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セピア色の栄光~才能を捨てた天才~  作者: 椎名皇
第1章.ユラノ村編
6/16

6.修練

なんか字数が多くなってしまった気がする。

読みにくくなかったら、このペースで行きたいところなんですけど。

感想、ご指導お待ちしています!

 一体何が起きているのか、俺にはさっぱりわからなかった。

 

 俺は魔術を使い、意識を失った。

 そして目を覚ませば、妙に優しい顔したフローリアがいて・・・。

 怒られると思って素直に謝れば、いきなり魔術を教えるとか言い出した。


「ふんふんふ~ん♪」

 

 しかも、かなり乗り気だし。

 教えてもらう側より、教える側がやる気満々である。

 まぁせっかくだし、教えてくれるっていうんだから教えてもらおう。

 いまいち要領をつかめていないし。



 家から出て、先ほどと同じ場所にきた。

 外はもう夕方だったが、フローリアやる気みたいだし今更止めるなんて言えない。

 

「まずアルちゃん。どうしてさっき失敗したのかわかる?」

「いきなりくろまじゅつ、つかったから・・・。」

「そう、正解よ。マナの変換もまだ初心者なのに、黒魔術や白魔術をいきなり使えるわけがないの。だから、初めてのときは紅・蒼・緑のどれかを使うのが基本なのよ。」

「はい。」


 俺が素直に返答すると、またフローリアが驚いていた。

 別に変なことを言った覚えはないんだが・・・。


「アルちゃんは、どれを使ってみたいの?」

「こうかが、しりたいです。」

「え・・・そ、そうね。効果は・・まぁ術によって色々あるわけだけど、紅なら主に火を扱うし・・蒼なら水、緑なら風よ。ママからは、どれがいいとは言えないわ。好きなのを選んでいいのよ。」


 そんなこと言われてもな。

 紅は嫌だな。なんか暑苦しくて俺は嫌いだ。

 火の魔術とか、主人公かよ。


 となると、蒼か緑に絞られるが・・・迷う。

 どちらも極めれば、強力な術になりそうだが・・・。

 

 直感だな。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 ええい、緑だ!!

 ・・・正直どちらでもよかったから適当に決めたんだが。


「それじゃ、みどりがいいです。」

「緑魔術ね、わかったわ。ママも簡単のなら使えるわよ。腕が鳴るわねー!」


 いや、あんたが腕鳴らしてどうするんだよ。

 本当にバキバキ鳴らしてるし・・・けっこう怖い。


「基本的に、最初はその属性の中で一番簡単な術を使うのよ。そうやって練習していくことで、マナの量も増えて、マナの変換技術も上がっていくの。」

「わかりました。」

「・・・・やっぱり、私の言葉を理解しているのね・・・。」

「?」

「ん、なんでもないわ。それじゃ、始めましょうか!」


 何かを言っていたが、聞き取れなかった。

 まぁ、何でもないと言っていたし、気にしないことにしよう。

 とりあえず、【聖魔導書・陽】の緑魔術のページを開いた。

 

 一番簡単な、初心者用の技。≪風球≫(ウィンド・ボール)という名前が記載されていた。

 マナを風に変え、球体に形成すればいいらしい。

 人差し指にマナを集中させるのがコツ、と書かれていた。


「ん、私が読んでいた魔導書を読んでいるのね。そう、その≪風球≫(ウィンド・ボール)って術をこれから撃ってもらうわ。」

「はい、わかりました。」

「詠唱と構えは確認したわね?それじゃ、あの木に撃って!」


 今度こそ、成功させる・・・。

 俺は深呼吸をすると、木に向かって狙いを定めた。

 

【緑魔術】(グリーン・マジック)---自然を駆け回る大いなる風よ、今ここに!≪風球≫(ウィンド・ボール)!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 何も起きない。

 今、鳥が鳴いたな。

 ああ、夕日がとても眩しい・・・・。


「あの、しっぱい・・・しました。」

「いいえ、それでいいのよ。初めから発動なんて、よほどの天才じゃない限り不可能だわ。それよりも、指先にマナが集まる感覚は無かった?」


 指先にマナが集まる感覚?

