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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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逃亡生活

「足止めをしてみましょう。その間に兄者は脱出を」


 想像以上にエミリエンヌ率いる軍の進撃は速かった。


 モントの城は籠城には向かないことは元々分かっていて他へと逃げる準備を整えていたのだけれど、せっかく整備した城の周囲を一度も使わずにあっさりと明け渡すのも相手に利を与えすぎるとカンナは主張してきた。


 それはその通りなのだけれど、それ以上に、カンナはエミリエンヌと戦ってみたいのだという願望がタモンにも良く伝わってきていた。


「無理せずにね。少し戦ったらすぐに逃げてくるんだよ」


 タモンはそう言って出陣していくカンナを見送った。戦士としてのカンナの欲求を抑えるのは無理だと悟ったので、遠出する子どもを見送るような態度で、ともかくも一度戦うことを許した。


(まあ、それに二人の戦いをちょっと見てみたい……) 


「陛下。どちらにいかれるのですか?」


「まあ、いいからいいから」


 タモンもすぐに脱出せずにこっそりと護衛のマキだけを連れて、観戦に適した城の高い場所へと移動する。


 最上階にたどり着いたところで、ちょうど大きな鳴り物の音が響いた。


 カンナが大きな声で名乗りを上げたのだろうけれど、周囲の音でタモンのところまではっきりとは聞こえなかった。


 エミリエンヌの軍は、見事に統率が取れている。


 城から数キロ離れた布陣でピタリと止まると、微動だにせずに待機している。完全に一騎打ちに応じる構えだった。


 エミリエンヌがカンナの呼びかけに応じて、一騎前に進み出てくる。


 どこか優雅ささえ感じさせる騎馬だった。


 自信があるのだろうけれど、それはあまり国家滅亡をかけて戦ったことのないニビーロの軍ならでは甘さでもあるようにタモンには思えた。


(こっそり罠をしかけたくなるよな……)


 無防備に大軍を置いて、カンナと二人で対峙している姿を見るとタモンはそんな悪い策略を考えたくもなる。それで倒せるような相手なら苦労はないのだがとも思って自ら首を振っていた。




 カンナとエミリエンヌは、遠くから見ると背格好は良く似ていた。二人とも長身で肩幅はそれなりに広いが、太い体というわけでもない。戦うために絞り込まれた体は豹のイメージだった。


 金髪が揺れるエミリエンヌに対して、カンナは長く綺麗な黒髪なのが対照的に見える。あとは、やはりエミリエンヌに比べて、カンナの騎馬は大きさでは同じくらいだが、つけている装飾品も含めて洗煉されていない印象だった。


(ずっと山の中だったからな。コトヨに頼んでもっといい馬をあてがってもらおう)


