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絵姿の男




 場所を変えて、オリバー様も交えて食事をとることになった。

 食事をとりながら、ふとお父様がオリバー様へ顔を向ける。


「オリバー様。うちの馬車をお貸しするのは構わないのですが、あなたが乗ってきた馬車はどこに?」

「俺は馬車で来ていないんですよ」


 オリバー様が答えた。王都からここに来るのには、普通であれば馬車だ。自前の馬車でないのなら、馬か乗合馬車になる。彼が乗合馬車に乗って来るとは思えないので、馬で来たのかもしれない。


「では馬ですか?どこかに繋いでおられる?」

「いえ。飛んできました」

「は?」


 私たちは彼の言っている意味が理解できず首をかしげる。


「魔法で空を飛んできました」


「はぁっ??」


 家族は声をそろえる。王都でも飛ぶ魔法など聞いたことがないし見たこともない。皆驚愕の表情だ。


「オリバー様。そんな魔法ありましたっけ?」

「なかったけど、できるかなって思って、やってみたらできた。結構魔力を使うから、複数属性で風の適性がないと難しいかも。きっとティナもできるよ。一緒に練習しよう」

「凄いですね!絶対練習します!」


 にっこりと笑って彼は頷く。オリバー様と空を飛べたら楽しそうだ。


「二人でほっこりしてるんじゃないわよ……え?空を飛ぶって凄いことよね?魔術師様ってこういうもの?」


 ユリアーナ姉様が困惑している。でもオリバー様は規格外すぎるのでこういうこともあるだろう。


「す、凄いですね。飛んで来たのなら何日ぐらいで?」


 お父様がどこかダメージを受けた様子で聞いた。


「魔力切れが怖くて途中の街で下りたりしましたので、三日ぐらいはかかりました」

「三日!?」


 王都からローマイア領まで馬車だと二週間近くかかるし、馬でも一週間以上かかる。驚きの早さだ。


「飛んでいれば山も登りませんし、川も関係ないですから。王都で今後の俺の立場の根回しを終わらせた頃に兄が逃げたと聞いて、すぐに来ました。兄を探すために、子爵に挨拶もせず街に潜んでいました。申し訳ありません」

「はぁ。それは構わないのですが」


 私はそこで、見たことのない男がこそこそと隠れながら怪しい動きをしているという噂があったことを思い出した。


「もしかして、噂はオリバー様のことだったのですか」

「あぁ、怪しい男の噂のことは、カイに聞いたよ。俺のことかもね。でも盗みはしてない。それは兄じゃないかな」


 カイ様は良く街を散歩していた。オリバー様に街で会っていたのだ。


「カイ様と街で会っていたのですね」

「うん。ギディングス家の嫡子がお前になったって報告したら、分かったって言って慌てて王都に帰っちゃったけどね」

「……それは、そうなるでしょうね」


 ローマイア領でのんびりしていたら知らぬ間に自分がギディングス家の次期当主になったと聞かされたカイ様の心中を察して、私は少し気の毒になった。


 そこでオリバー様は何かを思い出したように、そうだ、と言った。


「子爵夫妻に見ていただきたいものがあります」

「何でしょう」

「この絵姿の男性を、ご存知ありませんか」


 オリバー様が取り出したのは、古ぼけた小さな絵姿だった。白銀の髪の男性が、朗らかに笑っている。


(誰だろう)


 絵姿を覗き込んだ両親は目を見開くと、そのまま固まってしまった。両親の反応を観察していたオリバー様は納得したように頷いた。


「やはり、ご存知でいらっしゃる」

「いいえ!し、知りません。一体、どこのどなたでしょう」

「そうですわ。見たこともない方です」


 両親は冷や汗をかきながら否定している。どこか必死になって。


「子爵。俺は別に、あなた方を裁こうとか、そういう意図はないんですよ。ただ、知りたいだけです。ティナのために」

「私の?」

「ティナ。この人は、ラングハイム侯爵の弟、ルイスだ」


 ラングハイム侯爵というと、フロレンシア様のお父様だ。つまりこの絵姿の男性はフロレンシア様の叔父様ということになる。両親はかつてフロレンシア様の叔父様と面識があったということだろうか。


