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ギディングス家の長男



 平日は放課後、ギディングス様に光魔法をかけ、週末はギディングス家に行き彼と実習に向けた訓練と光魔法の研究、そしてローマイア領のためになる魔法について考える。そして度々夜に彼と魔石で話をする。

 つまりこの数週間、ギディングス様と四六時中一緒に過ごしている。


 そんな状況を繰り返していると、さすがの私もギディングス様に慣れてきて、彼の言動により真っ赤になったり緊張することは減ってきた。もはやクラスでは私とギディングス様は公認の恋人同士のような扱いになっており、私が何度訂正しても「はいはい」といった具合に流されてしまっている。

 週末のギディングス家には毎回クライバー様とフロレンシアが来てくれている。四人で話をすることも多いものの、どことなく二人も私たちを生暖かい目で見るようになってきた。


ローマイア領のための魔法は迷走中だ。一番の問題は長期間に及ぶ冬ごもりなのだが、雪を全て消し去ることなどできない。雪による問題は多岐にわたるものの、魔術師がいないローマイア領で継続的に活用するにはどういった魔法がいいのか、二人で頭を悩ませている。


 学校では実習に向けて本格的に魔物について学び、魔法の実践授業も熱が入ってきた。

 魔物は人間を食べる。小さな魔物でも、大きな魔物でも、その特徴は変わらない。だからこそ、人間にとっての脅威として見られている。

 普通の動物との決定的な違いは、その身に魔石を持っていることだ。生きている間は厄災のような存在である彼らも、死して魔石となれば生活の重要な資源の一つとなる。


「ぼけっとすんなー! 小さい魔物でも、油断すれば大怪我だからな」


 今日もアイマー先生が喝を入れている。

 今は発動までの時間を縮める授業だ。私は光魔法でテロをして以降、授業では光魔法をほぼ封印し、風と土魔法の発動を主にすることにした。複数属性の術者は基本的に魔力量が多く、正確性に優れているらしいが、実際私は割合苦労せずに授業をこなしている。といってもこれはギディングス様の訓練の賜物による部分も大きいと思う。


 周囲ではクラスメイトがそれぞれ魔法を発動している。初めの授業の頃と比べれば、皆魔法の破壊力が大きくなっていた。


「とりあえず、どんなに小さい魔石だろうが一つ持ち帰ればそれで合格だ。気負う必要はない! まぁ、お前らは大丈夫だ」


 実習の課題は魔物を倒し、魔石を持ち帰るというものだ。アイマー先生によれば、Aクラスの生徒は魔力量が多い者がほとんどで、魔法の練度も高いという。


「ふぁぁ……心配……」

「ティナなら大丈夫。余裕だよ」


 ギディングス様が軽い調子で言う。ローマイア領では殆ど魔物が出ない。私は初めて魔物と対峙するのだ。どれだけ大丈夫と言われても、不安は尽きないものだ。




「明日ね」

「はい。本当に緊張します……!」


 ギディングス家でいつもの四人とお茶を飲んでいると、自然と実習の話になった。実習はいよいよ明日なのである。


「ローマイア嬢なら大丈夫だと思うよ。授業のとき風魔法で的をバンバン壊してたし、すごい強度の岩も出してたじゃないか」

「うん。正直ティナはかなり強いよね。何よりあの光を最初にぶち込めば、楽勝だろうし」


 クライバー様とギディングス様は緊張のかけらもない。私以外は三人とも魔物を倒した経験があるらしいのだ。


「セレスティナが緊張する気持ちは分かるわ。私も初めて魔物を狩りに行くときは恐ろしくてたまらなかったもの」

「フロレンシア様……!」


 フロレンシア様が優しく語り掛けてくれたので、私は彼女に抱き着きたくなった。不安に共感してくれるだけで嬉しいものだ。


「これは学園の実習だから、教師もいるし、魔物も弱いの。大丈夫よ」

「はい……!」


 私が頷くと、ギディングス様は不満げな顔をした。


「俺も大丈夫だって言ってるのに、なんでティナはフロレンシア嬢の言う事に納得するんだろうな」

「オリバー。お前には共感ってものが欠けてるんだよ」


 クライバー様が軽口を言い四人で笑い合う。そうして和気あいあい過ごしていると、屋敷の中から見慣れない人影がこちらに向かってくることに気が付いた。隣のフロレンシア様はその人物に気が付くと、眉を寄せる。


「デニス様……」


 ギディングス様とクライバー様も表情を変え、デニスと呼ばれた人物を見据えた。

 その人物は、面差しがギディングス様に似ているように見えるが、印象は全く違う。

 陰鬱として、暗い。


(あの方がギディングス様のお兄様?)


 彼は私たちの近くまで来ると、にぃっと笑った。


「よぉ、オリバー。それに、フロレンシア嬢。お前は、カイだな。それと……誰だお前」


 一人一人を指さしながら、最後は私を見下すように言った。私はあからさまな蔑視に、声が詰まってしまう。


「デニス兄様。彼女は、俺のクラスメイトです」

「へぇ。Aクラスか。じゃあそこそこ魔力があるんだな」


 デニス様は品定めするように私を上から下まで凝視した。どこか目の焦点が合っていないような、不気味な人だ。私は彼の視線が不快で肌が粟立ってしまう。


「兄様、今日はどうされたのですか。最近は部屋から出ておられなかったようですが。体調が優れないようでしたら、戻られては?」

「うるせぇよ!もう当主気取りか?偉いもんだなぁ、四属性様は。休日に女を侍らせてよ」


 デニス様は唾を飛ばしてギディングス様に反論した。ギディングス様は表情を変えずに立ち上がった。


「今日はお開きにしよう。明日もあるしね」

「あぁ。……デニス様、失礼します」


 クライバー様も立ち上がりデニス様に礼をした。フロレンシア様も立ち上がったので、私もそれに倣う。ぺこりとデニス様に礼をして足を踏み出すと、彼はぐっと私の腕をつかんだ。


「おい、お前。属性はなんだ」

「え……っと」

「ほら、答えろよ」


 私を見る目が怖い。何となく、この人には自分のことを言いたくないと思ってしまう。デニス様は何も言わない私に苛立ったのか、腕をつかむ力を強くした。


「デニス兄様、やめてください」


 ギディングス様は私の腕をつかむデニス様の手を取り、引き上げた。そのままデニス様と私の間に立つ。デニス様はそんなギディングス様を見て口元を歪ませた。


「へぇ。……こいつか。そうか。おかしいと思ったんだ」


「君はもう帰れ」


 ギディングス様が私にそう言うと、何も言わずにフロレンシア様が私の手を引いてその場から連れ出してくれた。





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