18 ユズとの静かな月夜
「やっほ」
後ろからユズに驚かされた。
心臓が飛び上がるほど驚いてしまった。
最近外出てないから緊張してるって言ったのに。
少しの苛立ちと恥ずかしさで青が赤くなるのを感じる。
「酔っ払いさん、いなくてよかったね」
瞬くように笑う彼女。
「うん よかった」
「じゃあ、改めて、自己紹介でもする?」
口角を吊り上げた楽しそうに笑う彼女は、チャットとは別人みたいだ。
彼女の微笑みと笑顔だけで、今にも、さっき来た夜が明けてしまうくらいの破壊力を感じる。
「私は、白川柚葵だよ。夜と数学と花火が好き」
何かを欲するような寂しそうな顔で笑う。
「ゆうやも言ってよ」
緊張した面持ちで、声がガタガタと震える。
「俺は、高橋悠夜。よろしく」
「うん。改めてよろしく」
握手を促すように右手を差し出され、俺と彼女は握手を交わした。
その手の体温にも、涙腺が緩むほどのやさしさを感じる。
だが、その後に気まずい空気が流れてしまい、胸の奥に不安が広がる。
「じゃあ、連絡先でも交換しようか」
気まずい空気を破るように、彼女はスマホを取り出した。
「このQR、読み込んで」
差し出されたスマホをカメラから読み込み、白川柚葵を登録した。
スマホの画面には、見慣れない通知がいくつかならんでいた。
家から出ていなければ、使うこともなく、半年ほど放置していたせいで、アプリの更新や未読メッセージが溜まっていた。
画面に映る「白川柚葵」という名前を見つめて、何かが少しずつ動きは始める感覚があった。
長い時間止まっていた時間が、再び流れ出すような予感。
「高橋悠夜。ピンとこないからゆうやに名前変えていい?」
「いいよ」
夜の静寂の中、彼女とかわす言葉が魔法のように聞こえてくる。
「なんかさ、ユズってもっと闇が垣間見える感じの雰囲気を予想してた」
「何それ。まあ私もゆうやもっと、怖い感じだと思ってたけど、結構おどおどしてた」
「それは、最近外出てなかったからって言ったじゃん」
「ごめん、ごめん。そうだったわ」
軽口をたたき合って、笑い合う。
深い話はしなかったけれど、どこか懐かしく楽しい時間だった。
 




