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フェン編8

世界は多くの願いが落ちている。

 ーお金が欲しいー

 ー空を飛びたいー

 ー過去に戻りたいー

いろんな願いだ。

もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。

これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録の合間の物語。

今回はフェン編です。

フェンはどんな風に過ごしていたのか、なぜ守護者となったのか。

「見届けるって……。どうせ止める気でしょ?」

 うんざりしたような顔をして私は言った。

「……いいえ。私にはあなたを止める権限はもうないのですよ。」

怪訝そうな顔をした私にアルは続けた。

「願有者に対しての権限は願いが叶うまで存在します。あなたは願い、それを叶えた。守護者は願いが叶うまでの間の願有者の身の安全の保障をするような役割ですからね。」

「そう。でも私の計画を聞いたら多分誰もが止めると思うけど……。」

「そこまでの計画なら1人の方が大変なのでは?手伝いますよ。私だって元人間です。大切な人を理不尽に奪われたあなたの気持ちはよく分かる。」

「何でもできるアルに何が分かるのよ。私じゃなくてアルならお師匠様を助けられたんでしょうに。」

 アルはそこで上を向き、ぶるり、と肩を少し震わせてから言った。

「……そんなことはありませんよ。私だって……を、大切な人を失った……。」

「……。」

かける言葉が見つからなかった。

どう接すればいいのか分からず、オロオロしているのが伝わったのか、アルはまた元の様子に戻って言った。

「あぁ、大丈夫ですよ。もうかなり昔のことです。あなたからしたらだいたい300年後の話ですが……。」

「……?どういうこと?」

ふふ、とアルは笑って言った。

「それは内緒ですよ。あまりペラペラと話すことではありませんしね。それに、次に会う時の話すネタが無くなってしまいますから。――あぁ、ここだ。」

そう言ってアルは立ち止まった。

「ここから私は進めません。ここからはあなた1人で進んで下さい。」

「え?私分からないわよ?」

「決まりですから……。大丈夫です。あなたはあなたの進みたい道へ進めばいいのです。……それが、破滅への道だとしても。」

「どういうことよ。アル、さっきから肝心なことだけは言ってくれないのね。」

アルは少し足元を見つめ、しっかりと私に向き直り、小さな人形を渡して――――と言った。

「――」

「今は言ってはダメです。それは何が起こるか分からない呪文です。」

「……!なんでそれを……?それにこれは?」

「……それはきっとあなたを守ってくれる。唱えた者のための呪文。人形は、それを実現させるための魔力です。使って下さい。」

アルが何かに驚いた顔を一瞬した跡、またアルが悲しげな顔をした。

「さきほどの話を聞く限り、あなたはおそらく自身を苦しめる呪いとなるでしょう。ですから、私からは1つだけ。」

そこまで言ったアルは一呼吸おいて、重々しい口調で言った。

「あなたの師匠を忘れるな。」

それだけ言うと、アルはスッと霧が消えるようにいなくなってしまった。


「破滅……か。」

破滅。

考えたこともなかった。

自分の計画がバレていたのだろうか。

まぁ、そうなのかもしれないな。

奪われた者が復讐心に駆られ、奪い返しにいくと言う話は別に良くあるだろうし。

関係ない。

破滅しようと、私がどうなろうとも。

大切な人は帰ってくることはない。

それでも。

それでも、せめてもの餞になるのなら。

この気持ちが少しでも晴れるのなら……。

……良いのかもしれない。

私は何も悪いことをしていないお師匠様を殺された。

目の前で。

あいつが憎かった。

今でも思い返せばあの優しい歌が聞こえてくる。

今でも思い返せば一緒に食べた料理の味が思い出される。

指先には、まだあの温かい手の感触が残っている。

そして……わずかに残った温もりが消えてしまった瞬間の感覚も。

あぁ……。

今ならわかる。

分かりたくもないことだ。

――どれほどお師匠様に愛されていたのか。


私は足を踏みだした。

迷うことはないだろう――そう確信していた。

私が進む道は私が進んだ道だ。

誰が止めようと。

それが誰かを傷つけることでも。

たとえ進んだ先が地獄だろうと。

私は進むだろう。


しんと静まり返ったその場には、数滴の滲んだ跡が残っていた。

「……やっぱり行っちゃったかぁ。」

滲んだ跡を眺めながら、ポツリとアスラは言った。

「一応、止めたのですが……。」

ラフェナの向かった先を見つめるアルはバツが悪そうに言った。

「止めた、ねぇ。色々渡してたじゃないか。」

「う……。」

「君の助けがなかった場合、あの子は何もできずに死ぬ運命だった。そして、カリナも何も成し遂げることはなく、君は元からイラヴェルナに居なかったことになるんだ。君はここから逃げ出したかったのでは?」

「……分かってます。でも……。」

「でもじゃあない。私は君にチャンスを与えたつもりだったんだ。君が逃げる最後のね。だが、君はどうしたことか、1守護者としての立場を大きく超えてあの子に余分なものを渡した。何をしたのか、分かっているんだろうね?もしかすると君も裁きに巻き込まれるかもなんだよ?」

「……ええ、覚悟の上です。あの子をこちらの世界に取り込むことでカリナは救われる。あの子がカリナを救ってくれるんです。」

アルの目はラフェナが成し遂げると信じているようだった。

それは今でも、未来でも。

アスラははぁ、とため息をついて呟いた。

「やはり、こうなるのか……。運命の歯車は簡単には取り外せないもんだな……。」

ここまで読んで下さりありがとうございます

とうとう願いを叶えてもらったラフェナ。

彼女が進む道の先には…

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