 そんなこと言われても、全然ピンとこない。

 悲しいくらい、何も感じなかった。


「いいえ、なにも・・。」

「そう・・・まぁ、2回目だしね。練習すれば、感じれるようになるわ。それじゃ、もう一回!」

「は、はい!【緑魔術】(グリーン・マジック)---自然を駆け回る大いなる風よ、今ここに!≪風球≫(ウィンド・ボール)!」



 ・・・・・・・・・・・・・。

 相変わらず、何も起きない。

 3度目だというのに・・・・発動させるのが下級魔術っていってもかなり難しいのかもしれないな。

 

「今度はどうだった?」

「いいえ、何も感じません・・・。」

「そう・・・。それじゃ、もうい・・・いや、止めておいたほうがいいわね。」

「な、なぜ・・・うっ・・。」


 まただ。

 また身体が動かなくなっている。

 さっきと同じように、意識までは奪われはしなかったが、身体が鉛のように重い。


「アルちゃんの今のマナの量じゃ、2発が限界かぁ。アルちゃん、動ける?」

「・・・む、りです・・・。」

【白魔術】(ホワイト・マジック)---魔の根源たるマナよ、その力求めるものへ、我がマナを分け与えん・・・≪魔力供給≫(マナ・プロビジョン)!」


 フローリアが、よくわからない白魔術を唱えた後、俺の身体に白い球体が入り込んだ。

 球体が入ってすぐに、俺の身体の重さが緩和された。

 何をしたんだろう。


「あの、まま・・?なにを・・・?」

「アルちゃんのマナが無くなりかけていたから、ママのを分け与えたのよ。今のアルちゃんのマナは全て回復されたわ。」


 なんと、そんな便利な術まで使えるとは。

 白魔術の凄さを改めて知った。



「でも、今日はこれでおしまいね。」

「え?な、なんでです?」

「え?」


 ・・・・・・どうしたんだろうこの女は。

 なんで「え?馬鹿なのこいつ?」みたいな顔で俺を見るんだ。

 マナを回復させたのなら、もう一度やればいいのに・・・。


「いや、アルちゃん?もうアルちゃんのマナが切れちゃったから、死なないように分け与えただけよ?だから今日はもうできないわよ。」

「え?だって、ままはマナをわけあたえたんですよね?ならばぼくのマナはいま、さいだいにたまっているんじゃ、ないのですか?」


 至って単純なことだろう。


 俺のマナが2で、フローリアのマナが1000だと仮定する。

 ≪風球≫の消費マナが1だとすれば、俺のマナは2発これを放てば無くなることになる。

 2-2=0となるが、そこでフローリアが自分のマナを俺に分け与えたとする。

 俺の持てるマナの量は2だから、最大でもフローリアは2しか渡すことが出来ない。


 0+2=2でフル回復。対するフローリアは、1000-2=998で、痛くもかゆくも無い。

 あくまでも仮定なので、数値の変動は多少あるだろうが、それでもたくさん撃てることに変わりは無い。

 魔術でマナしか消費しないからこそできることである。



「・・・ちょっと、もう一度撃ってくれる?」

【緑魔術】(グリーン・マジック)---自然を駆け回る大いなる風よ、今ここに!≪風球≫(ウィンド・ボール)!」


 やはり、術は発動しなかったが、先ほどのように身体が重くはならない。

 俺の予想は当たっていたようだ。

 ってか、こんなこと子供でもわかるんじゃないのか・・・?

 そう思っていると、目を輝かせたフローリアが近づいてきた。


「・・・・すごい、こんなことができるなんて・・・。すごいわ、アルちゃん!!」

「うわぁ?!」


 いきなり抱きつかれた。

 きついきつい、窒息する・・・。


「こんな発想なかったわ!これができれば、今までの魔術師達の修練効率の何十倍も上を行くわ!!」

「そ、そうですか・・。」

「これがもっと早く発見されていれば、私だってあと5年は早く一人前に慣れていたかもしれないのに・・・。ああ、なんで思いつかなかったんだろう・・・!」


 逆に聞きたいが、なぜこの発想がなかったのだろう?

 いちいちマナ切れ起こして、回復させてまた明日・・なんてやってればそりゃ10年もかかる。

 2発と何百発では効率の差は歴然。

 この発想がないほうがおかしい・・・と思うのは俺だけなのか。


「とにかく、アルちゃんは素晴らしいことを考えたわ!よーし、まだまだやるよー!」

「は、はい!」


 こうして、俺達はその日、真夜中まで練習を続けていた。

 なんと、晩飯までとらずにだ。

 こんなに物事に夢中になるなんて、いつ以来だろう。

 ほかの事なんて、一切気にならなかった。



 そして、本日何度目だろう。

 おそらく、300回は超えている。

 今まで、一度たりとも成功などしていない≪風球≫をもう一度放つ。


 時折、指先に何かが溜まった気も徐々に感じつつあった。

 今度こそ・・・!


