34 2人でゲーム制作
夜の風が冷たく私を吹き付ける。
その傍らで、私は塾の問題集を開いて、紙を使わず脳内で解いていた。
「ユズ」
「お。やっと来た。寒かったんだからね」
腕を手でさすって、少しでもと暖を取る。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃって」
暖かそうに光るお店の光に煽られて、「あのお店、入る?」と訊ねる。
「うん。入る」
「いらっしゃいませ」と、促されて、ファミリーレストランに入った。
「お店に申し訳ないし、一応何か頼む?」
机の横に置かれたメニューを広げる。
「そうだね」
「ゆうや。何に頼む?」
「ユズは、何頼むの?」
「私はこれ頼んでみようかな」
ワクワクした顔で指さしたのは、イチゴのクレープ。
薄い生地にたっぷりとクリームとイチゴが包まれておいしそうな輝きを醸し出している。
前なら恥ずかしがってあんまり頼まない商品だけど、美味しそうだし頼んでみようかなという気が湧いた。
「美味しそうだね。じゃあ、僕はその隣のカスタードプリンにしようかな」
「じゃあ、お店の人呼ぶね」
「うん」
店員さんが静かに音を立てて、テーブルへと近づいてきた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
落ち着いた口調ではきはきと声に出している。
「このイチゴクレープと」
ゆうやに目配せをすると、少し震えた声ながらに「この、えと、カスタードプリンを」と、注文を伝えられていた。
自分だけじゃない。
ゆうやも変化していくんだなということを捉えることができた。
「じゃあ、さっそくゲームの構想を考えていこうか」
横のリュックからパソコンを取り出して、私の方へ向けた。
「文章力は低いけど、一応、ここまでは考えてみてて」
開始時の設定としては、中学生くらいの少年が主人公で、一軒家に閉じ込められた状態。
名前も、どうしてここにいるのかも全ての記憶がなく、家の中の手がかりである、「記憶の断片」を集めていくという形。
アイテムを見つけるたびに、わずかな記憶がフラッシュバックする。
探索を進めていくうちに、自分が何かをやらかしてことを知る。
最初の方のストーリー構成は大体決まっていて、細かい部分を決めていく感じか。
「なるほど。ちなみに舞台はどうして一軒家にしたの?」
「サイトによると、小さい場所の方が作りやすいらしいから」
制作のしやすさ、製作期間、制作費用。
考えないといけないことがたくさんある。
「作りやすさも考えた方がいいのか。それに、一軒家は雰囲気も出るしいいかもね」
「こちら、カスタードプリンとイチゴのクレープになります」
店員さんによって商品が運ばれてきた。
限界というほどたっぷりと載せられたクリームとイチゴが美味しそうな雰囲気を醸し出していて、唾液が口に溜まる。
「食べようか」
ゆうやがそう言い、テーブルの横からスプーンを取り出して、一口、口に運んだ。
私もそれに倣うように、クレープをカプリと噛むと、口の中にイチゴの甘酸っぱさとクリームの濃厚さが溶けていった。
「零れそうだよ、クリーム」
ゆうやに言われて、クレープの下の方を見ると、折れたところの間からクリームが出てきていて、急いでその部分をなめた。
溶けかけたクリームもイチゴの甘酸っぱさが残っていって、ほんのり甘かった。
「ゆうや的には、どんな感じの雰囲気のゲームにしたいの?」
「雰囲気か。ちょっと怖めな感じとか」
「なるほど。じゃあ、こんな感じ」
スマホで、好きなイラストレーターさんのイラストを開いて見せた。
「うん。そんな感じ。カッコよくていいね」
「でも、依頼するにはコストかかりすぎるからね」
相場は分からないけれど、ある程度有名な方だし、相当なコストはかかってしまうだろう。
「そっか。難しいね」
「ゆうやって、絵得意?」
「いや、全然得意じゃない」
「私も」
「絵、無しはキツイよね。やっぱ、外注する?」
「でも、相場、数十万くらいらしいよ」
調べたスマホ画面を出して、私の方に向けた。
さすがに、その金額は無理だよね。
そうすると、自分たちで描くか。
いや、悠夜はともかく私は画力ないし、台無しになっちゃったら嫌だからな。
「AIとかあと無料で使っていいサイトもあるみたい」
AIなら、お金もかからないし、ある程度、上手さも保証される。
「それは、いいかもね」
今日の時点で、決まったことはこのくらい。
イラストは無料のものやAIのものを使うこと。
記憶の断片として主人公が書いた手紙や飾られた顔写真、本棚の中のレコードなど。
この一軒家は主人公の家で家族もいたこと。
プレイヤーの葛藤や苦しさを誘うような作り方をしたいこと。
家族と対立して、殺めてしまったという過去を主人公は持っているということ。
そんなことをゆうやとシェアしてあるタブにまとめて、目を閉じた。
まどろみの中へとそっと溶けていった。




