張り詰めたのを感じられる。


 そのまま、目を開けるのと同時に、左足を思い切り踏み出し、剣を繰り出した。


「セイッ!!」


 まるで一瞬の出来事だった。

 瞬きしている暇もなかった。

 気がつけば、彼の剣が振られていた後。


 踏み出し、剣を振った空気の振動が伝わった。

 まるで大気中の全ての空気が震えたようだった。


「ふぅ・・・ま、剣技というか、ただ横になぎ払って斬っただけなんだけどな。」

「・・・す、すごい・・・。」


 体術のときもそうだが、これも次元が違った。

 というより、普通の基本技しか出していないのに、この圧倒的なキレはなんなんだ。

 もしかすると、この男はかなりの実力者なのではないだろうか。

 ・・・流派やレベルを明かさないのもなんだか怪しいし。


「こうやって、基本の動きを反復して練習しながら、剣技も練習するんだ。最初から剣技なんて使える奴なんていないからな。」

「わかりました。今の動きを真似ればいいんですよね。」


 ブレンダンと同じ構えを実践してみる。

 木剣を両手に持ち、しっかりと重心を下げる。

 そして、そのまま左足を踏み込んで・・・!


「セイッ!・・・おわぁ?!」

「おっ・・あらら・・・。」


 見事に木剣の重さに身体が持っていかれた。

 さきほどのブレンダンの振りに比べたら、天と地の差がある振りである。

 重すぎるんだよ、この剣!


「あの、父さん・・・。」

「ん、なんだ?」

「違う木剣に変えてください・・・。」

「ははは、やっぱりそうか。アルのちっこい身体じゃそりゃ無理だったな。」


 小さくて悪かったな。

 4歳のガキだから小さいのは当たり前だ。

 


 気を取り直して、もう一度チャレンジする。

 先ほどよりも一回り小さい木剣を用意してもらったし、今度こそいけるだろう。


 もう一度、あの構えをする。

 両手で剣を握り、重心を下げる。

 そのまま左足を前方に踏み込ませて・・・

 なぎ払う!


「セイッ!」

「・・・・ふむ。」


 今回はしっかりと振り切ることができた。

 初めてでこれなら、上出来ではないだろうか?

 

「あの、どうでしたか・・・父さん。」

「踏み込みが甘いな。軸はぶれていないが、その腰の使い方は弱い。」

「そ、そうですか・・・。」

「いいか?足の踏み込みは基本だ。これが弱いと話にならない。思いっきり、地面を踏む感じでいくんだ。」


 評価は辛口だった。

 いつも、優しい顔つきをしているのに・・・剣のことになると別人になるらしい。

 鋭い目で俺の一つ一つの動きを細かくチェックしている。

 でも踏み込みならあっちの世界で剣道やっていたし、自信あるんだけどなぁ・・・。


「それじゃ、もう一度やってみろ。」

「はい!・・・・セイッ!」

「まだだ!まだ足りない、地面を叩き割るくらい強くだ!」


 まだ強くか。

 言われたとおり、俺は地面を叩き割るくらいに強く足を踏み出した。


「はい!・・・・セイッ!」

「もっと腰を使うんだ!力を溜めて、一気に放出する感じで!」

「はい!・・・・セイッ!」


 こうやって鍛錬すればわかるが、彼のアドバイスは的確だった。

 指摘された部分を修正するだけで、自分の振りがかなり良くなっていくのがわかる。

 木剣を振るたび、空気を切る音が変わっていく。

 初めて振ったときがブンッ!という音ならば今ではヒュン!という感じになっている。

 

 そんな感じで、夕方まで木剣を振り続けた。


「はぁ・・・はぁ・・・。」

「うん、いい上達だ。それじゃ、次は体術いくぞー。」

「はぁ・・・はい!」


 これは・・・・なかなかにキツイ。

 剣技の基礎鍛錬だけでも、かなり厳しい。

 体術はどのくらい厳しいんだ?



「実を言うとな、体術は剣技のように流派があるわけではない。体術は、剣や魔術が使えなくなったときの最終防衛手段として覚えておくものなんだ。」

「なるほど。」

「ただ、それでも覚えておけば便利なものだし、剣技にも繋がってくる。何より、体術は極めれば強力な武器になるからな。」


 それは確かに納得できる。

 ボクシングを覚えてからは、怖いものなんてなくなったし。


「それじゃ、始めるか。まずは適当にこうやって、拳を放ってくれ。」

「は、はい・・。」


 それだけなのか?

