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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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後宮 ニビーロ別館

(別に騙しているというわけではない)


 いいところのお嬢さんの格好に扮したタモンは自分にそう言い聞かせていた。


 エミリエンヌの旧家臣たちであるお婆さんたちは、ニビーロ王家に対して憤慨していて、エミリエンヌがニビーロと戦うなら自らも戦う気概で溢れていた。むしろ先代やこのメデッサの町への酷い仕打ちを訴え、エミリエンヌにニビーロ王家と戦うことを迫るような勢いだった。


 ただ、それでもタモンはまだ正体を明かさずにこっそりと活動していた。


「この町もですが、周囲の村も若い人が少ないですよね」


 二日ほどの諜報活動の結果、タモンはサラ嫗と呼ばれる昔からのエミリエンヌの家臣に疑問に感じたことを素直に聞いてみた。


「兵として徴収されたっんじゃ……」


「それだけではないように思えます」


 タモンの言葉にサラお婆さんは、一瞬、鋭い目をタモンに向けた。


 北ヒイロの貴族の可愛らしいお嬢さんだと思っているタモンのことを意外そうな目で見つめていた。


「苦労も世間も知らなそうな可愛らしいお嬢さんなのに、なかなか鋭いのお」


 サラお婆さんは、元々しわだらけの顔を更にしわくちゃにして笑っていた。おそらく『エミリエンヌ様はこんな人に親身になってもらえて幸運じゃのお』という思いで笑顔になっていたのだとタモンは前向きに受け止めた。


「予備兵が徴収されたあとに、更に人を寄越せという命令があったんじゃ」


「ニビーロ国からですか」


「うむ。最初は、エミリエンヌ様の命だということで協力していたのじゃが、どうもエミリエンヌ様は関係がなかったらしい」


「なるほど……」


 だから周囲の村では、エミリエンヌが拐っていったと思い込んでいる人たちも少なくないのだ。


 タモンはその点については腑に落ちたので、何度も大きくうなずいていた。


「何の訓練も受けていない人たちも連れていってしまったということでしょうか」


「そうだねえ」


 サラもそれは兼ねてから不思議に思っているように腕を組んで考えこんでいた。


 タモンの感覚でいうと、戦ったことなんてない学生や主婦まで連れていかれた。その点が不思議でたまらない。




「ただいま戻りました」


 周囲の町や村へと行っていたエミリエンヌとショウエが戻ってきた。


「おかえり どうだった?」


 可愛らしい格好のタモンに笑顔で出迎えられて、エミリエンヌとショウエはちょっと戸惑いながらも、嬉しそうに笑顔を浮かべながら二人並んで近づいてきた。


「はい。最近、少なくとも人が連れていかれたのはエミリエンヌ様の命によるものだという誤解は解けてきています」


「お陰様で、協力してくれるという勢力は増えております」


 地道な活動を続けているショウエとエミリエンヌの報告に、タモンは頼もしくうなずいていた。


「これもご夫人たちのネットワークによるものです」


 ショウエとエミリエンヌは、予想以上の手応えに二人顔を合わせてうなずいていた。


(でもこんな田舎まで、影響力があるってエレナやマジョリーはどんな繋がりがあるのだろう……)


 見えない夫人たちの力が益々強くなっていることに、もはや頼もしさよりも怖さを感じて体がわずかに震えていた。


「サラお婆さんからも話をきいたけれど、やはり時期がおかしいよね」


 床に地図を広げ、ショウエとエミリエンヌから詳細な話を聞くとタモンは腕を組んで考えこんでいた。


「時期ですか?」


 意味が分からずにエミリエンヌは、首をかしげながら聞き返していた。


「そう、北ヒイロに攻め込む時に氷の橋を作る時に、あるいは維持をするために労働力が必要だったのかもしれないと思っていたんだけど……あまり労働力にはならなそうな人たちも連れ去っている」


「そうですね。どうやら私が再出兵したあとにかなり広範囲で行われたことのようです」


 エミリエンヌもそのことを知り、少し厳しい表情になっていた。それは、戦場にはいかない、あるいはいけないような人を無理やり連れ去ったということになる。


「なぜだろう……」


 タモンは考え込んでしまう。


 エミリエンヌは元より、徴兵か労働力か以外で人を連れて行く理由が思い当たらないので考えることを放棄しているかのようだったし、ショウエもいくつかの可能性に思い当たってはいるがそれ以上はなんとも言えない顔で。


「我の領分ではなさそうに思います」


 とだけ告げた。


「ふむ。まあ、当面やることは変わらない。誤解を解いて勢力を増やす。ただ、そう呑気でもいられない。もうエミリエンヌが帰ってきたことはニビーロの中枢にも伝わってしまっただろうからね」


