拝啓、勇者パーティ様。──敬具、追放された呪詛師より兎の少女から憎悪に満ちた呪いを込めて。
──拝啓。
──勇者パーティ様。
お日柄もよく、魔族討伐において、多大なる功績を残していることと思います。
……なんて言ったら皮肉になりそうですね。
おそらく、この手紙はメンバー全員で読んでいることでしょう。
必ず3人で熟読して下さい。
「この先の戦いにお前はついていけないから追放だ」
戦いの役に立たないと追放された呪詛師である僕。
レミニス・レニアスです。
お久しぶりですね。
時が経つのは、早いもので追放から既に1年が経とうとしています。
レミニスなんて知らないって?
確かに僕は影が薄いので、勇者様の記憶にも残っていないんじゃないかと不安でした。
そんな奴でしたから、さぞパーティで迷惑をかけてしまっていたかもしれません。
……だと本気で思っていませんよね?
僕は影ながら魔族に呪詛を振り撒き、常に戦闘で優位になるようサポートしていた立場です。
1年もの歳月が経てば、既にお分かりですね。
僕がいなくなってからのこと、勇者様たちの不安の種は、ご自身たちが身に染みるほどに重々お分かりかと思います。
現在、勇者パーティ様は、いままでの戦闘による本領が発揮出来ていない。
そう思ってはいませんか?
普段では、手こずるはずのない魔獣の群れの奇襲。
以前、討伐したヒュドラにさえ返り討ちにされるような……。
言い出したらキリが無いでしょうから割愛します。
これらは、全て僕の呪詛で対処してきた事柄です。
勇者パーティが強かった訳ではありません。
全て僕有きの強さだったのです。
正直に言って、なぜ僕が追放されてしまったのか……。
少々悪手だったのではないかと思ってしまいます。
勇者……いや、クライス。
僕たちは、幼馴染であり、親友でもあった。
共に魔王を撃ち倒すと誓った仲ではありませんか。
──これは、裏切りです。
この恥ずべき行為だけはお忘れなきようお願いします。
けれど……難しいですよね。
伝えたところで伝わらない。
きっとそうなのでしょうクライス。
そして、同調圧力で僕を迫害した女魔術師のメイルゥ。
それを黙って見ていただけの戦士オルフェ。
あなたたちも同罪です。
ですが……それはもう済んでしまった過去のこと。
僕は、少しも恨んでなどいません。
金輪際関わらないであろうし、勇者様たちの今後の動向になんて興味もないのですから。
お互いに別々の道を歩んだ。
ただそれだけのことでしょうし、これから先のことは勇者様たちが考えるべきことだと思います。
僕からの温情は、こんなものです。
ついでですから僕の近況も報告しておきますね。
──えっ!? 無能な奴の話しなんか興味ない!?
大丈夫ですよ。
きっと、僕の話しから、眼を背けずにはいられなくなるはずでしょうし、勇者様にも関係のある話しですから。
先日、兎の少女と出会いました。
亜人……というやつでしょうか。
耳がとてもチャーミングでして、幼さも合わせ持つ、瞳の蒼い人間の少女のようにも見えました。
兎の少女とお話ししました。
泣いていたんですよ。
放っては、置けなかったのです。
どうやら、亜人って種族は、よく差別に遭う種族であるらしいですね。
僕は自宅に引き篭もって生活していた身の上。
俗世には疎い部分もあります。
勇者様たちは旅が長いようですから、もちろん知っておられるかと思います。
里を野党に荒らされ奪われる。
若い亜人の娘は、奴隷商人に売り飛ばす。
一生を性奴隷として犯されるか、拷問の末に殺される。
そんな可哀想な種族なんだそうですよ。
僕がたまたま出会った兎の少女は、奴隷商人から引きずられている最中のことでした。
売られる寸前のことでしたからね。
試しに僕が買ってみることにしました。
ただの好奇心。
そんなつまらないものではありません。
少女は言ったのです。
まだ生きたいと──。
助けて欲しいと──。
そんなことを言われました。
普段から感情を表に出さない僕だけど、身体が勝手に動いてしまったのです。
他人なんてどうでも良いなんて思っていた僕がですよ。
勇者様の旅の中で僕も成長していたのかもしれません。
長ったらしい話しをする癖に、勇者に関わる話しが出てこないじゃないかって!?
心配しなくても大丈夫ですよヘリオス。
ここからが大事な話しなんですから。
兎の少女を買ったついでです。
根掘り葉掘り、これまでの経緯を聞いてみることにしました。
彼女は、兎の里に住む長老の娘だそうです。
勇者様も、少しはピンッと来たのではないでしょうか。
僕と別れてからのこと、2ヶ月後に勇者様が訪れていた里がその兎の里です。
凄いじゃないですか。
里を襲う魔獣を追い払ったそうですね。
僕がいなくても、ゴブリン程度なら討伐出来ただなんて、親心のような、どんなクズでも成長するんだなと、素直に尊敬する気持ちもあります。
でも、その後がよろしくなかった。
──勇者様、荒れた兎の里を焼き払いましたね?
避難誘導もせず、ゴブリンの討伐に邪魔だからと、亜人たちを皆殺しにしましたね?