「ルイスは十数年前に死んだ、光属性の魔術師だ。俺は、ルイスについて一つの推論を立てて、ラングハイム家からこの絵姿を借りてきた」


 オリバー様は両親の方を向いた。


「ルイスはある日突然姿を消して、そのまま帰って来なかったらしい。死亡したということにしたが、実は失踪していたんだ」


 お父様はじっとオリバー様を見つめ返し、一つ息を吐いた。


「……そうですか。この人はルイスという名だったのですか……」


 お父様がぽつりとつぶやいた。


「あなた!」

「オリバー様はもう、セレスのことを知っているんだろう。わざわざこの絵姿を出すぐらいだ。取り繕っても仕方がない」


 お父様が諭すようにお母様に言った。私は何となく、この絵姿の男性の正体が見えてきた。お父様はもう一度絵姿を見て、ふっと笑う。


「知っています。ただ、我々はこの人をティオと呼んでおりました。彼は決して名を我々に告げませんでしたから。まさかラングハイム家の方だったとは……」


 お父様が答えたのを見て、お母さまはため息をついた。


「お金も何も持っていなくて、身なりも汚くて。とても貴族とは思いませんでしたわ。でも、不思議と……助けてあげたくなるような。彼が笑うと場が朗らかになるような、そんな男性でした」


 お母様の言葉に、オリバー様が頷く。


「そうですね。いまだに親世代はルイスの話をします。周囲に愛された人物のようですね」


 私は絵姿の人物を見た。こんな顔をしていたのかとぼんやり思う。彼はなぜ、王都を出なければならなかったのだろう。


「どうか、一緒にラングハイム家へ行っていただけませんか」


 オリバー様が言った。両親は沈黙する。


「俺は、彼が若くして死んだ光魔法の魔術師で、明るく人から慕われた人物だったということしか知りません。でも、もっと彼の事を知っておくべき人がいる」


 彼は私を見た。両親も、兄様たちも。


「この人は、私の父……なんですね」


 両親は少し複雑な表情をして私の方へ顔を向けた。私は二人に向かって微笑む。


「私、知りたいです。なぜラングハイム家の子息だったはずの父が身重の母を連れて辺境まで来る必要があったのか。そして母が誰なのか」


 私はオリバー様を見た。彼も私を優しく見返してくれる。


「実の親のことを知って、自分のルーツを知って……それでようやく、セレスティナ・ローマイアとして胸を張ってここで生きていけるような気がするから」


 皆、私を本当の家族として受け入れてくれていることは分かっている。でもどこか、自分が家族の慈悲によって生かされている存在であることを後ろめたく思う私がいた。どこの誰とも分からない自分に、自信が持てなかった。

 お父様は決意したように席を立った。


「分かった。一緒に王都まで行こう。だがな、セレス。お前は誰が何と言おうと、私たちの娘だ」

「そうよ。あなたは可愛い私の末っ子よ」


 両親が私を抱きよせる。兄様と姉様たちもその上から覆いかぶさり、私はぎゅうぎゅうになってしまう。


「セレス!戻ってくるのを待ってるからな」

「次は雪解けの後かしら?寂しいわ」

「また庭でお茶を飲みましょう」


 ぽろぽろと涙がこぼれてくる。いつだって家族は温かく私を受け入れてくれている。


「はい……!」


 そんな私たちを、オリバー様は何も言わずに優しく見守ってくれていた。










ここまで読んで下さりありがとうございます!


もうちょっとだけ続くんですが、

土日用事が詰まっており、投稿休みます(土下座)


最後まで休まず投稿するとか言ってたのにすみません……汗


セレスティナとオリバー君の話をオチまで読んで下さったらとても嬉しいです。


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