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拝啓、勇者パーティ様。──敬具、追放された呪詛師より兎の少女から憎悪に満ちた呪いを込めて。

作者: 久方久米
掲載日:2026/11/07


 ──拝啓。


 ──勇者パーティ様。


 お日柄もよく、魔族討伐において、多大なる功績を残していることと思います。


 ……なんて言ったら皮肉になりそうですね。


 おそらく、この手紙はメンバー全員で読んでいることでしょう。


 必ず3人で熟読して下さい。


 「この先の戦いにお前はついていけないから追放だ」


 戦いの役に立たないと追放された呪詛師である僕。


 レミニス・レニアスです。


 お久しぶりですね。


 時が経つのは、早いもので追放から既に1年が経とうとしています。


 レミニスなんて知らないって?


 確かに僕は影が薄いので、勇者様の記憶にも残っていないんじゃないかと不安でした。


 そんな奴でしたから、さぞパーティで迷惑をかけてしまっていたかもしれません。


 ……だと本気で思っていませんよね?


 僕は影ながら魔族に呪詛を振り撒き、常に戦闘で優位になるようサポートしていた立場です。


 1年もの歳月が経てば、既にお分かりですね。


 僕がいなくなってからのこと、勇者様たちの不安の種は、ご自身たちが身に染みるほどに重々お分かりかと思います。


 現在、勇者パーティ様は、いままでの戦闘による本領が発揮出来ていない。


 そう思ってはいませんか?


 普段では、手こずるはずのない魔獣の群れの奇襲。


 以前、討伐したヒュドラにさえ返り討ちにされるような……。


 言い出したらキリが無いでしょうから割愛します。


 これらは、全て僕の呪詛で対処してきた事柄です。


 勇者パーティが強かった訳ではありません。


 全て僕有きの強さだったのです。


 正直に言って、なぜ僕が追放されてしまったのか……。


 少々悪手だったのではないかと思ってしまいます。


 勇者……いや、クライス。


 僕たちは、幼馴染であり、親友でもあった。


 共に魔王を撃ち倒すと誓った仲ではありませんか。


 ──これは、裏切りです。


 この恥ずべき行為だけはお忘れなきようお願いします。


 けれど……難しいですよね。


 伝えたところで伝わらない。


 きっとそうなのでしょうクライス。


 そして、同調圧力で僕を迫害した女魔術師のメイルゥ。


 それを黙って見ていただけの戦士オルフェ。


 あなたたちも同罪です。


 ですが……それはもう済んでしまった過去のこと。


 僕は、少しも恨んでなどいません。


 金輪際関わらないであろうし、勇者様たちの今後の動向になんて興味もないのですから。


 お互いに別々の道を歩んだ。


 ただそれだけのことでしょうし、これから先のことは勇者様たちが考えるべきことだと思います。


 僕からの温情は、こんなものです。


 ついでですから僕の近況も報告しておきますね。


 ──えっ!? 無能な奴の話しなんか興味ない!?


 大丈夫ですよ。


 きっと、僕の話しから、眼を背けずにはいられなくなるはずでしょうし、勇者様にも関係のある話しですから。


 先日、兎の少女と出会いました。


 亜人……というやつでしょうか。


 耳がとてもチャーミングでして、幼さも合わせ持つ、瞳の蒼い人間の少女のようにも見えました。


 兎の少女とお話ししました。


 泣いていたんですよ。


 放っては、置けなかったのです。


 どうやら、亜人って種族は、よく差別に遭う種族であるらしいですね。


 僕は自宅に引き篭もって生活していた身の上。


 俗世には疎い部分もあります。


 勇者様たちは旅が長いようですから、もちろん知っておられるかと思います。


 里を野党に荒らされ奪われる。


 若い亜人の娘は、奴隷商人に売り飛ばす。


 一生を性奴隷として犯されるか、拷問の末に殺される。


 そんな可哀想な種族なんだそうですよ。


 僕がたまたま出会った兎の少女は、奴隷商人から引きずられている最中のことでした。


 売られる寸前のことでしたからね。


 試しに僕が買ってみることにしました。


 ただの好奇心。


 そんなつまらないものではありません。


 少女は言ったのです。


 まだ生きたいと──。


 助けて欲しいと──。


 そんなことを言われました。


 普段から感情を表に出さない僕だけど、身体が勝手に動いてしまったのです。


 他人なんてどうでも良いなんて思っていた僕がですよ。


 勇者様の旅の中で僕も成長していたのかもしれません。


 長ったらしい話しをする癖に、勇者に関わる話しが出てこないじゃないかって!?


