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放課後



 いつも通り朝教室へ向かうと、ギディングス様はすでに自席へ座っていた。


「おはようございます!ギディングス様!」

「おはよう、ティナ」


 彼は私を見てほほ笑んだ。昨夜は良く寝られたらしい。彼の顔色は改善し、隈も薄くなっている。私は安心してほっと息をつく。

 もっと元気になって欲しい。私は彼に近付いた。


「では、さっそく魔法を」


 私が手を出して彼に魔法をかけようとすると、ギディングス様はそれを制止した。私は首をかしげる。


「朝はやめておこう。君はまだ魔力操作を習熟できていない。魔力を使いすぎて授業に差し障るかもしれない」

「では、いつ……」

「うーん。放課後にしようか」

「放課後。そうですか」


 朝だったら人がいないから丁度いいと思ったのだが、ギディングス様は私のことを考えて提案してくれているのだ。


「分かりました!ではそうしましょう」


 私がそう返すと、彼は目を細めて頷いた。



 今日の授業が終わり、鞄に荷物を入れる。隣のロミルダ様と談笑していると、いつの間にかギディングス様が目の前に立っていた。


「ティナ」

「ギ、ギディングス様!」


 ロミルダ様の前でその呼び方をするなんて。私は思わず赤面し、うろたえてしまう。


「行こう」


 慌てる私に構うことなく、ギディングス様は涼しい顔である。周囲が私たちに注目している気がする。ロミルダ様は手を口元に置き、目を見開いている。


「セレスティナ様……いつの間に」

「ロミルダ様が想像されているようなことはありません!」

「セレスティナ様にわたくしの兄を紹介しようと思っていましたが、ギディングス様がお相手でしたら兄などお話になりませんわね」


 ロミルダは訳知り顔で頷く。彼女は完全に勘違いしてしまったらしい。


「ロミルダ様、その、ギディングス様と私はそういった関係では」

「まぁ、恥ずかしがらなくてもよろしいのに」


 私が慌てて否定するが、余計に彼女は確信めいた様子になってしまう。ギディングス様はロミルダ様に構うことなく私の肩を叩いた。


「ティナ、おいで」

「はい!……ではロミルダ様、さようなら」

「まぁっ。えぇ、また明日、ゆっくりお話ししましょうね」


 ギディングス様がさっさと歩いていくので私は彼を追いかける。

 彼女は意味深な笑みを浮かべていた。きっと明日は根掘り葉掘り痛くもない腹を探られるに違いない。全部ギディングス様のせいである。私は彼をじぃっと恨めし気に見詰めた。ギディングス様はそんな私をおかしそうに見返している。


「どうしたの、ティナ。何か笑える顔してるね」

「……フロレンシア様がギディングス様にきつく当たる理由が少し分かりました!」

「へぇ。俺は未だにさっぱり分からないよ」


 いかにもどうでも良さそうに、ギディングス様が呟いた。そんな彼を見て、私は眉間の皺を深くしたのだった。



 ギディングス様の後をついて歩いていくと、空き教室の前まできた。彼は迷いなく教室の扉を開けると中に入っていく。


「この教室に入っていいのですか?」

「うん。許可を取った。これから毎日使えるよ」

「そうなんですか!」


 一体何と説明して許可を取ったのだろう。まぁ彼がすることに間違いはないだろう。


「では、ギディングス様。魔法をかけます」

「うん。頼むよ」


 ギディングス様の黒いモヤは胸のあたりが濃く、胴体部分を包んでいる。見れば見るほど不快感が押し寄せる。こんなもの、全てなくなってしまえばいいのだ。私は手を出した。

 私は光がギディングス様の黒いモヤ部分に収束するイメージで魔法を発動した。

 教室全体が明るくなっているが、昨日よりも光は分散せずにギディングス様に向けて光っている。


(消えろ、消えろ)


 自分の手から出る光が、ギディングス様の悩みを少しでも軽くできるなら、とても嬉しいことだ。私は自分の魔力の残量に気を配りつつ、黒いモヤが消え去るように光を出し続けた。


「有難う。ティナ」

「はぁっ、はぁっ。いえ!もう少し長くできれば良いのですが……。あぁ、良かった。黒いの、更に薄くなってます!」

「うん、確かに昨日よりもっと体が楽になったような気がする」


 ギディングス様は自分の体を確認するようにつぶやいた。彼の黒いモヤは先ほどより色合いを薄くした。一気に消し去ることができれば良いが、それは難しいようだ。


「凄いよ。本当に、ティナには感謝だ。実は、学園に来るのも結構辛かったんだ」


 しみじみと、ギディングス様が言った。常にない彼の態度に、私は意外に思う。よっぽど体が辛かったのかもしれない。


「ギディングス様。まだ私はやり遂げてません!そういうことは、黒いのがなくなってから言ってください!」

「ははっ。そうだね」


 ギディングス様は胸を張る私を見て、くつくつとひとしきり笑うと、ぐっと伸びをした。


「これだけ回復したら、実習も大丈夫そうだ」

「実習、緊張します。魔物を倒すんですよね」


 あと一月ほどすれば、魔法を使って実際に魔物を倒す実習がおこなわれるのだ。今、授業は実習に向けた内容になっている。実習に行く場所は弱い魔物しかいないエリアらしいが、それでも怖い。


「ティナなら大丈夫だよ。君の光魔法で目くらましをすれば楽に倒せる」

「光だけでなく土魔法と風魔法も使ってカッコよく倒したいです!」


 魔術師がカッコよく魔法をきめているポーズと取ると、またギディングス様が笑い出した。


「はははっ。じゃあ、また週末に練習しようか」

「ギディングス様に教えていただけるのですか!」


 そういえば私は毎週末ギディングス様の家に行くのだろうか。確かに彼の研究に協力することには了承したが。


「それにしても、君にはして貰ってばかりだな。俺にできることがあれば何でも言って。これから毎日時間と魔力を使ってもらうことにもお礼がしたいし」

「お礼ですか……!」


 別に見返りなど考えていなかったものの、彼の好意を突っぱねるのもそれはそれで失礼かもしれない。私は手を顎に当てて考え込む。


「うーん。今は考えつかないですね。また思いついたらお願いします!」

「ゆっくり考えて。いつでもいいよ」


 彼はそう言うと、なぜか私の頭を撫でた。


(ひぇぇー!なぜこの流れで?これが既にご褒美だわ!)


 私は硬直してされるがままになる。ギディングス様は優しく私の頭を撫で続けたのだった。




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