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聖女の仕事を奪っている、と言われ国外追放になった件  作者: 浦田 緋色 (ウラタ ヒイロ)


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聖王国の嘘つき男と共犯者の女

可哀想な人だ。

フェルナンド殿下は可哀想な人だ。

でも、誰よりも私の悔しさと憎しみを理解してくれる人だ。

そして、私も彼のそういった感情を理解できた。

ようは、似たもの同士なのだ。

だからこそ、彼の共犯者となる道を選んだ。

そうしなければ、彼は本当にひとりぼっちになってしまいそうで、やっぱり可哀想だったから。


「……」


私は、まるで幼い子供のように眠るフェルナンド殿下の頭を撫でる。


「……ねえさま」


幼い、舌足らずな言葉が彼の口から漏れる。

それに応えるように、私は彼の頭を撫でる。

本当に小さな子供のように、えへへ、と笑う。

彼の姉は、この国の次期国王がほぼ決定しているセレス王女殿下である。

王女殿下はとても厳しく、けれど優しい人だ。

フェルナンド殿下は彼女のことをとても敬愛している。


だからこそ、この道を選んでしまったのだろう。


国王も王女も、フェルナンド殿下のことを気にかけることはなく、世にも珍しい男の聖女にばかり関心をむけていた。

この国の盾であり、壁の一人であった少年だ。


フェルナンド殿下は、ただ、父親と姉に自分を見てほしかっただけなのだ。

学業で優秀な成績をおさめた、難しい外交を取りまとめた。

それを、少しでいいから認めてもらいたかっただけなのだ。


『よく、がんばった』


たった一言。

その一言をもらえれば、それで良かったのだ。

でも、それは叶わなかった。


簡単なようで、単純なようで、それは彼にとって黄金よりも、オリハルコンよりも……。

そう、どんな貴重な宝石よりも、とても手に入りにくいものだった。


欲すれば、なんでも手に入る立場だというのに。

その家族からのたった一言だけが、手に入らなかったのだ。


いつだって国王と王女は、珍妙な存在の少年のことばかりに心を砕いていた。


最初は、ほんの少し小突いただけだったらしい。


初めてフェルナンドが、件の少年シルと出会い。

しばらくした頃、父親に褒められ、姉と仲良くするシルが憎くて仕方なくなったのだという。

まるで家族を盗られたような感覚に陥ったのだという。

だから、ほんのちょっと小突いた。

そしたら転んで泣き出したのだという。

男のくせにそんなことで泣くなんて、とフェルナンド殿下はもっとイライラしてしまった。


フェルナンド殿下は強い男になるよう躾られていた。

いつか、国王となる姉を補佐し、誰よりも近くで守るために、そしてこの国のために強く泣かないように教育され躾られていた。


だというのに、そんなことをした彼は姉と国王に叱られた。

一方、シルは二人からとても大事そうに扱われたのだという。


それを見て、幼い彼の中で何かが壊れてしまった。


――なんで、ぼくを見ないの?――


――なんで、あいつばっかり可愛がるの??――


――ぼくのちちうえ、あねうえなのに――


彼は笑いながら、幼心に思ったことを私に話してくれた。

それがキッカケだったらしい。

最初は、自分を見て貰えるよう、褒めて貰えるよう、がんばった。

普通にがんばった。

努力した。

でもやっぱり、家族は彼に見向きもしなかったのだという。

そしてだんだんフェルナンド殿下がシルに対して、周りを巻き込んでまで追い詰めるようになり、エスカレートしていったとのことだ。

そんな彼に、私が言った言葉は、


『よく、我慢して頑張りましたね。

偉いですよ』


だった。

その言葉に彼は泣きじゃくった。

子どもが母親に泣きつくように、私に抱きつき泣きじゃくった。

そうして彼はしゃくりあげながら言葉を重ねた。


追い詰めれば、いつかここから去るだろうと考えたのだという。

嫌なことが続けば逃げるに違いない、と。

シルは泣き虫で、小突いただけで泣いてしまう弱虫なのだから、と。

そう信じて、虐げ続けてきたのだという。


『馬鹿らしいとは、自分でもおもってるよ。

こんなことをしてもなんの得にもならない。

父上だけじゃない、姉上からも嫌われる。

でも、やっぱり許せないんだ。

ぼくだって、父上や姉上に認めて貰いたかったのに。

