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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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幼女と軍神

「我にはお師匠さまの気持ちが分からなくて困っております」


「え? 久々の再会なのに。何の相談?」


 ここはビャグンの街にあるマジョリー邸宅。ショウエは、キト家に仕える侍女のランとメイに久しぶりに再会し、喜びあったところだった。


 今は、どちらかと言えばタモンや師匠である宰相エリシアの直属の部下という立場の方が強くなってきたショウエだったが、モントの城に来た当初はヨム家のお付きのものとして、少し年下ではあるものの同じような立場のキト家の侍女のランとメイには親しく交流していたのだった。


「タモン陛下やエリシア宰相様ももうじき、このビャグンの街に来られるんだよね?」


 ショウエの相談の意味が理解できなかったランは、とりあえず現状をショウエに確認しようとする。


「はい。我は、先にご挨拶のために先行しました。もう陛下たちも出立しておりますので、夕方には到着されるかと思います」


「よかった。陛下のご無事なお顔を見られるのはマジョリー様も楽しみね。他のみんなも来られるのかな?」


 ショウエが普段どおりの返事で、特に落ち込んでいたりするわけではなさそうだったので、ランも安心した。ランの少し後ろで興味なさそうに突っ立っているメイだったが、彼女もわずかにほっとしたような表情になっていた。


「コトヒ様とコトヨ様はお留守番です。城代として残っていただいております」


「ああ、まあ、誰かが残らないといけないですからね。でも、みんなで集まれるかと思ったのに……マジョリー様は残念がりそうですね」


 主人であるマジョリーが久々に夫人たちが集まるのを楽しみにしていたと、ランは言う。他のヨム家の侍女たちも当然来ないことになるので、ランとメイも寂しい気持ちになってしまう。


「それでお師匠さまは同行しているのですが……エミリエンヌ様も一緒で……」


「エミリエンヌ様?」


 誰だっけというように、ランは首をかしげた。いや、有名な人の名前は思い当たるのだけれど、その人が陛下と一緒にビャグンに来ることがランには想像できずに別の人のことだろうと思っていた。


「ニビーロの軍神様でしょ?」


 面倒くさそうなので会話に加わらないようにしていたのに、メイはつい口を挟んでしまい後悔したような顔をしていた。


「はい。あのエミリエンヌ様です」


「敵の総大将さん……ですよね。その人がなぜ?」


 政治情勢に対する知識が街の一般人とほぼ同じなランは、話についていけずに驚いていた。


「投降したのよ。タモン陛下と同行しているということは……南のマリエッタ皇帝陛下に引き渡すつもりなのか……あるいは力を貸してくれることを条件に何か取り引きするつもりなのかもね」


「おお。メイさん。その通りです」


 ショウエは、メイの言葉に驚いていた。情報を早く正しく収集していることもすごいけれど、その後の洞察も鋭いとメイの顔を驚きながら見つめていた。


「それで、エリシア宰相さまがどうしたっていうの?」


 メイは照れ隠しもあって、つい話題を振ってしまった。


「そのエミリエンヌ様がタモン陛下と同行されることにご不満なようで……むしろお師匠の思惑どおりのはずなのですが……」


「そんなの嫉妬しているからに決まっているでしょ」


 メイは、少し呆れながらそう言った。


 ショウエは読みの鋭いところと、全く苦手なところがありすぎてメイは呆れてしまう。


 ただ、それがショウエのほっとできて可愛らしいところだとメイには映っていた。メイはそれを表情には全く出さずに、ツンとしたままで崩さないのだが。


「……嫉妬ですか? すでにあんなに綺麗な奥様が四人もいらっしゃるのに、今さら……」


「立場が違いますからね。エリシア様にとっては夫人たちも仕える立場ですから、そこには不満もないし、文句を言わないようにしているんじゃないかな」


 優しく間に立ってフォローしてくれるのはランだった。


「立場が違う……うーん、好きなら同じだと思うのですが……うーん」


 ショウエには恋心も分からないが、それを立場で分けるのは尚更わからないと首を捻る。


「まあ、部下としては一番寵愛されている自負があったのでしょ。例えば、戦場だったらエリシア様が夜のお相手をしていたらしいじゃない」


 ランにはショウエの考え方も分かると思いながらもそう話す。


「ほ、ほほう。そうなのですね。いえ、確かにそんな話を将軍たちからも聞いた気がします」


 ショウエが、少し顔を赤くしながらも興味津々な様子で前のめりな姿勢になっていた。


「カンナ様やミハト様は、昔からのお仲間だし、今は他の場所に単独で遠征することも多いから別に許せるのでしょうけれど……」


 メイはなんで自分が、宰相さまの気持ちを解説しているんだとふと冷静になってしまったが、話を続けた。


「そこに超優秀な部下がいきなり入ってきてしまったら……。しかも、ご夫人たちとはタイプは違うけれどとても綺麗な顔立ち、美しく引き締まった体をしていたら……という話よ」


