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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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さすがは『パパ』ですね。

 タモンは朝も早くから馬の鞍にまたがり揺られていた。


 メデッサの町を出るまでは『男王』であることを誤魔化すために、いかにもふんわりとしたスカート姿のいいところのお嬢様という格好のままだった。出発したあと、着替える間もなかったのでその格好のままで部隊の中心にいる。


「外国のお姫様……かしら。綺麗ね」


 町を出て、農民の人たちからはそんな囁き声が聞こえてくる。


 目立たないための女装だったはずなのに、この周辺では珍しい格好なのか兵たちの中心にいると逆に目立ってしまっている気がしてなんだかタモンは理不尽を感じてしまう。


「仕方ありません。陛下は可愛いですから」


「そうですね。お綺麗です」


 タモンよりも遥かに立派な体格の護衛のマキと、同じく長身な将軍エミリエンヌが妙に意気投合して駒を並べながらタモンを楽しそうな目で見ていた。


「うるさい。ちゃんと前を見てて」


 珍しくタモンに声を荒らげて叱られてしまったので、マキとエミリエンヌは少しだけまっすぐに前を向いて真面目なところをアピールしたが、二人とも楽しそうに笑っていた。


「この国では、お姫様がこんな風に馬に乗ることがあるのだろうか」


 スカート姿で股を開いて馬にまたがって乗っている自分を改めて見ながら、ぶつぶつと何度も愚痴っていた。


(昨晩のあれは何だったのだろう……夢かな)


 本当に夢でないことくらいは、タモンには分かっている。


 とはいえ、興奮状態から、いきなり不思議なことが起こり、不思議なことを言われた。


 簡単には受け入れられないまま、ぼーっと馬上で考えごとをしていた。


(今度は『お兄ちゃん』か……。大魔法使いヨハンナは何て呼んできたんだっけ……)


 魔法使いならではの悪ふざけみたいなもので、あまり意味はないのかもしれない。そう推測しながらもタモンからすれば、いきなりそんな風に呼ばれてしまうのはどこか不気味だった。


「陛下。ニビーロの軍勢がこちらに向かっております」


 ショウエが馬で駆け寄ってきて護衛のマキとの間にするりと入ってくるようにして並ぶと、そう報告した。ショウエは見た目はまだ幼く見えるけれど、巧みに馬を操る技術にタモンは見とれて感心するしかなかった。


「数は?」


「二百ほどです。騎兵だけだと思われます」


 急いで駆け寄っては来たが、ショウエの方もそれほど慌てているという口ぶりではなかった。


「少ないな。とりあえずエミリエンヌに協力する人が増えては困るから今、叩いておこうということか」


「はい。近くですぐに戦える騎兵を集めたのでしょう。我らの手勢だけでも迎え撃てます」


 ショウエは力強く答えた。


「しかし、いくらなんでも甘く見られすぎな気もします」


 ショウエはそう続けた。タモンの横顔を見つつ、おそらく同じことを考えているのだろうと思いながらも、忠告しないわけにはいかなかった。


「本格的な討伐軍は、後で来るだろう。いや、もちろんニビーロもすぐに出したいのだろうけれどね」


 タモンは笑っていた。ニビーロだけでも、まだまだ多くの兵を相手にしないといけない苦笑いと、ここまでは牽制する策がうまく嵌まって、大々的にニビーロ軍が動けないことへの満足した笑みが絶妙に混ざった笑みだった。


「そうですが、今回も他の勢力の裏切りや、別ルートからの兵が向かってきているのかもしれません」


 大した兵力でもないのにあまりにも分かりやすく向かってくる敵に対して、ショウエは疑問を持っているようだった。


「そう……だね」


 タモンには考えすぎだと、笑われてしまうのではないかと思っていたが、意外にもタモンも真剣な表情で考え込んでいるようだった。


 ショウエは自分の主人が油断していないことにほっとしつつも、何かを知っているのではという気にもなってしまいその横顔を何度も見つめていた。




「敵兵、来ます!」


 ショウエの声に部隊は一気に緊張した。


 ニビーロの騎兵は、エミリエンヌの進行方向の頭を抑えて逃げられなくするために二手に分かれながら間合いを詰めてきていた。


「間違いない。エミリエンヌだ!」


 横から並走しながら近寄ってきたニビーロの騎兵から声があがった。この部隊の目的はエミリエンヌの確保だった。


 エミリエンヌの周りには数十兵がいるだけだった。


 エミリエンヌの側は歩兵も混ざっているので、動きは遅い。進行方向にも回り込まれて、エミリエンヌの部隊は進む先に困り横に逸れながら段々追い詰められてしまう。


「やれ! 歯向かうなら殺してかまわぬ!」


 説得する段階もなく、ニビーロの騎兵は武器を振りかざしながら向かってきていた。


 これはエミリエンヌの武勇を知っているからこそ、まずは生死を問わず痛めつけてから捕まえようという怯えもみてとれた。


「ぐっ」


 ニビーロの騎兵たちは、エミリエンヌたちに襲いかかろうとした時に馬がぬかるみに脚をとられてしまう。


 思ったよりも酷いぬかるみがあることに、動きが止まったニビーロ騎兵は運が悪いと思いながら舌打ちした。ただ、周囲を見れば、他にも多くの騎兵の動きが止まっていた。むしろまともにエミリエンヌの元にたどり着けている兵がいないことに、気がついてしまう。


(もしや、これは誘い込まれたのでは!)


