表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/129

五人目のお妃

「な、何事かしら?」


 主のいないモントの城を預かっている妻のマジョリーがいるキト家の後宮は、朝から鳴り響いた盛大な物音に驚かされていた。


「て、帝国の……兵隊?」


 窓から外を見れば、数週間前に見た帝国の兵たちと同じ装備だった。よく見れば、武装した兵だけではなかったけれど何百人もの人が後宮の近くに集まっていた。


「も、もしかして旦那様が無事にもうすぐ帰ってくるというのは嘘で、帝国が占領をしにきたのかしら?」


 マジョリーは、青ざめながらうろたえていた。


「落ち着いてください。帝国から工事のために人が来るという話は聞いていたではないですか」


 侍女のメイが、落ち着かせるために珍しく大きな声をあげながら叱っていた。


「え、あ、ああ、そう言えば……そんな話があって……許可をした気がするわね」


 タモンが無事に帰ってくるという知らせに浮かれてしまって、他のことは割とおおらかになってしまっていたと反省していた。


「でも、こんなに人が来るとは思っていなかったわね」


「城の外には、もっと多くの人たちが続いていましたよ」


 買い物から帰ってきたらしい侍女のランが、外の様子を伝える。


「え? そんなに? この城の視察くらいだと思っていたのだけれど……」


「もう、山から切り崩すつもりみたいですね」


 メイとランは揃って窓から身を乗り出して、続々と帝国兵の指示に従って人足が集まっている様子を観察していた。


「そこまで? 何のために?」


「それは……もちろん、帝国から皇女様をお迎えするためでしょう」


「え? ああ、そうね……このお城にお住まいになられるのよね」


 先日から話は聞いているのだけれど、マジョリーにはどうしても実感が持てない。それくらい、南ヒイロの直系の娘がこの田舎の城に住むというのは、マジョリーたちには信じられないことだった。




「すごかったわね。さすがは帝国の皇女様!」


 数刻後、なぜかエトラ家の後宮にマジョリーは連れ込まれて、エレナの熱い語りを聞かされていた。


「服も装飾品も、素晴らしかったですね」


 興奮しているエレナとは対照的にマジョリーは、先ほど見たイリーナの姿を思い出しながら、冷静にうなずいていた。


 まさに今日、この城の主であるタモンが、南ヒイロ帝国の現皇帝の妹であるイリーナを連れて帰還したところだ。


 ここ数日、北ヒイロは国中がざわめいていた。

 旅の途中で寄った場所から次々と大きな盛り上がりがあったと伝わってくる。そして、ついに豪華絢爛な行列がモントの城に到着して、可憐な皇女が降り立った。その瞬間、モントの城と物珍しさに集まった周囲の人たちの盛り上がりは最高潮に達していた。


「この城に来る前に、アウントの町やモントの港町にもしっかり泊まって熱烈な歓迎を受けたそうよ」


 エレナは、興奮しながら先程の行列と城に入る小さなイリーナの姿を思い出していた。


「可愛らしいですものね。それで? わざわざ私を部屋まで呼んだのはどうかなさったのですか?」


「マジョリーってば、冷たいのね。今日の出来事を改めて話す相手が欲しいでしょ。……それに、私たちの今後のことも」


 楽しく語りあいたいというような素振りで話していたのだけれど、最後の方は冷たい声になっていた。そして、目つきも鋭い。


「こ、今後とは何でしょう?」


 なんとなく言いたいことは分かるけれど、マジョリーとしてはあまり勝手な推測で返事したくもないので怯えながらエレナの言葉を待った。


「ヒイロ帝国皇帝陛下の本当の妹君よ。力の入れ具合も尋常じゃないわ。帝国は内乱で多少疲弊しているとはいえ、つまり私よりも財力がある夫人が誕生してしまうのよ」


「……まあ、そうですよね」


 エレナが立場が危うくなってしまうことを、懸念しているのは伝わってきた。ただ、もはや『エトラ家』ではなく『私の財力』と言っているのが、マジョリーからすれば、少し傲慢だけれども、とても頼もしくて羨ましいとさえ思ってしまう。