【緑魔術】(グリーン・マジック)---自然を駆け回る大いなる風よ、今ここに!≪風球≫(ウィンド・ボール)!!」


 右手の人差し指に急激に何かが溜まる・・・。

 人差し指を突き抜けて、空中に何かが集まる感触があった。


 見てみると、人差し指の先にバレーボールくらいの大きさの球体が出来ていた。


「おお・・・。」

「やったわね、アルちゃん!」


 しかし、気を抜いた瞬間に、破裂してしまった。

 これは成功と言っていいのだろうか。


「あの・・・まま。」

「すごいわ!これができればあとは簡単よ!あともう少し練習すれば、完璧に飛ばせるようになるわ。」

「そ、そうですね・・。」


 やはりまだ成功ではないらしい。

 これを形成して、しっかり形を保って対象に飛ばすまでできれば成功だな、たぶん。

 まだまだ道のりは長い・・。



「よーし、それじゃ、もう一回やりましょう!」

「は、はい・・・・・すいません、むり・・・。」


 まだやっていたかったが、また倒れてしまった。

 しかし今回のは、マナ切れではない。

 純粋に、疲れだ。

 精神がこんなのでも、身体は2歳児なんだから疲れるのは当然だろう。


「あ、アルちゃん!疲れちゃった?!」

「・・・・・・・・は・・・い。」


 眠くて身体が起き上がらない。

 目を開けるのも辛い。

 このまま、眠ってしまおう・・・。

 もう、今日くらいはいいよな・・・。


 どうせ、毎日これを繰り返すんだ。

 他にやることもないし、こうやって魔術を撃っているほうが有意義だ。

 せっかくやるなら、極めてみたいし。

 だからせめて、今日はもう眠らせてくれ。


「お・・やすみ・・・・。」



◇・・・フローリア視点・・・◇


 アルちゃんが眠ってしまった。

 よほど疲れていたのだろう。


「本当に・・・よく頑張ったね、アルちゃん。」

「・・・・・・・・・・・。」


 おっと、ぼやぼやしていられない。

 ここで寝かせては風邪を引いてしまう。

 家に運ばなくちゃ。




「へぇ、そんなことがあったのかぁ。」

「そうよ、本当にアルちゃんはすごいんだから!」


 家に入り、アルちゃんを寝室に置いてきたところで、ブレンダンと話していた。

 そういえば、ブレンダンの晩御飯作っておくの忘れてた・・・。

 まぁ彼も何か勝手に食べていただろうし、別にいいか。


「ところで、アルの魔術の上達はどうだ?」

「あの天才的な発想のおかげで、効率が今までの何十倍にも膨れ上がったけど・・・魔術のほうはあまりにも上達が早い・・・というわけではないみたい。」

「そっか。まぁ1日であれだけできるんだ、明日になればもう完成してそうだな。」

「だといいけど、まだ慣れていないみたいだし、ゆっくりでいいわ。」


 そう、アルちゃんは別に魔術に対して馬鹿みたいに才能があるわけではなかった。

 むしろ一般の子共より劣っていたかもしれない。

 最初に持っていたマナの量だって、一般的に考えればかなり少ないほうだったし。

 300回以上練習して、やっとマナを変換できるようになった程度だ。


 それでも、あの方法さえあればあの子は・・。

 私なんて軽く追い抜くに決まっている。


「アルは・・・楽しそうだったな。ここから見ていても、伝わったよ。」

「ええ、そうね。すごく楽しそうだったわ・・・。」

「・・・アルが望むのなら、俺も何かを教えてやりたいな。」

「あなたなら色々教えられるはずよ。剣でも、体術でも。」

「全ては、あの子次第だ。」


 おそらく、あの子ならどんなものも吸収してしまいそうな気がする。

 乾いたスポンジが、水を吸い込むように・・。

 

「それとね、ブレンダン。あの子は、私たちの言葉を全て理解しているわ。今日の修練で、それはもう確信したの。」

「やっぱり、そうか。」

「理解した上で、メリットやデメリットを的確に考えているし、とても私たちの子供とは思えないくらい頭のキレがいいの。」


 まさか2歳児の口から「こうかがしりたいです。」なんて言葉が出るとは思わなかった。

 普通好きな色とかで決めないだろうか?

