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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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『温泉を引けませんでしょうか』

 南ヒイロ帝国による後宮は、かなり完成が見えてきていた。


 その通称謁見の間と呼ばれる巨大な応接室の中央に小さな女の子であるイリーナが座り、大人たちが頭を下げながら立ち並んでいた。


「この城に温泉を引けませんでしょうか」


 イリーナに相談があると言われて集まった家臣たちは、少し意外な相談に面食らっていた。


「このところ毎日お疲れのタモン様を癒やして差し上げたいと思いまして……」


『そんなことをしなくても』と最初は思った家臣たちだったが、この小さくて可愛らしい主人にいじらしくお願いをされてしまうとあっさりと断ることはできなかった。


 この城までついてきた家臣たちも、今まではイリーナとそれほど深い関わりがあったわけではない。

 ずっと彼女は、皇帝候補である姉の陰に隠れて何も言わずにサポートすることを心がけていたかのような存在だった。ましてや、家臣へのお願いなど初めて聞いた。


 そしてそれは自分のためではなく、政略結婚で無理矢理に結婚させられた『男王』のためだと言う。


 少なくともここにいる家臣たちは揃ってそういう認識だったので、まだ幼いのにこんな田舎まで来ることになった主人が不満ではなく健気に頑張ろうとしている姿勢に感銘を受けていた。


 家臣はそれぞれ、この健気な主人を支えてあげたいと目頭が熱くなる。


「分かりました」


 エリート官僚であるジナイーダは、一度だけ周囲の地図を頭の中で確認すると静かに顔をあげて快諾した。

 ジナイーダから一歩下がったところで立っている他の家臣たちは、驚きとも感嘆ともとれる声を出していた。南ヒイロ帝国でも屈指の官僚であるジナイーダは、特に都市開発、治水の専門家で、今、イリーナについてきている表向きの理由は後宮建設ではあるけれど

、実際のところは、対トキワナ帝国戦に備えての軍事拠点の充実であった。すでに多忙な彼女はとても温泉どころではないのだと思うだけれど、仕事を増やしても構わない決意を部下たちも感じ取っていた。


「ガリーナは本国に追加の予算の申請を!」


「アントニーナは、アウント-スタに近い山側を地質調査してもらえる? 掘ったらそこからでる可能性はあると思う。二週間後に一旦の結果を聞かせてください」


「駄目だった時のために、アウントの町に引いている温泉を分けてもらえる相談をしましょう。エフゲニア、キト家に事前に相談にしておいてくれる? ……いえ、まずはマジョリー夫人に話を通しておきますか。そうですね。私から相談しておきます」


 ジナイーダはすぐに後ろを振り返り、テキパキと指示を出す。


「はっ、かしこまりました」


 部下たちは承諾するとすぐに立ち上がり動き出していた。


「ありがとう。ジナイーダ」


 イリーナは変なわがままを言っていると自分でも思っていたので、即諾してくれて動いてくれていることに両手をあわせて感謝していた。


「あ、いえ、そ、そのように感謝されるものでは……」


 眩しいばかりの感謝の目を向けられてしまいむしろジナイーダは困惑しつつ照れてしまっていた。上からの無理難題に答えるのが当たり前のことだったので、このような素直な感謝に、彼女自身も引き受けて良かったと思うのだった。


「それからマジョリー夫人には、私の方からご相談しておきます」


「い、いえ、イリーナ様にそのようなお手間を……」


「私から、相談しておきたいの。いいでしょ?」


「はい。では、よろしくお願いします」


 意外とこういうところは皇帝である姉に似て強引だと思う一方で、家臣の心を掴むのも上手いのかもしれないと思うジナイーダだった。




「うわー。すごいわねー」


 数ヶ月の後、マジョリー夫人はイリーナの後宮内に招待されて驚きの声をあげていた。

 新たにできた温泉施設は、マジョリーが慣れ親しんだアウント-スタの温泉ほどではないが、城の屋内施設とは思えないほど立派なものだった。


「マジョリー様のお力添えがあったからこそです。アウント近くの土地を掘らせていただき助かりました」


 十歳とは思えない態度で、礼儀正しく流暢にお礼を言われてしまい。最近、社交の場にでることも少ないマジョリーの方が慌ててしまっていた。


「いいのよ。アウントの町の人たちも、近くから温泉が引いてこられるようになってよろこんでいるそうよ」


 マジョリーは少し悩んだ後に、あくまでも気楽に話しかけられるお姉さんというような態度で返事をしていた。イリーナがコトヒたちとは妙に親しい関係になっているように見えるので、ちょっと対抗心と羨ましい気持ちが混ざっているマジョリーだった。


