03 罪悪感と逃げ
部活を終えて、家へ帰宅した。
靴を脱ぎ棄ててリビングへと進む。
「ただいま」と小さく呟いても、返事がないことは分かり切っている。
「どうせ。もう、母は私なんか関心はない」
中学受験で、北川東中に落ちた私なんかに。
現実から逃れるために、机の上に置いてあったスマホを開いた。
スマホを握りしめると、冷たいガラス越しに映る自分の表情が少しぼやけた見えた。
タップ一つで現実と仮想の間の戸が開く。
画面が光を放ち、カラフルなロゴが現れて、私の推しキャラ・澪音がスマホから顔を出した。
少女育成ゲーム。
これが親に見つかったら、もっとしつぼうされてしまうことはわかってる。
だけど、この苦しい世界とは別のところにいけるという快感にどうしても抗えない。
ゲームが起動されると、自動的に流れてきたガチャをタップして漫然と回していく。
「コインゲットか」
いいことであるはずなのに、自然とため息がこぼれてしまう。
宝箱を空けたり、キャラを育成したり、フレンド申請を送ってみたり。
何も意味のあることはしていない。
だけど、まだゲームの中の世界に居たかった。
フレンド募集欄を淡々とスクロールしていく。
すると、アイコンが澪音になっている人がいた。
澪音は人気がないということはないが、メジャーというわけではない。
アイコンにしている人を見たのは、数えるほど。
「ゆうや」
アイコンをタップして、フレンド申請をタップした。
玄関から鍵を開ける音が聞こえて、私はスマホを閉じた。