 心配しなくても大丈夫ですよヘリオス。


 ここからが大事な話しなんですから。


 兎の少女を買ったついでです。


 根掘り葉掘り、これまでの経緯を聞いてみることにしました。


 彼女は、兎の里に住む長老の娘だそうです。


 勇者様も、少しはピンッと来たのではないでしょうか。


 僕と別れてからのこと、2ヶ月後に勇者様が訪れていた里がその兎の里です。


 凄いじゃないですか。


 里を襲う魔獣を追い払ったそうですね。


 僕がいなくても、ゴブリン程度なら討伐出来ただなんて、親心のような、どんなクズでも成長するんだなと、素直に尊敬する気持ちもあります。


 でも、その後がよろしくなかった。


 ──勇者様、荒れた兎の里を焼き払いましたね?


 避難誘導もせず、ゴブリンの討伐に邪魔だからと、亜人たちを皆殺しにしましたね?


 里の亜人は、全員焼け死んだらしいですよ。


 僕が出会った兎の少女が唯一の生き残りだった。


 そう聞いています。


 殺戮は……楽しかったですか。


 下等生物だと笑いながら里を蹂躙するその神経、あっぱれであると言わざるを得ません。


 それが原因で密かに暮らしていた兎の少女は、奴隷商人に拘束されてしまい、周り回って僕と出会うことになりました。


 運命の出会いというやつです。


 このことだけは、勇者様に感謝しなければなりませんね。


 兎の少女に出会わせてくれたこと、本当にありがとうございました。


 勇者様がやらかしてしまったこと。


 少女の悲運な結末。


 その全ての話しを聞いた上で、兎の少女は僕にある1つの依頼をしてきました。


 ──呪い殺したい奴がいる。


 なんと、呪詛師である僕に呪いの依頼をしたのです。


 お分かりですね、勇者様。


 僕は、呪詛師です。


 勇者様に関係がある話し。


 ──さて、長くなりましたが、ここからが本題です。


 僕は……勇者様たちを呪うことにしました。


 僕自身は、別にヘリオスたちに恨みがあるとか、憎んでいるとか、そんなもんある訳もありません。


 本当ですよ?


 だって、これっぽっちも興味なんてないんですから。


 ただ……。


 兎の少女が、あまりにも可哀想ではありませんか。


 世界を救うはずの勇者が、たかが兎の里1つすら、救うどころか滅ぼしてしまったのですから。


 村長に至っては、骨も残らず灰になってしまった。


 そんな彼女の願いを断れる訳もない。


 それどころか、これは運命ではないかとすら思ってしまいそうになるのです。


 この依頼を受けた時、僕は思わず笑みが溢れてしまったんです。


 なんでって思いません?


 きっと……勇者を呪うと気持ちが良いんだろうな。


 そう思ったからです。


 実はもう勇者様たちには、呪いがかけられています。


 いつ呪いをかけたんだ!?


 そう思っていますね?


 呪いのトリガーは、この手紙自体にあるんです。


 必ず3人で読むように。


 この注意書きに見覚えがありますね。


 3人で読んでこそ、初めて呪いとして成り立つよう僕が細工をしたんです。


 この手紙を開封した瞬間に、呪いにかかるようにしていたのですが、気づいてすらいなかったみたいですね。


 手紙の封に呪印(ルーン)を仕込んでいました。


 メイルゥとオルフェには、ルーンが分からなかったかもしれませんが、勇者様なら考えれば分かるはずだったのに……。


 少々、詰めが甘かったようですね。


 今現在では、呪いを受けているという実感すら沸くこともないんでしょう。


 おめでたい頭をしていらっしゃる。


 そんなバカ3人に、果たしてどんな呪いをかけたのか。


 興味がお有りでしょう?


