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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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遠いところに来てしまったような

 服装は、『男王』を支え、東の地に帝国を作り上げた伝説のミランダ将軍をイメージしたものを、エリシアの発案で、マルサさんに仕立て上げさせた。


 ただ、それ以外はタモンたちが演出したわけではなかった。


 単に扉を開けた時に外の日の光が差し込んで、その中を儀礼用の軍服を着た美麗な人物が入ってきただけのことだった。しかし、会議室にいた面々はまるで絵画に残された伝説の出来事を見ているかのようにしばらく見惚れていた。


 ただ、その人物がエミリエンヌだと聞かされるとすぐに現実に戻る。

 これは現実の世界でも歴史的と言ってもいい重要な場面に居合わせているのだということに気がついていた。


「確かに、本隊がニビーロに逃げ去ってしまい取り残されてしまったとは聞いたが……」


 小さな皇帝マリエッタは、興奮した自分の気持ちをなんとか一度抑えつつ、その場で立ち上がったままですぐ目の前まで歩いてきたエミリエンヌを見上げつつ声をかけた。


「降伏したエミリエンヌ殿は、タモン殿と共に戦うことにしたということだな」


 マリエッタは、一度、タモンの方にも視線を向けて確認した。タモンは何も発しなかったが、目を閉じて軽くうなずいた。


「はい。その通りでございます。マリエッタ陛下」


 静かな声で答えたエミリエンヌの姿に、会議室の面々はまた皆、口を開けてその姿に見とれていた。


「タモン殿の配下に加わったということでいいのか?」


「いえ、あくまでも我が領地に向かうために、手を取り合うということです」


 エミリエンヌの言葉に、少しだけ目を閉じて皇帝マリエッタは考えこんでいた。


「……なるほど、では我が帝国が案内するというのであれば、手を取り合ってもらえるのかな」


「いえ、あくまでも我が身はタモン陛下と共にありたいと思っています」


 少し意地悪な質問だと自分でも思いながらマリエッタは聞いたのだが、さすがにこうもあっさり拒否されるとは思ってもみなかった。


 答えたエミリエンヌの方も、さすがに無礼だと思ったのか慌てて取り繕おうという態度をみせていた。


「よい。分かった」


(実際にはタモン殿の配下ということか……)


