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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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南へ向かいましょう

「エミリエンヌ様に対して我が仕掛けた工作が、うまく行き過ぎましたでしょうか……」


 ショウエは、申し訳無さそうな顔をする。


 モントの公務を行う部屋に入り、主君であるタモンの前で師匠である宰相エリシアとともに並んでいるところだった。


 若い三人、特にショウエはまだ子どもに間違われてしまうこともしばしばある少女だったが、今や北ヒイロ地方全般の政策を決めているのと言っても過言ではない三人だった。


「ショウエは何も悪いことはしていない。素晴らしい仕事をしたわ」


 エリシアは、そう言ってショウエを労った。


 優秀すぎる前線指揮官に対して、謀反の噂を流して国王に疑わせるというのはよくある謀略ではあるが、簡単なわけではない。今回はショウエが自ら占領下の城に侵入し、内情を把握した上で各所の心のすきを細かく突いていったがために、万事がうまくいった。


 それは自分にもできないことだろうと、エリシアは弟子の素晴らしい活躍に素直に感心していた。


「強いて言えば、エレナさまやマジョリーさまの工作も的確でしたからね。より効果的だったのでしょう」


「ショウエが気にすることはないよ。一度、前線から呼び戻して釈明させたあとでまた前線に送っているのだから……」



 優柔不断なニビーロの国王が悪い。


 タモンは会ったこともない敵国の王に怒りさえ感じていた。謀略を仕掛けた側に怒られても理不尽としか思えないだろうとエリシアは内心では呆れていた。


「これで、エミリエンヌ殿を、すぐに返すわけにはいかなくなったな……」


 タモンはそうつぶやいた。


 本気で困っているようでもあり、もうしばらく一緒にいることができるのだと少し喜んでいるようにも部下である二人からは見えた。


「むしろ、これはエミリエンヌ殿を連れていき、ニビーロ国を混乱させる好機では?」


 ショウエとエリシアは同時に同じことを言った。


「そうなのだが……だが、それだと本当にエミリエンヌ殿が裏切ったように見えてしまうだろう」


「何の心配をしておられるのですか。陛下は……」


 深刻に考え込んでいる主に対して、エリシアはさすがに私情を持ち込みすぎると思わず文句を言ってしまう。


 ショウエは頭がいいのだが色恋沙汰には全く疎いので、タモンの想いやそれに対するエリシアの苛立ちも察することができずにいた。しばらくの間、嫌味をいうエリシアとタモン、二人の様子を交互に眺めるだけだった。


「あ、そ、そうだ。奥方様たちから手紙が届いております……よ」


 ショウエは、よく分からないが険悪な雰囲気になっている主君と師匠の空気を和ませるべく、預かっていた手紙を差し出した。


「奥方様……城の外にいる三名からですか?」


 何故かエリシアがこの戦いに勝ったとでもいうような笑顔で、ショウエから一旦、三通の手紙を受け取って確認していた。


「はい。あと、『ビャグンの街でお待ちしています』と伝言を受け取っています」


 簡単な連絡だけなら、今や北ヒイロの街ごとにいる魔法使いのネットワークですぐに伝えることができる。ただ、各自が思いの丈をしっかりと綴った長文となると魔法使いの負担が大きいのとプライベートな内容になるので、手紙での連絡が主な手段になっていた。