 私も始めて使ったのは蒼が好きだったから、蒼魔術だったし。


「頭のキレね・・。これはいよいよ将来が楽しみになってきたなぁ。」

「私もよ。・・・それじゃ、私も寝るわ。もう疲れたし。」

「一緒に寝るか?俺も疲れたよ。」

「もう・・・馬鹿。」


 まったく、ブレンダンは・・・。

 まぁそうゆう強引なところも嫌いじゃないけどね。

 明日からの修練に備えて、しっかり休めておきたいけど・・・まぁたまにはいいか。



◇・・・アル視点・・・◇



 あれから1年が過ぎ、3歳になった。

 

 裏技?というか常識的に考えれば普通にできる練習を俺は1年間ずっと続けていた。

 あれからどれだけ魔術を撃ったか、数える気もでてこない。

 365日毎日毎日ひたすら魔術を撃ち続けた。


 フローリアのアドバイスや、≪魔力供給≫もあり、1つの術を覚えるのに1週間もかからなかった。

 体力もマナも、飛躍的に上昇し、マナの変換技術も1年前とは比べ物にならないほど磨かれた。

 どんな人間だって、何万回と魔術を撃っていれば嫌でも成長する。

 凡人の俺だとしても、それは変わらなかった。


 ・・・努力の意味を、本当の意味で知った気がする。

 やった分だけ、必ず力がつく、それが努力。

 「努力は人を裏切らない」と言う言葉を、鼻で笑っていた頃の自分を鼻で笑い返してやりたい。



 現在俺は、3歳にして緑の下級魔術を一通り覚え、中級魔術に取り掛かっている。

 とはいえ、半分以上は修得したが。

 今やっているのは、中級魔術の中でも高レベルなものである。

 

「アル、身体全体からマナを放出するの、一気にね!」

「はい、母さん!」


 いつもどおりに、フローリアのアドバイスをもらい、それを実践していく。

 ちなみに、「ママ」はやめた。だってもう3歳だし、別に怪しまれたりはしないだろうし。

 しかし、やはり中級は下級とはまた違い、かなり難しい。


 下級魔術は、マナをその属性に変換し、ある程度の形を形成できればだいたい成功した。

 だが中級魔術は、マナの形状や密度などを更に細かくする、高度な術である。

 今まで以上の精密なマナの変換技術が必要となってくる。


「はぁ・・はぁ・・・。」

「これで400回目ね。お疲れ様!」

「はい・・・ありがとう・・・ございました。」

「うん!それじゃ、家に帰りましょう!晩御飯作らなくちゃ。」


 結局、今日は一度も成功させることができなかったが、それでも充実した日だった。

 やっぱり、何もしないでだらだらしているより、こっちの方がずっと楽しい。

 中級魔術もあと少しでコンプリートだし、頑張らないとな。




「おかえり、アル、フローリア。」

「ただいま~。」

「ただいま、父さん。」


 いつもどおり、ブレンダンが迎えてくれた。

 今日は仕事が休みだったようで、一日中家でごろごろしていたらしいが。


「それじゃ、晩御飯作ってくるから待っててね!」


 フローリアは台所へと行ってしまった。

 もうこんなことが日常になっている。

 朝から夕方まで、俺の魔術の修練に付き合い、帰ってきたらすぐに晩御飯を作る。

 ・・・休まなくて平気なのだろうか、ちょっと心配になってきた。


 居間にはブレンダンと2人っきり。

 彼とはあまり話さなかった。子育てはフローリアに任せているみたいだった。

 

 俺が気まずそうにしていると、ブレンダンが話しかけてきた。


「なぁ、アル。魔術のほうはどうだい、しっかり修練しているか?」

「・・・はい、母さんに見てもらって、しっかりやっていますよ。」

「そっか。・・・よし、アル。晩御飯を食べたら、少し父さんと一緒に散歩に行こうか!」

「え?散歩ですか。いいですけど・・。」


 いきなりどうしたんだ。

 まぁ、散歩は別にいいんだけど、何かあったのかな?