 ニビーロ兵の隊長が、単に運が悪いわけではないことに気がついた時には遅かった。エミリエンヌの周囲にいる護衛は長い槍を構え、そして脇の草むらに潜んでいた北ヒイロの兵たちが姿を現し、弓矢を構えてこちらを狙っている姿を見てニビーロの騎兵隊は絶望する。


「ぐお!」


 矢を受けた兵たちから、苦しいうめき声が聞こえる。


「兵だ! 伏兵がいる!」


「進め! 進め! 馬を捨ててぬかるみを超えろ!」


 身動きの取れない中で、矢の雨を浴びることになった兵たちは何とか自分の足で進もうとした。


 しかし、その先に待っているのはエミリエンヌの護衛であり、エミリエンヌ本人だった。


「ひえ」


 馬上で槍を構えるエミリエンヌの姿は、この国の兵たちにとってはなおさらとても敵うはずのない化け物のように見えた。


 数十騎でかかれば、流石に勝てるだろうと見込んでいた兵たちは、一人や二人でエミリエンヌの前に立つことの愚かさを知った。


 足がすくんでいるうちに、隣の仲間の首が飛んでいっていた。


 エミリエンヌが怒っているのだ。


 その事実に絶望する。いつも味方として冷静沈着なエミリエンヌの姿しか知らないニビーロの兵たちは、初めて憎しみでニビーロに向けて槍を振るう彼女を見て、これは勝てるはずがないと諦めにも似た感情で立ちすくむのだった。


「数名が戦っている間に、逃げるしかないと思うのですが」


 この作戦を考えたショウエは、大戦果にも関わらず敵の動きに不満そうにそう言った。


 ショウエにとってはこんなものは作戦なんてものではなかった。北ヒイロの兵の存在を正確に把握していなかったニビーロの兵が戦闘というよりは、エミリエンヌを逮捕するくらいの気持ちだったのはまだ理解できる。


 しかし、今、罠に嵌まったことを知ってもあまりにも無策で突っ込んでくるニビーロ兵たちに腹さえ立てていた。


「まあ、それだけエミリエンヌのことが怖いのだろう」


 タモンはすぐ前方で自ら奮戦するエミリエンヌの姿を見ながらそう呟いた。


「正常な判断ができなくなっているのでしょうか。逃げる方が怖いと刷り込まれているのかもしれませんね」


 ショウエは、そう呟きながら自分の主人の様子に違和感を抱いて横顔を眺めていた。


(何かを……待っているのでしょうか)


 タモンは、動きを止めてじっとエミリエンヌが戦っている姿を見つめている。


 血しぶきを浴びながら戦うエミリエンヌの姿に見とれているのだろうかなどと、ショウエは思ったりもしたけれど、タモンはむしろ周囲に視線を向けて警戒している。護衛されているお嬢様のような格好をしながら緊張しているタモンの横で、ショウエも何が来るかが分からないまま並んで緊張している。


「む」


 ショウエも違和感に気がついた。


 ぬかるんだ地面を何かが進んできている。突起していく部分だけを見ていれば、巨大な蛇が地中の浅いところを這って接近しているかのようだった。


「立て」


 タモンも先に気がついていて、手を振りかざすとシンプルな言葉をつぶやいた。


 次の瞬間、エミリエンヌの周りに壁ができた。地中を這ってきた蛇は、勢いよくその壁へと衝突していた。


「どういうこと!」


 巨大な蛇ではなく、地中からは見た目は若い女性が飛び出してきた。彼女は地面からでてきただけではなく、泥に足を取られるのが嫌なのか地面からわずかに浮いて漂っている。その女性の格好は、いかにもな魔道士だった。予想外の壁に頭でもぶつけたような仕草で帽子を手で押さえつつ、大きな杖を取り出して構えていた。


「ヨハンナ?」


「え? あの大魔法使い?」


 ショウエはその人に直接会ったことがないので分からなかったが、命を狙われたエミリエンヌの方はその人物のことをよく覚えていて身構えた。


「む?」


 空中に浮いたままでヨハンナは、周囲を睨みつけていた。誰が邪魔をしたのかと見極めようとしている様子だった。


「あら? 『パパ』じゃないですか。なんですか、その可愛らしい格好は」


 いいところのお嬢さんに扮しているタモンの姿を発見すると、それまでの厳しい表情とは打って変わって笑顔を浮かべながら楽しそうな声になっていた。ただ、ヨハンナのことを知っている人たちからすれば、その笑顔でさえもどこか怖い魔女の笑みのような気がしてしまい一層、身構えていた。