 皇帝マリエッタをはじめ、マリエッタの考えが理解しきれなかった会議室の面々もやっと現状を理解する。


「ニビーロに背後から攻められる不安もなくなり、うまくいけば兵站の問題も片付く」


 幼女皇帝マリエッタは不敵に笑っていた。


 エミリエンヌはマリエッタとあまり親しく話したことはなかったが、この年齢とは思えない頭の回転の速さと知識に驚いていた。


「確かに、これはタモン殿の提案に乗るのがいいと思うが皆の意見はどうだ?」


 マリエッタの判断に会議室の面々も基本的には賛成する雰囲気で頷いていた。


「良いでしょう。だが、大魔法使いの対策はどうします?」


 皆が、今にも拍手して賛同しそうな瞬間に、割って入ったのはリュポフだった。


 皇族ながら自ら兵を率いて戦う立場である彼女からすれば、少々の被害は仕方がないとしても無策で突っ込みたくはないのが本音だった。


「我が国で迎え撃つなら、魔法の防御網もある。だが、敵国の奥深くに入ってしまえば無防備だ」


「敵国で我が国の魔法使いたちによる防御網を作ればいいだろう」


「だが、それだと関所や帝都の攻略に使えなくなる。時間がかかりすぎる」


 リュポフの言葉に、興奮気味に他の将軍たちも次々と意見を述べていた。


 ただ、色々な意見はあるにしても、トキワナ帝国侵攻へと会議の流れは傾いていた。


「それに関しては、ちょっと僕の方で対策があります」


 タモンは、遠慮がちに立ち上がってそう言った。


「どのような?」


「それは、まだちょっと秘密なのですが……」


 リュポフは振り返ると尋ねた。他の参加者の視線も一斉にタモンに向けられたが、タモンは申し訳無さそうに答えをぼかしていた。


「それではなんとも言えないな。実際、巨大な火の玉を食らってしまうのは私や前線の兵士たちなのだから」


「ご安心ください。私も一緒に前線に行きます」


 ため息交じりのリュポフの言葉に、タモンは今後は力強く宣言した。


『えっ』という驚きの声が、扉付近に控えていたタモンの身内のエリシアから発せられたが、リュポフも特に気にせずに笑っていた。


「ははは、結局どうするのかさっぱり分からないが、その覚悟はいいな」


 リュポフは、タモンのその態度を良しとして受け入れていた。この中で最前線に行くであろうリュポフがトキワナ攻略に賛成の雰囲気にはなっていたが、他の軍関係者はまだ微妙な顔をしていた。


「詳しいことは分かりませんが、タモン様は私の領地の魔法塔で何かを得ていらっしゃいました」


 皇帝マリエッタの横に控えているラリーサが周囲にも聞こえるくらいの声でマリエッタにそう教えていた。

 ラリーサとすれば余計なことだろうかと少し思いながらも、助け舟を出したつもりだった。

 タモンと目が合うと笑顔で力強くうなずいてくれていたので、おそらく余計なことをしゃべりすぎずにちょうどいい助け舟になってくれたのだろうとラリーサは安心していた。


「む。それならば……よいのか」


 ラリーサの方を振り返ったマリエッタは特に何も言わなかった。


 軍関係者たちが、少しは信じてもいいのかと戸惑ったままだったが、長老格のオリガが疑問はありそうだったが賛同し同じく長老格のタチアナも大きくうなずいたことで、この会議の流れは決まった。


「よし。では、トキワナ帝国への反撃を行うこととする!」


 マリエッタは決断し、会議室の面々に力強く宣言した。


「北ヒイロとの連合軍での遠征となる。総大将は、オリガ叔母上にお願いする!」


「かしこまりました」


 オリガは胸に手を当てて小さな姪っ子の命令に応じていた。トキワナ帝国との一戦となれば、名目上であっても総大将になるのは彼女しかいなかった。


 やや髪に白いものも目立ち始めたオリガだったが、南ヒイロ帝国のために粉骨砕身する気概を見せていた。


「前線は、リュポフとタモン殿の軍に任せる」


 マリエッタはそう告げた。総大将がオリガなのは誰にも分かりきっていたことだったが、実際に前線の軍を指揮するのは誰になるのかということについて軍の関係者は固唾を飲んで聞いていたところだった。


「はっ」


 マリエッタの言葉に、リュポフは力強く応じていた。


 皇族であり、有能な指揮官なのは誰もが認めるところなのだが、一年前は反マリエッタ派の中心人物だった上に、タモンの軍とも実際に戦った人だった。


 そのリュポフとタモンを並べるという意外な人選に軍の関係者は複雑な思いだった。


 とはいえ、名誉ではあるが、トキワナ帝国の奥深くに入っていくのは困難な任務でもあるのでこの人しかいないという気持ちで納得していた。


「後詰めにラリーサ。そちが行け!」


「は、はい」


 マリエッタは、他のことはそれほど心配していないのかすぐ横にいるラリーサには特に高揚した感じもなさそうにそう言った。


「承知いたしました。ですが……大丈夫ですか、陛下、私がいなくても」


「大丈夫だ。心配いらぬ」


 実の姉か、あるいは母のような目でまだ若いマリエッタのことを見つめるラリーサだった。

 そんな姉の心配を鬱陶しそうにしているマリエッタの様子に、タモンたちを始め会議室の面々も緊張した中にやや微笑ましい雰囲気が生まれていた。







「エミリエンヌ殿は、あれでよかったのですか?」


 タモンはエミリエンヌと一緒に自室に戻ってやっと一息ついた。


「かまいません。中途半端な説明をしても伝わらないでしょうし、私としても覚悟を決めなくてはいけない時でした」


 エミリエンヌは、吹っ切れたような明るい顔でそう答えた。


 ニビーロに弓を引くようなことはしたくないと葛藤していたエミリエンヌだったが、入ってくる情報はどう考えても自領に無傷で入れそうにないものばかりだった。誤解があって話し合って解決というのは、まずは自領を奪還してからの話なのだと思わざるを得なかった。


