第1話 大人ぶる男&生意気少女
「またか・・・」
俺は、またお札の入ってない財布を見ている。今月の給料もまたパチンコでスってしまった。
「絶対、パチンコやめてやる!!」
俺は、雨谷 了 20歳。 こうして先月も言っていたセリフを吐いている。
こうして、俺の今月の戦いは終わった。もちろん完敗である。
人生山あり谷ありと言うが、俺は山を下ったことがない。まぁ自分で思ってるだけかもしれないが・・・
また残った小銭でいつものラーメン屋で、ネギチャーハンを食べる。
「これが、今月最後の外食だ。明日から自炊がんばるぞー!!」
お金が無くなれば自炊して節約。これが自分の生活スタイルだ。
そんなくだらないことを言い聞かせながらラーメン屋を出る。
「またか・・・」
外に出ると雨が降っている。
自分では意識も気にもしていないが、世間でいうところの雨男である。
昔からよく友達が遊んでる所に自分が行った途端雨が降ったり、体育祭で自分の競技の時だけ雨が降るなど、多くの行事が潰れていったが別に自分のせいだと思ったことはない。友達だって雨男とは言うが、それでとやかく言う奴もいなかった。
まぁ自分は少し人より運が悪いくらいと思っている。その方がラクな時もある。
慌てず、騒がず、俺はもうビショ濡れになりながら自転車に乗る。
濡れながらも特に急がず帰り出す。そして帰り道の堤防に差し掛かった時、
「うぁっ!!」
これも運が悪いのか、雨のせいなのか、どちらにせよ自分のせいなのか?
自転車ごと堤防を4mほど転げていく。・・・情けない。
とりあえず硬直する。ひしひしと痛みを感じる。
「あー 痛ってぇー・・・」
右ヒジから少し血が出ているが、そんなことは気にせず立とうとする。
すると後ろから人の気配がする。振り返ってみると中学生くらいの女の子がいた。
パッと見、大人しそうで真面目そうな子だ。
っと、そんなこと解析している場合じゃない。
大の大人が転がるところなんて、絶対子供に見せてはいけないところだ。
そんなことを思っていると、
「ケッコー転がってきたねぇー ダッさぁー」
見た目とは裏腹に、女の子は痛々しい言葉を俺に突き刺してくる。
「情けないとこ見せたねぇー。あー恥ずかしい恥ずかしいw」
さすがに我慢ならん!怒るのは大人の特権だ。自分を許し女の子に言う。
「知らない人に失礼だろ!子供のくせに生意気だな!」
我ながら大人げなく、内容の無い言葉だった。だがそんなの関係ない。
「はぁー ドジが落ちてきたから心配してやったんだろw ははっ」
さすがにキレそうになる。別に子供も好きじゃないし、こんな生意気な子供は初めてだ。
すると少し離れた所からまた女の子が来る。
「陽子ー!」
「はぁ はぁ 陽子探したよー。 んっ この人陽子の知り合い?」
苦い顔をして陽子と呼ばれる女の子は言った。
「風花ーそんなわけないじゃん!こんなダサい奴!あっから転がってきたんだよw」
風花と呼ばれた女の子は、心配そうな顔をして自分の方に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?ちょっと陽子笑うのやめなよー」
「かっははは!女の子に心配されてやんのー」
心配は有難いが、それが女の子とは確かに情けないことになっている・・・
風花ちゃんは、礼儀正しく育ちのいいお嬢様のような子だ。っとまた無駄な解析をしてしまった。
「陽子の傘持ってきたよ。今日雨なんて言ってなかったのにねー」
俺は少しドキっとしたが、別に俺のせいじゃないと言い聞かした。
「傘なんていらないよー。こんなのすぐ止むって!」
それに比べて陽子は、野生児みたいな奴だ。育ちとは怖いものだ。
「陽子!こんな奴ほっといてもう行こー!」
「えっ この人どうするの?」
「別にカンケーないじゃん」
「あっ えっ でもー」
黙っていればすきかって言いやがって。やっぱりこういう時は、礼儀を教えるのが大人の役目だな。
「お前っ! さっきから聞いてりゃ・・・」
俺が強く言い聞かせようとした時、陽子は自分の財布からバンソウコウを一つ出してこっちに向かって投げつけた。
「ホラ!右ヒジ!これでいいんでしょ 風花!」
「おま・・・あっ・・・わりぃ」
強く言おうとしたが、意外な行動に少し動揺しつつとりあえずバンソウコウを拾った。
「これ使ってください。私の傘で陽子と帰るので」
風花ちゃんは陽子のために持ってきた傘を俺に渡した。
「もう行くよー!風花ー!」
「ちょ ちょっと待ってよー 陽子ー」
傘をさしている風花は、陽子を傘に入れようとしているが入るのを嫌がりながら
二人は歩いていく。
捨て台詞のように陽子は、
「じゃねードジ男ー」と言い放つ。
最後まで口の減らない奴だ。
だが、仕方なく俺は陽子から貰ったバンソウコウを右ヒジの傷に貼る。
今日一番情けなかった・・・
出来れば、もう二度とあんな子供には会いたくないと心底思った。
俺は風花の置いていった傘を持ち、チェーンの外れた自転車を起こし上げ、両手で押し歩き始めた。
いつの間にか、雨は止んでいた。
そして、少し日の光が差し込んでいた。