 1人ずつ説明をさせて下さい。


 まずは、勇者様ヘリオスにかけた呪いです。


 勇者様にかけた呪いとはなにか。


 それは、『魔族を殺せなくなる呪い』です。


 世界を魔族から救うはずの勇者が魔族を殺せない。


 なんという皮肉なんでしょうね。


 こんな呪いをかけてしまったら、魔王を倒す者がいなくなり、世界が終焉に向かうのかもしれません。


 それでも、僕は構わないと思います。


 因果応報……。


 すべての原因には結果があり、勇者様の悪の行いには悪い報いが必ず自分に返ってくる。


 世界を天秤にかけてでも、勇者様にはこの呪いで償って貰います。


 万が一にも、勇者様が魔族を殺してしまった場合、呪詛の効力により自決してしまいますので気をつけて下さいね。


 次に戦士オルフェ。


 現実から目を背け、都合が悪いと見て見ぬふりをする、小心者のお前にピッタリの呪いを授けよう。


 手紙が開けられた瞬間から、もう既に異変に気づいていると思いますが念の為に伝えますね。


 戦士オルフェにかけた呪い。


 それは、『盲目になる呪い』です。


 現実を見ようとしない眼なんて必要ありませんよね。


 そんな眼なら潰れてしまった方がマシですよ。


 ある意味、ヘリオスやメイルゥよりもタチが悪い。


 悪行に目を瞑り、亜人たちを皆殺しにしてしまったのですから。


 仄暗い暗闇の中で自分の過ちを懺悔してください。


 おっと、失礼しました。


 盲目のオルフェには、僕の手紙が読めなかったのでしたね。


 勇者様が責任を持って、戦士オルフェの呪いについて教えてあげてくださいね。


 最後に女魔術師メイルゥの呪いです。


 メイルゥにかけた呪い。


 それは、『贅肉にまみれた醜女』になる呪いです。


 だけど、呪いは特殊でして……。


 厳密に言えば、醜女になっていません。


 男からそう見られてしまう。


 単純な呪いです。


 ただし、メイルゥには、この呪いがそれなりに堪えるのではないのでしょうか。


 男たちが、その美貌でちやほやされたことでしょう。


 どんなクソビッチであっても、数多くの者を魅了出来ていたのではないかと思います。


 なので、僕はそれを奪うことにしました。


 勇者パーティの麗しい美女は、もうお終いです。


 いままで、許されていたわがままも、理不尽な傲慢さも、これからは全て通用しません。


 醜い贅肉にまみれて……のたうちまわれ。


 この呪いも、皮肉が効いていて、それなりに僕好みの呪いへと仕上がりました。


 以上が、僕がかけた呪いの全てです。


 ──呪いとは廻るもの。


 僕の大好きな言葉です。


 里を滅ぼされた、あるウサギの少女が孕んでしまった、憎悪の塊が廻り廻って呪いとなる。


 僕は……その手助けをしたに過ぎません。


 前述にもありますが、僕には一切の恨みはありません。


 勇者様に興味もないんですけどね。


 それに呪いを解く方法だってあるんです。


 呪いも万能ではありません。


 勇者様は知っているでしょう?


 古くからの幼馴染ですからね。


 解呪方法は、至ってシンプル。


 『呪いをかけた呪詛師を殺すこと』


 それしか手はありません。


 殺すと言っても、それが困難なことぐらい分かります。


 パーティを追放されてから、僕は消息を絶った訳ですし、どこにいるのかも分からないでしょうから。


 また、時折ではありますが手紙を書きます。


 その都度、ヒントを出しましょう。


 必ず、3人で共有してくださいね。


 だから……僕を殺してみせろよ無能勇者ども。


 ──敬具 


 ──追放された呪詛師より。


 ──ウサギの少女から憎悪に満ち溢れた呪いを込めて。



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