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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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窓際のエミリエンヌ

「困ったな……」


 エミリエンヌは、自分の屋敷の自室の窓辺で軽くため息をついた。


 ラフに白いシャツを着くずしながら片膝を立てていると、細く綺麗な金髪が風に揺れていて、外からカーテンのレースごしにもその姿はとても浮き出ているかのように印象的に映る。


 街の娘たちからは、綺麗で格好良いお姉さまと憧れの的だったし、勇ましい武官たちは何かの間違いでもいいから一晩抱いてみたいと、複雑だったが様々な人たちから羨望を集める存在だった。


 特に今は彼女を監視している側の兵たちから、ため息をついて考え込んでいるエミリエンヌはまるで美しい深窓の令嬢のように見える。任務を忘れて、うっとりと見つめながら恋人になれないかと妄想を膨らませていた。


 エミリエンヌはニビーロ国の軍の要職で、実質的にはすでにトップだと言ってよかった。他の将軍たちがすでに体格でも年齢でも貫禄ある人物ばかりなのに対して、エミリエンヌはまだ若く美しかった。


 その彼女は今、軟禁状態にあった。それほど物々しい雰囲気はないが、外出は控えるように命じられて護衛という名目の監視の兵たちが見張っている。


 自身の屋敷は、決して大きくはないが、白く綺麗な建物に周囲には綺麗な花が植えられていて、エミリエンヌとその使用人のきめ細やかな気遣いが感じられる建物だった。


 街の人たちにも目の保養として愛されるこのお屋敷は、今は国王から命じられた監視の兵に取り囲まれている。


「思っていたよりも用意周到だな」


 窓から外にいる監視の兵を逆に観察しながら、エミリエンヌはつぶやいていた。


 監視の兵たちには、それほど厳しくエミリエンヌを拘束するような行動は今のところは見られない。


 美しいお屋敷で、美しいエミリエンヌの姿を見張っていられるのは役得だと思っている節さえある。それは、『エミリエンヌ様が本当に問題を起こすわけがない』という信頼が、国王直属の兵たちにもあるからなのだと感じられた。


 エミリエンヌが、用意周到だと嘆くのは国王陛下や直属の兵たちにではなく、こんな状況に仕向けた誰かに対してだった。


(すぐに戻れると思っていたのに……部下たちは大丈夫だろうか……)


 エミリエンヌは、自分の身よりもそのことばかりを気にしていた。


 ニビーロに一度戻ったエミリエンヌは、すぐに軍の武器に関する汚職事件に巻き込まれた。


 すぐに関係のないものだと証明されたが、その次には自領での不正告発、軍内でのいじめや国王陛下のお気に入りの妻に対する不倫疑惑などという事件にまで連続で疑惑を向けられた。


(まあ、北ヒイロの『男王』側でしょうね……)


 直接、北ヒイロを有利にするような事件は何もないが、エミリエンヌが関わっているような疑いを匂わせつつ、エミリエンヌが戻ったこの時期にまとめて問題が発覚するのは北ヒイロが手を引いているのだとエミリエンヌ自身は確信している。


(エトラの商人たちでしょうか……そう言えば、あの無敗の名将殿は、キト家とエトラ家の私兵を預かっているとか……)


 まだエミリエンヌは、見たこともないルナに対する妄想が捨てきれていなかった。


 北ヒイロ側が存在をちらつかせつつうまく隠しているとも言えるのだが、エミリエンヌを嵌めている誰かの存在を考える時にどうしても脳裏にちらついてしまう。


「エミリエンヌ殿!」


 勢い良く屋敷に侵入してきた国王陛下直属の武官たちに、さすがのエミリエンヌもわずかに怯えた。


(まさか、死刑はないだろうが……投獄という可能性も……)


 そうなった場合にどうするかの結論は、エミリエンヌの中でもまだでていなかった。


(もし、逃げるなら今だが……しかし……)


 剣を取り、窓から逃げられるように場所を確認しながら出迎えた。


「国王陛下から、再度、北ヒイロに出兵するようにとのご命令です」


 敬礼をしつつ、命令を伝える武官の言葉に、エミリエンヌは表情はあまり変えないままながらも、内心ではほっと胸をなでおろしていた。


(そこまで流言に踊らされる国王陛下ではなかったか。よかった)


「了解しました。兵は預けてもらえるのだろうか?」


「エミリエンヌ様領の千兵を預けるとのことです」


「千」


 エミリエンヌからすれば、少なすぎる。桁が違うのではと思う。


 しかも自領の正規兵はすでに北ヒイロにいて、もう予備の兵くらいしかいない。


冬とはいえ、農家から元気な若者を借りるのは心苦しいものがある。


 他の将軍たちとともに軍を率いてこの戦に決着をつける提案をしていたのだが、それは却下されたようだった。武官たちもただ頷くだけで冷たい反応だった。


「北ヒイロの情勢はどうなのか?」


 エミリエンヌは、ともかく晴れて軍の任務に戻るのだから、今まであまり伝えてもらえなかった情報も聞いて問題ないだろうと思い尋ねた。


「あまり良くはないようです」


(まあ、そうだから、私を呼び戻すのでしょうが……)


「南ヒイロとトキワナの帝国間での戦いはどうなのですか?」


「一進一退の後は、膠着状態です」


 エミリエンヌには、この武官たちがまるで他人事のように答えるのが気になった。確かにニビーロで過ごしていると戦争中とは思えないくらいに普通の生活ではある。


(トキワナから仕掛けたのですから、膠着状態は事実上失敗ということですね)


