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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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お婆ちゃんたちのお節介

「そんな簡単にはいかないか」


 タモンはニビーロの地で、思うようにはいかない現状を嘆いてため息をついていた。


 すっかり馬の扱いにも慣れたものだったが、ニビーロ国境付近の独特な湿地帯に足を取られたりしないようにゆっくりと馬を進めているのは部隊全体が落ち込んでいるかのようだった。


「こんなものでありましょう。まだ何も失敗したわけではありません」


 ショウエは隣で駒を並べながらそう言った。ただ、やはりいつもよりも表情が険しい感じを受けてしまう。普段が天真爛漫というか、あまり悩んでいるところを表には見せることが少ないだけに尚更そんな印象が強くなってしまう。


「も、申し訳ありません」


 少し遅れて馬に乗るエミリエンヌは、タモンたちに追いついてきた。


 申し訳無さそうに、頭を下げながら謝る。普段は、美しく威風堂々としたエミリエンヌの長身と広い肩幅が妙に縮こまって見えた。


「まあ、交渉はメデッサの町についてからです。まだ始まってもいません。前を向きましょう」


 ショウエが珍しく妙に大げさな動きを見せて、エミリエンヌを励ましていた。


「はい。そうでありますね」


 エミリエンヌはすぐに武人らしい凛とした表情へと切り替わったように見えたが、目の奥は曇っているようにタモンには感じられてしまう。


(……もっと、歓迎されると思っていたのだが)


 ルナとフミの部隊を囮にして、タモンやエミリエンヌたちは少人数でニビーロ国に入り、エミリエンヌの旧領地へと侵入していた。


 ここまでは計画通りで、順調だった。


 だが、とりあえず立ち寄った村でタモンたちは門前払いを食らった。


 少し食料を分けてもらい、できれば少し護衛の兵数も増やせればと思っていた。


 たが、はっきりと名乗ったわけではないが、エミリエンヌがいると分かった上で……いや、おそらくは分かったからこそ村は拒否をした。 


 ニビーロ国としては、エミリエンヌは裏切り者扱いだった。


 だが、民衆のエミリエンヌへの人気は高い。特にエミリエンヌが治めていた地方の領民であれば尚更だ。


 エミリエンヌが行くだけで、みんなが我先にと協力を申し出てくれるだろう。


 決して願望ではなく、調査した結果からそう予測していたのだが、村々の態度は厳しかった。


「この人さらい!」


 収穫もなく村から離れようと思ったところで、そんな罵声とともに石を投げられた。


 まだ子どものような数人だった。石の一つだけが力なくエミリエンヌのすね当てに当たった以外は、届くことすらなくそのまま怖くなったのが逃げ出していた。


「追わなくていい」


 タモンが追いかけようとする護衛のマキたちを静止する。


「人さらいとはどういうことでしょう?」


 ショウエは、逃げていく子どもたちの姿をじっと目で追いかけながら、先程の言葉を疑問に思う。


「私が予備の兵も連れていったからではないでしょうか?」


 エミリエンヌはうろたえながらそう答えた。不審そうに観察していたショウエとは違い、ただ呆然と子どもたちを見送っていた。


「それであれば……大多数の兵は帰国しているはずでは……。もちろん、たまたまあの子たちの親が戦いの中でお亡くなりになったのかもしれませんが……」


 エミリエンヌと共に捕虜になった兵たちは、ほぼ帰国させた。


 とはいえ、戦争中に行方不明になる人は少なくない。そんなに気にするようなことではないのかもしれないと思いながらも、何かショウエには引っかかっていた。


「エミリエンヌが、そんなに気にするようなことではないよ」


 タモンは、先程よりも更に顔を硬直させて、視線もうつろになってただ馬上で揺られているエミリエンヌに慰めの声をかけていた。


 何か重要かもしれない考え事をしていたショウエのことを、タモンは全く気にしていなかった。ただひたすらエミリエンヌのことを心配そうにしている。


(お優しいことですね……)


 ショウエは横目でエミリエンヌには甘いタモンの態度を観察していた。


「気にしない。僕なんてモントの街の住人に罵声を浴びせられることなんてしょっちゅうだから」


「それはタモン陛下が、色々強引なことをしたからでは……」


 ショウエは自分の主人に対していつもよりも更に態度も冷たく突っ込んでいた。


 エミリエンヌはこの主従のやり取りを見て、少しだけ生気をとりもどしたかのように柔らかい笑みを見せる。


「エミリエンヌ様は陛下と違って真面目な領主さまだったのですよ」


 ショウエはタモンをからかい、エミリエンヌを気遣うようにそう言った。ただ、それは少しエミリエンヌが苦労を知らないという意味もあるとショウエは自分で思っていた。昔はどうであれ、今のモント町周辺の活気と、この小麦畑が広がる以外は小さな村が点在しているこの土地を見比べてしまう。


