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セピア色の栄光~才能を捨てた天才~  作者: 椎名皇
第1章.ユラノ村編
4/16

4.魔術

 あの誕生日から更に一年。

 俺は2歳になっていた。


 2歳になってから、やっと歩けるようになった。

 言葉も、舌足らずだが少しだけ話せるようになり、ますます充実してきた。


 しかし、ふと気になることがあった。

 2歳まで話せずに歩けずにいたのに、2歳になってからいきなりこれらができるようになったのだ。

 しかも2歳というのが気になった。

 あっちの世界で子供ができた知人を訪ねた際に、赤ん坊はまだ1歳と2ヶ月なのにすでに歩き始めて、言葉も話せるようになっていた。

 個人差もあると思うが、それでも俺の成長は少し遅いほうである。

 これも才能を捨てた影響なのだろうか。

 


「アルちゃん、危ないからあまりはしゃぎ回っちゃだめよ?」

「うん・・・きをつける。」

「・・・変ねぇ。まるで言葉の意味がわかっているみたい。こんなこと教えたかしら?」


 まずい、感づかれたか?

 あくまでも俺は2歳なんだから、普通はこんなこと喋れないよな。

 迂闊だった。


「ん・・・アル・・・あるく・・。」

「・・・・そう、言ってらっしゃい。」


 これは気をつけないとな。

 2歳らしく振舞わなければ、不審に思われてしまう。

 フローリアからは「ママ」と紹介されてるし、ブレンダンからは「パパ」と紹介されている。

 あまり乗り気ではないが、そう呼ぶことにした。



「ふん・・・はっ!・・・・ふん・・はっ!」

「・・・・・・?」


 外から何か掛け声が聞こえてくる。

 野太い男の声だった。

 俺は窓から外を眺め、その声の主を確認した。


「・・・ブレンダンか。何してるんだ、あいつ。」


 家の前でブレンダンが剣を振っていた。

 剣など、おもちゃでしか見たことはないので、本物がどうゆうものかはわからないが、おそらくああいうものだ。

 しかし、なぜあんなものを振り回しているのか理由がわからない。

 その時、フローリアが後ろから近づいてきた。


「アルちゃん、何見ているの?」

「・・・・ぱぱ。」

「ああ、パパね。あれはねぇ、お仕事しているのよ。」

「おし・・・ごと?」

「うん。村の人を守るために、ああやって、剣を振り回しているのよ。」


 村を守る・・・警備とかそうゆうものだろうか。

 この世界はモンスターとかが出てくるのだろうか?

 単に銃が開発されていなくて、警察が銃の変わりに剣を持つ・・・とかいう理由だろうか?

 どうせなら前者の方が面白そうだが。


 まだ俺はこの世界についてあまり知らない。

 知る機会がないのだ。

 ついこの前まで歩くこともできず、言葉も話せなかった。

 今はできるが、迂闊に聞いても逆に怪しまれるだけだろう。

 他にも策はあったが、フローリアが心配してくっついて来るので自由が少ないため、決行できずにいる。

 


「ん?アルちゃん、どうしたの?」

「・・・・ねむたい。」

「そう、まだちょっと眠かったね。それじゃ、お昼寝しましょ。」


 だから、俺はチャンスを作った。

 こうやって一緒に昼寝しておいて、先に母親が寝るなんてよくあるパターンだ。

 その隙に、少しでも情報をあつめる。

 俺とフローリアは寝室へ向かった。




 1時間ほど経っただろうか。

 俺は眠くて途切れそうな意識を必死で保ち、フローリアが眠りにつくのを待ち続けた。

 目を少しだけあけてみてみる。


「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・。」

「・・・・よし。」


 狙い通りに作戦が成功した。

 フローリアはぐっすり寝ている。


 ・・・まぁ、俺の世話やら家事やらで疲れていたんだろうな。

 できるだけ早めに戻ってやるか。



 寝室を、音を立てないようにして抜け、俺は家の奥へと足を進める

 居間のほうは事前に下調べしておいて、既にないことはわかっていた。

 あと調べていない場所と言えば・・・。


「やっぱ、ここだよな。」

 

 ここに来てから一度も見ていない部屋。

 ハイハイじゃここの扉を開けることができなかったからである。

 まぁ、立っていてもぎりぎり背伸びして手がドアノブにかかるくらいなのだが。


「よ・・・・っと。・・・はぁ。」


 1分かけてドアを開けた。

 俺はさっそく室内を確認した。


 中はそれほど広いわけでもなく、何だかわからない荷物などが散乱していた。

 しかもかなり埃っぽいし、しばらく放置されていた可能性がある。


「汚い部屋だな・・・。掃除くらいしっかりしておけよ。」


 なんだかだるくなってきた。

 しかし、この世界で生きると決めた以上、こっちのことを知っておかなければ話にならない。

 俺はやる気を無理やり出して、情報収集を始めた。


◇・・・・・◇


 どれくらい時間がたったのだろう。

 やはり読書というものは時間を忘れてしまう。

 

