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フェン編2

世界は多くの願いが落ちている。

 ーお金が欲しいー

 ー空を飛びたいー

 ー過去に戻りたいー

いろんな願いだ。

もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。

これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録の合間の物語。

今回はフェン編です。

フェンはどんな風に過ごしていたのか、なぜ守護者となったのか。

「ただいま!お師匠様、いい感じのキノコ取ってきたよ!」

泥だらけになって、この後怒られるのに気づいていない私――ラフェナは籠いっぱいに森で取ってきたキノコをお師匠様に見せた。

「あら、お帰りなさい。……って泥だらけじゃない!」

あ、と今の自分の状態を見てみるとかなり泥だらけだった。

「やっば!」

そう言って私は玄関先へ飛び出した。

「もう、あれだけいつも泥だらけで入ってこないでって言ってるのにすぐ忘れるんだから。」

お師匠様の呆れたような声がする。

またやらかしちゃったな……と思いながら出来る限り泥を落としていく。

「今度こそただいま。」

「おかえりなさい。……ラフェナ、貴方ちゃんと''食べられる''キノコか食べられないキノコか見極めて取ってきたんでしょうね?」

うーん、火に通せば何とかなるだろうと思って目について美味しそうなキノコを取ってきたつもりだった。

何かあったのだろうか。

「そのつもり……だけど?」

「……、取ってきた貴方が責任もって食べなさいね。ちゃんと見分けられるようになるでしょうから。」

「お師匠様は?」

「私はいいわ。死にたくないもの。」

「えっ。」

「貴方が食べれると判断して持って帰ってきたのでしょう?でも残念。半分は毒キノコよ。」

いつものようにやらかしちゃったな。

はぁ、と肩を落とした私に優しくポンポン、とお師匠様は頭を撫でる。

「まだまだね。頑張りなさいな。」

そういうと、お師匠様はキノコをササッと食べれるものと食べれないものに分けた。

そしてガッと勢いよく食べれるキノコを手で掴み、豪快にグツグツと煮えている大鍋の中に放り込んでいく。

「混ぜる!」

手伝いたくて、道具棚からお玉を持ってくる。

「わかったわ。こっちは任せるから頼んだわよ。こぼしたら晩御飯が減るからね。」

「うん!」

そういうとお師匠様は庭の方へ育てている野菜を収穫しに行った。


「いただきます!」

「いただきます。」

手を合わせて一緒に言うと、1日が終わったんだな、と感じる。

晩御飯はちょっぴり少なくなってしまったキノコのスープとお師匠様と焼いたパン、一緒に育てたじゃがいもを使ったポテトサラダだ。

「おいしい!」

そう言いながら私は料理をかき込んでいく。

「ゆっくり食べなさい。むせるし、逃げないわよ。」

ふぅ、と一息付きながらスープのおかわりをしに行く。

「……あんまり食べると誰かさんが豪快に混ぜたせいでこぼしたのを忘れたのかしら?明日の朝の分が無くなるわよ?」

「う。」

そう言われるとおかわりの難易度が跳ね上がる。

「……辞めとく。」

とてつもなく固い決意が必要だった。

しかし、明日の朝ご飯の分だと言い聞かせることでどうにかおかわりを諦めることができた。

「あら、そう?」

明日の分が確保されてお師匠様は嬉しそうだ。


晩御飯の片付けが終わり、お風呂に入って布団に入る。

布団に入ったら、寝たふりをしてお師匠様を待つ。

お師匠様に歌を歌ってもらうためだ。

昔から毎晩お師匠様が歌う子守唄がないと眠れない私は、いつ来るかな―と暗い部屋の中ゴロゴロする。

「今日も起きているのね。そろそろ1人で寝たらどうなの?」

しばらくして、そう言いながらお師匠様はいつものように私の横に横になる。

「多分その時はお師匠様がおばあちゃんになって、死んじゃった時なんだろうな。だからあと少なくとも50年は歌ってもらわなくちゃ。」

そう言うと、お師匠様は何言ってるの、と笑い出す。

「貴方、いつまで私と暮らすのよ?遅くとも貴方がお嫁に行ったらそこでおしまいよ。」

「え?お師匠様、ついてこないの?」

「なんでよ?」

とうとうお師匠様は吹き出してしまった。

私はいつでも真剣に考えているのに。

「さぁ、もう寝ましょう。明日も早いわ。」

そう言うと、お師匠様はいつもの歌を歌い出した。

私はその歌を聴きながら眠りに落ちていった。

 ――やさしい子や、やさしい子よ

母のぬくもりに抱かれて眠れ

朝待つ子や、朝待つ子よ

朝の光に導かれ行け

あなたの行方は 誰のもとへ……


次の日、お師匠様は朝ご飯の後、何かを大鍋で煮込んでいた。

「今日は何を作るの?」

「今日は鼻水や熱に効く薬を作るのよ。アンドレアさんとこの子が風邪をひいたようなの。あ、そこの棚のベリルの実をとって欲しいわ。」

「ベリル……ベリル……あ、あった。はい。」

中身の少ないベリルの実が入った瓶をお師匠様に渡した。

「危ない!」

お師匠様の叫び声が響く。

その瞬間、乗っていた台が傾くのを感じて私は急いで飛び降りた。

「っと。あっぶね。」

「怪我は無い?ベリルは?」

「大丈夫、落としてないよ。」

手にしっかりと握りしめたベリルの小瓶をお師匠様に見せる。

「良かった。熱してない状態で触るとかなりただれるから......。」

「そうだった!良かったー、触んなくて。」

ほっとする私からベリルを受け取り、煮込み途中の大鎌にそっと少し入れる。

「もうそろそろ採集にも行かないとね……。」

「ほんと?じゃあ行ってくる!」

「いつもの採集場所わかるかしら?」

「うん、多分。」

最後に行ったのいつだけな……と思いながら答える。

「本当に大丈夫?」

「もう、お師匠様ったら心配性なんだから。私もう14歳だよ?もうなんでもできるもん。」

「はぁ……。14歳なのに毒キノコを大量に取ってくるからそう思われるのよ。なんでも、ならキノコの見分けもできるわよね?」

「うっ……。」

その通り過ぎて何も言い返せない。

しょぼんと落ち込んでいる私に籠を渡してお師匠様は言った。

「まぁ、人には得意不得意があるものね。私だって運動ダメだし。ただ、運動はなんとかなってもキノコの見分けは流石に覚えてもらわないと。生きるか死ぬかの問題だからね。さぁ、ベリルの採集お願いするわ。私はこれが完成したらアンドレアさんの所へ行ってくるから、帰ってきてまだ私がいなかったら畑の水やりもお願いするわね。」

「うん!行ってきます!」

「ちゃんと手袋着けなさいよ!」

「分かってまーす!」

そう言って私はベリルが自生している森の中へと走っていった。

大好きなお師匠様に早くたくさん集めて褒めてもらいたかった。

 

――この時はこれがお師匠様と過ごせる最後の瞬間になるとは夢にも思っていなかった。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます

この短編集は更新未定です

できたら投稿、みたいなスタイルでこれは進めていく予定なのでよろしくお願いします

また、本編の方は水曜日、土曜日に一話ずつ更新しているのでそちらもどうぞ!

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