「仕方がありません。今、私は裏切り者扱いですからね」


 エミリエンヌは少し自虐的に笑っていた。





 数刻後、一行は本来の目的地であるメデッサの町へと到着した。ここはエミリエンヌの生家があるエミリエンヌが治める地方の中心となる町だった。


「エミリエンヌ様。よくぞご無事で!」


「おお、サラ嫗たちも、元気そうで何よりだ」


 ここでは、町の人たちがエミリエンヌの姿を見て嬉しそうに駆け寄ってきてくれていた。


「よかったですね」


 ショウエは、隣のタモンに向けてぼそりとつぶやいた。この町でも冷たい態度で石でも投げられた日には、エミリエンヌは立ち直れないくらいに打ちのめされてしまうのではないかという危惧があった。


 エミリエンヌが非協力的になった時は、帝国同士の戦争の勝敗にも大きく影響してしまうかもしれないだけに一安心していた。


「そうだね。よかった」


 町の人に囲まれて久々に明るい表情になっているエミリエンヌの姿を、タモンも見つめながら笑顔になっていた。


「でも、活気のない町だよね」


 タモンは周囲に目線を移しながらぼそりとつぶやいた。


「確かに……ご年配の人が多いですよね」


 ショウエも少し疑問に思っていた。


 町の規模自体は、モントと同じくらいのものだった。ただ、交易も盛んになった港町モントと比べてしまうと、活気がなく寂れている印象を受けてしまう。


 そして、目に映るのは老人か、もしくは小さな子どもばかりだった。


(途中の村もそういえば、若い人が少なかったような……)


 ショウエは、ここまでの道のりを思い出していた。


 この町の問題ではなく、この地方の問題なのだと思って鋭い視線を町全体に向けていた。


「兵に取られたからというだけでもないような……」


 タモンとショウエは同じような感想を抱いていた。戦争で兵隊に駆り出されたというのは間違いなくあるのだろうが、それだけではなさそうとも思っていた。


「それで、エミリエンヌ様。こちらの方たちは?」


 エミリエンヌが『サラ嫗』と呼んでいた老婆とその周囲の人たちが、一斉にタモンたちの方を見た。


(どうするか……)


 タモンはニビーロ国に入るまでは、普通に名乗ってエミリエンヌと協力するつもりだったが、やや微妙な現状を見て少し躊躇してしまう。


「ええと、こちらは北ヒイロで私の命を救ってくださった人たちです」


 タモンとショウエの顔を見て、エミリエンヌは絶妙にぼかした言い方で紹介してくれていた。


「こちらはサラ嫗。私の先々代からうちの家臣として仕えてくれていた人です」


「どうぞ。よろしく」


 タモンはショウエにあわせて、目立たないように挨拶をした。


「まあまあ、お疲れでしょうから、ご一緒にお屋敷の中でくつろいでください」


 サラとその背後にいた数人がそう勧めてくれる。サラほどの老婆というわけではないが、周囲の人たちもそれなりに髪に白いものが混じっている人ばかりでお菓子でも出されてしまいそうな雰囲気だった。


「情報を集めるのには願ってもない機会なのだけれど、よく考えると鎧とか脱いだら男だとばれてしまいそうだよね」


 タモンは、今更ながらに珍しい生物である自分のことを不便だと思った。ここはショウエだけに任せようかとも思ったが、ショウエはショウエで少し世間知らずなところもあって、余計なことを言ってしまわないかという心配もあった。


「ふんわりとした服もございますよ」


 悩んでいると、後ろから護衛のマキが近づき耳元で囁いた。


「へ? あの時の服か?」


 タモンは、こそこそとマキに聞き返した。


「あのままではありませんが、極秘で潜入したりすることをあるかとエリシア様が持たせてくれました」


「なるほど。さすがはエリシア」


 こっぴどく負けて脱出しなければいけなくなった時のことも想定しているのだろう。


 負けたことを考えているのは少し癪な気持ちもあったが、エリシアの配慮に素直に感謝していた。




 ここはエミリエンヌの生まれ育った土地だった。成人してからは都にも自分の屋敷を持ったので、この町の中心にある屋敷にずっと住んでいたわけではないが、サラたちは自分の孫が帰ってきたかのようにもてなしていた。


