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今日はオオカミ騎士ことライナルトが騎乗する馬に一緒に乗って王宮近くの湖に行くことになった。
軍服の下でわからなかったけど、ライナルトが鍛えた筋肉の硬さが背中に触れるたびに伝わってきて
顔が赤くなってしまう。なんだか恥ずかしい⋯⋯
どうしてこうなったかというと、レナルド王子と湖に行きたいという姫様の気まぐれにある。
そのため第11騎士団はレナルド王子と姫様の護衛として帯同することになったのだ。
第一王女 ナタリー・グラントロスは第一王子のレナルド王子と腹違いの妹にも関わらず異母兄にとてもなついている。
私がレナルド王子とナタリー姫の乗る馬車に同乗しようとしたら今にも噛み付かんとばかりに激しく睨まれたため、
私はあえなく馬で湖に行くことになった。
しかし乗馬経験のない私はひとりで騎乗することができなかったため、ライナルトと相乗りすることになった。
それにしてもナタリー様は妹とは思えないほどのスキンシップだ。
窓の外から馬車の中を覗くと、ナタリー様はレナルド王子の腕に絡みつき頬を王子の顔に触れるくらいに近づけて上目遣いで楽しげに話かけている。
まるで恋人の距離感、いやそれ以上か。
そんなことを意識したら私もライナルトとすごい距離感にある。
振り向いたら彼の顔が間近に迫ってくる。
なのでさっきからまともに彼の顔を見ることができない。
ナタリー様に見せつけられて邪なことばかり考えていたら声すらまともに出せていない。
上官としてこの沈黙はいかがなものか。
何かライナルトに話しかけたほうがいいのか。
照れてるって勘づかれたくないし。
「どうした。めずらしく静かじゃないか」
「は? に、任務中ですよ。いつ襲撃があるかわかりませんから警戒してるんです」
なにをムキになっているんだ私は。
ダメだ。あの兄妹を見ていると変に意識してしまう。
「背中がガラ空きだからそうは見えなかった」
「ちょっ! ちょっと何を言っているんですか」
「安心しろ。俺がしっかり守ってやる」
はーっ!そんなこと急に言われたら心拍数上がるじゃない。
「ま、守るのは王子たちの方ですよ。私じゃありません。心配するのは馬車の方です」
「あ? 俺はあんたが落馬しないかのほうが心配だ」
「! 落馬ッ⁉︎ 心配ってそっち?」
「それ以外にあるのか」
「そ、それは⋯⋯」
ハントが馬でうしろの方からやってくる。
「俺たちさっきから嬢ちゃんが馬からいつ落ちるかヒヤヒヤしてんだぜ」
と、からかっては私たちの馬を追い抜いて行く。
その後ろから「まったくだぜ」と、ティムの馬もやってくる。
「さっきからフラフラしちゃって。へそに力入れないと」
彼は見せつけるように手綱も握らず手を頭で組みながら余裕そうに通りすがっていく。
「私、そんなに落ちそうですか」
「正直、子供より乗り方が下手くそで安心できない」
落馬の心配しかされてないじゃない。
なにやってんのよ私。
ちょっと男性と馬に一緒に乗ったぐらいで緊張しちゃって。
もう顔が真っ赤。下しか見れない。
「!」
急にピリッとした空気が背中に伝わってくる。
ライナルトだ。
顔を上げると森の入り口が見えて来た。
ライナルトだけじゃない。ハント、ティム、ローベルトの空気がピリッとしたものに変わる。
騎士団長ライナルトの合図で4人は馬車を四方から囲むように陣形を整える。
殿下は常に命を狙われている。
森の中で暗殺者に襲撃される可能性がある。
それに人を襲う魔物の襲撃も考え得る。
ここからは気が抜けない。
それにしてもさすがは騎士。
結成したばかりでもちゃんと統率が取れている。
湖まではこの開けた1本道どんな危険が待っているか。
「矢が飛んでくる覚悟でいろ」
「はい!」
「と、言いたいところだが、怪しい気配は感じない。このまま湖までは安全に通行できそうだ」
「よかったです。安心しました。だけど殿下の命を狙う人物がいるとしたら、
野盗たちというより王宮内の人間の可能性の方が高いんですよね」
「そういうことになるな」
「なら殿下にとって王宮の外の方が安全なのかもしれません」
「それは安易だな。殿下の命を狙うのはいずれにせよ貴族だ。金に物を言わせて野盗でも冒険者でも雇うことができる。