 敗色が濃厚になってきているのを、ニビーロの王族たちは気がついていないのか、それとも目をそらし続けて毎日を楽しんでいるのか。


 どちらにしてもエミリエンヌからすれば、憂鬱な事態だった。


「分かりました。このエミリエンヌ、必ずや北ヒイロを攻略してご覧にいれます」


 深く礼をするとエミリエンヌは出立の準備に取り掛かろうとする。


 この戦局を打開するには、やはり自分が北ヒイロを攻略して、そのまま南へと侵攻する以外の道はない。こんな不利な状況だからこそ燃えるものがエミリエンヌの中にはあり、ニビーロのためにと勝利を力強く誓っていた。


「あと、陛下からは、まずは『男王』の確保を優先するようにとのご命令です。捉えたらすぐに本国に移送するように、それはお忘れなきように」


 武官はそっけなくそれだけを付け加えた。


「……承知しております」


 さすがのエミリエンヌもわずかに頬を引きつらせながら敬礼をしていた。




「タモン陛下がいい囮になってくれています」


 エリシアは、部下であり弟子であるショウエに対して苦笑しながら現状をそう説明した。


 モントの城からは少し離れたアウントの街で二人は落ち合うと、宿屋の一部屋を借りて小声で情報交換をしているところだった。


「もはや貫禄の囮っぷりですね」


 自らの主君に対して、ショウエはちょっと呆れるように笑いながらそう評していた。


 ショウエは、モントの魔法使いに追われていた頃は知らないし、ヨム家の戦いの際の様子も実際には見ていない。


 それでも見事に賊将ランダを引きつけて勝利できたのは、タモンの力が大きいと理解している。


 こんなにも自分の身を晒して、うまく敵を引きつけて撹乱する王様もなかなかいないだろう。


 エリシアの胃が痛そうなのに同情しつつも、本当にタモン陛下はすごいと尊敬もしていた。


「ニビーロは強いですけれど、情報の伝達手段が古いままなのが弱点ですよね」


 ショウエは、正面からぶつかると強くて痛い目をみるけれど、こちら側から適度に『男王』の情報を流すと、半日遅れて捕まえに出兵してくれるニビーロ軍に救われていた。


 魔法使い自体の数も少なそうだったし、魔法使いによる連絡手段はあまり発達しておらず、騎馬兵による伝令が主な連絡手段なのだと分析していた。


「そうですね。おかげでエミリエンヌもうまく足止めできていました」


「まあ、あれは奥方様のおかげですけどね」


「奥方様?」


 どの奥方様のことだろうとエリシアは、首をかしげた。


「エレナ様ですね。マジョリー様にも手伝っていただきましたが、エレナ様は本当に各地の商会に人を送り込んで……いえ、繋がりがあって、うまく噂話を広めていただきました」


「エレナ様。さすがですね」


 エリシアは、本気であの人を敵に回さなくてよかったと今更ながらに思って深く息を吐いた。


「マジョリー様には、ニビーロ国内での社交界の情報を集めていただきました。要は色恋沙汰なのですが、これが思ったより効果的でして! ニビーロの国王は、エミリエンヌ殿への嫉妬の炎に燃えて距離をおかれております」


 ショウエがこんな時でも元気で楽しそうに話すのを見て、エリシアはほっとした気分になる。


「まあ、ショウエには色恋沙汰とかまだまだ分からないところですしね。マジョリー様に力添えしていただいて助かりましたね」


「なんですか。エリシア様だって、別に恋愛豊富なわけではないでしょう」


 いつまでも子ども扱いする師匠に対して、口を尖らせて抗議するショウエだった。


「え? まあ、そうだけど。でも、ショウエよりは多少は経験しているかな」


「ちょっとタモン陛下が他の家と距離を置く口実のために、エッチしたことがあるだけじゃないですか。ああ、今は奥方さまが側にいない間に砦でいちゃいちゃしているんでしたっけ」


「ぐっ」


 いつの間にか小生意気になってきた弟子に対して、エリシアは完全にやり込められて唸っていた。


「い、いいのです。私は、奥方様の代わりで……。ええ、それで……」


「そ、そんな落ち込まないでください。師匠」


 思いがけず何やら最近のエリシアの傷をえぐってしまったようなのでショウエはちょっとやり過ぎたと反省していた。


「でも、憧れますよね。『男王』からのお手つきって」


「え?」


 エリシアは『何を言っているんだこの馬鹿弟子は』という表情で、ショウエをじっと見ていた。


「我もこの戦で活躍したら……ご褒美のエッチをしてもらえるでしょうか?」


 ショウエは両手を合わせて、うっとりとした表情で妄想している。


 エリシアはそんなショウエを『背伸びしたがる年頃よね』と思いながら、観察していたけれど、意外と実際にすらりと背が伸びていることに気がついた。


(まあ、さすがにすっかり大人の体になってというほどじゃないけれど……意外と私よりも胸とか膨らんでいたり……)


 しばらく見ない間にもう体が子どもではなく少女のものになっているのだと感じていた。


「まあ、私は構わないわよ。お金や領地をあげるよりそれで満足してくれる方が安上がりだし」


「あはは、さすが師匠。現実的ですね」


 笑っているショウエの顔の横に、小さな鳥が浮き出るように現れると肩にとまった。


「むっ。何事か」


 笑顔だった二人が一瞬にして緊張した面持ちになる。


 この鳥の様に見える物体は魔法使いによる緊急連絡手段で、ショウエの耳元で何やらさえずっていた。


 エリシアの元にも同じ様に念話で連絡が行っているのだろうとは分かっていたが、ショウエは厳しい顔つきになり上司に報告する。


「宰相様。エミリエンヌが戻ってまいりました。千ばかりの兵ですが、海峡入り口を固めていたロラン様一万の軍をすでに敗走させたとのこと」


「さすが、強いわね」


 エリシアは大きくため息をついて、また胃が痛くなるのを感じていた。

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