「はい。陛下。マジョリー様たちは帝国に行く準備が万全のようですね」


 エリシアは、かなりの厚さをした手紙を三通をまとめてタモンの両手に載せた。


 エリシアの少し意地悪そうな笑顔と、目をそらして少し困っているタモンの様子をショウエはやっぱりよくわからないままに見つめているだけだった。




「エミリエンヌ殿?」


 すっかり最近の日課となっている夜の食事を、タモンは自らエミリエンヌの部屋に運んでいっていた。


 いつもは、軽くドアをノックするだけですぐに返事をして出迎えてくれるのに、今晩は反応がなかった。


「失礼します」


 心配になって慌てて部屋の中に駆け込んだタモンだったが、ベッドで寝ていたエミリエンヌの姿を見てほっと胸を撫で下ろした。


「あっ、タモン殿。お、おはようございます」


「まだ夜ですよ」


 エミリエンヌのベッドに腰掛けて、タモンは微笑んだ。


 意気消沈しているのは間違いがなさそうだったけれど、毛布から顔だけを上げてタモンの様子を見つめているエミリエンヌは思ったよりも元気そうで安心していた。


「晩ごはんを持ってきましたけれど、食べますか?」


 少なくとも自殺などは考えていなさそうなエミリエンヌを確認したので、タモンは返事を聞くまでもなくテーブルに今晩の食事を並べ始めた。


「はい」


 まだ眠そうな目で、エミリエンヌは立ち上がる。


「こんな時でも、お腹はすくものなのですね」


 怒っているわけでもなく、悲しそうなわけでもない。本当に自然な感じでエミリエンヌはそう言いながら椅子に座った。


「これからどうされますか?」


 しばらくの間、二人は無言で晩御飯を口に運んでいた。


 温かい食事に満足しつつも、どこかぼーっとしているエミリエンヌにタモンはそう尋ねた。


「……そうですね」


 エミリエンヌにも、タモンの質問の意図は分かっていた。このまま帰国すると間違いなく罪を被せられて処刑されてしまうが、それでも帰国するかという問いだった。


「帰国は、無理ですね……」


 このまま一人帰国すれば、エミリエンヌに敵対する勢力の思うつぼだった。弁明する機会も与えられないのは目に見えている。


「ふふ、本当にタモン殿の愛妾にしていただきましょうか?」


 エミリエンヌは、タモンを上目遣いで見ながらそう言った。


 わずかに緩めた口元と少し疲れた様子からは、半分くらいは本当にそれでもいいかと考えているようだった。


「僕の方は大歓迎ですよ」


 タモンは、そう答えた。こちらも半分くらいは、いや、それ以上に本当にそれでもいいと考えている力強い返事だった。


「綺麗な夫人たちが4人、いえ5人もいらっしゃるので私などすぐに飽きてしまいますでしょうに……」


「いえ、そんなことは断じてありません」


 勢いのあるその返事に、思わずエミリエンヌは笑ってしまっていた。


「……ケンザ殿たちからも、『悔しいがエミリエンヌ様を守って欲しい』とお願いされました」


「ケンザたちが……余計なことを……」


 エミリエンヌは呆れながらも、ケンザたちのことも心配になる。


 このまま帰国させて、本当に問題ないだろうかと考える。


 何事もなく他の将軍の配下に仕えたり、領地に戻れたりするだろうか。


「……いや、このまま無事に済むわけがないか……」


 エミリエンヌは、頑張ってみたが楽観的な見通しをすることもできなかった。


 引退した自分の親まで処刑されているのだ。どのような嘘を吹き込まれたのかは分からないが、国王陛下や大臣たちは自分に対して怒りを持っている。


「……厚かましいお願いですが、むしろケンザたち部下のことをお願いしたく思います」


 私は何でもいたしますからとは、さすがに口には出せなかったがエミリエンヌとしても当然その覚悟はしているという態度でタモンにお願いをしていた。


「分かりました。ただ、北ヒイロにまだ数百人は残っているのですよね……」


 タモンはあっさりと了承したが、どうしたものかと考え込んでいるようだった。


「みんな働いてもらいますが、それで構いませんか?」


「……はい」


 エミリエンヌは少し不安にもなったが、酷い労働をさせられたりはしないだろうと思い頷いた。


(自分の国より、敵国のことを信用するなんて……)


 部下たちが簡単に取り込まれてしまったような気がしなくもないが、エミリエンヌとしては先に帰国の途についた部下たちの無事も心配でたまらなかった。


 残った部下たちはこのまま、タダ飯を食らわせてもらうわけにもいかない。面倒を見るのなら、とりあえずは自分が頼んだことにしてケンザに面倒を見てもらうのかいいだろうと考えていた。


「この後……僕は南に行きます。どうしますか? エミリエンヌ殿もついてきますか?」


「南? ヒイロ帝国に?」


 不意に言われた言葉に、頭の回転の早いエミリエンヌもついていけなかった。


「トキワナに攻め込む相談をします」


「トキワナに……」


 攻め込んできたトキワナに対して、ヒイロは盛り返して今や完全に優勢になっていることはエミリエンヌにも伝わっていた。


「トキワナ本国にまで攻め込むのですか?」


 追っ払ったところで、なるべく有利な和睦の条件交渉をするのだとばかり思っていた。


 それでも侵攻が完全に失敗に終わったトキワナにとっては十分な大打撃になるという予想だった。


(何のために……)


 南ヒイロも昨年、内戦があって弱っている。戦いを長引かせたくはないだろうとエミリエンヌも世間もそんな認識だった。


 わざわざ北ヒイロが参加する意味は何なのかが分からなかった。


「トキワナに行って、助け出さなくてはいけない人がいます」


 タモンはにこりと笑った。エミリエンヌの心の声に答えるかのように。


「なるほど……この後宮の本当の住人なのですね」


 魔導に詳しくないエミリエンヌも、この戦いに大魔道士や魔道士たちの思惑が絡んでいることは薄々気がついていた。なぜ、ニビーロを使って北を直接攻めさせたのかがうっすらと繋がった気がしていた。


「その方が、タモン様の想い人なのですよね」


 その言い方は、まるで嫉妬して聞いているみたいだとエミリエンヌは自分でも思ってしまう。


「そうですね……。でも、その人が世界の鍵なんです」


 タモンが遠い目をしながら言った言葉はよく分からなかった。ただ、想い人をだということを否定しなかったことにエミリエンヌは自分でも驚くほどにもやっとした気持ちを感じていた。


(夫人たちが何人もすでにいるのに……)


 今さら、なんでこんな気持ちになるのか自分でもよく分からないまま胸を抑えていた。


「トキワナに攻めることになったら、ニビーロの側を通ります」


「はい……」


「ニビーロのエミリエンヌ殿の領地に連れていくこともできます」


 再度、どうしますかとタモンに聞かれていた。


 手を差し出してくれたのはありがたいと思いながらも、この手をとってしまえば、敵対勢力が立てているあらぬ噂を多くの人に信じさせてしまうかもしれない。


 そう思うと伸ばしかけた手を一度はひっこめた。


(だが……)


 このままここにいても、残した部下や領民がどう扱われるかは不安でいっぱいだった。


(この人を信じていい)


 タモンに真っ直ぐ向かい合いながら思っていた。


「あなたについていきたいです」


 エミリエンヌはゆっくりと手を伸ばして、タモンの手をしっかりと握りしめた。

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