いったいどんな手を使ってくるかわかったものじゃない。騎士たちだって従わせることができる。味方だからって油断しない方がいい」
「ライナルト様は大丈夫ですよね」
「あ?」
「ライナルト様は裏切ったりしない」
「もちろんだ」
見上げるとライナルト様は真っ直ぐな視線で私を見つめる。
ウソはないという顔だ。
「見えて来たぞ。湖だ」
森を抜けるとそこはもう広い湖だった。
ナタリー様は馬車を降りるなりチェック柄のピックニックマットを広げて殿下と2人で座る。
ナタリー様が大事そうに抱えているバスケットの中身は彼女の手製のサンドイッチのようだ。
「ねぇ、お兄様。ナタリーもお兄様と一緒のお屋敷で暮らしたいです」
「それは女王様がお認めにならないよ。それに僕たちは同じ王宮に住んでいるじゃないか」
「ダメです。広すぎます。ナタリーはもっとお兄様のそばに居たいんです」
「僕を困らせないでくれナタリー」
「またお母様ですか。お母様はお兄様に冷たすぎるのです」
「致し方ないことなんだ。許してくれナタリー」
「いやです」
ナタリー様は16歳にも関わらず子供のような態度でレナルド王子に抱きつく。
そんな2人のやり取りをよそに私たちは馬を降りて周囲の警戒にあたる。
私も眼を光らせて茂みの奥に視線をやる。
すると“ガサガサ”と物音を立てて木々が揺れ動く。
「ライナルト様、あの辺りから気配が」
「なんだと?どこだ」
「あっちの方です」
駆け寄るライナルトに指をさして場所をしめす。
「私、行きます」
「おい待て!危険だ」
「大丈夫です。陛下から賜ったこの剣があります」
腰にさした剣の柄を握ってライナルトに自信を見せる。
「レイピアか? 剣があったてあんた今までまともに剣なんて握ったことないだろ」
「ですけど、私の勘違いかもしれませんし。私が行きます」
「いい。俺が行く」
「私も連れてってください」
「勝手にしろ。お前たち殿下と姫を頼むぞ」
「おうッ!」とハントが手を振りながら返事をする。
ティムとローベルトは目線だけ送って静かに応える。
茂みの奥に進んでしばらく経つと再び木々が“ガサガサ”と音を立てる。
剣の柄を握って身構える私。
ライナルトは微動だにしない。
するとピョコっとウサギが草むらの中から姿を現す。
「ウサギでしたか」
息を吐いてホッとした私は胸を撫で下ろす。
「ライナルト様、すみません。私の勘違いでした」
湖の方角に向かって一歩、あるき出すと落ちていた木の枝を踏んでしまいそのまま体勢を崩して倒れてしまう。
「イタタ⋯⋯」
「大丈夫か」
「はい。だけど右の脚首が痛くて」
靴を脱いで確かめると腫れ上がっている。
「捻挫のようだな」
「気が抜けてしまったようです。ごめんなさい」
「軟膏は常備している。軽い手当はしておく」
「ありがとうございます」
「どうして俺は裏切らないと思った」
「群れを嫌い、しがらみを拒むから。そしておひとよし」
「舐められたものだな。とりあえず運んでやる」
「ちょ、ちょっと待ってください! この間のような恥ずかしい運び方はやめてください」
「何を言っている背負って運ぶぞ」
「⋯⋯」
「ここにいたか」
木々をかき分けてローベルトがやってくる。
「持ち場はどうした」
「マスターと団長が戻ってくるのが遅いので代表して捜索に来た」
「ごめんなさい。心配をかけてしまいました」
「かまわない」
「姫様たちは」
「王子と仲良く花を摘んでいる」
「安心しました」
ローベルトに先導されてライナルトに背負われて運ばれる私。
今日はカラ周りしているな私、顔を赤くしてばっか⋯⋯
ふと視線を傍に向けると不自然に草が刈り取られた場所がある。
「ライナルト様、待ってください」
「どうした?」
「あそこだけ刈り取られたようなあとが⋯⋯」
「周辺の葉がカブリトの葉に形が似てるな」
「カブリト?」
「毒薬になる草だ」
「毒⁉︎」
「何をやっているんです。先行きますよ」
そう言って振り向いたローベルトの白い手袋が土で汚れている。
“味方だからって油断しない方がいい”というライナルトの言葉が頭をよぎる。
もしかして彼が⋯⋯
「ローベルト⋯⋯」
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