「ふふ、喜んでもらえたのならよかったです」


 イリーナの方も緊張が緩んだのか、それともマジョリーの気持ちを察したのか一歩近づいて見上げながら優しげな笑みを浮かべながらそう言った。


「旦那さまをアウント-スタに連れ出す口実が減っちゃうって思ったけれど、こうして毎日でもすぐに温泉に入れるのはいいものね。兵士たちの温泉も作っているのでしょう?」


「はい。疲労回復にも良いそうですから、お役に立てれば何よりです」


 礼儀は正しく。ただ、さっきよりは表情も豊かに力強くマジョリーに話しかけていた。ただ、そのあと少し恥ずかしそうにしながら話を続けていた。


「あの……マジョリー様」


「私もコトヒやコトヨみたいに、お姉さまって呼んでほしいかな」


 一度、言葉を遮ると片目をつぶりながら、明るい調子でマジョリーはイリーナにお願いしていた。他の夫人に比べてちょっと距離があると感じていたので、ここは一気にヨム家より親しくなろうと頑張ることにしたのだった。


「はい。マジョリーお姉さま。それで……その……旦那様を呼んで一緒にこの温泉に入りませんか?」


 イリーナは照れながらそうお願いをする。イリーナから見れば、マジョリーはとても綺麗な理想の美人であって軽率に話しかけられないと感じていただけに、親しく話しかけてもらった上に変なお願いをするので顔は真っ赤になっていた。


「……一人だけだと恥ずかしいということかしら?」


「それもあるのですが、私のような子供とだけだと良くないと思っていらっしゃるのか、お断りされてしまいそうですので……」


 『そうなのかな』とマジョリーは首をかしげる。妻なのだしお風呂くらい何も問題はないのではと、彼女からすれば思ってしまう。


(まあ、旦那様はちょっと違う価値観の世界で生きてこられたみたいですし……)


 タモンの『故郷』についてあまり詳しく聞いてはいないけれど、以前にフカヒで出会った大魔法使いの話を聞いていると全然違う世界の話なのだと感じていた。


「よし、分かりました。それでは記念すべき初入浴を私たちでいたしましょうか」


「はい!」


 しばらく考えた後にマジョリーは腰をかがめて、イリーナに顔を近づけながらそう言うと、イリーナも嬉しそうに応じていた。







「むー」

 数刻後、少し不満そうな顔で温泉に入ろうとしているマジョリーの姿があった。


「ま、まあ、初めてですから、これくらいにぎやかでもよろしいのではないでしょうか」

 イリーナは恥ずかしそうにタオルで体を隠しながら、マジョリーの隣に並んでそう慰めていた。

 マジョリーはタモンを招待しようと思い、城の中を探し回っていたら他の夫人たちにも伝わってしまった。

 その結果、今は夫人が全員揃ってタモンと温泉に入ろうとしていた。それどころか、各家に仕える侍女たちも珍しい温泉施設を見ようと思ってイリーナの後宮内に入って観察していた。

 さきほど、マジョリーはメイをはじめ、自分たちの侍女には『あなたたちは温泉は別に珍しくもないでしょう』と言って帰らせたのだが、今も外を見ればキト家に仕える者も多く集まっていた。


(やはり、この豪華な建物を見たいのでしょうか?)


 そう、思ったけれど夫人たちが揃ってお風呂に入る姿を見てみたいのだろうと外から視線を感じて気がつく。


「お祭りみたいなのはいいのですが……。やはり、他の夫人たちと比べられてしまいますとね」


「マジョリー様でも、そのように思うのですか」


 マジョリーの不満自体にイリーナは驚いていた。イリーナから見ればマジョリーこそ理想の女性像そのものだと思っているだけにマジョリーがそんなに自分の体に自信がなさそうなのは意外に思えてしまう。