「マジョリーも、名門の家柄ってことだけが取り柄じゃない?」


「『だけ』ってなんですか。『だけ』って!」


 いつもお淑やかな言葉遣いを心がけているマジョリーも、さすがにこの暴言にはちょっと顔を真っ赤にして大きな声をあげて文句を言っていた。


「お言葉ですが、キト家は、南ヒイロ帝国よりも歴史は古いんです。名門の地位は揺るぎません」


 胸に手を当てて、そんな反論をしたけれど、結局のところ自分が名門の家柄をアピールしているだけだということに途中で気がついてしまう。


「そんな名門だからこそ……教養とか、ファッションのセンスとか……。ありますので……」


 マジョリーは、最期の方はちょっと自信なさそうに消え入るような声だった。


 国力の差の前には小さいことだというのもある。それに、まだ軽く挨拶を交わしたくらいだったけれど、まだ幼い皇女様の方が何もかも優れている可能性もあるのではないだろうかと真剣に感じていた。


「このままでは、お互いに地位が危なくなってしまう者同士。ここは手を組むべきじゃないかしら?」


 エレナは妙に楽しそうなテンションで、マジョリーに向かってそう言いながら手を差し出した。


「手を組むと言いますけれど……どうするのです? いじめて追い出すとでもいうのですか?」


「そんな事は言わないけれど……でもね。そう、ちなみに聞きますけれど、何か名家ならではの嫌がらせの呪いとかないのかしら?」


「ありませんよ。あったら、私たちこんなに仲良くしていないと思います」


 マジョリーのその言葉に、エレナは一瞬きょとんとした顔をしたけれどすぐ次の瞬間にはニンマリと笑っていた。


「あ、いえ、今のは無しです。別に私たち仲良くなんてございません」


「そうよね。私たち仲良しだものね」


 慌てて否定したけれど、もう遅かった。エレナは勝ち誇ったようにマジョリーに抱きついて頭を撫でていた。


「あの……エレナ様。イリーナ様がお見えになっていらっしゃるのですが、いかがいたしましょうか?」


 じゃれ合っている自分の主人を邪魔していいのか分からなかったが、エレナの侍女は切羽詰まったようにドアからわずかに顔を覗かせて声をかけていた。


「全くもう、いいところだったのに」


「全然、いいところなんかじゃありません」


 気が利かないとでも言いたそうにしながら、若い侍女に近づいていった。最近、側近のフミは主人以上に忙しそうなので、あまりエレナの身の回りの世話をしてくれない。ひたすらかしこまった侍女たちには自分たちで判断してとは言えなくて困ってしまう。


「イリーナ様?」


「はい。イリーナ様です」


 早く返事が欲しくて慌てている感じの侍女を見ながら、エレナはしばらく考え込んでいた。


「今、お話していた皇女様のお名前ですよ」


 察したマジョリーが、そっと囁いた。この距離だと侍女にも聞こえていて、とても困ったような顔になっていた。


「いえ、それは分かっていますけれど……。それで、何かお届けものでもあったということ?」


「いえ、皇女様ご本人がいらしています。……もう、その扉の前でお待ちになっています」


「え?」


 フットワークの軽さについては、エレナは人のことをとやかく言えないのだが、皇女からイメージできる行動とはとてもかけ離れていて戸惑ってしまう。


「……分かりました。お通しして」


 侍女にはそう言ったあとで振り返ってマジョリーに目を向けていた。


「まあ、よろしいのではないでしょうか。私も次に出会うのは、何かの行事の時とか思っておりましたが」


 マジョリーはうなずいていた。それよりも、今はエレナを尋ねてきたのだから、自分は席を外すべきだろうかどうか悩んでいたが、エレナはいて欲しそうだったし、もう他の出口から出ていくこともできないので、残った方が失礼ではないだろうと思って大人しくエレナと並んで待つことにした。


「エレナ様ですね。私、この度タモン様の夫人の末席に加えさせていただくことになりました。イリーナと申します」


 入ってくるなり、十歳の皇女様は先程見かけた華やかな衣装のままで、とても低姿勢で礼儀正しく挨拶をしてきた。


(え?)


