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「第11騎士団のマスターを命じる」
高貴な椅子に頬杖つきながら腰をかけるレナルド王子は無邪気な笑顔で私にそう宣言した。
第一王子護衛担当第11騎士団ーー
そもそもグラントロス王国には第10騎士団までしか存在しない。
レナルド王子に告げられるまでその存在を私は知らなかった。
どうやら第一王子の鶴の一声で急遽新設された組織のようだ。
殿下、直々のご命令に首を横に振るわけにはいかない私は騎士団の制服におとなしく袖を通した。
名簿に目を通すと人材は命令無視、規律違反に暴力沙汰と、手に負えなくなった騎士たちがばかり集めらていた。
初日から頭が痛い。いったい殿下は私に何を期待して彼らの管理者に⋯⋯
「次は僕をどう楽しませてくれるのかな。ラニヤ」
などと意味深なことを言っていたが、いったい私の何が彼を楽しませたのだろうか。
やってきたのは第一王子の執務室の隣に設けられた第11騎士団の待機室。
中に入ると赤髪が特徴的で二の腕の筋肉をやたら強調してくるハント・フリートが陽気に声をかけてくる。
「よう。嬢ちゃんが俺たちのお目付役だって。聞いたぜ。暴力沙汰起こしてここにやって来たんだって。
俺と同じだな」
この男はなぜ背中をバシバシ叩きながら話しかけてくる。痛いじゃないか。
ハントは酒の席で上官を殴り、ここに飛ばされて来た。私はこんな男と一緒の扱いだというのか。
改めて自分のしでかしたことに対して後悔の念が押し寄せてくる。
「へぇ、おねぇちゃんがね。とりあえずよろしくね」
手を頭の後ろで組みながら話しかけて来たのは黄色髪の一見女性に見える小柄な少年。ティム・カイン。
人懐こい性格だが、口がよくまわり何かにつけて鍛錬をサボるので第11騎士団に飛ばされて来た。
そして黒縁メガネかけて真面目で堅物そうな青年はローベルト・ルッツ。
第11騎士団の副団長を任されている。
見た目通り融通が効かず団運営に対して些細なことまでも指摘するので煙たがられて飛ばされて来た。
そして第11騎士団の団長が私にあんな恥ずかしい思いをさせたライナルト・クランツ。
騎士団最強にしてはぐれ1匹オオカミ。
この人が第11騎士団に飛ばされて来たのはなんとなくわかる。
命令無視に加え単独独断専行行動。集団行動には向かないタイプ。
第一王子護衛の第11騎士団がどうして問題行動を抱える騎士ばかり集められたのか。それはレナルド第一王子の立場に起因する。
レナルド第一王子は国王と側室の間に生まれた。女王はそれから1日遅れで第二王子を出産。
女王の強い意向で王位継承権はレナルド王子には与えられず第二王子が次期国王として育てられた。
しかし、王宮内に抱えた火種は消えることなくそのまま燻りつづけることになる。
それはレナルド第一王子が優秀で聡明な方だったからだ。
それに比べて第二王子は乱暴な性格で陰では“うつけ”と称されている。
レナルド王子の台頭によって王宮内は第一王子派と第二王子派に分かれて対立。
神輿は軽くてパーがいいなんて考えている第二王子派の一部から命を狙われているという噂がある。
そのために第一王子護衛担当の第11騎士団が組織されたわけだが、王位継承権のない第一王子は騎士団にとってはハズレくじ。
だからいらなくなった人材ばかり送られて来たのだ。
「ラニヤ、君は優秀な文官だったと聞く。君の手腕でこの曲者揃いの騎士団をまとめてみてくれ。
最初に僕が君に降す命令はひとつ。彼らと親睦を深めることだ」
親睦を深めるって何?
彼らを秩序ある行動に導くとかじゃなくて?
本当にあの王子わからない。本当に優秀なの?
ただの奇人でしょ。
頭を抱える私をよそに「なぁ嬢ちゃん」と、ハントが口火を切る。
「マスターです」
「全員揃ったけどこれから俺たちは何をすればいいんだ。鍛錬か?」
「いいえ」
「は? じゃあ何するんだ」
「キンニク。鍛錬ばかりが騎士の仕事じゃないってことだよ。
俺っちはここでのんびりと待機がいいなぁ」
「お前はサボりたいだけだろ」
ハントはティムを羽交締めにして拳で頭をグリグリする。
この2人はウマが合うのかもううち溶けている。
「やることはもちろん親睦会です!」
「は?」
「親睦会を開きます。店は友達が働いている酒場を予約したのでバッチリです。
今夜、19:00からやりますので来てください!」
4人とも目を丸くしている、隣の部屋からレナルド王子が吹き出す笑い声が聞こえてくる。
私は恥ずかしさのあまり部屋を飛び出した。
「以上、解散です!」
***
テーブルの上にはから揚げやサラダといった5人分の料理が並べられている。用意はバッチリだ。
お店も学生時代の同級生が働いているから気心も知れているし、サービスも効く。
ここまでの準備は完璧だ。
あとはあの4人とどう打ち解けるかだけ。緊張する。
私、結構、人見知りなのに相手が全員、男って。
こんなとき何話したらいいのかしら。
今日からよろしくなぁなんてノリできるわけないし。
私、打ち解けられるのかなぁ。特にあのオオカミと。
そこはお酒の力でなんとか⋯⋯うーん。
それにしてもみんな遅いわね。
19:00はとっくに過ぎてる。
まだ鍛錬しているのかしら。
みんなすごい筋肉だし。
先にビールでもいただいて準備をしておこうかしら。
今思えばあのグーたら上司扱いやすかったなぁ。
***
「どうして1時間過ぎても誰も来ないのよ!」
目に涙を溜めながら木製ジョッキに注がれたビールをあおりテーブルを叩く。
そんな私の様子を吹き抜けの2階席からハントとティムが見下ろしていたことを私は知る由もなかった。
「本当にいるよ。あの嬢ちゃん」
「ハントも悪いやつだな。こうやって女の子が泣いているところを眺めてるなんて」
「俺、上官が文官の女の子って聞いて侮っていたかも」
「メガネくんも来てるよ」
柱の影からラニヤの様子を眺めているローベルト。
「騎士団最強様もな」
ティムはハントが指差した先に目線をやるとカウンター席で他の客に紛れて酒を飲むライナルト。
「本当にうちの騎士団って変わり者ばかりだね」
「あの嬢ちゃんが1番変わっているけどな」
「ハント、誰かおねえちゃんに近づいて来たよ」
酒の勢いで眠りについてしまったラニヤの背後からこの場に似つかわしくない白スーツの金髪の青年が近づいてくる。
「ラニヤ、本当に面白い娘だね。僕を全然退屈させない」
ライナルトが青年に声をかける。
「レナルド様、このような場におひとりで来られるのは危険です」
そしてライナルトの後ろにはハント、ティム、ローベルトの姿もある。
「ようやく全員揃ったね。僕だけ誘われないのは寂しいからさ」
「王宮までお供します。レナルド様」
「僕もいじわるが過ぎた。彼女をどこか安全なところに寝かしてくれるかな」
「この建物の3階が宿泊スペースになっています」
「では、運んでくれるかな。ライナルト」
「かしこまりました」
「僕たちははじまったばかりだ。そう焦ることはないよ。ラニヤ」
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