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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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誘惑の決意

 エミリエンヌは混乱していた。


(つまり……『男王』タモン殿は戦場で戦っている私の姿を見て一目惚れしたということ……か……?)


 タモンはいきなりの訪問してきたかと思えば、エミリエンヌがいかに素晴らしいと思うかについて熱烈に語り続けていた。


 しかし、護衛のマキに急かされながら慌ただしく政務に戻らなくてはいけなくなってしまったので、エミリエンヌは静かになった部屋の中に一人取り残される形になってしばらくは先程の嵐のような訪問は何だったのか思い直していた。


(それにしても、随分と甘い警備なのではないだろうか……)


 部屋は外から鍵がかかっていて閉じ込められている形ではあるけれど、手足の拘束も外されて建物の中は自由に移動できるようになっていた。


 板が打ち付けられた窓に手を当てながら、エミリエンヌはこれくらいはあっさり壊せて地面に飛び降りることができそうだと板を叩いて材質を確認して、耳を押し当てて周囲の音を聞いていた。


 警備の兵はいるようだが、自分であれば板切れの一つもあれば十分、倒せそうだと思う。


「とはいえ、何か呪いの類があっても不思議ではありませんが……」


 窓から離れて、奥の部屋に入りながら一人つぶやいていた。


 その部屋は、魔法使いが研究に使っていそうな内装だった。

 本棚には魔導書らしきものが並べられて、机には触媒やすでに薬になったものの陳列されていた。魔法に詳しくないエミリエンヌには、それが希少なものなのかどうかは良くわからない。


 ただ、割と本格的な設備なのだろうということは理解できた。


「北ヒイロの宮廷魔法使いの部屋……のために……いや……部屋だった?」


 この建物自体がいったい何なのかを考えつつ、この不思議な部屋を後にしてベッドに戻って寝転んだ。


(タモン殿に危害を与えられないようにする薬ということでしたが……それ以外で発動してもおかしくはなさそうですね)


 呪いの類は具体的にそして限定した方が効力が強く、長く続くという。


 タモンの言葉からも、危害を加えようとした時にだけ発動する呪いなのではとエミリエンヌは思うのだが、それ以外でもう一つくらい逃げようとした時に発動するようにしてあっても不思議ではないだろうと推測する。


(まあ、自分なら間違いなく、そうしますね……)


 魔法に詳しくはないので、そうした魔法の薬を作成するのにどれくらいの難しさがあるのかは見当もつかない。ただ、そんな保険をかけておくだろうと思っていた。


「しかし、……どうもあのタモン殿は……不思議な方……」


 調子を狂わされてばかりだったタモンの行動を思い直しながら、エミリエンヌは自分でも不快なのか、ほっとしているのか良くわからない顔をしていた。





「エミリエンヌ殿、晩ごはんを一緒に食べましょう」


 日も暮れ始めた頃、タモンは再びエミリエンヌが囚われている部屋を訪ねてきた。


「えっ、はい……」


 後ろに護衛のマキの姿をはじめ数人の警備兵の姿は見えたものの、トレイに料理を載せて部屋の中に入ってきたのはタモン一人だった。


 テキパキと机にテーブルクロスをかけて、料理を取り分けて用意してくれるタモンの姿をエミリエンヌは呆然と見つめていた。


「どうぞ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 タモンに笑顔で勧められて椅子に座ったエミリエンヌの口からは思わず普通にお礼の言葉がでてしまった。


「いただきます」


 投降した時にはこんな温かいシチューを食べられるとは思ってもみなかったので、エミリエンヌはスプーンを口に入れた瞬間に思わず笑顔になった。


「しかし、国王陛下が自ら料理を運んでこなくても……」


 油断して満足そうな表情を浮かべているのをタモンにじっと見つめられて、慌てて自分の立場を思い出して表情を引き締めながらそう言った。


「国王なんてものでは無くて、山賊の親分みたいなものですから」


 タモンは、謙遜でもなく本気でそう思っているのか笑っていた。


 確かに、ニビーロや周辺諸国でも『男王』タモンはそういった評価だった。


 ただ、『王がいない北ヒイロでエトラ家やキト家が担ぎだした山賊みたいな男』というのは間違っていないが、エミリエンヌは実際にこの土地に来てタモンはそれだけの存在ではないとも身を持って感じていた。


