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AIと自分の境界線 ~AIの力を自分の力と過信しないように

 上司が出世をした。

 まぁ、目出度い話ではあるのだと思う。でも、僕らには納得いかない事情があった。その上司は着任して来るなり、「俺は仕事をしたくないから、仕事を覚えない」と宣言をし、実際に仕事を覚えなかったのだ。当然ながら、仕事は部下である僕らに丸投げ……、いや、それすらしない事すらあった。仕事があるのに指示も何もしないから、僕らが自主的に勝手に仕事をしたのだ。

 だから、普通に考えれば、その上司が出世できたのは僕らのお陰だという事になるだろう。ところがその上司は僕らに感謝を一切しなかった。しかも僕らは何ら給料は増えなかったのだった。

 つまり、成果の横取りをされたのだ。

 これで彼が僕らに申し訳ないとか思っているのならまだマシだ。だが、そんな様子は微塵も感じられなかった。

 

 「あの人は、ジャイアニストだったのか」

 

 などと冗談を言ったりをして誤魔化したりしたが、まぁ、信じられない気持ちでいっぱいだ。

 ところが、ネットを検索してみると似たような事例はたくさんヒットした。そこで心理学の本で調べてみると、「部下の成果を自分の成果」と錯覚してしまう現象は人間には頻繁に観られるらしい。“権力の腐敗”と呼ばれているようだけど。

 考えてみるまでもなく、人間社会の歴史には、支配者層が社会全体を私物化して物凄い規模の犠牲者を出すケースが多々ある。だからそれは実は不思議でも何でもない話なのかもしれない。

 僕にはその心理は理解できないけど。

 

 そんなある日の事だ。

 僕はサーバー移行の仕事を任されて頭を悩ませていた。今までのサーバーは直に外部との連携が可能だったのだけど、移行後のサーバーではプロキシサーバーを一度経由しなくてはならなくなった。が、その為のプログラムをどう書けば良いのかまるで分からなかったのだ。

 ちょっと専門外のプログラム言語だったもんだから。

 それで僕はチャットAIを頼る事を思い付いた。それまではそれほど利用していなかったのだけど(得意分野では利用するまでもなかったんだ)。

 既存のプログラムをコピペし、チャットAIに指示を出す。

 「これをプロキシサーバー経由の処理に書き換えてくれない?」

 すると、AIは「もちろんです」と変な返しをした後に、簡単にそのプログラムを書いてくれた。

 “おお! こんなに上手くいくとは!”

 軽く感動を覚えた僕は、「できれば、プロキシサーバーのIPとポートを変数で外出しして欲しいな」と指示を出した。するとAIはやはり容易くプログラムを書き換えてくれる。

 それに僕は大いに浮かれた。

 AIで生産性が上昇するという話は半信半疑だったけど、その威力を思い知った感じだ。

 僕はそれで「AIに指示を出したのは自分なんだ」とちょっと気持ち良くなっていた。誇らしい気持ち。

 でも、そこでちょっと冷静になった。

 「いや、これ、ほとんど仕事をしたのはAIだよな?」

 そして、そこで僕らの仕事の成果を横取りし、なおかつそれに何ら罪悪感を覚えていそうにない上司を思い出したのだった。

 

 “権力の腐敗”

 

 なるほど。

 つまりは、こーいう事か。

 

 と、それで僕は思った。

 

 近年になってAI絵師なる肩書きが誕生している。AIに絵を描かせる人間達の総称だ。このAI絵師の中には、自分の実力を過信し、ラフ画も描けないのに、イラストレーターとして就職しようとしたり、“努力によって実力を身に付ける”という概念が理解できないのか、自分の絵柄を確立しているイラストレーターに対し「絵柄を独占している」と批判してしまったりする人がいる(どうやら、画力を運だけで手に入れたと勘違いしているらしい。なろう系テンプレ作品では、運で能力を手に入れる設定の世界があるけど、そのような世界観を持つ人は本当にいるのだ)。

 そういった人達は、AIに対して“権力の腐敗”の状態に陥ってしまっているのではないだろうか?

 そのような状態が、精神衛生的に健康だとは思えない。

 或いは、今後、僕ら人類がAIとの付き合いを考える上で新たな臨床医療の分野が必要になるのかもしれない。

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