 部屋を探し回って10分くらい経ったころに、俺は木箱を発見した。

 木箱の中を確認してみると、本が数十冊も入っていた。

 どれも俺が見たことのない本で、興味深かったためついつい読んでしまったのである。


 結局、現在5冊目を読んでいるところで、一旦区切ることにした。

 

 今読んだ5冊で、この世界の概要、というものがわかった。

 はっきり言って、この世界は俺が20年生きてきた世界とはまるで違った。

 

 一つ目の違い。

 この世界には、魔術という概念が存在しているらしい。


 魔術は簡単に分けると5つ存在する。


 火の力を駆使する、紅の魔術・・・・【紅魔術】(レッド・マジック)


 水の力を駆使する、蒼の魔術・・・・【蒼魔術】(ブルー・マジック)


 風の力を駆使する、緑の魔術・・・【緑魔術】(グリーン・マジック)


 闇の力を駆使する、黒の魔術・・・・【黒魔術】(ブラック・マジック)


 光の力を駆使する、白の魔術・・・・【白魔術】(ホワイト・マジック)


 という種類である。

 紅や蒼や緑は、基本となる魔術で、白や黒というのはこれらの更に上位に立つものらしい。

 例えば、白魔術ならば光を使う術のほかに、回復させる治癒の術も使うことができ、黒魔術ならば、何かを召喚することも可能らしい。

 その分、修得難易度もかなり高いということはしっかりと書かれていた。


 補足すると、これらの魔術にもレベルがあり、6段階に分けられている。


 下級・中級・上級・魔級・天級・神級というものらしい。

 目安として、10歳程度の子供が使うものは一般的に下級である。

 魔術の才能は人それぞれで、個人差もあり、世の中には小さな子供が神級魔術を使ったという伝説もあると書かれていた。


 注意しておく点としては、これらの魔術は決して無限に使えるわけではないということらしい。

 源となる力・・・‘マナ’というものを使って、術者は術を放つと書かれていた。

 ようするに、RPGでよく出てくるMPとかそういった概念が存在するのだろう。


 ちなみに、このマナの量が多ければ多いほど魔術をたくさん撃てるわけだが、これも個人差があるらしい。

 才能がある奴は、最初から大量のマナを持っている場合もあるらしい。

 ・・・捨てた俺にはまったく関係ないが。


 この内容で書かれている通り、俺が1歳の誕生日で見た光景は、手品なんかではなかったようだ。

 紅魔術の・・・下級魔術。

 フローリアは、これで火を起こしていたのだ。


 二つ目。この世界には、魔獣・・・いわゆるモンスターが存在しているらしい。

 これは実物を見たことがないので、よくわからない。

 

 

 5冊の本には、これくらいしか書かれていなかった。

 てか一冊の本だけがやたら分厚かったから、ほとんどその本だけでこれらの知識は身についた。

 残りの4冊は絵本とかそんな感じのだったし。


 まだまだ読みたいところだが、時間がだいぶ経ってしまっている。


(ヤバイな、絶対あいつら2人俺のこと探してるよな・・・。)


 これは長居しすぎたかな。

 さっさと戻ろう、雷が落ちる。

 ・・・たぶん手遅れだけど。


 

「アルちゃん!どこ行ってたの!」

「アル!心配したんだぞ!」

「う・・・ううぅぅ。」


 予想通り、2人はご立腹だった。

 こういう時、ごめんって言ったほうがいいのだろうか?

