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***



 アリーロザバラン共和国を構成する4つの国、それは、アリアス国、セペダバラン国、メッザ国、ポッポーロ国。

 アリアスとセペダバランは元より親密な国。そしてメッザとポッポーロは、アリアスとセペダバランの後ろ盾を得て国を名乗っている。

 共和国名は、各国名を少しずつ拾って構成されている。アリアスとセペダバランの間にメッザとポッポーロの文字があることから、4国は同列な親密国、という事を表している。


 そして、4国にはそれぞれ、大小様々なおとぎ話のような秘密の存在がある。



□■□



「……カジョ、ごめんなさい」


 ベルが、アリアス国王城を出た時と同じ言葉を、また呟いた。リラがまた魔力補充という名の‘奇行’を行っているため、よりいっそう沈んで聞こえてしまう。


 ここは、地図でいうアリアス国の右下、大陸の東の海に面した、アリーロザバラン共和国の1国のポッポーロ国だ。

 アリアス国の国境を抜けてすぐの草原、……ベルの手元の魔法陣紙が記した座標と、同じ場所。

 合わせて十数人ほどの大人と子どもが、もう既に到着していた。


 皆が一様に赤い髪をしている。……ベル(いわ)く、僕も邪気が無ければ似たような髪色になるらしい。


 〝草原の民〟、別名──〝烈火の一族〟。


 “あなたのお母様がきっとその血筋だから、私も話だけでも聞ければな、って思っていたの。でも……──”


 昨日、謁見が終わって王城から出て、ベルに丁寧な説明を受けてようやく理解をした。

 ベルは終始、申し訳なさそうな顔をしていた。


 僕は昨日からずっと、「ううん、大丈夫」と答えていた。


 ──そんな顔、必要ないよ。


 これもベルの知識だが、烈火の一族は炎を扱うのが得意な一族。そして()()()()()()()()()()()一族。


 宿に着くまでの話の途中で、ずっとのお別れじゃない、とベルは何回も言った。


 宿に着いてベッドに腰掛けた時、ベルの伝達魔法陣紙が光って文字が浮かび上がった。……僕はまだ文字があまり理解できていないから、内容は読み取れなかった。

 けれども、──……、


 “アリアス国で、必ずカジョを返して”


 ……──と言葉にしていたのを聞いて、胸が熱くなった。

 その後、女王からの返信で再び浮かび上がった文字にベルが安堵の表情を浮かべたから、必ずまた2人での旅路に戻れる、と確信した。


 ……だったら、僕がやる事はひとつだ。


 お互いに近づいて行く中、僕は先頭に立つ一際大きな体躯の、鮮血のような髪色の男を見据えた。


「……良い目をしている。さすがイルヴァの子だ」


 眼光の鋭さはそのままに、先頭の男がそう言った。


「お前、どこまで強くなりたい」


 先頭の男が、再びそう問うてくる。

 返答なんて、迷うまでもない。


「ベルを、守りきれるまで」

「ベルとはその隣の女か」

「そう。僕の恩人だよ」


 男はベルをちらっと見て、目を細めて言った。


「並大抵ではないぞ。()()()()では無く、()()()()……それでもか?」


 底冷えするような威厳。……けれども、そんな男の言葉にも、僕の思いは揺らがない。

 屈するのに反抗し、僕なりに睨みつけて答える。


「──何度も言わせんな。隣に立つだけじゃ意味が無いんだよ」


 暫しの沈黙。先に破ったのは、先頭の男の大笑い声だった。


「はははははははは!いいだろう!俺が直々に鍛えてやろう!」

「……頭領!連れて帰る話なんて……!」


 先頭の男の後ろから、何やらやり取りがなされている。纏めると、女王からの要請だから会うだけ会うが、要求を飲む気はさらさら無かったようだ。


 頭領、と呼ばれた先頭の男は、ベルに向き合って言葉を発した。


「チェスティーリージュ王国の第三の姫よ、この男の願いを聞き届け、必ずアリアスで返そう……良いな?」


 僕はここに来て初めて、ベルの顔をまともに覗き込んだ。……唇がぐっと閉じられ、眉が悲しそうに歪んでいる。

 ……傍に立つ僕だけが分かった。マントの下で度装束を握って、震えている。


「第三の姫よ、この男はそれだけの器だ。無下にしてやるな。……信じるのも親心だぞ」


 その言葉を受けて、ベルは度装束の中の手を解いた。

 そして先程までの緊張が嘘のように、優雅に最大の礼を取った。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ご存知の通り、チェスティーリージュ王国で王位継承権があります第三()()、ベアトリーチェ・ディラ・チェスティーリージュでございます。王国の威信に掛けて、誓います。──カジョを、信じます」