里の亜人は、全員焼け死んだらしいですよ。
僕が出会った兎の少女が唯一の生き残りだった。
そう聞いています。
殺戮は……楽しかったですか。
下等生物だと笑いながら里を蹂躙するその神経、あっぱれであると言わざるを得ません。
それが原因で密かに暮らしていた兎の少女は、奴隷商人に拘束されてしまい、周り回って僕と出会うことになりました。
運命の出会いというやつです。
このことだけは、勇者様に感謝しなければなりませんね。
兎の少女に出会わせてくれたこと、本当にありがとうございました。
勇者様がやらかしてしまったこと。
少女の悲運な結末。
その全ての話しを聞いた上で、兎の少女は僕にある1つの依頼をしてきました。
──呪い殺したい奴がいる。
なんと、呪詛師である僕に呪いの依頼をしたのです。
お分かりですね、勇者様。
僕は、呪詛師です。
勇者様に関係がある話し。
──さて、長くなりましたが、ここからが本題です。
僕は……勇者様たちを呪うことにしました。
僕自身は、別にヘリオスたちに恨みがあるとか、憎んでいるとか、そんなもんある訳もありません。
本当ですよ?
だって、これっぽっちも興味なんてないんですから。
ただ……。
兎の少女が、あまりにも可哀想ではありませんか。
世界を救うはずの勇者が、たかが兎の里1つすら、救うどころか滅ぼしてしまったのですから。
村長に至っては、骨も残らず灰になってしまった。
そんな彼女の願いを断れる訳もない。
それどころか、これは運命ではないかとすら思ってしまいそうになるのです。
この依頼を受けた時、僕は思わず笑みが溢れてしまったんです。
なんでって思いません?
きっと……勇者を呪うと気持ちが良いんだろうな。
そう思ったからです。
実はもう勇者様たちには、呪いがかけられています。
いつ呪いをかけたんだ!?
そう思っていますね?
呪いのトリガーは、この手紙自体にあるんです。
必ず3人で読むように。
この注意書きに見覚えがありますね。
3人で読んでこそ、初めて呪いとして成り立つよう僕が細工をしたんです。
この手紙を開封した瞬間に、呪いにかかるようにしていたのですが、気づいてすらいなかったみたいですね。
手紙の封に呪印を仕込んでいました。
メイルゥとオルフェには、ルーンが分からなかったかもしれませんが、勇者様なら考えれば分かるはずだったのに……。
少々、詰めが甘かったようですね。
今現在では、呪いを受けているという実感すら沸くこともないんでしょう。
おめでたい頭をしていらっしゃる。
そんなバカ3人に、果たしてどんな呪いをかけたのか。
興味がお有りでしょう?
1人ずつ説明をさせて下さい。
まずは、勇者様ヘリオスにかけた呪いです。
勇者様にかけた呪いとはなにか。
それは、『魔族を殺せなくなる呪い』です。
世界を魔族から救うはずの勇者が魔族を殺せない。
なんという皮肉なんでしょうね。
こんな呪いをかけてしまったら、魔王を倒す者がいなくなり、世界が終焉に向かうのかもしれません。
それでも、僕は構わないと思います。
因果応報……。
すべての原因には結果があり、勇者様の悪の行いには悪い報いが必ず自分に返ってくる。
世界を天秤にかけてでも、勇者様にはこの呪いで償って貰います。
万が一にも、勇者様が魔族を殺してしまった場合、呪詛の効力により自決してしまいますので気をつけて下さいね。
次に戦士オルフェ。
現実から目を背け、都合が悪いと見て見ぬふりをする、小心者のお前にピッタリの呪いを授けよう。
手紙が開けられた瞬間から、もう既に異変に気づいていると思いますが念の為に伝えますね。
戦士オルフェにかけた呪い。
それは、『盲目になる呪い』です。
現実を見ようとしない眼なんて必要ありませんよね。
そんな眼なら潰れてしまった方がマシですよ。
ある意味、ヘリオスやメイルゥよりもタチが悪い。
悪行に目を瞑り、亜人たちを皆殺しにしてしまったのですから。
仄暗い暗闇の中で自分の過ちを懺悔してください。
おっと、失礼しました。
盲目のオルフェには、僕の手紙が読めなかったのでしたね。
勇者様が責任を持って、戦士オルフェの呪いについて教えてあげてくださいね。
最後に女魔術師メイルゥの呪いです。
メイルゥにかけた呪い。
それは、『贅肉にまみれた醜女』になる呪いです。
だけど、呪いは特殊でして……。
厳密に言えば、醜女になっていません。
男からそう見られてしまう。
単純な呪いです。
ただし、メイルゥには、この呪いがそれなりに堪えるのではないのでしょうか。
男たちが、その美貌でちやほやされたことでしょう。
どんなクソビッチであっても、数多くの者を魅了出来ていたのではないかと思います。
なので、僕はそれを奪うことにしました。
勇者パーティの麗しい美女は、もうお終いです。
いままで、許されていたわがままも、理不尽な傲慢さも、これからは全て通用しません。
醜い贅肉にまみれて……のたうちまわれ。
この呪いも、皮肉が効いていて、それなりに僕好みの呪いへと仕上がりました。
以上が、僕がかけた呪いの全てです。
──呪いとは廻るもの。
僕の大好きな言葉です。
里を滅ぼされた、あるウサギの少女が孕んでしまった、憎悪の塊が廻り廻って呪いとなる。
僕は……その手助けをしたに過ぎません。
前述にもありますが、僕には一切の恨みはありません。
勇者様に興味もないんですけどね。
それに呪いを解く方法だってあるんです。
呪いも万能ではありません。
勇者様は知っているでしょう?
古くからの幼馴染ですからね。
解呪方法は、至ってシンプル。
『呪いをかけた呪詛師を殺すこと』
それしか手はありません。
殺すと言っても、それが困難なことぐらい分かります。
パーティを追放されてから、僕は消息を絶った訳ですし、どこにいるのかも分からないでしょうから。
また、時折ではありますが手紙を書きます。
その都度、ヒントを出しましょう。
必ず、3人で共有してくださいね。
だから……僕を殺してみせろよ無能勇者ども。
──敬具
──追放された呪詛師より。
──ウサギの少女から憎悪に満ち溢れた呪いを込めて。
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