「はい」


 タモンの言葉に、エミリエンヌもショウエもしっかりとした声でうなずいていた。


「まあまあ、今日はもう遅いですから、これでも食べてゆっくり休んでくださいな」


 サラお婆さんたちが、タモンたちの話が一段落したのだと見計らって、鍋を運んできた。鳥が一羽まるごと煮込まれている豪快な料理にタモンたちは圧倒されながらも、美味しそうな匂いにタモンの食欲もそそられていた。




「ふー。食った。食った」


 タモンは満足していた。刺激的なスパイスの利いた単純な料理だったけれど、久々に美味しいお肉をたくさん食べられて満足していた。


 北ヒイロでも、南ヒイロでもタモンからすれば、少し健康的すぎるお洒落な料理が多いと思っていたところだっただけに、今晩は少し不健康かと思うくらいに肉ばかりを食べられることができて、城ではない田舎もいいなと喜んでいた。


(おっといけない。今はいいところのお嬢様だった……)


 腹を出しながら大の字になってこの場で寝転んでしまいたいと思ったけれど、なんとか踏みとどまった。このお屋敷では、まだお婆さんたちが元気に食事の後片付けや明日の準備にせわしなく働いている。


「お嬢さん」


 少し手持ち無沙汰で、片付けでも手伝おうかと思ったところで背後からサラお婆さんに声をかけられた。


「は、はい」


 タモンは、さっきからの態度を色々見られてしまっただろうかと少し怯えつつ振り返った。


「さっき食べたお肉は、元気になるお肉だから」


 サラお婆さんは、タモンと額と額をぴったりと合わせるようにしてそう囁いた。


 タモンが意味がわからず呆けている間に、いつの間にか他のおばさんたちもタモンの周りににじり寄っていた。


 逃げる間もなくあっという間に囲まれてしまったので、さすがはエミリエンヌの歴代の家臣なのだと恐れるしかなかった。


「若いお方は、夜にかなり元気になってしまうからね」


「え、ああ、そういう……」


 意味が分かり怖いことはなくなったけれど、自分もたくさん食べてしまったことに気がついてしまう。


「頑張って、跡継ぎを作っておくれよ」


「エミリエンヌ様のお部屋は、事故があって入れないようにしておいたから」


(入れないようにって……)


 タモンは、ちょっと辟易した表情にもなったが、サラたちは拝むように、眼差しは真剣そのものだった。


「エミリエンヌ……様は、姉妹も叔母もおられないのですね……」


 そういえば、親戚らしい人はここに来ても誰もいない。話にあがったこともないとタモンは思った。


「そうなのじゃよ。だから……エミリエンヌの跡継ぎを産んでくだされ」


「頼みますじゃ。できれば、五、六人はお願いしたい」


 タモンは無茶を言うなという気持ちを押し殺していた。


「でも、エミリエンヌ……様は、今は発情期ではありませんし……」


 そんな急いで、今晩夜這いをかけるような意味はないだろうとタモンは苦笑いで返していた。


「おお」


 その言葉に、サラお婆さんはあまり反応を示さなかったが、周りのサラお婆さんよりも少しだけ若い層が大きく反応していた。


「お嬢さんは、エミリエンヌ様が発情期ではないことをもう知っているんじゃね」


(あ、しまった)


 すでにそういう関係であることが分かり、皺くちゃな顔たちが一斉にお嬢さんの格好をしたタモンに向けられる。


「それなら、少し安心じゃ」


「でも、逃さないように、頑張ってな」


「ほんに、エミリエンヌ様はすぐに戦場にでてしまうからねえ」


 本気で心配しているらしいお婆さんたちに、背中を叩かれてしまい納得するしかないタモンだった。





「あ、あの。タモン殿……?」


 起きていらっしゃいますかと、エミリエンヌはタモンの部屋のドアを静かにノックして入ってきた。


 エミリエンヌの背後にショウエの姿がちらっと見えた気がした。


(夫人に頼まれて監視しているのだろうか……)


 ちょっと怖いものを感じながらも、すぐに立ち去ったのでそれ以上は気にしないことにした。


「起きていますよ」


 タモンはにこやかな笑顔で出迎えた。サラたちに言われた通りに、タモンはベッドの上に腰掛けて先程から待っているところだった。


「あの……。変な話なのですが……。ここは私の家なのですが、私の部屋から追い出されてしまいまして……」


 エミリエンヌは照れながら、タモンの側まで歩いてきた。エミリエンヌの方は、完全に寝耳に水だったらしくて、とても困惑している表情だった。


 サラお婆さんたちに着せられたのか、普段から寝る時はこんな格好なのかは分からないが、薄いネグリジェ姿はまだ適度に灯りをつけたままの部屋で見ると肌がほとんどそのまま見えてしまい。その美しさに目がくらんでしまいそうだった。