 そしてベルはマントの裾を摘みながら、更に深々と頭を下げた。


「どうか、よろしくお願いいたします」



***



「行くぞ坊主」


 烈火の一族の頭領のその言葉も、カジョが大きく頷いた風の音も、膝を深く折ったカーテシーのままの耳に刻んだ。


 さく、さく、と草原を踏みしめる複数の足音が遠ざかっていく。

 ゆっくり顔を上げてカジョの背中を見ると、一族と共に霧の魔術式に飲み込まれて行く所だった。


 ──どうか、無事で。


 私はそう胸中で祈りながら、霧と共にカジョが消えるまで見送った。



□■□



「……あの第三の姫、なかなかに果敢だったな」


 〝烈火の一族〟の後続の仲間が魔術式で霧を発生させた中、頭領がぽつり、と呟いた。

 僕は頭領の隣を歩いていて、他愛もない会話をすることになった。


「ベルは13才らしいけど、僕よりずっと大人だよ」

「へぇ、あの外見と知見で13とはな」


 頭領は純粋に驚いたように言い、顎に手を当て、何か思案するような表情をする。


「〝世界の意思〟からの恩恵が大きいのだろうな」


 ──〝世界の意思〟。

 ベルも、ちらりと言ったことのある単語。


「……〝世界の意思〟って、なに?」


 気がついたらそう呟いていた。

 頭領は「……あー、」と考え込みながら、答えてくれた。


「なんも知らねぇ奴らは、〝精霊〟とか〝創造神〟とか言う存在でな、当たらずとも遠からず、見えねぇけど確かに()()んだよ」

「〝精霊〟、〝創造神〟……」


 頭領の言葉をそう復唱していると、間髪入れずに頭領から強めの言葉が飛んでくる。


「坊主はそう呼ぶな。あの第三の姫と旅をし続けるなら、否が応でも分かってくるだろうからな」

「……わかった」


 本当は理解なんてできていないけれど、ベルとの未来を想えばそう返答ができた。


 なんとなく間が出来て、ちらりと頭領を見上げる。

 すると頭領は「ふっ、」と笑う。……やや不気味な雰囲気を乗せて。


「なんで笑うのさ」


 感じた一瞬の違和感を拭うためにそう言うと、頭領は僕の頭にばふっ、と手を置いた。


「いいか、よく聞け。第3の姫がお前と離れるのを渋ったのは、寂しいってだけじゃねぇ。俺らの一族は、〝世界の意思〟の遺産の1つを知っていて、それが()()()()()過酷な訓練なんだよ。……あの姫の震え方は、たぶんそれを知ってのことだろうな。千里眼かよ!ってな」


 含みのある‘過酷’の表現に、言葉を失う。


 ──確かに、ベルが震えるなんて初めてで……──、


 急激に脳内を思考が駆け巡って、ぶるりと身体が震える。

 ……しかし、頭に乗ったままの頭領の手が、わしゃわしゃと僕の髪を乱雑にかき乱す。左右の角を折るんじゃないかという勢いだ。勢いだけで痛くはないから別に大丈夫だが、その点もベルは優しくて丁寧なんだな、と初めて実感した。


「だがあの姫、最後にはお前を‘信じる’って言ったんだぞ。……だから気張れ。お前はやり遂げられるって信じられてんだ」

「……っ、当たり前だ!」


 頭領の的確な言葉に、別な意味で身体が震えた。武者震いとはこういう事か、と心のどこかで思った。


「……ふっ、その意気だ」


 頭領はそう言うと、僕の頭から手を離す。そして続けて言った。


「お前は俺が直々に鍛える。だから村に着くまで、俺の隣を歩き続けろ。少しも遅れるんじゃねぇぞ」

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