09 名前だけの恋人
久しぶりに楽しかった。
学校にいけていない俺でも、人と一緒に楽しむということができるという発見に喜びを感じた。
ユズは、俺が学校に行ってないって言ったら、どう反応するのだろう。
その事が、頭をついて回る。
希望として思っているだけなのかもしれないけれど、きっと馬鹿にしないと、思えた。
そして、学校に行っていない身でありながらも、普通の中学生になりたかった。
普通に恋愛をして、友情をはぐくんで、でもネット上だし普通には無理だから、名前だけでも、と思った。
だから、「付き合ってみようよ」と言った。
ただの好奇心。
いいよと言われて、嬉しかった。
心が少し安らいだ。
俺は、気持ち悪いやつなんかじゃないと、大丈夫だと思うことができた。
ゆ「ユズは彼氏とかいるの?」
唐突な質問に、私は少し驚いた。
心臓が一瞬だけ早くなった気がする。
ユ「いないよ」
ゆ「じゃあ、好きな子はいるの?」
ユ「いないかな」
確かにいないけれど、送信ボタンを押すのに勇気が要った。
指先が震えているのを感じる。
ゆ「人の心を冒瀆してるって思われる行為なのかもしれないけどさ」
ゆ「名前だけでいいから、ユズの彼氏になりたい」
あくまで、名前だけ、か。
嬉しいのに、どこか切なさを感じる。
だけど、「名前だけ」というところに彼のやさしさと遠慮が滲んでいるようで、胸の奥がじんわりと温かくなった。
ユ「いいよ」
ゆ「よかった ありがと」
その瞬間、胸の中に小さな光が灯ったような気がした。
名前だけの関係。
それでも、彼の言葉には不思議な安心感があって、画面越しに伝わる彼のやさしさに、自然と笑みが零れた。