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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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『嫁にもらって欲しい』

「さて……約束通りに無事に自分の国に返してもらえるかな……」


 タモンはエリシアと一緒に執務室で皇帝陛下の帰りを待っていた。

 高級そうなソファーに腰掛けながらも、大人しく待つことはできずにタモンの体はずっと揺れている。


「約束は守っていただけると思いますよ」


 エリシアは、心配しすぎな主人に笑顔で答えていた。


「でも、自分たちがマリエッタ皇帝側だったら、大人しく返す?」


「……まあ、素直には返しませんね」


 そう聞かれれば、エリシアとしてもそう答えざるを得ない。あくまでも、今の繋がりはマリエッタ皇帝とタモン、そしてエリシアの個人的な信頼関係でしか無いのだ。

 タモンの部下であるルナも称賛された武官たちの集まりが終わり、マリエッタ皇帝は自らの執務室に帰ってきた。


「タモン殿、エリシア殿」


 扉を開けるなり嬉しそうにタモンとエリシアに対して、両手を広げながら小走りで駆け寄ってきた。タモンとエリシアもこういった仕草を見ると、子どもなのだなと思って和やかな気分になってしまう。


「この度は、タモン殿たちに助けていただき。本当に感謝しかない」


「いえ、私たちの力など大したこともなく……」


 マリエッタは、タモンの手を取りながら感謝していた。タモンは、少し恐縮するのと同時に、マリエッタ皇帝に唯一付き従って部屋の中へと入ってきた背後の女性に目を奪われていた。


「タモン様も、ご無事で何よりです」


「あ、はい。お互いに、よかったですね」


 さきほど、ルナと一緒に皇帝マリエッタに称賛されていたラリーサだった。


 先週に別荘で会った時は、ふんわりとした白いワンピース姿で、外見も性格もとても柔和そうな印象だったけれど、今日は鎧に身を包んでいた。前線で戦ったりはしないだろうけれど、これが本来の仕事に相応しい衣装であるとでもいうように凛々しい姿だった。


(でも、胸のところだけすごいなあ)


 そのままだと入りきらないのか、鎧は胸のところだけが突き出ているかのようだった。実際には別の装甲を組み合わせて胸のあたりだけ覆っているのだが、タモンは一瞬、あの豊満な胸が金属さえ捻じ曲げて突き出ているかと錯覚してしまってつい凝視してしまった。


「それで、タモン殿。今後についての話がしたいのだが……」


 マリエッタ皇帝が、ラリーサの胸元ばかりを見ているタモンの視線を邪魔するかのように割って入りながらそう言った。


「あ、はい」


 話は何も聞き逃していない。聞き逃してはいないと思うのだが、ちょっと自信がなさそうにマリエッタを座らせて、自分も向かい合ってソファーに座った。


「兼ねてからの約束通り、タモン殿が治める北ヒイロを国と認めよう。その上で、正式に同盟を結びたいと思う」


 ソファーに深く座って小さな女の子は、そう言った。向かいあった少年の若さも相まって、とても国同士の大切な話が行われているとは脇に立っているラリーサには思えなかった。


「ありがとうございます」


 素直にタモンは感謝していた。ただ、先程も心配していたようにこの後に何か要望が来るのだろうと身構えていた。


「そんなに怯えなくてもいいだろう。今回の働きは見事だった。タモン殿が力を貸してくれなければ、一年くらい膠着状態だったかもしれぬ」


 マリエッタはタモンの体の固さを見抜いたかのように、笑っていた。


「逆に言えば、トキワナ帝国との戦いに否応なく巻き込むということだ。そんなにありがたいだけの話ではないだろう?」


「確かに……」


 マリエッタの言葉にタモンは真剣な面持ちで頷いていた。


「そこでタモン殿には、嫁をもらっていただきたい。まあ、家同士が結びつくための政略結婚だ」


「は、はい」


 小さな女の子相手に、タモンは少し怯えながら返事をしていた。家同士が結びついた密接な同盟ということになれば、トキワナも攻めて来るときにはもう北ヒイロの攻略も同時に考えながらということになるだろう。


 昔から、南ヒイロと一緒に戦うしかないと思ってはいたが、改めてトキワナ帝国に狙われるということを具体的に想像すると恐ろしい気持ちにもなってしまい体がわずかに震えた。


