33 自分のやりたいことに進め
母に学校に行かなくてもいいと言われてから、もう数か月が経った。
最初は自分の自由を手に入れられたような気がして、ただゲームをして過ごす日々に満足していた。
けれど、毎日のように送られてくるユズの受験勉強の話に焦りを覚え、ただゲームをしているだけの時間が虚しく思えた。
「自分の進みたい道に、好きなことを」と母は言っていた。
その言葉は、今でも気味が悪いほど心に反響している。
ただ、好きなこととは何なのか。
ゲームをしているだけでは何か物足りない。
ユズも受験に向けて着実に動き出している。
だから、自分も何か新しいことに挑戦したい。
自分の好きはおそらくゲーム。
それは、逃げなのかもしれないと思う時もあるけれど、ゲームをしているときは少なからず、夢中で楽しいし、好きということで合っているのではないかと思う。
「好き」なのだろうという気持ちが固まった時、ふとゲームを作りたいと思った。
自分の今までの人生の中で感じたことを最大限伝えられるようなゲームを。
ただの思い付きかもしれない。けど、今の自分には何よりもずっとその思い付きが輝いて見えた。
パソコンで、ゲームの作り方と検索すると、色々なサイトが出てきた。
まず、ゲームの構想を練ってから、仕様書を作って、そのゲームに必要な画像や音声を準備する。その後に、キャラクターの動きなどをプログラミングして、テストプレイ、という順で制作するらしい。
色々なタブを見ていると、ユズからチャットが来た。
ユ「やっほ」
ゆ「やっほ」
ユ「今日、9月の模試が返ってきたよ」
ゆ「お どうだった?」
ユ「偏差値70 1ポイントだけど挙がったよ」
ゆ「すごいじゃん おめでと」
ユ「ありがとう」
ゆ「12月までに合格圏行けそう?」
ユ「このまま順調に進めばね」
ユズの勉強が上手くいっていることを知って、少し安心する。
このまま順調にいくとは限らないけれど、希望が言葉に映し出されていて、暖かくなった。
ゆ「そっか。頑張ってね」
ユ「うん。頑張るよ」
ユ「ゆうやは何かいいことあった?」
ゆ「うーん。いいことは特にないかな」
ゆ「だけど、ゲーム作ってみようかなって思ってる」
ユ「マジ⁉応援するよ」
ゆ「ユズはゲームの作り方とかって知ってる?」
ユ「テレビとかで見たことある程度かな」
ゆ「調べると、構想を練ってから、素材を集めて、からプログラミングで作るみたい」
調べたサイトに戻って、簡単にまとめる。
ユ「そうなんだ」
ユ「構想、なんとなく考えてるの?」
ゆ「本当になんとなくなら」
ゆ「今までの人生で感じたことを最大限伝えられるようなストーリーにしたいかな」
ユ「なるほど」
ユ「今までの人生で学んできたことって、例えば?」
ゆ「過去と向き合う勇気とか、逃げた結果、伸し掛かってきたもの、他人の必要性とか」
ユ「なるほど」
ユ「最初の開始時の設定は思いついてるの?」
ゆ「一緒に行った本屋で買ったマンガの記憶喪失ってのを考えてる」
ユ「なるほど。いいと思う」
ユ「そのゲームって私も協力してもいい?」
ゆ「いいけど。受験勉強があるのに負担にならない?」
ユ「なるけど、楽しそう」
ユ「だから、その気持ち優先する」
ユ「時間を作り出すことは得意だからさ。きっと大丈夫」
ユズは強い。
常々、そう思わされてしまう。
弱いなんて顔をしているけれど、立ち向かう力がある。
ゆ「それなら少し、ユズの才能を借りたい」
ユ「え、才能?いいよぉ」
ゆ「考えるのは一緒になんだけど、構想を資料にまとめるのをお願いします」
ユ「いいけど。上手くいくか分かんないから期待しないでよ」
ゆ「どんな形になってもユズが作ったならそのまま受け止めるから大丈夫」
ゆ「でも、楽しみにはするけどw」
どんどん膨れ上がっていくゲームの構想に、ワクワク感が増していった。
 