ずっと、シルばっかりズルいズルい、って自分の中の、子供の自分が言うんだ』


その気持ちは理解できた。

私も同じだったから。

本当に認めて欲しい人達、両親は、私に無関心だった。

筆頭聖女になってもそのことを褒めてくれることも、認めてくれることもなかった。

それなのに、なぜか親戚の子やよその家の子ばかりを褒めていた。

あの子は顔が可愛らしい。

あの子はよく気が利いて、うちの子と交換したいくらい。

それに比べてこの子は、バカだから。

目の前で、ケラケラと笑いながら言われたこともあった。

聖女の職業を得た時、筆頭聖女に選ばれた時。

どこかで、認めてくれるかなって思ってたけど違った。

せめて、


『これから国のために、人々のために頑張れ』


くらい言ってほしかった。

けれど両親に筆頭聖女になったことを伝えて、まず言われたのが、いくら給金がもらえるのか、ということだった。

次に続いたのは、こんなことになったけれど調子に乗るな、という釘刺し。


すこしくらい、褒めて欲しかった。

すごい、っていってほしかった。


社交辞令のそれで構わなかった。

嘘でよかった。


けれどほしい言葉も、表情も、両親は私にくれなかった。

フェルナンド殿下の気持ちはだからこそ、理解できた。


「…………」


彼が私に求めているのは、セレス様の、そして亡くなった母君の代わりだ。

そして私が彼に求めているのは、両親の代わりだ。

お互い納得した上での、理解した上での傷の舐め合い、そんな関係だ。

それでも初めて私をみて、必要としてくれた人なのだ。

お役目の前には、がんばれ、ルリならできるよ、と励まされた。

お役目を終えれば、よく頑張ったな、さすがルリだ、と労われた。

それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

ずっとほしかった言葉を、彼はくれたのだ。

誕生日が来ると、私好みの素朴なアクセサリーを手作りしたり、私が好きだといった花を贈ってくれた。

ただの村娘だった時には、そんなことなかった。

女は男に尽くすもの、と言われそれこそ奴隷のような扱いをされたことだってある。


「大丈夫ですよ、【ねえさま】は、ここにいますよ」


それに比べれば、姉の代わりがなんだというのだ。

彼は私に好意を示してくれる。

こんな幸せはない。


同時にもう一つ、フェルナンド殿下がシルを虐げ続けるのには理由があった。


虐げれば虐げるほど、国王と王女は軽蔑した目をむけてくれたのだという。

はじめて、彼を見てくれたのだという。

それが嬉しかったのだ、と彼は口にした。

とても、嬉しかったのだと。

そう、私には語ってくれた。


そして、彼はついにシルを国外追放にした。

これは前から決めていたのだという。


理由は、ほかの聖女たちからのクレームが発端だった。

でも、私は知っていた。

王女がシルを、手元に戻そうと動いていたのだ。

そしてその日はすぐそこまで来ていることが、フェルナンド殿下の知るところとなった。

同時に殿下は気づいた。


国外追放すれば、父と姉は怒りという感情を向けてくれる、ぶつけてくれる。

ずっと、自分をそうして見てくれる、と。


もちろんそれすら、本当は……。


愚かしいまでに、家族から見てもらえることを望んで、こんな形でしか叶えられなかった彼は、やっぱり可哀想な人だ。


私だけは彼のことを、その本心を知っている。


私はこの不器用で嘘つきな人を、唯一の理解者を愛してしまった。

私は、この人の盾であり、壁だ。

国の聖女ではない。

私はこの人の聖女だ。

一人くらい、そんな愚かな聖女がいてもいいだろう。

だって、私は聖女であるまえに、人間なのだから。


王女も、私のことはきっと魔女か悪女のように思っているはずだ。

悪い王子様に侍る、悪い魔女。

それでいい。

私は、この人を守れる聖女であればそれでいい。

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― 新着の感想 ―
だからって限度がある。それが分からず被害者面をする社会のゴミはどこにでもいるものだ。凶悪犯罪者の生い立ちとかでよくある展開。 構ってほしければ父と姉に直接言え。頑張ったっていうのも、自分基準で頑張った…
独善がすぎる
ただのクズだ
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