「あの……それで、誰が……」


 別の心配として、もしかしてマリエッタが嫁にくるという話なのだろうかと思いながら恐る恐る聞いてみた。もし、そうなれば結局、タモンはこの帝都の後宮から動けないなどということもあり得るのではないかと想像していた。


「なんだ。その顔は、安心せよ。余が嫁に行ったりはせぬ。まあ、自由な身であればそうしたいのが本当のところだが……」


 タモンの考えていることを察したのか、マリエッタは呆れたようにそう言った。


「反対派は無事に抑えられたが、余が帝都を離れるわけにはいかぬし……モントの城に余が住んだりしたら、北ヒイロを乗っ取ってしまうであろう。安心せよ。そのようなことはせぬ約束だ」


 少し未練がありそうではあったが、最後の方は、からかうような笑顔だった。その気になればいつでも北ヒイロを乗っ取れるのだということを言外に示しながらも、タモンたちのことは信頼しつつ本当に好きなのだという気持ちも伝わってきていた。


「では……」


 タモンは、ちらりと目だけを動かしてソファーに腰掛けているマリエッタの脇で立っているラリーサに視線を向けた。


(わざわざこの場に連れてきているということは、ラリーサ殿を……)


 タモンはラリーサならいいと期待していた。わずか一日一晩の関係でしかなかったけれど、性格の良さは分かっているし、素晴らしい体だったことを思い出して、一人興奮していた。


「ラリーサはやらぬぞ」


「え」


 ラリーサをちらちらと見ているのがばれたようで、マリエッタはへそを曲げたかのように腕を組みながら拒否していた。


「ラリーサは、今や帝都の守りに欠かせぬからな。この度の戦いでもエフゲーニヤ叔母上の軍を寄せ付けない守護神と言っていい戦いっぷりだった」


「お、大げさです。陛下。部下が優秀なだけですので……」


 持ち上げるマリエッタをラリーサは本気で照れて困っている。すっかり仲良くなって母と娘のようにも見える二人の姿をタモンは微笑ましく見ていた。ただ、今までの家臣たちを遠ざけてラリーサを近くに置きすぎなのではという余計な心配もしてしまう。


(まあ、昔からの家臣が信用できないのだろうけれど……)


 はじめて、モントの城に来た時の表情の硬い時のマリエッタを思い出していた。


「どうしてもというなら、エリシア殿と交換ならラリーサを嫁にあげてもよいぞ」


 足を組み、頬を片手の甲にのせて余裕がある態度がある演技をしながら、マリエッタはそう言った。


「意地悪な提案ですね。……それは無理です」


「そうか、残念だな。ふふふ」


 返事はもちろんお互いに分かっていたとでも言うように、二人ともにこやかに笑いながらこの話は終わりになった。お互いの背後に控えているエリシアとラリーサもちょっと困ったようだった。


(でも、目は割と本気だったな)


 ラリーサよりももっと戦略的なことを相談できるエリシアを近くにいてもらいたいのだということは、伝わってくる。しかし、それをタモンとしても同じだった。エリシアがいなくなれば、北ヒイロは立ち行かなってしまうことは明らかだった。


「私も残念です。マリエッタ陛下」


 エリシアは、もちろん冗談で、皇帝マリエッタに媚を売りつつそう言ったのだが、タモンからすれば『余計なことを言うな。本気でお前を奪いにきたらどうするんだ』と気が気でなかった。


「そうだね。困ったら助言をお願いしようか」


 マリエッタは、エリシアにとりあえず密に連絡は取り合おうという約束だけを交わして終わった。


 タモンには、それはそれでちょっと不安もあるけれど、同盟国としては当然のことだし、今すぐ家臣に欲しいとは言い出さなかったのでほっと胸をなでおろしていた。


(でも、ラリーサさんは残念)


 仕方がないとはいえ、ラリーサの目の前で断らなくてはいけないのは、タモンにとっては苦しかった。後宮に入ってくれたらちょっと違う雰囲気で落ち着いた時間を過ごせそうなのにといらぬ妄想だけが頭の中に残っていた。


「タモン様も、私の領地にお寄りいただいた際にはいつでもお相手いたしますので」


 ラリーサの方は、エリシアを選んだことは特に気にした様子もなくタモンに向かってそう言いながらにっこりと笑った。


 特に本人にはいやらしい意味など含むつもりはなかったのだけれど、残りの三人にはとても大人のお誘いのように聞こえてしまい。特にマリエッタは数秒間、妄想しながら顔を赤くしていた。


