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フェン編4

世界は多くの願いが落ちている。

 ーお金が欲しいー

 ー空を飛びたいー

 ー過去に戻りたいー

いろんな願いだ。

もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。

これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録の合間の物語。

今回はフェン編です。

フェンはどんな風に過ごしていたのか、なぜ守護者となったのか。

「ガッ!」

痛みが顎に強く響き、べちょっと顔に泥がつく。

何が起きたのか分からなかった。

気づくと、飛び出した瞬間、おじさんの部下に地面に叩きつけられた様だ。

かなり頭がクラクラする。

「うぅ……。」

「こいつ仲間っすかねー?隊長、どーします?」

「どうするもこうするも、こんなガキが魔法なんて使えるわけがねぇだろ。ちょっとは考えろよ。まぁ、そいつはこれを処刑してからだ。仲間っぽいならその後捕まえて処刑すれば良い。」

「そ、そうっすよね。じゃあもう離してもいいか。ごめんよ、チビちゃん。痛かっただろ?おじちゃんに見せてみ――」

「あだっ!」

思わず叫んでしまう。

押さえつけていた手から解放された瞬間、勢いよく起き上がった私の頭が押さえつけていた兵士の顎にクリーンヒットした様で、地面に崩れ落ちていく。

自分の頭も痛いが、とりあえず1人撃破だ。

そばに落ちていた物干し竿を拾うと、勢いよくそのまた近くにいた部下に殴りかかった。

「うおっ⁉︎」

襲いかかってくるとは思っていなかったのか、驚いた様子で無抵抗で殴らせてくれた。

もう1人はもう一度拘束しようと走ってきた。

私も走り出し、逃げながらさっき落とした籠を拾う。

中身を地面に投げ捨てると、私は鎧を着て走っていたせいで息切れしているおじさんの最後の部下の頭に籠を被せて、物干し竿で殴ろうとしたが、部下は急に苦しみ出して倒れてしまった。

もしかしてベリルのかけらがちょこっと残っていたのかも。

まさかここまで即効性があるとは思っていなかったが、なんにせよラッキーだ。

「お師匠様に何したの、おじさん。」

そう言って物干し竿を構えながらおじさんに向き直る。

「おー、怖い怖い。そんな泥だらけで睨んでると可愛い嬢ちゃんが台無しだぜ?それと……こいつを庇うたぁ感心しねぇな。こいつは“魔女”の容疑がかけられている。庇うと仲間として一緒に処刑されるぜ?」

おどけた様子で笑いながら言うおじさんの目は笑っていない。

まるでもう関わるな、処刑者は少ない方がいいとでも目で訴える様にこちらを見つめてくる。

それでも睨みつけて言う。

「お願いだから私たちに関わらないで!私たちは何も悪いことなんてしていないじゃない!誰にも……迷惑かけていないわ!」

「あぁ、そうだ。“お前”は何もしていない。」

 おじさんは少しつらそうに言った。

「俺だってこんなことやりたくねぇよ……。嬢ちゃん、幸せだったんだろ?そんなのに手を出したいやつなんかいねぇ。……でもな。」

おじさんはお師匠様から手を離し、こちらへとある物を向けてきた。

「それでも俺がこうするのは家族がいるからで、自分が可愛いからだ。嬢ちゃんが幸せだった生活を守りたい様に、俺だって……幸せを守りたいんだ。」

おじさんは雨に打たれてさらに鈍く黒く光る筒が私に向けた。

私はその得体の知れない黒いものを気にも留めず、物干し竿を構え直す。

守りたいものがあるなら、私だってそうだ。

 ――とにかく、前に出るしかなかった。

 ただ、大切な人を守りたかっただけなのに……。

おじさんは苦い顔をしながらこちらに向かって何かしてくることは無かった。

『バンッ』

乾いた音が響く。

「あ……、は、はは。ル......ヴァ、あ……りが……と……。ラフェ......ナ、元......気で......。」

お師匠様の最後の声が雨に溶けて消えていく。

驚いたことにおじさんは私ではなくお師匠様にとどめを刺した。

「……なんで。なんで……なんで?お師匠様!返事して!」

お師匠様に駆け寄り、体を揺さぶる。

昔ならここまで揺さぶることないでしょ!って怒るのに、全く反応がない。

お師匠様の体から温もりがどんどん失われていく。

「ダメ……、ダメ……。死んじゃいやだよ!」

私の泣き叫ぶ声だけが辺りに響き渡る。

おじさんはずっと悲しそうな顔をしていた。

 

「……ん、いてて……。なんだ?」

起き上がった部下たちが何事かとこちらに近づいてくる。

「殺したんですか?隊長。」

「……あぁ。これが正しかったのかは分からんが……、処刑するヤツはもうここにはいない。これでお前らの仕事が減るだろう。回収して戻るぞ。俺は今日は直帰するから、報告、頼むな。」

「はっ!」

もう手遅れなのは明らかだったが、なんとか戻ってきてもらおうと家にある薬草などで色々していた私を引き剥がすと、お師匠様の体を袋にサッと詰め、おじさんの部下は持っていってしまった。


「……これが多分1番正解だったんだ。処刑される人を少なくしたかったんだ。嬢ちゃんの幸せを壊しちまって……すまない。」

おじさんはポツ、ポツと話してくれた。

「嬢ちゃんのお師匠様――ミネアはな、もう長く生きられなかった体だった。昔……結婚まで約束していた恋人だったあいつは……重い病気になり、俺の前から消えたんだ。」

衝撃の事実だ。

「そんなの……知らない。」

ありえない。お師匠様はずっと1人で生きてきたと言っていた。

「信じられないよっ!」

そう言いながらおじさんに詰め寄る。

「本当だ。……そして、やっと街で再会して最近の状況とかを報告しあって。最近は発作も出なくなって、元気なんだって。お互い幸せになれたんだなって思ったのに、急に魔女だなんだと言われて……。頭が真っ白になった。」

おじさんは寂しそうに笑う。

「あいつ、幸せそうだったよ。嬢ちゃんと出会って、発作も減って……まるで治ったみたいだった。でも違ったんだ。最近また、ひどくなっていて……。」

おじさんの顔がだんだんと泣き顔になっていく。

「ちゃんとした病院に無理矢理にでも入院させるべきだったんだ。たとえ嬢ちゃんとの幸せをぶっ壊してでも……。そうしていたら、魔女だなんて言われずに済んだかもしれない……。」

涙を堪えながらおじさんはもう行くよ、元気でなと言った。

「あぁ、ミネアから調合棚のキシュルの瓶のそこに手紙を遺しているって聞いたことがある。もしあったら読んでやってくれ。じゃあな。」

そう言うとおじさんは馬へ乗って森の奥へと消えていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます

この短編集は更新未定です

できたら投稿、みたいなスタイルでこれは進めていく予定なのでよろしくお願いします

また、本編の方は水曜日、土曜日に一話ずつ更新しているのでそちらもどうぞ!

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