 この戦いで生き残れればの話ではあるけれど、愛する家臣のために何かしてあげたいと思った。


 カーン。


 槍がぶつかり合う大きな金属音は、タモンのいる場所にまで響いてきた。


 二人の一騎打ちが始まった合図だった。カンナが勢いよく振り下ろした槍をエミリエンヌは受け止めた。


 エミリエンヌも今日はヘルメットの様な兜を被り、槍を装備していた。突撃用の槍というよりは、馬上でも振り回しやすそうな細めの槍なのが特徴的だった。


 どちらにしても今日は馬の差こそあるけれど、エミリエンヌも本気の装備での戦いだった。


 両者ともにものすごい速さの槍が振り回されて、ここぞという場面では渾身の力で突こうとしていた。しかし、本気すぎる速度の中でも二人の決着はすぐにはつかなかった。


 エミリエンヌ様なら、あっさりと敵の大将を倒して捕まえてくれるだろう。


 そんなニビーロ軍の将兵たちの予測は外れていた。


 あまりにも速く、力強い。


 両軍ともに、誰もあの場所で助けになれる気がしないので近寄れなかった。いや、邪魔してはいけない空気が二人を覆い、何千もの将兵が二人と戦いをただ見守っていた。


「素晴らしい戦いだ」


 タモンの位置からは、槍の動きは速すぎて追いきれなかったが、二人の戦いが洗煉された鍛え上げられた人間同士だけができる美しいものだと感激していた。


 しかし、二人もさすがにしばらく戦うと疲れてきたのか、槍を繰り出す感覚が鈍くなる。


 タモンも心配になって、マキにもばれないようにこっそりと『遠目』の魔法を使って観察した。じっと見るとやはりカンナの疲れている様子が見て取れる。


「城への退却の合図を! 追ってくるような援護を!」


 タモンは後ろで控えている護衛のマキにそう命令する。


「はっ」


「そして、僕たちは一足先に脱出させてもらうか」


 マキはうなずくと伝令に走った。


 逃げる前にタモンはもう一度、戦っている二人にフォーカスを合わせる。いや、じっとエミリエンヌの姿を見ていた。


「美しい……」


 我ながら変な感情だと思うけれど、金髪を振り乱し汗を飛ばしてやや疲れて必死な表情のエミリエンヌにタモンは心を奪われて目が離せなかった。




 カンナの退却はスムーズに行われた。


 良い試合を観戦させてもらったお礼とでもいうように、エミリエンヌの部下たちも逃げるカンナの軍をすぐに追おうとはしなかった。


 エミリエンヌ本人だけが


「待て! 逃げるのか。決着をつけようぞ」


 良く通る声を響かせてそう呼びかけていたが、さすがのエミリエンヌにも追いかけるだけの体力は残っていなかった。


 エミリエンヌとカンナの戦いは、引き分け。やや、エミリエンヌの判定勝ちという形になった。それでもカンナの強さはニビーロ軍ではもちろん、トキワナ帝国でも有名になり一目置かれる存在になるだろう。


 結果、エミリエンヌの軍はかなりゆっくりとカンナ軍の後を追い、モントの城を取り囲む形になった。


 進軍開始から、三日ほどで敵国の本城を取り囲めたのだ。これから熾烈な攻城戦が繰り広げられるのだろうけれど、ここまで順調。さすがはエミリエンヌ様と将兵たちはこぞって自分たちの指揮官を絶賛していた。


 しかし、城壁に魔法で動くように仕組まれた弓の存在だけで、やや慎重になりすぎた。


 翌日、総攻撃をしかけたときにはモントの城はもぬけの殻だった。


「むっ、どこに逃げた? この城は間違いなく包囲していたはずだ」


 少なくともカンナの軍はそれなりの人数がいた。


 一瞬で消えてしまったように見えるのは、エミリエンヌの軍にも動揺を与えていた。


 エミリエンヌが、温泉を引くための地下通路の存在に気がつくのはさらに二日の時間がかかり、タモンたちはモントの周囲からの脱出にまんまと成功していた。






「まさか、また山の中に作った砦が役に立つ日が来るとは思わなかった」


 タモンはエリシアに向かって、そう言って笑った。


「まあ、城に比べればみすぼらしいし、窮屈ですけれど……贅沢は言えません」


 エリシアは、板だけがいくつも並べられた大きな部屋を見回しながらそう言った。


 外から見えない程度に、魔法の灯りが僅かに光って照らしている。山の上に作られたそれなりの広さの建物なのだが、薄暗い中で将兵たちが何十人も飲み食いをしたり、休んでいたりしていると窮屈に感じる。


 昔モントの魔法使いに追われている時に作った砦だった。山の下にも同じような建物がいくつもあって、兵たちが待機している。


「いやあ、洞窟暮らしよりは全然いいですよ」


 殊勲のカンナは飲み物を持ちながら近づいてくると笑っていた。


「なあ、ミハト」


 ミハトの肩を抱きながら、カンナは元気な声で同意を求める。普段よりテンションが高く感じてしまうのは、エミリエンヌとの戦いでまだ高揚しているのか、それともミハトを元気づけようとちょっと演技しているのかとタモンはじっと観察していた。


「ぐおお、姉者。痛い」


 ミハトが落馬した時に痛めた肩は、魔法で治癒したにも関わらずまだ痛むようだった。苦痛そうな顔でカンナの手を引き剥がした。


 いつもの『洞窟暮らしも楽しかった』という反論を期待していたカンナは、ちょっと余計なことをしたとがっかりしてしまっていた。


「ところで、シュウは大丈夫なのか?」


「生きているのは確認しています。捕虜になったかと思われます」


 自分をかばってくれた愛弟子のことを心配するミハトに、エリシアが冷静に答える。ちゃんと調べておいてくれたことに感謝はしつつも、ミハトも素直にエリシアに礼は言えなかった。


「そうか……大丈夫なのかな」


「それこそ、モントの城にいると思われます。エミリエンヌ軍は規律正しいことで知られていますし、酷い目にはあっていないのではないでしょうか。本国に送られたりしない限りは……」


「むう」


 ミハトはちょっと唸った。ただ、それ以上は不甲斐ない自分を責めつつも過ぎたことは仕方がないので挽回を誓っていた。


「足場さえちゃんとしていれば、次は負けん! 負けませんので兄者!」


「うん、分かった。期待しているよ」


 エミリエンヌとの戦いではカンナばかり頼らないで欲しいというアピールだと受け取ったタモンはニコリと笑ってうなずいていた。こんなにもリベンジに燃えてやる気に溢れたミハトの気持ちを萎えさせたくはなかったし、実際に次はやってくれるだろうという期待もあった。