「・・・何かあったんです?」

「いや、ただ散歩に出たいと思っただけだよ。・・・少し話したいこともあるし。」

「・・・わかりました。」


 どうやら、話したいことがあるらしい。

 夜の散歩は嫌いじゃない。

 あっちの世界でもよくやっていた。

 夜の冷たい空気や、夜空が好きだった。


 晩飯を食べた後、俺はブレンダンと共に散歩に出た。



 ホワイト家からひたすら北に歩いた。

 初めてここを歩いたが、この村の人口は、そんなに多くないようだ。

 というのも、民家があまり多くなかった印象を感じたからだ。


「涼しいな~。アル、こんなに歩いたのは初めてじゃないか?」

「はい、こんなところまで歩いたことはありません。」

「ここは、いいところだぞ。・・・ちょっと疲れたな、あそこの木陰で休もう。」

「はい、父さん。」


 20分くらい歩いて、休憩に入ることにした。

 近くにあった木の木陰に腰を下ろす。


「ふぅ。アル、疲れたか?」

「・・・いいえ、修練で少しは体力がついたので。」

「そうか・・・。ちょっと、万歳してくれ。」

「はい?・・・・こうですか?」


 いきなり万歳を要求された。

 すると、ブレンダンはいきなり俺の身体をペタペタと触り始めた。

 男に触られて喜ぶ趣味など無い、止めて欲しい。


「あの・・父さん・・何を?」

「ふむ・・・細いな。」

「え?・・・身体が、ですか?」

「ああ。まぁまだ3歳児だからこんなものなのかもしれないな。」


 身体の筋肉を見ていたのか。

 3歳児の筋肉なんぞ知らないが、普通にこんな感じだろう。

 てか筋肉なんて調べてどうするんだよ。



「なぁ、アル。父さんは、魔術が一切使えないんだ。」

「え、そうなのですか?」

「ああ。だからな、父さんは剣技と体術を磨いた。」

「剣技と体術・・・?」


 聞いたことが無い単語だった。

 てっきり魔術で終わりだと思っていたが、この世界にはまだ他の力があったらしい。

 ちょっと、興味深いかもしれない。

 あっちの世界じゃ、ボクシングと剣道やってたし、似たようなものだろう。



「父さん、剣技と体術とは一体なんですか?」

「アルは、父さんが剣を振っているところはみたことがあるか?」

「はい、何度か。」

「あれは剣技の練習だ。体術というのは・・・まぁ、見たらわかるか。」


 ブレンダンは、いきなり立ち上がると、俺の10メートル先に立った。

 そして拳を握り、ゆったりと腰の辺りで構えを始め・・・


 次の瞬間、拳を放った。

 軌道が全く見えない、一瞬腕がぶれたように俺の目には映った。

 

「?!」


 ビュンっという音と共に、風圧が俺を襲う。

 木と背中合わせだから吹っ飛びはしなかったが、もし木がなかったら5メートルくらい飛んでそうだ。

 

「まぁ、こんなものかな。これが体術っていうんだ。」

「・・・すごい。」


 

 素直に感動した。

 ボクシングなんて目じゃなかった。そんな次元じゃなかった。

 

「アル、やってみたいか?」

「やってみたいです。」

「今のお前じゃできないよ。」


 そう言って、笑いながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 やらせる気がないならいちいち言うなよ、腹立つ野郎だな。


「そうだなぁ、身体を鍛えないとな。父さんの剣技や体術を教えるのはそれからだ。」

「身体を鍛えるとは、どのように?」

「父さんが子供の頃は、夜に走りこんだり、腕立て伏せや色々やっていたなぁ。」

「では、それを行えば教えてもらえるのでしょうか?」


 ブレンダンは目を丸くして驚いていた。

 何に驚いているのだろうか。


「行えばって、アルはいま魔術の修練だって積んでいて大変じゃないか。別に辛いならやる必要はないんだぞ?」

「あんなもの大したことではありません。マナしか使用しませんし、体力に影響はでないです。」

「・・・アルは、剣技や魔術、体術を覚えて何がしたいんだ?」

「・・・・・。秘密です。」


 なんで、そんなこと聞くんだよ。

 そんなの、あんたら2人が一番よく知っていることじゃないのか?


 言い返してやりたい。

 だけど、言えない。

 言ってしまえば・・・きっと誤解を招く。

 俺が本来、ブレンダンとフローリアの願いを知っているはずがないのだから。

 


「・・・・もう一度聞くけど、父さんの剣技と体術を覚えたいんだな?」

「はい。」

「よし、わかった。母さんとは話を付けておく。これからきつくなるぞ?」

「構いません。」

「・・・それじゃ、帰ろうか。」

「はい、帰りましょう。」



 満月が輝く夜道を、また引き返していった。

 帰る間、俺達に会話はなかった。


◇・・・・・・◇



 俺の日課に、新たにトレーニングというものが加わった。

 剣技、体術の修得を目指すために、まずは身体を鍛えるのだ。

 時折ブレンダンがついてくれたが、基本的には一人で行っている。


 腕力を上げるために、腕周りを必死で鍛えた。

 足腰を強靭にするために、たくさん走りこんだ。


 これらのトレーニングは、基本的に夜に行っている。

 日中はフローリアとの魔術の修練があるからである。

 ブレンダンが休みの日は、日中からトレーニングを行うこともあったが。


 そうやって、時間はどんどん過ぎていく。

 魔術を教わり、身体を鍛える・・・ただこれの繰り返し。

 

 日々の成長を実感しながら、俺は毎日を過ごしていた。

 

 

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