 2歳児がごめんっていうのもどうかと思った俺は・・・


「うえぇぇん!!」


 ・・・・泣くことにした。

 まだ2歳児だからか、泣こうと思えば、簡単に泣けてしまう。

 なぜか、あっちの世界では強かったプライドもここではどうでもいいものに感じてしまった。


 こうやって泣き始めた俺を見て、2人は・・・


「あ、あらあら!ごめんなさい。でもとっても心配したのよ。」

「いや、俺も叱りすぎたな!ごめん!もう勝手にどこかに行かないでくれよ?」


 ・・・俺に謝ることになる。

 結局のところ、2人は子供に甘いのだ。

 これは使えるな。頭の片隅においておこう。


「ねぇ、アルちゃん。どこに行ってたのかおしえてくれる?」

「・・・こっち。」


 これはさすがに隠し通せるものでもないだろう。

 それに、これはある意味チャンスである。

 先ほどの部屋に誘導し、本を読んでいたことを明かせば、もしかすると本をもっと読ませてくれるかもしれない。

 俺はフローリアの袖を引っ張り、彼女を誘導することにした。



「ここって・・・。こんな場所に入っていたの?」

「ん・・・・。」

「ここは確か・・・結婚前の荷物を置いていた部屋だったかしら・・・。」


 だから埃っぽかったのか・・・。

 荷物くらいちゃんと整理しときゃいいのに。

 とりあえず、一冊本を彼女に渡してみよう。

 適当に木箱から出した本は、先ほど読んでいた分厚い本だった。

 【聖魔導書・陽】と書かれている。


「まま・・・これ。」

「これは・・・ああ!懐かしい!私が子供の頃に読んでいた本だわ!」

「これ・・・よんでた。」

「え・・?でもこんな本読んだって面白くないでしょう?」

「ううん。おもしろい。」


 そう答えると、フローリアは見るからに驚いていた。

 一瞬、表情が陰ったがすぐに元通りになった。

 

「そう。じゃあ、好きなだけ読んでもいいよ。木箱も持っていくから、好きなのを読んでいいからね。」

「・・・うん。」

(よっしゃ、成功!)


 心の中でガッツポーズを決める。

 狙い通り、これで日課に読書が増えた。

 情報収集にもなるし、時間も潰せるし、一石二鳥だ。



 その後の俺の生活は、いたって単純なものだった。

 朝起きて、飯を食べ、本を読む。

 昼になれば飯を食べ、昼寝の時間を読書に使った。

 夜も同じ。フローリアに怒られる直前まで、俺は本を読み続けた。

 わからないことは、ブレンダンに聞けば大抵は教えてくれた。


 最近は、俺が読書に夢中になっているせいかフローリアも俺の傍にずっといることは少なくなった。

 ブレンダンも、仕事が忙しいのか家であまり見かけなくなった。

 俺は相変わらず、本を読み続けている。

 そんな俺だからきっとフローリアも安心したんだろう。


 ある日、ブレンダンが仕事の日にも関わらず、フローリアは俺から目を離した。


 そんなチャンス、見過ごせるわけがなかった。




(ずっと、試してみたかったことが・・・やっとできる。)


 音を立てずに、俺は家から外に出た。

 手には【聖魔導書・陽】を抱えて・・。



 俺はずっと試したかった。

 この世界にある魔術が、自分に使えるのかどうかを。

 魔術に関するさまざまな知識を身につけているのに、一度もそれを実践する機会がなかった。

 こうやって試したくなる気持ちも日々強くなるものだ。


 とりあえず、魔導書を適当に開き、それを発動させてみることにした。


「えーと、これは黒魔術か。術名は・・・≪黒魔弾≫(ブラック・バレッド)?まただっさい名前だなぁ・・・。」


 まぁいい、これはあくまでも実験みたいなものだ。

 構えと詠唱を確認する。

 

 右手人差し指を前方に伸ばし、術の対象に向けるだけでいいらしい。

 とりあえず対象は・・・。

 あそこの木でいいか。


 準備オーケー・・・やるか。


【黒魔術】(ブラック・マジック)---漆黒の闇よ、その身を弾丸に変え、行く手を阻むものを貫かん。≪黒魔弾≫(ブラック・バレッド)!」


 俺の指先から、闇の魔術が発射・・・・されなかった。

 予想とは違い、俺の術は発動すらしていなかった。

 木はいつもどおりに風で葉っぱを揺らしていた。


「まじかよ・・・・いきなり失敗か・・。」


 せっかく初めて魔術を撃ったのに、失敗してしまった。

 けっこうテンションが下がる。


 だが、冷静になって考えてみれば撃てないのも当然である。

 俺が先ほど放った魔術は、黒魔術。

 修得難易度がほかの 魔術に比べてとんでもなく高いのだ。

 そんな魔術を、まだ2歳児の俺が使おうとしていたってことになる。


「そりゃ、できなくて当然か・・・。」


 少々魔術というものをなめていたようだ。

 今度は簡単な奴からやってみるとしよう。



「よし、気を取り直してもうい・・・ち・・・ど?」


 しかし、魔術が発動しなかっただけで終わりではなかった。

 更に、予期せぬ異変が起こったのだ。


「な・・んで・・・・・・。うご・・・か・・・。」


 ・・・・ない。

 俺はそのまま前方に倒れた。


 身体を起こそうにも、動かない。

 まるで身体に何十キロもの重りを乗せられているように・・・。


 意識も急激に薄くなっていく。

 保ってなんていられなかった。


 そのまま、俺の意識は途切れた。


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