35 過去の一欠片
「構成、書き終わったよ」
「確認よろしく」
昨日の深夜2時頃に、ユズから送られてきている。
「今日も学校あったのに、無理して体調崩さないといいけど」
1人ごとのように呟いて、ゲーム構成のタブを開いた。
序盤・中盤・終盤と表になって分けられていて、分かりやすい。
自分じゃうまく言い表せないことが綺麗に語源化されていて、世界の核心を覗き込むような感覚が湧いた。
「ありがとう」
「分かりやすくて、言葉もうまくてすごくいい」
ユズのチャットに打ち込んで、構成を深く読み始めた。
ゲームのプレイ姿が浮かび、希望が膨らんだ。
初心者でも使いやすいと書かれていた、ゲームエンジンをインストールする。
読み込み中の文字に、緊張が重なり、心拍が上がっていく。
「これで、本当にゲームが作れるのかな」
画面を開くと、広大な空間が広がった。
何も形のない白紙の世界。
マウスを動かすたびに、画面がぐるぐる回りよいそうな気分になる。
初心者用のチュートリアルを読み進めて、まずは試しに、小さなキャラクターを作り、画面に立たせてみた。
そのキャラクターはただの小さな四角いブロックだったが、それに愛着と喜びが湧く。
背景の画像を選んで配置してみる。
だが、キャラクターが動き始めると、動きがぎこちないのに気づいた。
関節が変というか、上手く歩けていないというか。
自然な動きにしたいと思い、物理エンジンの使い方を学び始める。
ボールを転がしたり、重力の設定をしてみたり、試行錯誤していくうちにある程度、ブロックが滑らかに動き始めた。
少しずつそのアプリに慣れ始めていく。
家の中を進んでいき、ジャンプする姿に胸を躍らせた。
翌朝、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
瞼の裏に昨日のコードとキャラクターの動きが焼き付いている。
「今日こそ、ユズが考えてくれた構成の方に本格的にとりかかろう」
朝食を済ませて、すぐにパソコンの前に座る。
昨日のファイルを開くと、キャラクターが静かに佇んでいる。
「記憶の断片を拾えるようにしないと」
新しいオブジェクトを作成して、名前を付ける。
見た目は小さな光の砂。
触れると、過去の映像や音がフラッシュバックするような演出を入れたい。
トリガーの設定を調べながら、コードを打ち込んでいく。
「これで、記憶がよみがえる感じにできるかも」
テストプレイをして、キャラクターが光に近づくと、画面にその光の砂が散らばり、その中に映像やら音が吹き込めば、記憶がよみがえるように見える。
「あと、演出」
画面を暗転させて、過去の映像を再生するという演出。
まだ映像はできていないけれど、テキストだけでも雰囲気は出せる。
「あの日、誰かが僕の名前を呼んだ気がする」
画面に表示された一文に、思わず息をのむ。
「物語っぽくなってきたな」
夕方になるころには、3つの記憶断片イベントを作り終えていた。
それぞれが少しずつ主人公の過去を語っていく。
「俺も、過去を吐き出したいのかな」
出来上がっていく記憶の断片を眺めて、そう思った。