「お風呂ですと、やっぱり……その、他の夫人たちは健康的なお体ではないですか」


 自分の胸のあたりをさすりつつマジョリーはそう小声で言っていた。

 なるほどとイリーナは素直にうなずいていた。あっさり納得されてしまったのは、それはそれでマジョリーも悲しかった。


「コトヒとコトヨも、普段着ている服だとすらりとして見えるけれど出るところは出ているのよね」


 体を流しながら、マジョリーはつぶやいくと隣にいるイリーナもうなずきながら視線を先ほど温泉に入ってきたコトヨに向けていた。


「ど、どうかしましたか?」


 マジョリーとイリーナにいつの間にか近づかれて、じっとりとした目で見つめられてしまい、体を洗っていたコトヨは少し体を捻って隠しながら困ったような顔をしていた。


「良いお尻の形だと思いまして」


「素敵なお胸だと思います」


 マジョリーとイリーナにそれぞれに率直な感想を言われてますますコトヨは恥ずかしくなり体を隠そうとする。


「い、イリーナちゃんまでそんなことを……」


 育ちのいい深層のお嬢様だった二人が、仲良く体の話をするのは意外だった。


「いえ、本当に羨ましいです」


 イリーナはあくまでも本気でじっとコトヨの体を観察していた。


「私から見ればマジョリー様は、すらりとして綺麗な体で羨ましいですし、イリーナちゃんはこれから育つから大丈夫よ」


 お世辞や気休めではなく、本当にそう思っていることをコトヨはそう思っている。


「でもショウエは、そう聞かされていたけれど、全然育ってないと言っておりました」


「んー。ショウエちゃんは、食べるものとか偏りすぎだと思うのよね。好き嫌いなく食べないとね」


 少し焦りながらも、あくまでも笑顔は崩さずに、優しいお姉さんとしてアドバイスする。


「あ、旦那様」


 施設の奥の方を見に行っていたらしいタモンが、左右に二人の夫人を連れて裸のままで歩いて戻ってきた。


「わ、わあ」


 イリーナがちょっと興奮しながら、全裸のタモンの姿を見ていた。


「見すぎですよ。イリーナちゃん」


「す、すいません」


 コトヨに耳元で注意されて、イリーナは大慌てで視線を逸していた。


「私たちのところに来ていない日は、一緒に寝ているって聞いたけれど旦那様の裸は見たことがないのね」


 マジョリーとコトヨは、本当に手を出していないのだとちょっと感心しつつ、余裕の笑顔を浮かべていた。


「旦那さま。ようこそおいでくださいました」


 ちょっと悔しい気持ちがあったのか、タオルで前は隠しつつイリーナはタモンの側に歩みよって出迎える。


「ああ、うん。イリーナ。ありがとうね。すごいお風呂だね」


 タモンは、小さな女の子の前で全裸で下半身も完全にさらけ出していることに落ち着かなかったけれど、右腕は完全にエレナに抱きつかれて全く動かせず左腕もそれに対抗したコトヒに掴まれていた。


(すごい……)


 タモンの右腕をぴったりと挟み込んでいるエレナの豊満な胸を、イリーナは嫉妬と羨望の眼差しで見ていた。反対側のコトヒの胸もすごい大きいわけではないけれど、上向きでツンと尖ったような素晴らしい形にイリーナは視線を外せなかった。

 落ち着かないタモンは、さっさと湯船に浸かることにした。


「うーん。素晴らしい温泉だね」


「そう言ってもらえてよかったです」

 湯船で座ったタモンの横には、相変わらずエレナとコトヒが陣取ったままだったので、イリーナはお風呂の中で立ったままで、主人を接待するかのようにしながら温泉の説明をしていた。


(落ち着くようで落ち着かないな)


 広いお風呂にすぐに入れるようになるのはタモンにはとても嬉しいことだったし、見回せば綺麗な妻たちに囲まれてまさに今、夢のハーレム生活と言ってもよかった。

 でも、やはりタモンの常識がまだイリーナの綺麗な未熟な体を見つめるのはいけないようなことのような気がしてしまうし、他の妻たちも一度に何人もの裸を眺めてしまうのはとても悪いことのような気分になってしまう。


(あまり思い出せない記憶の常識が邪魔をするなあ)


 贅沢な悩みだとは分かっているけれど、タモンは美人な妻たちとはいえども、複数人に囲まれてしまうのは落ち着かないのだった。


(あと、そうだな珍しいのは男の方なんだよな)


 特にイリーナは、珍しく興味深そうにタモンの体をちらちらと見ている。他の夫人たちは何度もタモンの裸を見てはいるけれど、やはり明るいお風呂の中で見るのは新鮮なのか嬉しそうに観察している。

 更には今日は、温泉施設の回りも何人もの人が見学に取り囲み、あわよくば中の様子を見ようとしていた。


(そうか……あまり覗きが犯罪という概念がない世界なんだろうな)


 次からはもうちょっと落ち着いてくれると良いと思いながら、タモンはじっと湯船に浸かっていた。









「陛下。どうかなさいましたか?」


 タモンの部屋を訪ねてきたエリシアは、まだ明るいのにタモンがベッドで横になっていることに心配そうに声をかけた。


「ちょっとのぼせた」


「ああ、イリーナ様が作られた温泉に行ってらっしゃったんでしたね。いかがでしたか? 小さい女の子に貢いでもらったお風呂は」


 エリシアは、険悪な仲というほどでもないのだが、イリーナのことになるとちょっと嫌味っぽく聞いてしまう。


「酒池肉林で最高でした」


 タモンの方は気にしていないのか、それとも疲れ切っているのか寝転がったままで、親指を立てながらそんな返事だけを返した。


「それは良かったです。ですが、大事なご報告があります」


 エリシアは真剣な表情でそう言うと、さすがにタモンもベッドから起き上がりちょっとふらふらしながらエリシアのいる場所まで歩いていった。


「何かあった?」


「ご報告は彼女の方から」


 そう言ってエリシアは、ドアの方に視線を向けると入ってきたのはジナイーダだった。イリーナの後宮で働いている彼女だったけれど、実際のところは皇帝マリエッタから直に指示を受けて活動している。タモンもその事は承知していた。


「トキワナ帝国が動いた?」


 ジナイーダの深刻な表情を見て、タモンは全てを察していた。


「はい。トキワナも一枚岩ではないのですが、東にいた軍隊が首都に集まってきています。主戦派が優勢になったということです」


 ジナイーダがわりと淡々と語るので他人事のような気がしてきてしまう。


「つまり……」


 不安になって、タモンは改めて確認する。


「来月には帝国同士の戦争がはじまります」


 ジナイーダはそう言い切った。

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