フェン編5
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録の合間の物語。
今回はフェン編です。
フェンはどんな風に過ごしていたのか、なぜ守護者となったのか。
しばらくその場で雨に打たれていたが、もうお師匠様はここにはいない。
そのことに気づき、ふらふらと立ち上がると、しっかりと服についた泥を払い落とした。
もう怒られることなんて無いのだから。
しっかりしないと。
立ち上がると、連れていかれた時にでも落としたのだろうか、お師匠様のヘアピンが落ちていた。
「あ……。お師匠様の……。」
急いで拾い上げて、泥を服できれいに落として、ポケットの中に大事にしまうと、地面に投げたキノコや薪、籠などを拾っていく。
全てを拾い集め、家へと戻る。
「ただいま。」
ついいつもの様に言ったが、もう返してくれる人はいない。
お師匠様が飲んでいたであろう、冷たくなったココアが机の上に置かれていた。
「はぁ……。」
思わずため息をついた。
どうして。
どうしてお師匠様は魔女と言われたんだろう?
そう思いながら、おじさんに言われたところを漁る。
すると本当に”遺言”とお師匠様の字で書かれた手紙があった。
――ラフェナへ。
あなたがこれを読んでいるということは私はもうこの世にはいないのでしょう。
あなただけを残して逝くのは心配の方が勝つけれど、最近発作の回数が増えていつ死んでしまってもおかしくないから……。
病気を怨んじゃだめよ。
だってそのおかげであなたと出会えたのだから。
あなたを拾った時のこと今でもよく覚えている。
あの人――ルヴァルのもとから去ったとき、一人さみしく歩いていると、小屋を見つけたの。
今の私たちの家よ。
あなたはその家の中で一人で遊んでいたわ。
ご両親が帰ってくることを信じて。
ご両親は、私が去った時には既に磔にされていたの。
なぜ分かったかって、異端だと明らかに分かる様な家の内装だったからよ。
急いで証拠となり得る物を隠して、帰ろうとしたの。
何も知らないあなたが可哀想だったから……。
空き家だと思っていたけれど、住人がいるなら仕方がない。諦めて出ようとすると、あなたは私についてきた。
両親はもう戻ってこないことを幼いなりに理解していたのね。
私は自分に私が世話しないとこの子は死ぬ、だから私はこの子と生きるって決めたの。
だから私が死んでいたらあなたは生きていなかったわ。
感謝して欲しいわね。
まぁ、いいのだけれど。
思ったよりも長生きができて楽しかったわ。
ありがとう。
あなたのおかげで生きる希望が湧いたの。
当時のあの人ったら今の奥さんと浮気していたしね。
ほんと嫌になっちゃう。
今思えば滑稽ね。
私がラフェナに言えることはこういう事だけね。
他人を癒やしなさい。
きっとあなたを助けてくれる。
何に対しても傷つけない。
それはどの様な事であってもきっと自分へ返ってくるから。
あなたはあなたの味方であること。
自分を信じれない人にとって、自分の行動を軽んじてしまう。それでは人を癒せないし、どんなものにも傷つけてしまうわ。
この3つね。
あなたにとっては簡単でしょう?
私がいないからって破るのは無しよ。
空の上からしっかりみてるから。
約束よ。
何があろうと、私はあなたの味方。
あなたはあなたが正しいと思ったことをしなさい。
生きていれば何とでもなるから。
じゃあね。生きて、いろんなことをして、そうして死んだらやったこと全て教えてね。
でもつまらなかったらいつもの調合練習の様にもう一回やり直してもらうわ。
さぁ、自分だけの人生楽しんできなさいな。
あなたに出会えて本当に幸せでした。ありがとう。
あなたの師匠であり続けたかったミネアより。
「……っぐ、えっ……。」
涙が止まることを知らないかの様に流れ続け、手紙の文字を滲ませる。
ようやく何とか落ち着いてきたので、家を少し片付けることにした。
床の上に放り投げられた薬草の瓶を拭いて並べ直していく。
ひとつひとつに触れるたびに、そこにいたお師匠様の気配が蘇った。
片付けを進めていくうちに私の思考は1つの結論へとまとまっていった。
「きっと……お師匠様は何かで家にあの人たちを入れなくちゃいけなくて。それで私のバカな親が遺した物を見つけて魔女だって言ってたんだよね……。」
寝室にはお師匠様が隠していたであろう両親の魔女だと言われてもおかしくない様な書物や書き殴ったあとの紙切れが散らばっていた。
もう怒りしかなかった。
でももうどうしようもない。
私は無力なんだ。
何もできない子供だから……。
……。
……いや。
違う。だからこそできる。
生きているからこそできることなんて山ほどあるのだから。
どうしたらこの怒りを晴らせるのか。
「殺してやろう。お師匠様は何もしていなかった。何なら人々を癒していた。でも殺された。……なら殺しても構わないよね?その行動は自分に返ってきても文句は言っちゃダメってお師匠様、言ってたもんね。」
そう思いながらも片付けは進んでいく。
「……あれ、何これ?」
棚の奥から知らないもの出てきた。
少し錆びついた歯車の様なものだ。
「うーん……。お師匠様、またなんか変なの買ってたんかなぁ?まぁいいや。置いとこう。」
机の上に歯車を置いて続きをしようとしたが、色々動きすぎたのか机に突っ伏して寝てしまった。
ここまで読んでいただきありがとうございます
この短編集は更新未定です
できたら投稿、みたいなスタイルでこれは進めていく予定なのでよろしくお願いします
また、本編の方は水曜日、土曜日に一話ずつ更新しているのでそちらもどうぞ!