表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/45

16 妹も私と同じだ

 雲に乗ったような軽さ。


 身体がふわりと宙に浮かんだような感覚。


 景色はぼんやりと夢の中のように歪み、風がそっと頬を撫でる。


「楽しみ、だな」


 目の前の笑いながら、話している集団を見て、淡く感じた。



「ただいま」


 家の扉を開けて、小さく呟く。


「あ、お姉ちゃん。この問題教えてよ」


 妹が飛び跳ねるように、教科書を差し出す。


「うん いいよ」



 妹だけが受かったというだけで、妹は悪くないんだ。


 だから、妹に当たっちゃいけない。


「この問題」


 連立方程式の問題。



 ある学校では、音楽クラブとスポーツクラブがあり、どちらかに所属する生徒が合計で80人います。そのうち、音楽クラブの人数はスポーツクラブの3倍より4人少なく、音楽クラブとスポーツ裏部の両方に所属している生徒が5人います。音楽クラブだけに所属する生徒の人数を求めてください。



 こんな問題も解けないんだ。


 なのに、どうして私が負けたの。


 妹は悪くない。 


 それは分かってる。 


 だけど、どうしても認められない。


 怒りが胸の淵から湧いてきてしまう。



「出てくる情報を線で引いて」


 自分の声に後悔と苛立ちが混じる。


 どうしても、冷たい声になってしまう。


「引いたよ」


 冷たい声で言ったのに、正反対の明るい声が返ってきて、恨みたく泣きたくなってしまう。


「この文からわかる需要なところは、音楽クラブの生徒はスポーツクラブの3倍より4人少ないっていうところと両クラブの合計が80人っていうところ。そこから、連立方程式立てられる?」


「えと、x+y-5=80ってところは分かるよ。だけど、もう一つの立て方が分からない」


 問題用紙を指さしながらペンを進ませる。


 でも、ただ、その姿に少し懐かしい気持ちになった。


 どこか不器用なその手つきに、かつての自分を思い出す。


 胸の奥に懐かしさと切なさが残る。


「ねえ、莉桜りおって勉強好き?」


 莉桜は妹の名前。


 私は夏生まれ、妹は春生まれだから、この名前。


「教科によっては好きだよ 数学は嫌い」


「そっか」


「あのさ、お姉ちゃん私のこと嫌いでしょ?」


 その言葉に胸が詰まる。


 確かに、嫌いだ。


 妹よりも自分の方が優れているはずなのに、妹の方が賢いことになってるから。


 その想いが、心の奥底で苦しみとなって、生まれる。


「うん 嫌い だけど、莉桜が悪いわけじゃないってのは理解してる」


「それでも、私はお姉ちゃんのこと尊敬してるし、好きだよ」


 莉桜は優しいんだ。


 私なんかと違って、邪な気持ちを持っていない。


「そっか。ありがと」


 心が少し温かくなった。


「もう1つの式は、音楽クラブをxとして、重なってる5を引いた数=スポーツクラブから重なりの5を引いて、それに3倍。そこから4人少ないの4を引く式になるよ」


 莉桜は指差しをしながら、ノートにその数字を書き込んでいく。


「x-5=3(y-5)-4?」


「そう。合ってるよ」


「なるほど。ありがと」


 かっこを外して、連立方程式を解いていく。


「これで合ってる?」


 解答用紙を指さして、心配そうに尋ねる。


「うん。合ってるよ」


 そう笑い掛けた瞬間、扉の方からガチャガチャという鍵の音が聞こえた。


「莉桜。何やってるの? お姉ちゃんなんかに教えてもらわなくていいのよ わからないなら、私が教えるから」


 まなじりを吊り上げた険相の顔つきで私を睨みつける。


 どの言葉に胸が締め付けられる。


「分かったよ」


 乱暴に立ち上がって、階段を上がっていく。


 妹は唖然としていて、妹の無力さを感じてしまう。



 自分の部屋のドアを鋭く締めて、ドアにもたれかかる。


 妹も昔の私と同じだ。


 母に逆らえない。 怖いんだ。


 深くため息をついて、座り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