「なるほど……お師匠さまは、時々可愛らしいですけれど美人ではないですしね。体つきも貧相ですし……」


 ショウエには言われたくないだろうと、ランもメイもショウエの体をちらりと見つつ微笑を浮かべながら聞いていた。


(あれ? でも、ちょっと大人っぽくなった?)


 しばらく見ないうちにショウエの体はちょっとでるところはでているようになっていて、メイは密かに焦りさえ感じてしまう。


「夜のお相手はともかく。同じ立場にいきなり優秀な娘が現れたりしたら、どうしても嫉妬しちゃうものでしょ。私たちだって、マジョリー様がいきなり新しい侍女ばっかり頼るようになったら嫉妬して、そりゃもう些細なことでいびるわ」


「え、あ、なるほど……」


 メイの言葉に、ショウエは自分の立場だったらと考えてちょっと納得したようだったが、やっぱり良く分からないかもしれないと思い悩み続けていた。


「メイ……新しい侍女が来ても仲良くやろうね」


 一方、ランは私はそんなこと考えていないとでも言いたいようで距離を置いていたけれど、メイの言葉には嬉しそうに頷いていた。


「でも、メイがそんなにマジョリー様のことが大好きで、仕事熱心だったなんて思わなかったな」


「ぐっ、いや、別に私が、そうというわけでは……」


 思いっきりそうだと言ってしまっていたので、メイは赤くなりながら言葉に詰まるしかなかった。 


「でも、コトヨ様たちと、他のご夫人たちは仲がよろしいですよね」


「今は四家の利害関係が一致しているし、ご夫人たちもそれぞれ遠慮して他の夫人の領域に踏み込まないだけよ」


 ショウエの言葉にメイは照れ隠しなのか、自分の主人たちの立場を早口で解説し続けていた。


「戦争が終わったあとは、バランスが崩れるかもね。イリーナ様が成長されたらなんだかんで後宮の立場は強くなると思うし……あとはもう一人、愛妾が増えたりしたら一気にみんな険悪になってしまうかもね」


「イリーナ様が……」


 ショウエにもイリーナのことは理解できる。やはり南ヒイロ帝国が後ろ盾であることの影響力は大きい。今は政略結婚で嫁いできただけの小さな皇女さまでも、いずれは正妻たちを脅かす存在になっていくのは予測できてしまう。


(もう一人……愛妾……あれ……何か……いやな予感が……)


 それ意外のことは、やはりショウエの専門外なので深く考えないようにした。しかし、今の言葉を聞いた後だととても危険な予感がしてしまうのだった。





 翌日、ビャグンの街は、タモン一行を熱烈な歓迎で受け入れていた。


「タモン陛下!」


「我らが王」


 タモンは自ら馬に乗り、集まった民衆に対してにこやかな笑顔で手を振っていた。ここ一年で馬の扱いはさらに上手になったなと自画自賛しながら余裕で馬を操りながら進む。


 まだ戦時下ではあるので派手な催しは行われなかったが、群衆の熱量は以前にタモンがマジョリーとともに訪れた時よりも遥かに熱さを感じていた。


 いきなりの侵攻を受けて、耐えて耐えて今や完全にニビーロの兵を追い出した直後の訪問なだけに、珍獣を見るために集まったような前回とは違う、立派な王を称える声がビャグンの街に溢れていた。


「すごい熱狂ですね……」


 タモンに続く馬車の中からエリシアはその様子を覗き見ていた。ある程度は予想していた彼女でさえ、この熱量は予想を上回っていて驚いていた。


 馬車の向かい側の席では、エミリエンヌが反対側の窓から同じように市街の様子を覗き見ていた。


 エリシアから見れば、エミリエンヌの表情は強張り縮こまって座っているように見える。


(まあ、それはそうよね……)