「お前は、余の家臣だからな」


「え、あ、はい。もちろんでございます。我が陛下」


 マリエッタは、ちょっとけしからん家臣をたしなめるかのように怒っていた。怒られたラリーサの方は、なんとなく嫉妬されたのだろうかくらいに受け止めつつ自分の主人をなだめていた。


「ふむ。ラリーサ。では、イリーナを呼んできてもらえるか?」


「はい。かしこまりました。陛下」


 少し落ち着いたらしい主従は、主の命じるままにラリーサは部屋の外へと人を呼びに行った。


「イリーナさま?」


 帝都に来てからタモンが出会った人には、そんな名前の人はいなかったように思う。最初から皇帝派の叔母の一人か、ラリーサの様に血族の領主、あるいは重臣の一人を嫁がせるのかと思っていただけに、タモンは首を傾けていた。


「し、失礼いたします」


 ラリーサが扉を開けた先に現れたのは完璧なお姫様だった。


 少しロールのかかった金色の髪と、整った顔ながら少し遠慮しがちにはにかんだ笑顔は見るもの全てを魅了した。

 挨拶に来ただけなのに、貴族の結婚式でもなかなか見られない綺麗なドレスに身を包んだ彼女はタモンの目にもまぶしく見えた。


「どうだ。素晴らしく可愛らしいだろう。うむ、今日は特に完璧だな。これはもう天使と言っても過言ではない」


 皇帝マリエッタは、立ち上がるとタモンに対して自慢気に紹介していた。準備をして廊下で様子を窺っていたらしい侍女たちも、その言葉に満足そうに頷いていた。


「もしかして……」


 二人が並ぶと、背格好も顔立ちもよく似ていた。マリエッタは目も釣り上がり、仕事の邪魔になるので髪を結んでいるので凛々しい印象を受けるが、それ以外は比べてみればそっくりだった。


「余の妹だ」


 イリーナの両肩にそっと手を置きながら、満面の笑みでタモンに紹介した。

 紹介されたイリーナは、ちょっとはにかんだ笑顔を浮かべた。

 少し大人しそうではあるけれど、タモンが思い描く完璧なこれぞお姫様という容姿だった。


 ただ……ただ、小さい。


 そして、話の流れからすれば、この娘を嫁にもらって欲しいということなのだろうけれど、まさかマリエッタより幼い娘を紹介されるとは思っていなかった。



「マリエッタ陛下の妹君ということは……おいくつでしょうか?」


「余とは一つしか違わぬ。今、十歳だ」


 一桁ではなかったことにちょっとだけ安心しながらも、タモンからすれば特に変わらない。


(まあ、この世界でも良く聞いた家の都合の結婚というやつか……)


 それなら十歳前後で嫁に行くのもたまにあると聞いた気がする。世間的にもそれほど変なことではないだろうかと諦めたかのように納得していた。


「ど、どうぞ。よろしくお願いします。お兄様」


 イリーナは、タモンに少し怯えつつ可愛らしい声でスカートの裾をつまみながら上品に挨拶した。


「イリーナ。違うぞ。お姉ちゃんの夫にするのは、諦めた。代わりにイリーナの夫になってもらうんだ」


 マリエッタが自分のことを『お姉ちゃん』なんて呼ぶのは、意外でタモンは目を丸くしてしまった。とにかく妹に対しては甘いのだなということは伝わってきていた。


「あ、そうでした。どうぞこれからよろしくお願いします。あ、あなた」


 いきなり『あなた』ではないだろうと思いながらも、タモンは照れた表情から上目遣いでタモンの表情を伺うその仕草の可愛らしさにどぎまぎしていた。。


「タモン殿。余にとって、この世で一番大事な妹だ。可愛がってくれよ。頼むぞ」


 マリエッタは、タモンの手を両手で握り本気でお願いをしていた。本当に仲が良さそうな姉妹の姿に離れ離れにさせてしまうのは、ちょっと心苦しいものは感じながらも胸を叩いて任せてくださいと引き受けていた。


「よかったです」


 最初から、嫁に来ることが前提になっていることはもう突っ込むことはなかった。

 それよりもタモンは割と本気で、この十歳の女の子の眩しい笑顔にときめいてしまっている自分のことをなんとかしたくて仕方がなかった。

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