クラス分け
入学式が終わり、クラス分けが発表される。掲示板の前には人だかりができていた。
クラス分けは、入学前に受けた魔力の適正テストと学力審査の結果によりおこなわれるという。優秀な生徒からAクラスに入れられ、Eクラスまで分けられるらしい。Eクラスから自分の名前を探すが、なかなか見つからない。
「セレスティナ、お前Aクラスだぞ」
「えぇっ!アロイスは?」
「俺はBだ」
慌ててAクラスの名簿を確認すると、そこには確かに私の名前があった。
学力審査の自己採点が似たような結果だったので、アロイスとは同じクラスだと思い込んでいた。彼がいれば安心だと思っていたが、クラスが違えばそうも言っていられない。さすがに少し不安になってしまう。
「頻繁に顔を見せにいく」
アロイスが言った。しかしクラスが違う彼に甘えれば、彼の学業に影響が出てしまうかもしれない。私はアロイスに微笑んだ。
「心配しないで、アロイス。たった半年だけど、私だって令嬢教育はちゃんと受けたもの!お互い新しいお友達を作りましょう」
「しかし……」
「困ったことがあれば、ちゃんと相談するわ!」
こういう事態も、一応想定していたのだ。私が胸を張ると、アロイスはため息を吐いた。
「俺がAクラスに上がれるように頑張るよ。いいかセレスティナ。Aクラスは高貴な方が多い。くだけた言葉じゃなく敬語を使って、名前に“様”を付けるんだ」
「分かってるわ」
「名前といっても、家名だぞ」
「分かってるわよ!」
彼がいつまでも私にあれやこれやと注意するので、クラスのオリエンテーションが始まるわよ、と無理やり話を中断させ、教室に向かう。
しかしなぜ私がAクラスなのだろう。何かの間違いではないだろうか。
(間違いでした!って言われるんじゃない?)
でも一つ嬉しいことがある。あのオリバー・ギディングスと同じクラスなのだ。同じクラスなら、きっと挨拶もできるだろう。
Aクラスに入ると、中にいる生徒たちは既に談笑していた。Aクラスの生徒の多くは元々友人同士なのだろう。名簿にあった名前は高位貴族の家名ばかりだった。
当然ながら私に知り合いは一人もいない。席表の張り紙を確認して、自分の席へ向かう。
ギディングス様はすぐに見つかった。人に囲まれている黒髪の美青年。彼だ。
(ギディングス様、やっぱり素敵!お話できたらいいな)
アロイスによれば、彼に馴れ馴れしくしたり仲良くなろうなどと思ってはいけないらしい。それであれば、私が友人関係を築いても良いのはどういう人なのだろう。学校でずっと一人はさすがに寂しい。
しばらくすると、男性教師が入ってきた。学校のことや授業のことについて説明をしてくれる。概ね事前に聞いていた通りの内容だ。一通り説明が終わると、それぞれ自己紹介をするようにと言った。
「まず俺だな。俺はハンス・アイマーだ。アイマー先生と呼んでくれたらいい。属性は風と火だ。じゃあギディングスから。名前と、魔法属性。あと一言な」
「実演もしたのに、また俺からですか」
教室は笑いに包まれる。彼は人気者らしい。
「オリバー・ギディングスです。属性は水、火、土、風。実演で言ったように、魔法についていろいろと研究できればと思ってます」
彼が属性を言うと、教室はざわついた。口々に「四つ……!?」「すげぇ」などとつぶやいている。珍しいのだろうか。
「さすがギディングス。四属性は中々いない。はい、じゃ次」
それからも次々と自己紹介が進んだ。自己紹介を聞く限り、属性が一つの生徒ばかりである。複数属性はアイマー先生とギディングス様ぐらいだ。私は内心冷や汗が出る。
「じゃ、次。ローマイア」
「ひ、ひゃい」
変な声が出た。恥ずかしい。
「セレスティナ・ローマイアです。属性は光と風、土です。魔法について何も知識がありませんので、しっかり学びたいと思っています」
私がそう言うと、教室はしんとした。私が三つも属性を持っていることが予想外なのかもしれない。
「ローマイアが三属性持ちなことは、俺も判定師から聞いてる。さすがAクラスだな。複数属性が二人!はい、じゃ次」
淡々とアイマー先生が進行してくれたので、私は席に座り直した。
(複数属性ってこんなに珍しいの?判定師の方が興奮していたのは光属性が珍しいからだと思ってた)
確かにアロイスの属性も火だけだった。ローマイア家にはもちろん、周囲に魔術師がいなかったので、そのあたりの感覚が分からない。
次々と生徒が自己紹介をしていく。私はじっくりと彼らの話を聞き入る。まずクラスメイトの名前と顔を覚えたい。
「フロレンシア・ラングハイムです。属性は火。将来優秀な魔術師になれるように努力したいと思っています」
そう言った彼女は見たことがないほど綺麗な令嬢だった。可憐な見た目だが、意思の強そうな眼差しで
ある。
(ふぁぁ……美人でしっかり者なんて……あんな女性になりたいなぁ)
ラングハイム様の事はギディングス様の次に勝手に頭に焼き付いた。いつか親しく話せたらとは思うが、ラングハイム家とは誰もが知る大貴族だ。きっと私が気軽に話してはいけない方なのだろう。身分というのは本当に厄介なものである。
(挨拶できたらいいな)
挨拶だけでもあの素敵な令嬢と交わせたら嬉しい。また機会を伺おう。
オリエンテーションが終わると、今日はこれで終わりだ。周囲は続々と席を立って教室をでていた。私も寮へ戻ろうと荷物を片付ける。
ふと前を見ると、ギディングス様が帰るところだった。しかも一人。これはチャンスだ。私に唯一許された挨拶ができそうである。
「あ、あの!ギディングス様」
「なに?」
彼は急に声をかけた私に不審そうな目を向ける。私は一番彼に伝えたいことを口にすることにした。
「私、セレスティナ・ローマイアです。入学式での魔法の実演、とても綺麗で感動しました。水の花がどんどん広がって、しゅーっと一つになって消えるとこなんて、鳥肌が立ちました。本当に!」
彼はぽかんとした顔で私を見た。そんな顔も格好いい。毎日このお顔が見られるなんて幸せしかない。それだけで頑張れそうだ。
「それで?」
「……?それだけです!また、挨拶してもいいですか?」
「まぁ挨拶ぐらい、クラスメイトだからいいけど」
「良かったぁ。では、また明日!」
私はギディングス様にぺこりと頭を下げ、とてもいい気分で教室を出た。
校舎を出ると、アロイスがいた。男の子と話している。もう友達ができたらしい。
(羨ましい。私にもお友達ができるかしら)
クラスメイト達は明らかに爵位が上の方々ばかりだった。ギディングス様とお友達になるのは難しいだろうし、私としては女の子のお友達がほしい。
とはいえ焦りは禁物だ。まず魔法の勉強。そして令嬢らしく振る舞って、高位貴族の方々に不快な思いをさせないようにしなければならない。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろからアロイスの声がした。
「セレスティナ!なんで先に行くんだ!」
「また明日ねー」
アロイスの邪魔にならないようにもしなければ。私は彼に手を振って寮へ戻った。
寮は一人部屋である。物語でよくある相部屋のお友達を期待していたので、一人部屋だと知ったときは少しがっかりした。
とはいえ明日からの魔法の勉強が楽しみである。とりあえず、今日はギディングス様に挨拶できたことに満足して、ベッドにもぐりこんだ。