 エレナもマジョリーも、完全に面食らっていた。これは敵情視察なのだと思っている。そして昔からの夫人を牽制するつもりなのだろうと。


 先のマリエッタ皇帝陛下が来た時のことなどから、おそらく威圧的な数十人の兵隊やお付の家臣を背後に引き連れて、実際の挨拶はその家臣がするということをイメージしていた。

 しかし、今は遠くに侍女らしい数人を待機させているのは見えたが、部屋に入ってきたのはイリーナ一人だけだった。


「こちらはご挨拶の品です、どうかお受け取りください」


 更には、自分で献上品らしいものまで自ら持ってきて手渡ししようとする。


「こ、これはご丁寧に、ありがとうございます。私が、タモン様の第一夫人のエレナです。そして、こちらがマジョリー夫人」


 完全にこの小さい女の子の予想外の行動に、エレナは翻弄されていた。ただ、エレナの言葉にそれまで柔和ながらもしっかりと堂々としていたイリーナがはじめて驚いて、年齢相応の可愛らしい顔を見せていた。


「え? マジョリー様ですか? ど、どうしてこちらに……」


「遊びにきておりました。マジョリーと申します。どうぞよろしくお願いします」

 無理やり連れ込まれたというと語弊がありそうなので、自分から遊びにきていたような言葉でごまかしていた。


「そうなのですね」


 イリーナは、小さな体で二人を見上げながらとても驚いた様子で固まっていた。マジョリーには、なぜ、そんなに驚いているのかが分からずにただ微笑みを続けて応じていた。


「あとで、マジョリー様のお部屋にも必ずご挨拶に参ります」


「そんなに気になさらずともよろしいですから……」


 頭まで下げられてしまうと、マジョリーはどうしていいか分からずにあたふたしてしまう。


「せっかくですし、三人でゆっくりとお話しいたしましょう」


 エレナは、優しい口調でそう言った。侍女を呼んでお茶を用意するようにと頼むといつも食事会をしている机に移動していた。


「こちらの箱は食器になります。そして、こちらの箱は焼き菓子になります」


 机に移動しながら、イリーナは小さい体を少しこわばらせながら先程献上した箱の説明をしていた。


「あらすごい綺麗。そして、こちらのお菓子も美味しそうですね」


「こんな割れやすそうなものを帝国から?」


 エレナとマジョリーが、覗き込みながら感心していた。


「はい。そういったものを丁寧に運ぶのが、南では尊敬する人へのご挨拶とされております」


 イリーナはそう言いながら、妙に緊張した面持ちで切り出した。


「どうか、その焼き菓子から一枚、お選びください。私がお食べしたいと思います」


「え? あ、はい」


 マジョリーは、変な頼みだなと思いながらも、その幼い外見を見て、普通にお菓子を食べたいのかもしれないなどと考えてしまった。


「はい。じゃあ、あーん」


 手に焼き菓子をつまみ、イリーナの口のあたりに差し出した。イリーナは、直接食べさせられるのは予想外だったのか目を丸くしていたけれど、断るのも失礼だとそのまま差し出された焼き菓子を大きく口を開けてくわえて受け取った。