 いや、いいけど俺は経験者だし、ブレンダンも驚いちゃうんじゃないかな。

 ま、やってみるか。

 ボクシングの左ジャブでいいよな。


「ハッ!!」

「・・・ま、初めはこんなものか。」


 ブレンダンの反応がいまいち薄い。

 理由はわかる。


 身体が思ったとおりに拳を放たないのだ。

 

 頭でいつものジャブを想定して、そのまま思い浮かべた、キレのあるジャブを放ったつもりだった。

 前の世界じゃさぞ、いい音を出してジャブが放たれたことだろう。

 しかし、今放たれたジャブは全然ちがった。

 素人丸出しの、キレのないジャブだった。


「な、なんで・・・?」

「ん、どうかしたか?別に4歳なら普通だと思うぞ。」

「い、いや・・・なんでもありません。」


 よく考えてみれば当然のことだ。

 才能一本でたいして努力せずにボクシングを一丁前にやっていた時期があった。

 そんな俺が、才能を捨ててこの世界に来たのだから・・・ボクシングなんてできるわけがない。

 頭でわかっている動きも、身体が反応しないのだ。

 もしかしたら、身体能力そのものに影響が出ているのかもしれない。


「ふむ、そうだなぁ。4歳のうちは・・・型だな。」

「型?」

「ああ、基本的な型を、ひたすら練習するんだ。子供のうちから余計に筋肉をつけるべきじゃないからな。」

「では、どんな型を練習すればよろしいでしょうか?」

「さっきやっただろ。あれさ。」


 あれって・・・ただのジャブじゃないか。

 あれをひたすら練習って・・・まるっきり初心者だな。


「あれをひたすら打ち続けるんだ。速く、コンパクトに腕を突き出せるようになるのが目標だ。」

「わ、わかりました。」


 初心者がやるような練習だが、今の俺ならそれでも文句を言えない。

 さっさとジャブくらい普通に打てるようになってから体術うんぬんを考えよう。



 それから深夜まで、俺はジャブを撃ち続けた。

 もう、くたくたである。

 

 これに、魔術の練習まで合わさるのか。

 一日一日がかなりハードになることだろう。

 ・・・・大丈夫、たぶん問題ない。


「アル、お疲れ様!」

「ご指導、ありがとうございました。」

「母さんと話したらな、父さんが休みの日は一日俺が見てやることになった。それ以外の日は、魔術の修練が終わった後、自分で今日やった鍛錬を続けてくれ。」

「はい、わかりました。」

「それじゃ、頑張るんだぞ。」


 これは気を引き締めないといけないな。

 魔術+剣技+体術の練習メニューを毎日・・・。

 ああ、めんどうくさい・・・とか一瞬考えてしまった。


 しかし、これだけやれば俺もかなり力はつくのではないだろうか。

 これだけやるのならば、魔術も、剣技も、体術も・・・極めたい。

 せっかくこの世界に来たんだから、やれることはやっておきたい。


 ・・・うん、明日からまた頑張ろう。


◇・・・・・◇



「で、できた・・・。」

「やったじゃない!アル!」


 家の前で、騒がしい声が響き渡った。

 もちろん、フローリアの声だ。俺の声ではない。

 

 

 理由は簡単。

 俺が生まれて初めて、黒魔術を成功させることができたからだ。といっても、まだ下級だが。

 日々の修練で、成長していった俺が黒魔術を成功させるのも時間の問題だったのかもしれない。

 4歳と半年の出来事だった。


「はは・・・ありがとうございます。」

「さすがよ、アル!私が14で覚えた魔術をこんな4歳の子が・・・しかも私の子供だなんて、信じられない・・・。」

「わっ・・ちょっと、母さん?」


 感極まったのか、フローリアが泣き出してしまった。

 これだから、女ってのは苦手だ。

 よくわからないところでいきなり泣き始めるし、俺はどうすればいいんだよ。

 結局何も出来ないし、放っておくか。


「ぐすん・・・。アル、母さんは嬉しいの・・。」

「そ、そうですか・・・ありがとうございます。」

「・・・・だけどね、アル。一つ約束して欲しいことがあるの。」

「なんでしょう?」


 いつになく、顔が真剣だ。

 瞳に強い意志が宿っている。

 彼女のおかげでここまで覚えられたわけだし、聞かないわけにはいかない。


「アルが得た力・・・それはとても強力なものよ。だけど、強力が故に、他人をいとも簡単に傷つけてしまう。」

「・・・・・。」

「私が言いたいことはね、むやみにそれを使って他人を傷つけて欲しくないの。その力を、優しさに向けてほしいってことよ。」

「優しさに?」

「そう。誰かを守ったり、助けたり・・・優しさの形は色々あると思う。もちろん、自分の身が危険なら自分を守りなさい。アルの命が、母さんの宝物だから・・・。母さんから言いたいことはそれだけ。」