「不本意ながら、お客様からの強い要望でアサシンみたいな仕事を引き受けたというのに……。さすが『パパ』には全部、お見通しですか」


 ヨハンナはちょっとしたいたずらでも見抜かれてしまったかのような軽い調子でそう言ったが、エミリエンヌは自分がヨハンナに狙われていたことを知り背筋が寒くなる。


(そして、それは……ニビーロ王家がわざわざ頼んだということですね……)


 大魔法使いを雇うのは、かなりの対価が必要になる。北ヒイロの攻略の際にも、かなりのお金をヨハンナに渡していたし、トキワナ帝国にも一部領土を譲渡している。


 具体的にどれくらいの対価が必要なのかはエミリエンヌも知らないが、もうニビーロには国庫に余裕は全くないことは分かる。それでも、今回、エミリエンヌを殺すためだけにまた大魔法使いにお願いをした。


(そこまでして私を亡き者にしたいのですか……)


 国が傾いて、民が飢えてもいいくらいの判断で大魔法使いに続けて二回も仕事を頼んだと言っても決して過言ではなかった。


 目の前の大魔法使いヨハンナに対する恐怖と、ニビーロ王家に対して怒りと悲しみが改めて湧き起こり混ざり合っていた。


「ふうん? 内通者がいたということでしょうか。それにしても今の防御壁は……」


 相対するヨハンナは、エミリエンヌは目標ではあるが、あまり気にしてもいないようだった。あくまでも視線はタモンに向けつつ、周囲を警戒している。


「そう。魔導協会には僕たちに味方してくれる仲間がいてね」


「パパの冗談は笑えないですね」


 タモンとしても少しカマをかけた返答だったのだが、ヨハンナは急に不機嫌そうな表情で吐き捨てた。


「南ヒイロ帝国の魔法使いさんがいるのだと思うのですが、うまく隠していますね。仕方ない。今日のところは引きましょう」


 ヨハンナは、腰に両手を添えて諦めのため息をついていた。本気を出せば、この周囲一体を火の海にすることもできるが、魔力を使い切ったあとで動けなくなって捕まったりするのはヨハンナとしては避けたかった。


「え、ちょっとヨハンナ様! 我々はどうなるのですか」


 一人で逃げようとするヨハンナに対して、取り残されたニビーロ兵は悲痛な叫びをあげていた。


「投降なさい。エミリエンヌ様は、お優しいから命までは取らないでしょう」


 全くの他人事として、ヨハンナは提案する。怒りの感情が強かったエミリエンヌだったが、そう言われてしまっては無下に処刑する気にもなれなかった。


「またね。パパ」


 ヨハンナは、可愛らしい笑顔でウィンクしながらそう言うとそのまま弓矢の届かない距離まで、高度を上げて去っていった。


「なるほど、無策で前進してくるなあと思っていましたが、あのような切り札がいたからなのですね。いえ、単に脅されていたのでしょうか」


 ショウエは、両手をあげて降参してきたニビーロ兵たちに近寄りながらこの度の戦いを振り返っていた。


「そうだね。まあ、こちらの戦力がばれずに済んでよかった」


 タモンは胸を撫で下ろしているようだった。


「あのような強敵が来ることが、分かっているのでしたら、我にも教えておいて欲しいものです」


「ごめん。まあ、まだちょっと味方にも秘密にしておきたいことがあってね」


 不満そうなショウエに対して、タモンの答えは全くなだめる効果がなかった。


「それは、私たちにも……ですか?」


 ショウエが文句を言う前に、エミリエンヌが会話に参加してきては彼女の不満も代弁していた。


「そう……だね。まあ、もうちょっとね」


 指を唇の前で立てて内緒だよというポーズをしてみせた。


「わかりました」


 エミリエンヌもショウエも素直に応じてくれていた。エミリエンヌはもうタモンが魔法を使えるということは知っているし、ショウエも鋭いだけにもう大体のことは把握しているだろうとはタモンは思ってはいるが、まだこの親しい二人にもちゃんとしたことは話さない方がいいだろうと判断していた。


「ところで」


 エミリエンヌもショウエも、納得はしていた。親しい私たちだからこそ秘密にしているという感じもして和んだ雰囲気にもなっていた。しかし、エミリエンヌの声は急に鋭くなっていた。


「『パパ』とは何ですか?」


「え?」


「タモン殿が父親ということですよね?」


「いや、何も心当たりはないんだけれど……何であんな呼び方をするんだろうな」


 タモンは本当に何でそんな風に呼ばれるのかは分かっていない。心当たりもない。


 しかし、乾いた笑いは演技っぽくなってしまい。エミリエンヌの鋭い視線をより鋭くさせ、その後ろでじっとりとした目でただ見ているだけのショウエの目はさらにじっとりとしたものになっていくのだった。

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