「『男王』さまに手籠にされて篭絡されたと思われていそうなのが、不本意ではありますがね」


「ここは略奪王の子孫の城なので仕方がないかと思いますよ」


 エミリエンヌは軽い口調で、少し不満そうな演技をしていたが、タモンの返事に大きく笑っていた。


「ははは、確かに。ですが、タモン殿に篭絡されてしまったのは事実ですし、言われても仕方がないかと思います」


 エミリエンヌは、見たこともないような優しくも少し照れたような笑顔でタモンのすぐ側で向かい合っていた。


「こほん。よい雰囲気のところお邪魔して申し訳ありません」


 いつの間にか、エリシアが部屋の扉を開けて入ってきていた。全く存在に気がついてもらえなかっったのが不満そうに声をかけた。


「あ、い、いえ。これは……」


 そのまま口づけでもしそうな雰囲気の二人だったが、エミリエンヌは慌てて飛び退ってタモンから離れていた。


 それよりもエリシアの背後には、三人の夫人たちの姿が見えていた。


 戦場で臆することのない軍神エミリエンヌも得体のしれない恐怖に背筋が寒くなっていた。


「結局、最前線に立たれるのですね」


 エリシアは呆れたようにそう言った。


「えっ、ほ、本当ですか?」


 その言葉に、長い付き合いになってきたエレナとマジョリーは分かっていたかのような態度であまり驚かなかったが、まだ幼いイリーナだけは心の底から驚いていた。


 やっと安全になって一緒にいられると思ったところだったので、ショックは大きかった。


「タモン陛下が、行かないといけないのですか?」


 エリシアが改めて確認しようと思っていたことを、イリーナが前にでて涙を浮かべながら聞いていた。


「戦争とは別に、魔導協会との戦いもあるからね。仕方がない」


 タモンはイリーナとその背後のエリシアに首を振りながらそう答えていた。


「まどうきょうかい?」


 イリーナの方は細かい内容は分からないようだったが、それでもどうやらタモンが行かないといけない事情があることは伝わっていた。


「分かりました。私はモントに残って北ヒイロの留守を預かります。ショウエを連れていってください。私なんかよりあの娘の方が、戦場での才能はあるかと思います」


 エリシアは聞く前から答えの予想はできていたのだろう。動揺することもなく冷静にそう答えた。


 この戦争の中で、エリシアは自分に戦の知識も才能はないことを実感していた。一方、ショウエは、戦時にも遺憾無く才能を発揮していた。思えば、彼女が見出されたのはランダとの戦いの中だったので、当然といえば当然であった。


「で、ですが……」


 ただイリーナの方は、そんな簡単には受け止められないのかまだショックを受けたまま次の言葉がでてこないようだった。


「イリーナちゃん。しっかりなさい。そんなことでは、旦那さまも安心して出陣できないでしょ」


 エレナとマジョリーはそれぞれ優しくイリーナの肩を抱いた。


 自分たちもこんな励ましている余裕があるのだろうかとマジョリーは内心では疑問に思っていたが、目の前の小さな女の子が泣いていると元気づけてあげたいと思ってしまう。


「エ、エミリエンヌさま!」


「は、はい」


 イリーナは涙を振り払い背を伸ばして前を向くと、エミリエンヌに声をかけた。自分が何か言われるとは思っていなかったエミリエンヌは、動揺と怯えが混ざった声で応じていた。