「・・・はい。母さんの願い、胸に刻みました。」


 そんなことは言われなくても決めていた。

 だって、フローリアは自分の口で言っていたじゃないか。

 優しい子に育ってほしいって・・・。


 この世界で生きていけたのは、もちろんブレンダンやフローリアがいてくれたからである。

 彼らが俺をここまで生かせてくれたのも同然。

 彼らに恩返しをするのは、当然のこと。

 ならば、俺が彼らのためにできることは何かと考えたら、答えは一つだ。


 彼らの願いを汲んで、これからもこの世界で生き続ける。



「それじゃ、他の魔術にも挑戦してみましょうか!」

「はい!」


 だけど現状に満足しちゃいけない。

 この程度の魔術師なら、たくさんいるだろうし、ここで歩みを止める気などさらさらない。


 俺は魔術を極めるのだから。


◇・・・・・◇



「セイッ!」

「・・・良い振りになったな。」


 昼下がり、俺はひたすらに木剣を振っていた。

 今日はブレンダンが休みなので、一日素振りを見てもらっている。


 基本的な素振りのほかに、ステップも教えてもらった。

 剣を持ったまま、相手の間合いを詰めたり、逆に引いたりする技術らしい。

 まぁ剣道で経験済みだから、知っているのだが、もちろん身体は反応しない。

 初心者同然の実力であり、当然初心者と同じ鍛錬を積み重ねた。


「これなら、もう俺も相手ができるか。よし、直接父さんが稽古をつけてやる。」

「は、はい。よろしくお願いします!」

「いいか?木剣が迫ってもひるむなよ!では、いくぞ!」


 いや、びびらないよ。

 剣道で何度か有段者と相手だってしたのに、こんな男にビビッてたまるか。


「・・・・・・・。」

「っ!・・・はあああ!」


 いや、侮っていた。

 この男はかなりの実力者であることを忘れていた。


 鷹のような鋭い目で俺を睨み、プレッシャーを放ってこちらへと詰め寄ってくる。

 そんな鋭い殺気で、一瞬とはいえ気圧されてしまった。

 こちらも向かっていかなければ・・・。


「ほぅ、ひるまずにむかってくるか。ならば・・・セイッ!」

「セイッ!!」


 手加減しているのであろう。

 剣と剣がぶつかり合っても、お互いの剣は動かないまま。

 圧倒的な力を持っているブレンダンと、俺が互角に競り合えるはずがないのだ。

 だが、あえてこの状況を作っているのであれば・・・


「・・・くっ!良い動きだ・・・・鍛錬の成果がでたな。」

「ぐっ・・・いてて・・・。」


 ・・・利用してやろうと思ったが無理だった。

 あっけなく看破されて、横腹を木剣で軽く?叩かれてしまった。


 剣が競り合っている状態を利用して、俺は一瞬剣の力を抜いた。

 もちろん剣は俺に向かって振り下ろされるが、そこで俺のステップを使う。

 低い背を利用して、上体を倒しながら、横へ移動し、隙が出来た腕やら脚やらを叩く・・・という作戦だった。

 

 しかし、見抜かれていたのか、彼は俺が力を抜いた瞬間自分も力を抜き出した。

 もちろん、俺に振り下ろされるはずの彼の剣は、俺が移動しところにピンポイントに振られた。


「いや、驚いたな。」

「何がです?」

「技術はまだまだ甘いけど、俺の迫力にひるまずに向かって来るなんてな。たいした度胸だよ。父さんの迫力が大したことないだけなのかもしれないけどな。」

「いえ、恐ろしいほどの迫力でした。」


 大したことない?あれで?

 恐ろしいなこの世界は・・・・。


「それにあの動き・・・。しっかりと相手の動きを見ているって父さんにもわかったよ。」

「ありがとうございます。」

「だけど、まだまだ鍛錬が必要だ。さっきも言ったとおり、技術が甘いからな。」

「はい、よろしくおねがいします。」


 剣技というのも奥が深い。もちろん、体術もそうだけど。

 ボクシングや剣道とはまた違っているし、あれなんかよりも迫力がある。


 うん、悪くない。

 久々に、高揚感を味わった。

 

 魔術もそうだけど、これだって極める価値がある。

 何より、やっていて楽しいし。

 何だかスポーツをやっている気分になる。

 

「それじゃ、もう一回稽古だ!いくぞ!」

「はい!」


夢中で稽古に打ち込み、結局晩飯までずっと稽古を続けていた。

 

 次の日。

 俺の身体は青痣だらけになるのであった・・・。


 

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