 確かに立派な街もなければ、城もこのように小さくみすぼらしいままだ。兵はそれなりにいるが、将の数は足りない。それ以上に帝国はもちろんニビーロと比べても政務を執り行う人材は乏しいだろうとエミリエンヌは見ていた。


 しかし、それでもこの『男王』を中心にうまく連携をとっているだと実際に戦って見て感じていた。


「まだ、侍女たちは城にあまり戻ってきていませんので、僕がした方がいいかなと思いまして。あまり鎧を着込んだ兵に出入りされても嫌でしょう?」


 当の国王は、エミリエンヌの目の前でウリルの肉をフォークで突き刺して美味しそうに頬張っていた。


「しかし……それでも一人で来るのは不用心なのでは?」


 エミリエンヌは、ついまた余計なことを言ってしまったと後悔する。

 一人で来てもらった方が、逃げる機会があった時に助かるのは間違いがない。変に護衛をついてこられると、もし逃げ出せるとなった時に不利になってしまうと内心では慌てていた。


「大丈夫ですよ」


「謎の呪いがありますしね」


 能天気に笑うタモンに、エミリエンヌは囚われの身であることを強調していた。

 呪いがあっても、部下の一人も潜ませておけばタモンを捕まえての脱出もできるのではないかと素早く計算していたが、今度は余計なことを言わずに将来のために黙っていようと思った。

 なんとか、このまま一人で部屋に来てもらえるように仕向けたいと画策する。


 タモンの言う通り、護衛の人に何人も部屋の中に入ってこられるのは、エミリエンヌであっても恐怖だし、不快であった。


(そう考えると、タモン殿は怖くない『男王』ですね……)


 威圧感もなく、恐怖もない。すっかり和んだ雰囲気で、同じ部屋にいることが心地よいとさえ感じる。


(いや……待て……)


 エミリエンヌは、スプーンを持っていた手が止まる。


(そもそも、夜に一人でやってくるというのは……そういうことなのでは……)


 和やかに温かい食事をともに楽しんでいたけれど、これは権力者に口説かれている状況なのだと不意に理解する。タモンの部下たちは『お楽しみの時間』を邪魔しないために部屋に入ってこないのだ。


(とはいえ、どうしようもないか……)


 千人ほどの部下は未だに捕虜のままだし、個人の力で抵抗することも呪いの力でできない。


(少なくとも、部下が本当に解放されるまでは大人しくするしか……)


 シチューを口に運びながら、タモンの様子を改めて観察してみる。タモンの方も久しぶりに温かい食事を食べるのか、美味しそうに頬張った時の笑顔が印象的だった。


(まあ、酷いことはされなさそうではありますが……。いや、実際は、こんな人の方がすごい変態的な行為をしてくる……かどうかもよくわかりませんが)


 食事のあとのことを考えると、エミリエンヌはにわかに緊張しつつ、体も熱くなるのを感じていた。


「まあ、呪いなんてすごいものではないですけれどね。魔法による暗示みたいなものです」


「は、はあ」


 いつになく冷静な返しができないエミリエンヌだった。


 昼間に飲まされた魔法の薬の話だと理解するまでに、しばらくの時間がかかってしまった。


「タモン……殿は……ご自分で魔法が使えるのですか?」


 昼間の……いや、以前に戦場で追いついたと思った時からエミリエンヌはその疑問は持っていた。


「え? 何のことでしょう。……ひ、秘密です」


 タモンは、ほぼ答えを言っているようなとぼけ方だった。


(だからと言って、どうというわけでもないですが……)


 過去の『男王』の話を聞いていると意外ではある。


 ただ、今回の戦場で強力な魔法で攻撃された記録はない。

 ひょっとしたら通信目的などで使っていたのかもしれないが、大魔法使いはもちろん、帝国に仕えているような魔法使いのような戦力ではないのだろうとエミリエンヌは判断していた。