「でも、まずはしっかりと体を治して」


 傷や骨が折れた箇所は治癒魔法で治ってはいるけれど、体全体に疲労とダメージは残ってしまう。


 タモンは、そう言ってミハトを休ませようとしたあとで、自らも奥の部屋で休もうとする。


「僕も寝るとしようか、カンナあとは任せたよ」


「はっ」


 しばらくはここに軍勢が押し寄せてくることはないだろうと思っているけれど、ただ、相手は噂の軍神様だ。タモンは油断はできないと思いながらカンナに夜の警戒を任せた。


「こちらにベッドを用意してあります」


 エリシアが侍女のように小さい部屋に案内してくれた。


「こんな部屋あったっけ」


「この度の戦いに備えて拡張いたしました」


 確かによく見回してみれば、元々の砦から突き出るように丸太小屋のように丸太で組まれた部屋に土を盛った上に布団が敷かれた簡単なベッドが設置されていた。


「別にいいのに。ここもいつ引き払うか分からないんだから」


「兵糧を貯蔵しておく場所のついでです。半年の戦いですから、食料は大事、休息も大事です」


 エリシアは、力を込めてそう言っていた。


「確かに、各地の砦にも兵糧が豊富に届けられているようで、さすがだね」


 エリシアの手際の良さをタモンは素直に褒めただけなのれど、エリシアは今更ながらに少しだけ成長して精悍さを増したこの主君に褒められて照れていた。


「残念ながら、綺麗な奥方さまはおりませんので、そこだけは我慢してください」


「別に、みんな綺麗だと思うんだけれどね」


 タモンは普段とは全く違う硬さのベッドに腰掛けると丸太で作られた天井を見ながらぼそりとつぶやいた。


「え?」


「まあ、たしかにマジョリーやエレナみたいな。ふわふわっとして柔らかそうな感じとは違うけれど、エリシアやカンナもとても綺麗だと僕なんかは思うんだけれどね」


 タモンには、この世界における綺麗なお嬢様たちと普通の人とをことさら特別であるかのように分ける習慣が理解できない。何となくそうなったのは理解しているけれど、普段からのそんな疑問をちょっと口に出しただけだった。


 聡明で、タモンの事情も家臣の中では一番理解しているであろうエリシアは、タモンの言っていることの趣旨は伝わっているのだけれど、次の瞬間にはタモンはエリシアの方をじっと見たのでエリシアは、顔が赤くなるのを自覚していた。


(落ち着け。落ち着け。一般的な話をしているのであって、別に私を綺麗と言っているわけでは……あれ、あるのかな?)


 冷静になろうと思えば思うほど、頭がぐるぐると回転しているかのように混乱していた。


 そんなエリシアの様子を見て、タモンはベッドに座ったまま少し位置をずらすとエリシアの腰に手を回してきた。


「え? あ、あの?」


 困惑してちょっと逃げるように腰をずらすエリシアを、タモンはちょっと強引に力をこめて引き寄せた。


「か、からかっていらっしゃいますね。陛下」


「まあ、そうだけど。そうやって恥ずかしがるエリシアは可愛いなって」


 そう言いながら、エリシアの両手を腰に回して完全に自分の股の間に引き寄せる。


「エリシアも休む時間でしょ?」


「は、はい。そうではありますが」


 完全に真っ赤になったエリシアを見ながら、タモンは楽しそうに笑っていた。


「最近、一人で寝たことがないから、一緒に寝て欲しいなって」


「さ、さすがおモテになる『男王』さま。言うことが違いますね」


 タモンのその言葉に、ちょっと冷静さを取り戻したエリシアは拗ねたように嫌味をいう余裕があった。でも、タモンから見ればそんな態度も余計に可愛らしくて、そのままエリシアの腰に手を回したままベッドに倒れこんだ。エリシアも大きく抵抗することもなくベッドの上でタモンの上に覆いかぶさっていた。


「べ、別に私でなくても……もっと……」


 エリシアは、そう言おうとしながらも、この砦にいる荒くれ者たちの顔を思い浮かべて、あまり陛下の相手をさせたくないなと思いなおしていた。


「主命です」


 タモンは笑顔で最後の切り札を出してきた。


「ううっ……承知いたしました。ですが、一緒に寝るだけです。お互い休息は大事なのですから……。あと、ちゃんとした壁もありませんから、外に音も聞こえてしまいますし……」


 諦めたかのように、エリシアはタモンの胸の上に顔を乗せていた。


「はいはい」


 全く分かっていなさそうな適当な返事をしながら、タモンは腰に回していた手をもっと下の方にずらしていた。


「あ、あの陛下……?」


「エリシアも本当はとっても期待しているみたいだね」


 タモンは強引に手を割り込ませて、エリシアの下腹部や胸の突起に指の腹を這わせていた。


「はう。あの、そんなことは……」


 弁明しつつも、体の方は正直に反応してしまっているのがエリシア自身にも分かっていた。


「あ、ああ、陛下。あの外に聞こえて……」


「エリシアが声を我慢すればいいだけだよ」


「そんな。む、無理です。あっ」


 エリシアは真っ赤になりながらも、全く抵抗できない。それどころかすぐにタモンの指の動きを催促するかのように自分から抱きついては体を押し付けるようになっていいた。


「あああ」


 もう外のことなど忘れてしまったかのように、エリシアはタモンに身を任せて大きな声が漏れていた。

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