(これは迫力ある美人)


 タモンは今更ながらにそう思いながら、ベッドでタモンの隣に腰掛けるエミリエンヌの姿をじっと見つめて息を呑んだ。


「仕方ありません。どうやらサラお婆さんたちには、一服もられてしまったみたいですし」


「え、いえ、別にあの料理は、そんな大層なものではありませんよ。元気になるとは言われていますが……」


 そうは言いながらも、エミリエンヌ自身も普段よりも紅潮して見える。


「この家の跡継ぎが欲しいと頼まれてしまいました」


 タモンはそのままエミリエンヌの腰に手を伸ばしていた。


「あ、やっぱり、サラたちはそんなことを……」


 やっと理解できたらしいエミリエンヌは、照れているのかわずかに顔をそらしていた。


 ただ、それ以上は拒む気配もない。


 タモンはいけると確認しつつ、エミリエンヌを引き寄せる。そうしようと思ったが、やはりエミリエンヌの方が大きいのでタモンからむしろ密着するためにお尻をずらして距離を詰めた。


「エミリエンヌにたくさん産んでもらいましょうか」


 タモンは自分で言っておきながら、さすがに今のは気持ち悪いと反省してちょっとやり直したいと身悶えていた。


「はい。戦争が終わりましたら、ぜひ、たくさんよろしくお願いします」


 幸いなことにエミリエンヌの方は気持ち悪いとは感じていないようだった。この家の存続のためにはと、かなり真剣な表情でタモンを見つめていた。


「うん」


 タモンは、唇を重ねるとエミリエンヌの背中を支えつつベッドへと倒れこんでいた。




 それは、夜も遅くなり、行為ももう終わりにさしかかった時のことだった。


「あっ、ああ、タモン様」


 エミリエンヌはとろけるような目をしながら、タモンを感じながら、唇をねだり舌を絡ませていた。


 足の指先が伸びて背中がのけぞり、全てに満足したような表情を浮かべていた。


(ん?)


 その瞬間に、エミリエンヌの体が光ったような気がした。


「ああ、やっと繋がった」


 タモンが周囲を警戒しつつ、エミリエンヌから唇が離れた時にそんな声が聞こえた気がした。


「あ、お兄ちゃん。やっと会えたね」


(幻覚ではない)


 タモンはもう一度聞こえた声に、非常事態でイリーナかマリエッタあたりから魔法使いのネットワークで呼びかけられているのだろうかと思った。


 だが、やはりどう見ても今、自分に抱かれている年上で長身の迫力ある美人から発せられている言葉なのだと思うしかなかった。


「え、あれ? これ今、どんな状況?」


 エミリエンヌは、きょとんとした表情でタモンの顔とベッドに視線を移しながら、口から困惑した声が聞こえてきた。


(記憶喪失とか、幼児退行とかだろうか……いや、でも『お兄ちゃん』はないよな)


 タモンは訝しみながらも、エミリエンヌの体を見下ろしていた。


「あ、ちょっとお兄ちゃん。やあ、やめて、動いちゃだめ」


 そんな声が聞こえたけれど、ここまで来てそんな簡単にやめられるものでもない。奇妙だとは思いながらも、どうやら危険はないらしいことを確認するとタモンはエミリエンヌの体を再び強く抱きしめた。


「あ、ああん。もう。タ、タイミングわる」


 魔法使いが憑依しようとしているのだろうかとタモンは冷静に観察しながらも、本音ではこの声の主の反応がむしろ楽しくなっていた。


「あっ、ああ」


 そのまま、さっきよりも激しく動いてエミリエンヌの体を責めていた。




「ま、魔力が尽きちゃったじゃない。まったくもうお兄ちゃんは相変わらずエッチね」


 タモンが完全に満足してエミリエンヌの胸に顔を重ねて倒れ込むと、呆れたような声がした。少しぼーっとした意識の中でこの声は確かにどこか昔に聞いたことがあるような懐かしい声だという気がしていた。


「いい、ちゃんと聞いて! ヨハンナが向かっているから! もう彼女は魔導協会に操られているだけだから、気をつけるのよ! 夢じゃないから、ちゃんと覚えていてね」


(ヨハンナ? 誰だっけ……ああ、あの大魔法使いさまか)


 その言葉を理解して、彼女の姿を思い出すと、タモンの意識が一気にはっきりとして体を起こした。


 ただ、見下ろした先には、もう静かに寝息を立てて寝ているエミリエンヌの姿があるだけだった。

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