「ん。ん。美味しいですね」


 イリーナは、少し安心したような笑顔を見せた。この小さな女の子が食べながら幸せそうな笑顔を浮かべている姿を眺めて、二人の先輩夫人もとても幸せな気分になっていた。


「もしかして、今のは毒なんて入っていないことを証明するためですか?」


 エレナは、やっと先程の行為の意味に気がついた。


「はい。帝都では他の妃に食べ物をお届けする際にはこの様に選んでいただいて、毒がないことを証明するのが習わしになっているのですが……」


 イリーナはそう言いながら『こちらでは、そのようなことはしないのですか?』という表情で二人の先輩夫人の顔を交互に伺っていた。


「全然、考えたこともなかったわね……」


「食事会のあと、お土産とかいただいて食べていました……」


 エレナとマジョリーは、今も呑気な自分たちのことを反省するかのように顔を見合わせていた。


「なるほど……帝国の後宮はこうも違うのですね」


 マジョリーはしみじみとそんな感想を漏らしていた。


「いえ! いえ! 『男王』様の妻たちはこうするものだと聞いて育ってきたので!」


 イリーナは、興奮気味に否定する。


「私が勝手に思い込んできたので……お妃同士中が良いのでしたら、とても良いことだと思います!」


 少し涙目でそう話すイリーナに、二人の夫人はいじらしさに胸を打たれてすっかり守ってあげたい気持ちになっていた。


「そういえば、古のミド王の正妻は、毒を盛った怖い話がありましたね。大丈夫です。そんなことはいたしません。今すぐには難しいかもしれませんが、私たちを信頼してください」


「遠くからやってきて不安だったのですよね。大丈夫ですよね。何かあったら、私たちに相談してください」


 エレナとマジョリーはそれぞれ左右から小さなイリーナの体に手を回して抱きしめていた。イリーナは、ちょっと苦しそうにしながらも涙を振り払い嬉しそうな笑顔で抱きしめられていた。









「やっぱり、イリーナちゃんとも仲良くしないとね。寵愛を競っている場合なんかじゃないのよ。北ヒイロが存続していくには、手を取り合わないと!」


 イリーナが去ったあとの部屋で、エレナは力強く宣言していた。


「エレナお姉さま。私をこの部屋に呼んだ時とは言っていること違いますけれど……」


 マジョリーは、何で連れ込まれたのかなおさら分からなくなってきてしまったので呆れ顔でエレナを見ていた。


「あはは」


 エレナは、笑って誤魔化していた。ただ、マジョリーの方も一緒にいてイリーナと話ができていい時間を過ごせたとは思うので特に怒ったりはせずにむしろ感謝していいとは思っていた。


(まあ、この人も金儲けはともかく本当の悪巧みができる人とは思えませんし……)


 それくらいの信頼関係は、もうあるつもりだった。


「そういえば、イリーナちゃんのお祖母さんは他の夫人に暗殺されているのよね」


「暗殺……」


 マジョリーは、エレナから聞いた物騒な言葉に絶句していた。実家のキト家は色々と影で権力闘争のある家ではあったけれど、あまり思い切ったことをする人もいなかったので、あまり凄惨な事件が身の回りで起こったこともなかったのだとしみじみと思い出していた。


「南の夫人たちが闘ってきた歴史を考えれば、ものすごい勇気を持ってこの城に来たのだと思うわ」


「小さいのにすごいですよね……」


 マジョリーは、素直にイリーナを守ってあげたいと思うようになっていた。エレナもきっと同じ気持ちで通じ合っているのだと思いながらエレナの方に視線を向けた。


「頑張って、私、イリーナちゃんを売り出すわ」


「え? 『売り出す』?」


 エレナの力強い言葉にマジョリーは変な声で聞き返してしまった。


「今なら、肖像画だって飛ぶように売れていくと思うわ。それに服の展示会に参加してもらえば、子供服も飛ぶように売れるわ。うーん、見てなさい」


(まあ、お金儲け以外は、悪い人ではないから……お金儲け以外は……)


 私腹を肥やすためにするわけではないとマジョリーは信じていたけれど、あまりにも金儲けへの熱量が高くてちょっと引きながらエレナの様子を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