 エリシアはエミリエンヌのその様子をじっと眺めていた。いい気味だという思いと同情したくなる気持ちが入り混じっていた。


 周囲には、エミリエンヌが同行していることは秘密だった。


 もし普通の王であれば、この中を首輪をつけられて引き回されて群衆から石を投げつけられてもおかしくない。


 今のエミリエンヌはそういう立場の人間だった。


 侵略を押し返して戦勝気分の群衆の熱気を浴びながら、エミリエンヌ本人も改めて自分の立場を自覚して表情を曇らせる。




 タモンたち一行は、ビャグン領庁舎へと入った。


 民衆の目から隠れるようにエミリエンヌはこそこそと馬車を降り、建物の中へと入っていった。


 降伏を決めた時から、いや普段からであってもどんな仕打ちを受けても堂々としている自信はあった。ただ、今の群衆を見たあとだとその自信は揺らいでしまっていた。


(ばれたりすれば、部下たちにも……そしてタモン殿にも迷惑をかけてしまうかもしれない)


 そう思うと自分でも信じられないくらいに萎縮していた。


 そんな中、建物に入る際にタモンが手をとってくれた。はぐれないようという意味だけだとは思うのだけれど、エミリエンヌは安心した気持ちになり後をついていく。


「旦那さま!」


 大広間に向かう廊下で、タモンは呼びかけられた。とても聞き覚えのある声だった。


 明かりがそれほど差し込まない廊下であっても、他とは違うきらびやかな雰囲気をまとった二人の女性。それはタモンの正妻、エレナとマジョリーの二人だった。


 二人は出会った時からお互いに色がかぶらないようにしているようだった。


 赤い着物のような体にぴったりとした服を身にまとったエレナと、水色のふんわりとしたドレスを着ているマジョリーの姿はタモンも見慣れた対比だった。今日は社交界で着るようなドレスのような派手さはなく落ち着いたものだったけれど、それだけに二人は大人の落ち着きとともに、美しさを増しているように見えた。


 二人の夫人は再会できた喜びで、今にも泣いたり飛び上がったりしてしまいそうだったけれど、何とか自分を落ち着かせつつタモンがこちらに近づいてくるのを上品に待っていた。


「旦那さま!」


 そんな二人の横を小さな女の子が駆け抜けていった。 


 白いワンピースドレスを着せられた感のある女の子は、皇女でもう一人の夫人であるイリーナだった。


「イリーナ様!」


「ちょ、ちょっとイリーナちゃん」


 危ないと注意しようとする正妻二人の声が届く前に、元気にタモンの元まで走っていくと飛びついた。


 タモンは驚きながらエミリエンヌを引っ張っていた手を離して、この幼ない妻を空中でしっかりと抱きとめた。


「旦那さま、お久しぶりでございます」


 小さな体をタモンに抱きかかえられて、満足そうな満面の笑顔でイリーナは挨拶した。


「もう、イリーナちゃんってば、はしたないですよ」


 呆れながらエレナとマジョリーもタモンの元へと慌てて近寄っていく。上品に待っている時間ももどかしかっただけに、イリーナがタモンに抱きついてくれたのはいっそ良かったと二人とも思いながらタモンに触れた。


(でも、私もああやって無邪気に気持ちをぶつけたいですね)


 エレナは、イリーナのことを少し羨ましそうに見つめている。イリーナはまだタモンの首に手を絡めて離れようとはしない。この後、マジョリーの両親と面会がなければ自分も人目をはばかること無く再会を喜んで抱きつきたいと思っていた。


 マジョリーとは目が合った。どうやら、同じようなことを考えているのだろうという表情なのは分かってしまう頷きあってしまった。


「少し背が伸びた?」


 やっと絡めた手を離してくれて、イリーナはすっと地面に足をつけた。タモンに向かい合って立った時の視線が少し変わっていると思った。


「はい。かなり伸びました。ご安心ください。順調に成長しておりますので」


 イリーナのその言葉には、タモンはそれほど変わらないよなとちょっと苦笑いで応じていた。


(でも、確かに……ちょっと……)


 体つきはまだまだ子どものままだった。エレナやマジョリーと比べるとまったくすらりとした体つきのまま、抱きしめても柔らかさというか弾力がないと感じるのは以前のままで変わらない。


 でも、上から見ると鎖骨から肩にかけての白い肌が眩しく見えて、子どもだとは思いながらも妙な劣情が湧き起こるのも感じていた。


「それで、旦那さま」


 イリーナは可愛らしく少し首を傾けながら上目遣いに呼びかけた。可愛らしい態度にも関わらず不意に冷静な声になったので、タモンはいやらしい視線で見て妄想をしてしまったのがばれてしまったのだろうかと心配になったが、そんなことはないようだった。


「その女は誰ですか?」


 ただ、イリーナの声が冷たいのは決して気のせいではなかったようだった。


 イリーナはタモンの真後ろに立っているエミリエンヌに冷たく鋭い視線を向けていた。

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