「ええと、内緒でお願いしますね」


 完全にばれてしまったと思ったのか、タモンは人差し指を口の前で立てながら片目をつぶってお願いをしてきた。


「それを敵将に言われましても、困ってしまいますが……まあ、部下たちを解放してくださるのですから、無駄に話すことはありませんよ」


 エミリエンヌは反応が面白いと思いながら微笑んでいたが、タモンの方は割と真剣な目つきでじっとエミリエンヌを観察しているのに気がついてしまった。


「そう言えば、エミリエンヌ殿は、ヨハンナにはお会いになったのですか?」


「ヨハンナ? ……ああ、大魔法使い殿ですね。私は最後に少しお会いしたくらいで、もう疲れ切っておりましたが……」


「何か、『僕について』言ってましたか?」


「そうですね……『殺さないで、できれば生け捕りにして』くらいですね。それ以上は特に……」


「そうですか」


 タモンはそれを聞いて少し安堵したような表情になっていた。


(もしかして、魔法が使えることがばれてしまうと、困ることがあるのでしょうか……)


 エミリエンヌは、タモンの表情を見ながら、これは将来使えるのかもしれないと心の奥に刻んでおくことにした。


(将来のことよりも、とりあえず、この窮地からどうするかですが……)


 特に責められることもなく温かい食事ができたのですっかり穏やかな雰囲気になってしまっているが、攻め込んだ先の領地で部下とともに囚われの身になっているのだ。何事もなく無事に済むとは常識的にはあり得なかった。


(部下の命だけは……そう考えれば、今晩、抱かれてしまうのもやむ無しですね)


 エミリエンヌは改めて覚悟を決める。自分はどうなろうと、まずは部下は無事に本国に返してもらえるように頼み続けよう。


 そのためには屈辱的であっても、今は、大人しく従うしかない。


 自ら命を絶つのは、後日でも構わないはずだ。


「それでは、また明日来ますね」


「え?」


 悲壮な決意を固めたはずのエミリエンヌは、驚いていた。


 トレーに食べ終わった食器を自ら載せると、タモンは軽く会釈をしながら外へと出ようとする。


「あ、お帰りなのですか?」


 引き止めてしまっているみたいな言い方に、エミリエンヌは言った後で自分で恥ずかしくなっていた。


「はい。……それとも、寂しいから残って欲しいですか?」


 このタモンの笑みはからかっている時の表情なのだと、エミリエンヌにも分かるようになってきていた。


「そ、そのようなことはありません。お気をつけてお帰りください!」


 からかわれているのだと分かると、エミリエンヌは不機嫌そうに声を荒らげる。


「ははは、今日はお疲れでしょうから、ゆっくりとお休みください」 


 怒られて逃げる子どものように、タモンは早足で外へと出ていくと扉を閉めながらそう言い残した。




 一人取り残された部屋で、エミリエンヌは気が抜けたように椅子に腰掛けていた。


「確かに疲れたかも……しれない」


 こんなに動かない日は生まれてから初めてかもしれないと思いながらも、心は人生で体験したことのないほど疲れているのを感じていた。


 昨晩までは悲壮な決意で緊張していた心が、今日になって色々と肩透かしを食った結果、動けなくなっていた。


「でも、『今日は』……か」


 明日以降のことに考えを巡らせると、屈辱と同時に未知の好奇心に体が再び熱くなるのを感じていた。


(しかし……。これは考えようによっては好機かもしれません……)


 何故かはよく分からないが『男王』は私にご執心なのだと、エミリエンヌは改めて確認する。


 遠征先で、若く綺麗な女性に溺れて、正妻と不仲になってしまう王や将軍の逸話がいくつもある。『男王』でもアン王や、トキワナ帝国の始祖であるノベ王にもそんな話があってよく知られている。


(攻め込んできたのは、私の方だが……。それはともかく、私に夢中にさせてしまえばいいのではないか?)


 現状からニビーロをも救うことができるかもしれない逆転の策であった。


「これは賭けてみるしかない」


 そんな希望を見出したエミリエンヌは、背筋を伸ばしてしっかりと椅子から立ち上がった。


「しかし、男を誘惑とか夢中にさせるのは……どうすれば?」


 エミリエンヌは顎に手を当てて考え込んでいた。


 今までは、抱かれたい側も抱きたい側も何もしなくても勝手に寄ってきていた。


 あまり興味がなかったこともあるのだが、どう誘惑するのが効果的なのかは全く分からない。


 しかし、やるしかないと決意を固めるエミリエンヌだった。

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