「だんなさ……、いえ、タモン陛下をお守りください。よろしくお願いします」


 そう言って、イリーナは深々と頭を下げた。


 ちょっと面食らって固まっていたエミリエンヌだったが、すぐにイリーナの意図を察して優しい笑顔で答えた。


「はい。必ずや無事にモントの城に一緒に帰ります。それまでお待ち下さい。先輩」


 幼い皇女夫人が、一度は戦った敵将を許し主人の助けになって欲しいと頭を下げて頼んでいる。そして軍神とまで言われた美しい名将は夫人にも忠義を示すかのように優しく応じていた。


 知らない人から見れば、それは微笑ましく美しい光景なのかもしれない。


 ただ、イリーナの後ろにいるマジョリーとエレナは気がついていた。


 これはエミリエンヌが、タモンの妻としてライバル宣言をしているのだと言うことに。





 数週間後、盛大な出陣式が行われた。


 幼い皇帝マリエッタが城門から見送るなか、帝都カーレットの中央通りを帝国騎士たちが威風堂々と行進していく。帝都カーレットの住民たちはその光景を熱狂的に見守っていた。


「マリエッタ皇帝陛下万歳!」


「帝国騎士に栄誉あれ!」


「トキワナに鉄槌を!」


 幼くも可憐なマリエッタは、逆にその幼さから神秘性を増していた。

 民衆からは神童なのだと崇め奉られている。

 民衆が実際の仕事っぷりを知るわけではないが、長年に亘り小競り合いを続けてきて、ついに今回は理不尽にも南ヒイロ帝国の奥深くまで攻め込んできたトキワナ帝国の軍を完膚なきまでに叩きのめして追い払った。

 そして、今、大軍を送り込み反撃しようとしている。そんな幼い皇帝陛下を民衆は少なくとも今は熱狂的に支持していた。


 帝国騎士たちに混ざって北ヒイロの軍も混ざっている。


 一年前であれば、民衆は自国の騎士と比べ装備も貧弱なその軍勢を嘲り笑っていたかもしれない。


 しかし、今は帝国騎士とも互角に戦える軍であることも知っている。そして、率いる将軍たちの顔ぶれは個性的で、今や自国の将軍たちよりも帝都カーレットで有名だと言っても過言ではなかった。


 最前列を進むのはカンナとミハト。北ヒイロの二枚看板の名前はもう隣国の子どもをも震え上がらせ、憧れるものも多い存在だった。


 ロランとルナが続き、その後ろには軍神エミリエンヌが馬上の人になっていた。


 まさか味方として戦ってくれるとは思っていなかった有名で麗しい彼女の存在を一目見ようと、中央通りの人たちはエミリエンヌの周りに密集して熱狂度は最高峰に達していた。


 そして、言うまでもなく『男王』タモンが最後尾に控えている。


 もう、珍しいだけではないタモンの存在に、民衆は頼み込むようにこの戦の勝利を祈り応援していた。


(本当に、遠いところにきてしまったような気がするなあ)


 タモンは、目の前の大軍を見て、更には周囲を見回して帝都カーレットを埋め尽くす民衆の多さを確認して、そう心の中でつぶやいた。


 自分にこんな大軍を率いて戦えるのかと今更ながらに怖くなってきてしまう。そう考えれば、すぐ前方を行くエミリエンヌの存在はタモンの心の支えだった。


(だが、先輩をとりもどさなければ、そして魔導協会を叩かなくては……)


 なんとか気合いを入れ直す。


 タモンは城門に立っているマリエッタに対して、敬礼をする。


 マリエッタもはっきりとタモンを確認して、敬礼を返してくれた。すぐ隣にイリーナも立っていて明らかにタモン向けてやや心配そうながらも笑顔で手を振る。


 その光景に、帝都カーレットに集まった民衆はその日一番の大歓声を上げていた。

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