 サラたちからすれば、長い旅からやっと帰ってくれたという気持ちなので、すぐにどこかどこかに行くなんてことは考えていない。行きたいと言っても行かせるわけもなかった。


 色々と不審な点はあるので情報は集めたい。それがどんな結果であっても、ニビーロ王都に行くために門前払いされないだけの味方を募る必要があった。


 タモンたちもしばらくはここを拠点として、活動させてもらおうという方針になっていた。


「先代は、急に王都から兵が来て連れされてしまいました」


「足も不自由でありましたのに……」


 タモンたちが鎧を脱いで着替えてくると、エミリエンヌまだ武装した姿のままでサラたちの話を聞いていた。


 主にエミリエンヌがいなくなってからの、ニビーロ王家の横暴を涙ながらに訴えているようだった。


 報告通りの話ではあったけれど、当事者から話を聞くのは違う。エミリエンヌは改めて悲しみを露わにしていた。


 タモンは少し冷たい態度だとは自覚していたけれど、この地方の人たちがニビーロ王家に反感を強めていることを聞き耳を立てて確認していた。


「あ、もう着替えたのですね」


 エミリエンヌは、お婆ちゃんたちの話に捕まってしまい抜ける機会がなくなってしまったようだった。もうこの屋敷の中に入ってからかなりの時間が経ったのだけれど、ずっと同じ場所から動けていないみたいだった。


 エミリエンヌは、サラたちの貴重な話に聞き入っていた。自分も悲しい気持ちになったり気持ちを高ぶらせていたりしていたのだが、タモンたちの姿を見て、もうかなりの時間が経ってしまったことに気がついた。


「え……。か、可愛いですね」


 エミリエンヌは、タモンの姿を見て思わず目が釘付けになりそんな言葉が漏れていた。


 タモンは、その言葉にかなり照れた表情で何も言えなくなっていた。


(お忍びでモントの町に行った時の服から、もっとシンプルで動きやすくしてくれていると思っていたのに……)


 タモンの希望とは違い。実際にはさらに可愛らしくひらひらとした要素が増えていた。大国の王族や貴族の若いお嬢様だけが許される格好にタモンはスカートが落ち着かないように歩いていた。


(男だと気が付かれることは減るんだろうけど)


 エリシアやマルサさんの配慮なのだと思いながらも、タモンの中の常識がどうしても受け入れてくれなかった


「ああ、エミリエンヌ様も着替えてきてください。お料理も用意してございます」


 お婆さんたちも、エミリエンヌを足止めしてしまっていることに気がついたようだった。


 当のエミリエンヌは、鎧姿でも全く苦になっていないようだったようだったが、タモンたちと食事をする時間が遅れてしまうのは失礼かと思いその場を足早に離れた。


「ありがとうね。エミリエンヌ様を無事に連れて帰って来てくれて」


 エミリエンヌが昔の自分の部屋に向かったことを見送ると、サラは丁寧に両手を地面につけて額をぴったりと床につけるほど平伏してタモンたちに感謝していた。


「いえ、そんな。あ、頭をお上げください」


 タモンはかなり年上の人たちに土下座されて可愛らしいお嬢さまの外見のままで恐縮して両手を大きく振る。


「でも、北ヒイロの人が何だってエミリエンヌ様を助けて、ここまで送り届けてくれたんだい?」


 サラの真後ろにいる一番しっかりしていそうな年配の人がそう尋ねた。


(それは、そう思うよね)


 タモンからすれば、このお婆さんたちに愛されているエミリエンヌを利用しようとしているのかもしれないと少し胸が痛む気がした。


「そりゃあ、決まっているさあ。エミリエンヌ様に惚れたんだ。そうだろう。あんた」


 もう一人の元気そうなおばさんが、タモンをからかうように楽しそうにそう言っていた。


「確かにうちのエミリエンヌ様は大陸で一番、格好いいからね。なあ、そうだろう」


「ええ」


 お婆さんたちの攻勢を、タモンは背筋を伸ばしてにこやかに受け止めていた。


「ええ、その通りです。惚れています」


 改めて自分の気持ちを確認してタモンはそう宣言した。


「おお。いいね」


 眩しそうにお婆さんたち目を細めて、タモンの言葉に喜びあっていた。


「ここだけの話だけどね」


 お婆さんたちは、タモンに親近感を持ったようで座りながら近づくとわずかに声をひそめて声をかけていた。


「あたしらは、エミリエンヌ様がこんな小さい頃から知っているから分かるんだよ」


「あんた。エミリエンヌ様の好みだよ。エミリエンヌ様があんな優しい目で誰かを見ることもかつてなかったからね」


 お婆さんたちはエミリエンヌには内緒で、タモンに頼もしいアドバイスをくれていた。


「はい」


「うん。じゃあ、たくさん食べてもっとお肉つけな」


 そう言って、お婆さんの一人はタモンのお尻を叩いて食事へとうながした。


「そうだね。エミリエンヌ様の子どもをたくさん産んでもらわないとね」


(あ、僕が産む側なのね)


 今の自分の可愛らしい格好を改めて確認しながら、仕方ないかとぎこちない笑顔を浮かべていた。

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