表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/45

35 過去の一欠片

 

「構成、書き終わったよ」


「確認よろしく」


 昨日の深夜2時頃に、ユズから送られてきている。


「今日も学校あったのに、無理して体調崩さないといいけど」


 1人ごとのように呟いて、ゲーム構成のタブを開いた。



 序盤・中盤・終盤と表になって分けられていて、分かりやすい。


 自分じゃうまく言い表せないことが綺麗に語源化されていて、世界の核心を覗き込むような感覚が湧いた。



「ありがとう」


「分かりやすくて、言葉もうまくてすごくいい」


 ユズのチャットに打ち込んで、構成を深く読み始めた。


 ゲームのプレイ姿が浮かび、希望が膨らんだ。



 初心者でも使いやすいと書かれていた、ゲームエンジンをインストールする。


 読み込み中の文字に、緊張が重なり、心拍が上がっていく。


「これで、本当にゲームが作れるのかな」


 画面を開くと、広大な空間が広がった。


 何も形のない白紙の世界。


 マウスを動かすたびに、画面がぐるぐる回りよいそうな気分になる。


 初心者用のチュートリアルを読み進めて、まずは試しに、小さなキャラクターを作り、画面に立たせてみた。


 そのキャラクターはただの小さな四角いブロックだったが、それに愛着と喜びが湧く。


 背景の画像を選んで配置してみる。


 だが、キャラクターが動き始めると、動きがぎこちないのに気づいた。


 関節が変というか、上手く歩けていないというか。


 自然な動きにしたいと思い、物理エンジンの使い方を学び始める。


 ボールを転がしたり、重力の設定をしてみたり、試行錯誤していくうちにある程度、ブロックが滑らかに動き始めた。


 少しずつそのアプリに慣れ始めていく。


 家の中を進んでいき、ジャンプする姿に胸を躍らせた。



 翌朝、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。


 瞼の裏に昨日のコードとキャラクターの動きが焼き付いている。


「今日こそ、ユズが考えてくれた構成の方に本格的にとりかかろう」


 朝食を済ませて、すぐにパソコンの前に座る。


 昨日のファイルを開くと、キャラクターが静かに佇んでいる。


「記憶の断片を拾えるようにしないと」


 新しいオブジェクトを作成して、名前を付ける。


 見た目は小さな光の砂。


 触れると、過去の映像や音がフラッシュバックするような演出を入れたい。


 トリガーの設定を調べながら、コードを打ち込んでいく。


「これで、記憶がよみがえる感じにできるかも」


 テストプレイをして、キャラクターが光に近づくと、画面にその光の砂が散らばり、その中に映像やら音が吹き込めば、記憶がよみがえるように見える。


「あと、演出」


 画面を暗転させて、過去の映像を再生するという演出。


 まだ映像はできていないけれど、テキストだけでも雰囲気は出せる。


「あの日、誰かが僕の名前を呼んだ気がする」


 画面に表示された一文に、思わず息をのむ。


「物語っぽくなってきたな」


 夕方になるころには、3つの記憶断片イベントを作り終えていた。


 それぞれが少しずつ主人公の過去を語っていく。



「俺も、過去を吐き出したいのかな」


 出来上がっていく記憶の断片を眺めて、そう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